表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子姉妹と異世界  作者: ひろろ
夏編
14/45

第十章:老兵の遺志、繋がれる希望

 

 ふらふらと、自らの血で地面を濡らしながら戻ってくるハクレンに、私は叫びながら駆け寄った。


「師匠!」


 ハクレンの体は、すでに限界を越えていた。彼は膝をつき、弱々しく笑った。


「夏よ……ふぉふぉふぉ、ワシはもう、ここまでのようじゃ。お主の成長を、最後まで見届けられぬのが、唯一の心残りか……。夏、桜のことを頼む。ワシが死んだら……」


「師匠! もういい、喋らないで! すぐに誰かを呼んで助けてもらいますから!」


「無駄じゃ……この場所の生き残りは、もうお主と桜のみ。ワシのことはもう良い。何度も言うが、桜を頼む。ワシが死んだと知れば、あやつは自分を責めて、自殺するやもしれん……。だから、夏。お前さんが、桜の拠り所になってやるのじゃ……がはぁっ!」


 激しい吐血が、ハクレンの口から溢れ出した。


「師匠、死なないで! 私はまだ、教わりたいことがたくさんあるの! 私が……私がもっと強ければ、師匠も桜も守れたのに。ごめんなさい、私が弱いせいで……!」


 泣きじゃくる私を、ハクレンは最後の力を振り絞って抱きしめた。血に汚れた手で、優しく頭を撫でてくれる。


「大丈夫……よ……夏は……強く……なれる。夏と桜……共に過ごせて、楽しかったぞよ……。鈴、今、ワシもそちらへ行く……」


 腕から力が抜け、師匠は静かに、その生涯を閉じた。


「師匠ぉぉぉぉぉ!!」


 私の叫びが、火の海と化した街に空虚に響き渡った。


 しばらくして、ようやく桜が目を覚ました。


「……体内を暴れ回っていた感覚が、消えた? あの異物の感触がない。どうして……?」


 立ち上がった桜の目に、ハクレンの遺体を抱きしめて座り込む私の姿が映った。


「夏……。もしかして、ハクレン様が、解決してくれたのですか?」


 腫れ上がった目で桜を見つめる私の表情から、彼女は全てを理解してしまった。


「ああ……ハクレン様が亡くなった? 私の、私のせいで……!」


「違う。桜のせいじゃない! 悪いのは魔族よ! ……いいえ、あんな刻印を作った魔王よ!」


「……違う、私が刻印を刻まれなければこんなことにならなかった。全部、私が悪いのです。夏、もう私を殺して……!」


「何でそうなるの! 悪いのは魔族や魔王なの! 桜、貴方が死ぬことなんて、ハクレンも私も望んでない! それでも死にたいって言うなら、私は貴方を縛り上げてでも止めるから!」


 二人の間に重い沈黙が流れる。しかし、その静寂を破るように、多数の足音が近づいてきた。

 現れたのは、眼鏡をかけた知的な女性と、武装した一団だった。女性はハクレンの遺体を見て、沈痛な面持ちで呟いた。


「もう少し、早く出発していれば……。すみません、ハクレン殿」


「誰ですか? 師匠の知り合いですか?」


 私が警戒を露わにすると、彼女は丁寧に頭を下げた。


「師匠、ということは貴方が。私は平等平和学園の教師、マルコス・フライドです。貴方をお迎えに参りましたが、まさか、このような惨劇に……」


 ハクレンが言っていた学校の先生。私たちは、マルコスたちの手助けを受けながら、街の処理を進めることになった。


 ようやく事態が落ち着き、用意されたテントの中でマルコスが口を開いた。


「……さて、何があったのか、お聞きしてもよろしいでしょうか」


 私は桜をチラリと見て言葉を詰まらせたが、桜自身が震える声で告白を始めた。


「……私が招いたのです。刻印によって操られ、魔族を引き入れ……ハクレン様の食事に、毒を盛りました……」


 マルコスは机の前で手を組み、厳しい表情を浮かべた。


「またか……。ならば桜、君は再犯の可能性がある。行動監視をつけ、保護地域に搬送します」


「あの、それなのですが……」


 私は周囲の兵士たちを気にしながら、マルコスに合図を送った。彼女は察したように、周囲の者たちに席を外させ、警戒を命じた。


「これで大丈夫ですか?」


「はい。マルコスさんは信頼できると思うので話します。桜の刻印は、私が解呪しました。もう操られることはありません」


「……はい?」


 マルコスが呆然とする中、桜が背中を見せ、確かに刻印が消えていることを証明した。


「あり得ない……。解呪は不可なはずなのに。……夏さん、もし解呪を頼めば、今すぐできますか?」


 マルコスの真剣な眼差しに、私は力強く頷いた。


「できます。刻印に苦しんでいる人がいるなら、やります!」


「少し待ってください。すぐにお連れしますから」


 マルコスは驚きと希望を瞳に宿し、急ぎ足でテントを後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ