第一章:冬の目覚め、二人との邂逅
私は今、白髪の男性と小太りの男性と共に、馬車で移動していた。
先ほどから白髪の男性がじっとこちらを見つめてくるため、私はたまらず口を開いた。
「あの、その、私の顔に何か……?」
「何もついていないさ。ただ、本当に美しいと思って見ているのだ」
「……はは、そうですか」
あまりに直球な言葉に、私は苦笑いするしかない。
小太りの男性が、呆れたように白髪の男性をたしなめる。
「困っておろうが。それにワシの護衛であろうがお主は。見惚れてワシの護衛を疎かにするでないぞ」
「分かってますよ。でも、俺って本当に必要なんですかね? 貴方なら……必要ないと思うのですがね」
「ふふふ、何の事やら。それよりも、お嬢さんは何故あのような所にいたのじゃ?」
核心を突く問いに、私は言葉を選んだ。
「何故って言われましても……話しても良いのでしょうか? 信じて貰えない気がする」
「俺は信じるさ。君の事なら何でもね!」
「……はぁ、コヤツの事は気にしなくていい。
話してもらわねば信じるも信じないも判断できないの」
「確かにそうですね。えっと、なら……簡単に言うと、私は別の世界からこちらの世界に来た『異世界人』って言えば良いのでしょうか」
その瞬間、二人の表情が劇変し、真剣なものとなった。一気に冷え切った車内の空気に、私は後悔した。
(まずったかな……。どうしよう、逃げ場がない。迂闊だったかも)
しかし、小太りの男性から出たのは意外な言葉だった。
「異世界人か……ならワシらは間に合って良かったのかもしれんな。あのままだとあの貴族らに『異世界人専用の刻印』を刻まれていた所じゃ。……他に、自分が異世界人だと誰かに話したりしたか?」
「いえ、お二人にしか話してません。あの、その『刻印』というのは何でしょうか? それに、異世界人ってこの世界にいるのですか?」
白髪の男性が苦々しく説明を継ぐ。
「刻印というのは、刻まれれば命令に絶対服従。刻んだ者は、その刻印で対象を苦しめることもできる。そして何より厄介なのが、異世界人がこちらに来る際に授かる『能力』を封じてしまうことだ」
「……クソみたいな刻印だよ。俺は、あんな物を生み出した亡き魔王、エリーズ・クレアが許せねえ。それを世界中に広めたせいで、今や異世界人には住みにくい世界になっちまった。だから、決して自分が異世界人だとは口にするな」
「……ならお二人とも、もしかして異世界人なのでしょうか?」
恐る恐る尋ねる私に、白髪の男性が語った。
「俺は違う。だが、同僚が異世界人だった。……彼が異世界人だとバレて王に招集され、次に再会した時は死体だったよ。刻印を刻まれ、魔族との戦いを強要されたらしい」
小太りの男性も遠くを見つめるように続けた。
「ワシも違うが、妻が異世界人の勇者じゃった。それがバレて招集され……帰ってきた時は片足も片腕もなく、目も抉られた無惨な死体じゃった」
「……ごめんなさい、聞いてしまって」
「いや、過ぎたこと。だから、いいか。絶対に自分が異世界人だとは話すな」
私は強く頷いた。そして、気になっていたことを口にする。
「……実は、私と同じ顔をした双子の姉も、こちらに飛ばされているはずなのです」
「なっ、マジか……。分かった、護衛が終わったら探してやる」
「ワシも出来る限りの事はしよう。まずはワシの城に向かう。……そういえば、名乗っておらんかったな。ワシはルブリカ・レオルド」
「俺は、サザレだ」
「私も名乗ってなかったです、藤木冬です。お二人ともよろしくお願いします」
その頃、先ほどまで私を捕らえていた貴族の一団は、馬を休ませていた。
貴族の男が小袋の中身を確認した瞬間、怒声を上げて袋を投げ捨てた。
「クソが!! 中身がただの石ころに変わってやがる! あの野郎、魔法で石を金に見せてやがったな」
傍らの大男が尋ねる。
「戻るんですか?」
「……苔にしてくれた報いは受けてもらわんとな」
貴族が指を鳴らすと、二人の不気味な人物が姿を見せた。
「お呼びで旦那?」
「先程の連中を始末してこい。女は生け捕りだ。兵を貸してやる」
「了解。では行って参ります」
貴族は大男にも何かしらのペンダントを渡し、跡を追うよう命じた。
「お前も行ってこい。あの白髪の男を殺したいのだろう?」
大男は無言で頷き、姿を消した。
豪華な城に到着した私は、その光景に圧倒されていた。
「こんなの初めて見た……」
「ほほ、そうじゃろうな。最近になって買い取った城よ。念のために危険がないか調べるべく、護衛を雇ったのじゃ」
話している最中、私は体が揺れるような妙な感覚に襲われた。
(何、この感覚……? 地震じゃなさそうだけど……あ、収まった)
「冬、どうした? 体調が悪いのか? 俺が抱えてやろうか?」
「……えっと、大丈夫。大丈夫ですから、そういうことはしなくて大丈夫!」
私はサザレの申し出を慌てて断り、レオルドの後を追って城の奥へと足を踏み入れた。




