第六章:魔王の宿命と、黒幕の影
冬が部屋を去った後、レオルドリッチは真剣な表情で問いかけた。
「本当に、口づけで力を取り戻せるのか、魔王エリーズ・クレア」
「フルネームで呼ばれるのは好かぬ、クレアでよいぞレオルドリッチ、そしてサザレ。……冬は、何の能力も得ていないために、妾を封印していた鎖から漏れ出した力を、無意識に吸収してしまっていたのだ。ここに来てから、体調に影響が出ていたのではないか?」
「……そういえば、体調が悪そうだった。それが原因か。だが、どれくらい取り戻せるんだ?」
サザレの問いに、クレアは少し間を置いて答えた。
「それは分からぬ。だが、妾の力が冬の体の中で『生成』され続けている可能性がある。口づけをしてから、冬の体から微かに妾の魔力が感じ取れるようになったからな」
「待てよ、それは大丈夫なのか? 膨大な力が溜まり続けて、冬の体は耐えられるのか?」
「……妾にも分からぬ。こんなことは初めてゆえな。妾が力を受け取り続ければ、溜まる一方の魔力を減らすことはできるが……冬がそれを受け入れるかどうか」
「今の様子だと、難しいかもしれんな……」
「それよりも、俺は冬のところへ行ってくる。戻ってこないのが心配だ」
サザレはそう言い残し、冬を追って部屋を飛び出した。
一方、三人のもとを離れた冬は、屋上へと向かっていた。
「……酷いよ、クレア。言わなくてもいいのに」
呟きながら屋上に到着し、大きく背伸びをする。
「ふわああぁぁ、気持ちいい! ここからだと色々な場所が見えていいわね」
景色を楽しんでいると、背後から聞き覚えのある声が響いた。
「やあ。無事にこちらの世界に着いたようだね」
「確かに着いたけど、異世界人がこんなに酷い目に遭ってるなんて聞いてないわよ! それに、姉の夏はどこにいるの!」
振り向いた先には、冬をこの世界へ送り込んだ「あの男」が立っていた。
「怒るなよ。……俺が何故、わざわざ君の前に現れたか分かるかい?」
「……まさか」
「――死ね」
男が懐に飛び込んできた。その手が冬の胸を突き刺そうと迫る。
(やばい、避けられない……!)
死を覚悟した瞬間、「ガッキン!」という激しい金属音が響いた。サザレの槍とレオルドリッチの剣が、男の手を寸前で食い止めていたのだ。
「遅いから見に来て正解だった。大丈夫か、冬」
「こやつ、二人掛かりでも弾き返せん。魔法で強化しておるのか?」
「……話しかけずに殺すべきだったかな。援軍が来てしまった」
男が不気味に微笑む。
その時、エリーズ・クレアの手が背後から男の腹部を貫通させた。
「あの時の知らぬ男よ。よくもあの時はやってくれたの」
「ふははは……やはり解放されていたか、エリーズ・クレア。封印を破壊したご褒美として、お前たちに手を出した親玉を殺して差し上げますよ。……では、またいずれどこかで」
男の姿が、冬を捕らえようとしていた「あの貴族」に変化した。
「なっ? ワシは何を……何だこれは、がふっ、げふぅ……!」
貴族は血を吐き、そのまま絶命した。クレアがその体から手を引き抜く。
「……あの人が、封印したっていう人物。それに、これは何かの魔法なの?」
「知らぬ魔法だ。……だが、これで確信した。クレアは本当に刻印を作っていない。俺の敵は、今の男と、王や貴族たちだ」
「これからどうするか。クレアが解放されたと知れば、魔族界も荒れるだろう。サンボルト・マミーと会って話ができればよいのだが……」
レオルドリッチが驚きの声を上げる。
「今、サンボルト・マミーと言ったか? それは無理かもしれん。奴は今、奴隷売買都市バーインの『動力源』として、地下深くに捕縛されているという話だ」
「マミーが捕縛……? あり得ぬ話だ」
情報の交錯に、冬が割って入った。
「あの……お話、長くなりますか? なら、一度あの広い場所に戻りませんか?」
冬の言葉に頷き、一行は再び会議室へと足を向けるのであった。




