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ゲゼルシャフト(Gesellschaft)

 落ちる、落ちる、落ちていく。

 ドゥンケルのときとは比較にならない死した精霊の意識の底。

 ゴモリの能力で意識を覗いたときと違って、風景を四角く切り取ったようなものは何もない。ただ、暗闇だけがそこにある。  

 けれどこの暗闇の一番底に探している存在がいる気がして、僕は自分の意思で暗闇の底へと落ちて行った。

 どれくらい時間が経っただろうか、気がつくと僕は足をつけて暗闇に立っていた。

 そこに暗闇の中で目立つ、白い塊のような存在が沈んでいる。

 精霊の魂だろう。

 それは不規則に揺らめきながら、僕を見た。正確には目がないから見てはいないはずだけど、僕の方に意識を向けたことはわかった。

「何、スルノ。精霊使イ……」

 白い精霊の魂は僕に今まで感じたことのないほどの憎悪を向けている。

「何って…… 君のせいでドルトムントとウェルスの軍が戦争になってるから、止めに来たんだよ。君だってこんなこと望んでないはずでしょ?」

 僕はドゥンケルのことを思い出しながら、説得を試みる。

 ドゥンケルは意識を保てず、ただ周囲に邪悪な力だけを放出している感じだった。

 この存在がドゥンケルと同じグロレンなら、同じような状態になっているはず。

「私ノ名前はゲゼルシャフト(Gesellschaft)。低級なグロレンと一緒にスルナ。これは私の意志でやっているコト」

 ゲゼルシャフトは僕に聞き返す間を与えずに続ける。

「私ノ一族ハ精霊使いに使い潰されタ。私ノ父が召喚され、ただ戦いの道具として使われて倒レタ。次は母ガ慰み者として死ンダ。次は姉が、兄が…… 最後は私ガ。それを行なったのはこの付近の精霊使いタチ。決して許さナイ。私は我が一族のグロレンが寄り集まって形成されタ。集団を乗っ取リ、ここら一帯、皆殺しにシテヤル。精霊使いでない者モ、彼らに衣食住を世話したから同罪ダ」

 悲しみと、怒りと、積もり積もった憤懣が混じった声に僕はどう返して良いかわからなかった。

 ゴモリが以前言っていた。かっては精霊使いが精霊を一方的にいたぶっていたというけれど、ここまでひどいとは思わなかった。

 でも。

「そんなの、間違ってる」

 僕は気圧されずに言うことができた。

 僕が間髪いれずに答えたことが意外だったのか、ゲゼルシャフトがわずかな間固まる。その隙に僕は言葉を紡ぐ。

「自分が不幸な目にあわされたからって、他人を不幸にしてどうなるの。ますます自分が堕ちていくだけだよ」

 不幸の次元が違うけど、僕もずっと見下され、差別されたからゲゼルシャフトの気持ちが少しはわかる。自分をひどい目に合わせたやつらを全員同じ目にあわせてやりたいっていう気持ちはなくはない。

 今でもヒア以外のリンツの村人は大嫌いだ。

 そこまで言うと、ゲゼルシャフトは少しだけ僕の言葉に耳を傾け始めた。

 でも、僕は彼らに復讐する力はなかった。なら見返して、もっと偉くなって凄くなってやろうって思った。そして僕に謝罪してきたやつらに、気にしてないと上から目線で言ってやるのを夢見てた。

 今はゴモリを召喚できたから、半ばその目標が達成されている。里の精霊使いに会っても馬鹿にされることはないだろう。こっちから会いに行く気はさらさらないけれど。

 そのせいか

「それは貴様ガ生きているから言エルことダ。私はすでに死んでイル」

「そんなことない」

 ゲゼルシャフトがぽかんとしてのがわかった。あ、こういう反応新鮮だな。

「僕はゴモリっていう精霊と契約を結んだんだ」

 ゲゼルシャフトの形が大きく歪んだのが見えた。ゴモリがひどい目にあわされているかと思って、怒りを覚えたんだろうか。

「さっき僕と一緒に馬に乗ってた子だけど、ひどいことはしてないから。僕はずっと精霊と契約を結べなかったけど、その子は僕と契約してくれた。僕の二番目の、友達」

「友ダチ……?」

 ゲゼルシャフトがいぶかしむような声をあげた。

「精霊使いだけで集まってる空間じゃ教えてくれなかったことを、いろいろと教えてくれたよ。君みたいな精霊がいっぱいいたことも、その中で『送還術』って言うのも教えてくれた」

「何ダ、それハ」

 ゲゼルシャフトが、初めて僕の言葉に興味を示したのが分かった。僕は送還術についてゲゼルシャフトに話した。もうすでに何体かのグロレンを送還したことも。

「君も、君の家族も帰してあげられるよ」

 僕はこれで説得できると思った。

「それはいいナ。ダガ、それでどうやって無念が晴らセル? 我が一族の無念は? 我が一族を手ひどい目に合わせた精霊使いニ、何もせずに精霊郷に帰れト? それニ、見返すという話はどうなっタ?」

「輪廻って知ってる? 人も動物も精霊も、死んだらまた生まれ変わるっていう考えなんだけど。生まれ変わったら、君をひどい目に合わせたやつを見返してやればいい。圧倒的に偉くなって、そいつが頭を下げるしかなくなるほどに」

 輪廻転生の考えは宗教や地方によって大きく異なる。宗教によっては人間のみが死んだら神の元へ行くという教えもあるし、殉教者のみが天国にいけるというものもある。

 だけどこの地方一帯は多神教で、その中には輪廻転生を唱える一派の勢力が大きい。ゲゼルシャフトがこの地方にいたならばその影響を強く受けているはずだ。精霊ならもう一度、精霊として生まれ変わると聞いたことがある。

「ナルホド、それも一理アル」

「だがその前ニ、私の思いヲ味わってもらウ」


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