第三章:実力者の誘い、真実を懸けた模擬戦
魔法の試験へと移り、係員は驚いている二人に声をかけた。
「さて、どうしますか? 一度休憩を挟みますか?」
茜は即座に首を振った。
「いえ、すぐにやります。主様をお待たせするのは申し訳ありませんから」
「私も、大丈夫です」
桜も茜に続いて同意した。
「分かりました。では、そこの線から魔法を放ち、あの人形を攻撃してください。術の難易度は問いません。……ちなみに、お二人は魔法を使えますか? もし使えないようなら別の試験に変更しますが」
茜は「大丈夫だ」と短く答え、桜も「多分、大丈夫です」と控えめに頷いた。
最初に動いたのは桜だった。
「……あの、私から行きます」
彼女が線の上に立ち、手の平を人形へと突き出す。そこに出現したのは小さな赤い火の球体だった。放たれた火球は人形に命中したが、目に見える変化はほとんどない。
係員は内心で冷静に分析した。
(なるほど、魔法はあまり得意ではないようだ。先ほどの弓の件があったから期待したが……)
「いいよ、こちらに戻りなさい」
続いて茜が線に立つ。彼女は係員を一瞥し、静かに告げた。
「……壊してしまったら、ごめんなさい」
次の瞬間、人形の足元から激しい風が巻き起こり、無数の不可視の刃が人形をズタズタに切り刻んだ。
(この子は、先ほどと同様に相当な実力者だな。……なら、彼女が『主様』と呼ぶ人物は、一体どれほどのものなのか)
係員は驚きを隠しつつ、「お疲れ様でした。次が最後です」と、二つの水晶を取り出した。
「これに触れてください。魔力量を測定します」
茜が触れると水晶は眩いほどに輝き、桜が触れると光は弱々しく灯った。
「以上で試験は終了です。結果が出るまで待機して……」
係員が案内を終えようとしたその時、観戦室からマルコスが夏を連れて会場に現れた。
「……すまないが、急遽、実戦形式の試験を行うことになった。仮想武器を二つ用意してくれ」
マルコスの言葉に、会場に緊張が走った。
空間が歪み、演習場が実戦用の風景へと変貌していく。夏と、先ほどまで飴を舐めていた少女が中央へと進み出た。
事の始まりは、観戦室での一幕だった。
魔法の試験を見守っていた少女が、唐突に夏へ提案したのだ。
「なぁ、私と一度、実戦形式で戦ってみない?」
マルコスが慌てて割って入る。
「待ちなさい! 何を言っているの? そんなのダメに決まっているでしょう!」
だが少女は教官の言葉を無視し、夏を真っ直ぐに見据えた。
「私、こう見えて色んな情報を知ってるよ。……もし私を楽しませてくれたら、その情報を教えてあげてもいい。あ、でも情報なんていらないか。今の話、やっぱり無し」
その言葉に、夏の心が動いた。
(色んな情報……? もしかして、冬のことも知っているかもしれない)
「マルコスさん。……この人と戦わせてください。彼女なら、私の知りたいことを知っている可能性があります。お願いします」
マルコスは頭をかき、苦悩した。
(確かに、この少女は何故か学園中の……いや、世界中の情報を知っている。妹さんの居場所を知っている可能性も否定できない。……だが、彼女は学園で圧倒的な実力を持ち、未だに本気すら見せたことがない怪物だ。止めるべきなのは分かっている。だが、夏のあの目を見たら……)
結局、マルコスは折れた。
「……良いでしょう。ただし、仮想武器を使うこと。怪我はさせない、それでいいわね?」
観戦室に残された男女の生徒二人は、信じられないものを見る目で二人を追った。
「おいおい、マジかよ。あいつが自分から誘うなんて。あの転入生、それほどの実力なのか?」
「分からないわ。けれど、すぐに決着はつくでしょうね。見届けましょう」
広い演習場の中央。夏と少女は、地面に用意された仮想武器を手に取り、構えた。
夏は目の前の相手に鋭い視線を送る。
「……約束、守ってくださいよ。楽しませたら、私の聞きたい情報を話して。それと……私は藤木夏。夏って呼んでいいから」
相手は不敵に微笑み、飴を噛み砕いた。
「いいよ! 楽しませてくれたら、ね。そっか、まだ名乗ってなかったね。学園NO.1、ククリス。好きなように呼んで。――では始めましょうか、夏」
静寂が場を支配し、次の瞬間、学園最強を冠するククリスとの激突の幕が上がろうとしていた。




