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双子姉妹と異世界  作者: ひろろ
夏編
13/45

第九章:寄生する絶望、師匠の奥義

 

 いまだ目覚めぬ桜の傍らで、私は祈るように師匠の帰りを待っていた。


「師匠が負けるなんてあり得ない。……お願い、早く戻ってきて」


 その呟きに応えるように、桜がゆっくりと目を開けた。彼女は私の顔を見るなり、言葉を溢れさせた。


「夏……ごめんなさい。ごめんなさい、私……!」


「謝らなくていい。全部、あの刻印のせいよ。……もう、貴方は自由だから」


 桜が自身の背中に触れ、あの忌まわしい脈動が消えたことを悟ると、彼女の目から大粒の涙が溢れ出した。


「うぅああぁぁぁ……! 私は、私は……!」


 私は声を上げて泣きじゃくる桜を抱きしめ、その頭を優しく撫でた。


「辛かったね。でも、もう大丈夫だから」


「――気持ち悪いな、お前ら。反吐が出る茶番だぜ」


 宙から降ってきた冷酷な声。私は怒りに肩を震わせ、声の主を睨みつけた。


「何故ここに……? 師匠はどうしたの!」


「あのハクレンか? 奴なら胸を貫いて始末したよ。おい、それより聞いてんのか屑奴隷! さっきみたいに捕まえろ。……さもなくば、こうだ!」


 魔族が指を鳴らし、刻印を発動させようとする。しかし――何も起きない。


「なっ……発動しないだと? どういうことだ!」


 驚愕した魔族は一瞬で私たちの前に現れ、私を殴り飛ばした。辛うじて防いだが、その隙に彼は桜の服を引き裂き、その背中に剥き出しになった真実を目にする。


「刻印が……解呪されているだと?」


 魔族の目が、ぎらりと私を捉えた。


「お前か……? だが、くくく、こりゃあいい。あの呪いを解ける人間を捕まえたとなれば、俺の位も上がる。おい女、この屑奴隷を殺されたくなければ大人しく従え」


「師匠がお前なんかに負けるはずがない。桜を離しなさい!」


 私は地面を蹴り、一気に距離を詰めた。赤い鞘から引き抜いた刃が、魔族が桜を掴んでいない方の腕を鮮やかに切り落とす。


「やってくれたな……。なら、この屑奴隷には最高の苦痛を与えてやるよ」


 後方に飛び退いた魔族は、懐から細長い羽虫のような「寄生ワーム」が入った瓶を取り出した。彼は桜の足に爪で傷をつけ、そこへワームを放り込んだ。


「いぎゃあぁあぁあ!!!!」


 桜の叫びが響き渡る。ワームは傷口から体内へと侵入し、彼女を激痛の渦に叩き落とした。


「寄生ワームだ。体内を荒らし回り、俺の指示一つで心臓を食い破り、脳を破壊する。……お前が俺の腕を切り落としたから、こうなったんだぜ?」


「……桜を解放して」


 震える声で頼む私を嘲笑うように、魔族が指を動かす。そのたびに桜が絶叫を上げた。


「辞めて!!」


「なら、頼み方があるだろう? 俺の元に来い。妙な真似はするなよ。俺に何かあれば、ワームが即座に心臓を突き破るように命じてある」


 私は唇を噛み締め、刀を捨てて魔族の元へ歩み寄った。


「いい子だ。動かれては面倒だからな。――『バインド』!」


 再び黒い輪が私の四肢を拘束する。


「約束通り、桜を……ワームを解放してよ!」


「誰が解放するなんて言った? お前ら、魔族を舐めすぎなんだよ」


 魔族は桜を蹴り飛ばすと、私の背に跨り、目の前で苦しむ彼女を見せつけた。


「二度と逆らえないよう、お前らの心に刻んでやるよ。異世界人がこの世界でまともに生きられるなんて思うな」


(何で、こんな目に……。異世界人が何をしたの? 壊したい。魔王も、魔族も、私たちを虐げる全てを壊せる力が欲しい。……何で、私に力をくれなかったのよ。理不尽だ……!)


 絶望が私を飲み込もうとしたその時、背後の魔族が驚愕して飛び退いた。


「何だと……!? 胸を貫いたはず。何故生きている、ハクレン!!」


 そこには、衣服を自らの血で赤黒く染めた師匠が立っていた。


「師匠……!?」


 ハクレンはよろめきながらも私の拘束を解き、弱々しく、だが力強く微笑んだ。


「はぁ、はぁ……。すまぬ。ワシが遅れを取ったばかりに……酷い目に遭わせたの。大丈夫じゃ……今度こそ、始末する」


「ダメだよ師匠! これ以上は身体が……!」


「心配するでない。……すぐに終わらせる」


 ハクレンが刀を抜き、突き抜けるような構えをとった。空気が、一瞬で凍りついたように静止する。


「――奥義、デス・スタブ」


 言葉が終わるより早く、ハクレンの姿が消えた。

 魔族が反応することすら叶わぬ速度で、ハクレンの刃がその心臓を貫通した。背後にあった瓦礫が凄まじい衝撃波で吹き飛ぶ。


「俺が……反応……できなかった……嫌だ、死にたくない……うがあぁああぁ!」


 断末魔と共に、魔族は塵となって消滅した。


 静寂が戻る中、ハクレンはゆっくりと刀を納め、ふらふらとした足取りで私の元へと戻ってきた。その体は、今にも崩れ落ちそうなほどに限界を迎えていた。

 


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