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???軍曹

「遅くなっちまったな!」

 森から出てきたマルティンさんが大剣を振りまわしてヴォルフを次から次へと肉塊に変えていく。彼の通った後には、血と肉が木々にべっとりと付着していた。

「あなたがこの作戦の要、ならばとっとと敵指揮官のところに行って送環術とやらを使え、なの。このノロマ」

 ゴモリより小さい、フードを目深にかぶったイングリッドは左右の指先に挟んだ針のようなものを飛ばして攻撃している。というか、見た目に似合わずすごい毒舌だ。

 針がヴォルフに突き刺さるとヴォルフは泡を吹いたり、痙攣したりして動かなくなる。すごく強い、さすがは白金クラスの冒険者だ。

「早くするの。さもないと貴様の粗末な○○斬り落として口の中につっこむの」

 僕は馬首を巡らせて、敵指揮官のところへ方向を変える。さっきみたいに迂回するルートじゃなく正面突撃あるのみのコースだ。

「それでいいの。もう少し決断が遅かったら狼とファ○クしてもらうところだったの」



 僕は敵指揮官に向けて馬を走らせる、走らせる。周囲の小隊はマルティンさんのパーティーが蹴散らしてくれたからもう僕と指揮官の間にもう兵は一人もいない。

 彼の表情が視認できるくらいになった。

 その表情は虚ろで、感情はうかがい知れないけれど昨晩感じた負の感情の奔流は思いだせる。怒りと憎しみと悲しみ、それらに疲れ切った虚しさが混ぜこぜになったような思い。

 なんでグロレンがこんな暴挙に出たのかが気になったけど、まずはこの事態をなんとかするのが先だ。指揮官が護身用の拳銃を抜いて突き付けようとするけれど、僕はとっさに馬から飛び降りる。

 指揮官は狙いを変えて再び銃口を僕に向けようとするけど、その動きはヴォルフに比べれば全然遅い。

 ゆとりを持って鉈で斜め下から逆袈裟に一閃。指揮官の手からはじかれた拳銃が宙に舞う。

 これで彼の手には何も武器がない、指揮用のサーベルも腰に差したままだ。

「いっけー、ご主人様!」

傍らのゴモリの声が耳朶にしみわたる。

 僕は両掌を彼に向け、魔力を集中させた。 

 疲労で息が切れるけれど、意識を魔力に向けることで魔力が掌に集中していくのがはっきりと感じ取れる。

「くっ?」

 でも両掌から交流する魔力を指揮官についているグロレンに向けた途端、電流のような感触とともに弾き返されてしまった。

「なんで? やり方が悪いのか?」

 まだ送環術は二度目だし、なにか約束事を違えたのかもしれない。

 だけどゴモリが首を横に振る。

「今度のグロレンは規模が大きすぎるから、ご主人様の魔力でもなかなか足りないんだと思うー」

 ゴモリはまだ見えない両目に敵指揮官を映しながら言った。魔力の流れで大まかな位置はわかるらしい。

「わかった。もっと魔力をかき集めてみる」

 僕は気を落ち着けて両掌にもっともっと意識を集中させる。

 耳と鼻には戦場の怒声、銃弾の音、きな臭い硝煙の匂いが届き、僕は今数千人の将兵の真っただ中にいるということを嫌が応にも意識させられる。

でも意識を研ぎ澄まさないといけない。自分がどうやってここまで来られたかを思い出す。

一個大隊規模の兵士たち、それを率いる連隊長、中隊長、小隊長。この町で出った時に色々と仕事を斡旋してくれたフリーダさん、僕と契約してくれたゴモリ、小さいころから仲良くしてくれたヒア。マルティンさんやイングリッドといった他の冒険者たち。

彼らが血路を切り開いてくれたから僕は今ここに立てている。

それなのに肝心の僕が、こんなところでへばっていられない。

 普通に魔力を込めてダメなら、やり方を変えてみる。

 両掌の中心に集めていた魔力を、もっともっと小さく絞って密度を高める。

 小さくてもいいから高濃度の魔力の塊を形成して、グロレンの魔力の瘴気を突き破れるように。

 魔力に覆われていた敵指揮官の肉体、その中央にほころびが生じる。

 僕の魔力が彼の魔力にほんの僅かな穴を開けた。

 そこから魔力を通し、送環術を発動させていく。

 グロレンの魂を帰すという思いを込めて。

 思いの乗った魔力は肉眼で見て指揮官の心臓の位置、グロレンの中心に入り込んでいく。

 渦を巻く水の中心のように魔力の流れができ、そこに僕の魔力が吸い取られ、グロレンの魔力を中和していく。

 でもものすごいペースで魔力が減っていくので、気をしっかり持っていないと意識ごと持っていかれそうだ。

 だけど魔力が半分くらい尽きたころ、敵指揮官の唇が変な動き方をした。

「邪魔、スルナ」

 僕の意識が落ちそうになるけど、必死にこらえて、

 なんとかどこに落ちていくのかだけは認識できた。


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