第七章:決断の航路、それぞれの道
会議室に戻った私たちは、円卓を囲むように席に着こうとした。私は騒がしい空気から少し離れたくて、端の席に腰を下ろす。
すると、サザレが「待ってました」と言わんばかりに私の隣を陣取ろうとしたが、そこにクレアが割り込んだ。
「妾はそこに座ろうと思っておる。サザレよ、お主は妾に譲るのじゃ」
「いやいや、クレアこそそこを俺に譲るべきだろ? そもそも俺の方が冬を心配してるんだからな」
「心配の度合いなら妾の方が上よ。なんせ冬は妾の力の源……いわば半身のようなものじゃからの」
二人が火花を散らして言い争っていると、横からレオルドリッチが「よっこらしょ」と、当然のような顔をして私の隣にどっかと座り込んだ。
「お前たち、言い争いをしていないで、早く座ったらどうだ。話が進まんだろう」
呆気に取られた二人は、それ以上言い返すこともできず、渋々と空いている席へ腰を下ろした。
クレアがコホンと一つ咳払いをし、真剣な面持ちで口を開いた。
「……それで、サンボルト・マミーは本当に『バーイン』に捕縛されているのか?」
レオルドが腕を組んで答える。
「実際には見ておらぬから何とも言えんが、情報の出処を考えれば、まず間違いはないだろうの」
「俺も、かつてその都市へ潜入した際に、地下に強力な『雷撃の動力源』が封じられているという噂を耳にした。奴レベルの魔力でなければ、都市一つを動かす電力は賄えまい」
「……そのバーインという場所は、ここから遠いのですか?」
私は身を乗り出して尋ねた。
「少し興味があるというか……。もし、私の姉の夏が誰かに捕まっていたら、そこへ奴隷として売られている可能性があると思うんです。だから、私はそこへ行きたい」
私の言葉に、三人の視線が一斉に突き刺さった。
「……確かにその可能性はあるな。だが、あそこは危険すぎる。俺が同行できればいいんだが、あいにく明日には別の重要な依頼が入っていてな。いや、無理やり断ることもできなくはないが……」
サザレが苦渋の決断をしようとするのを、クレアが鼻で笑った。
「妾がいれば何も問題はない。サザレ、お主はお主の成すべき仕事をすればよいのじゃ」
レオルドが卓上の地図を指差しながら、具体的なルートを説明し始めた。
「バーインへ行くには二つの方法がある。一つは陸路、だがこれだと検問も多く、一ヶ月はかかる。もう一つは海を渡る方法だ。港町から船に乗れば、一週間ほどで到着できるだろう」
「一ヶ月もかけていたら、夏の身に何が起きるか分からない……。海を渡りましょう。それに、クレアが一緒なら心強いし」
そこまで言いかけて、私はハッとした。クレアと二人きりになるということは、あの「魔力供給」――つまりキスを、誰の目も憚らずに求められるということだ。
「……いや、待って。サザレも、レオルドさんも、本当に本当について来られないんですか?」
「妾だと心配なのか? 何故じゃ?」
不思議そうに首を傾げるクレアに対し、私は顔を引き攣らせる。
「いや、心配というか、その、あの……。……いいえ、何でもありません。クレアと一緒に向かうことにします」
サザレが「冬のためなら俺は依頼を断ってもいいんだぞ!」としつこく食い下がってくれたが、私はその気持ちだけを受け取り、首を振った。
「サザレ、気持ちは嬉しいけど、私のために仕事を飛ばしたら後が大変よ。大丈夫、なんとかなるから」
そう口では言ったものの、私の心は不安でいっぱいだった。姉への心配と、隣でニヤリと意味深な笑みを浮かべる魔王への恐怖――。
こうして、私とクレアによる、波乱含みのバーインへの旅路が決定したのであった。




