第一章:学園の門と、編入試験の幕開け
馬車での一週間の旅路は、想像以上に過酷なものだった。立ち寄る街や村で冬の手がかりを求めたが、結局有益な情報は得られずじまい。襲い来る魔物を茜たちが退け、ようやく私たちは「平等平和学園」へと続く巨大な門の前に立ち止まった。
マルコスが誇らしげに門を指し示す。
「ここが、平等平和学園に続く正門よ」
私はその立派な門を見上げ、ふと現実的な不安を口にした。
「あの……学園に入った後は、どこかに宿を借りなければならないのですか? 正直、私たちには宿代を払えるようなお金がなくて……」
それを聞いた茜が、慌てた様子で身を乗り出す。
「……主様、ご安心を。私がお金を稼いでまいりましょう。」
「茜、あなたの強さは道中で見てきたから分かってる。でも、危険なことはしてほしくないな。もし稼ぐなら、私も一緒にやるよ」
「私も……何もできないかもしれないけど、手伝いたいです」
桜も控えめながら、しっかりと意志を示した。
三人のやり取りを聞いていたマルコスが、コホンと咳払いをして割って入る。
「……心配は無用よ。夏殿はハクレン様の推薦により、既に入学と寮の使用が決定している。茜殿と桜殿も、編入試験の結果次第では寮に入れるだろう。もし万が一があった場合は、この私が宿代を全額負担させてもらう。……ハクレン様への恩を、今ここで返させてほしいのだ」
「そうなのですか? ……茜、桜。もし試験に落ちるようなことがあったら、私も一緒に宿に泊まるわ。二人と離れたくないもの」
私の言葉に、茜は目を潤ませて力強く頷いた。
「主様……。大丈夫です、必ず合格してみせます!」
「……私も、精一杯頑張ってみます」
マルコスの案内で門をくぐり、私たちは広大な敷地内へと足を踏み入れた。
「桜殿と茜殿には、今すぐに試験を受けてもらう。あちらに人が立っている扉が見えるだろうか? あそこが会場だ。係の者が案内してくれる。夏殿は、私と共に観戦室で待機しよう。理事長に会わせる前に、二人の結果を見届けたいだろうからな」
桜と茜は緊張した面持ちで扉へと向かい、私はマルコスと共に別棟の観戦室へと移動した。
その様子を、別の施設の屋上から眺めている人物がいた。口に飴玉を放り込み、退屈そうに眼下を見下ろす女性だ。
「ふーん……こんな時期に編入試験なんて珍しいね。でも、マルコス教官と一緒にいたあの子は受けないみたいだ。特別入学の特待生かな? 気になる……」
彼女が屋上から飛び降り、魔法で衝撃を緩和して着地した瞬間、背後から声がかかった。
「待てよ。あんたが気になるってことは、あいつら強いのか?」
「気になるみたいだね。あんたがそこまでして見に行く奴ら。あたしたちもついていくよ」
現れたのは二人の生徒だった。
「げげっ! あんたたち、今は授業中でしょう。何抜け出してんのよ!」
二人は顔を見合わせ、声を揃えて言い返した。
「「それはこっちのセリフだ(みたいな)!!」」
騒がしい三人は、そのまま観戦室へと向かっていった。
一方、試験会場の扉に到着した茜と桜の前に、係員が立ちはだかった。
「編入試験の希望者だね。内容は至ってシンプルだ」
係員が提示した試験項目は三つ。
* 【武器適正】 任意の武器を用いて、訓練用の人形を攻撃。
* 【魔法能力】 魔法を用いて、訓練用の人形を攻撃。
* 【魔力測定】 水晶に手をかざし、基礎魔力量を測定。
「これだけ……。やってやりましょう」
茜は自信に満ちた表情で拳を握りしめたが、一方で桜は「私なんかにできるんだろうか」と言わんばかりに、不安げに肩を震わせていた。




