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精霊の敢闘

 フェアリーがヒアの周りを必死に飛び回っていた。

 ヒアはフェアリーをはじめは鬱陶しそうに眺めていたけど、段々とフェアリーの飛び方や仕草に合わせて頷くようになった。

「……この子の言っていることが少しわかるようになってきた」

「フィー、お願い……」

 フェアリーが突風を起こす。

 すると、兵たちの動きに変化があった。僕たちの周りの兵が統率されていない動きをはじめ、それ以外はある程度統率が取れた動きをし始めたのだ。

 統率がとれた兵たちは僕たちを囲もうとするけれど、統率のとれていない兵たちが邪魔になって身動きが取れない。

「今のは……?」

「兵たちを覆う瘴気に魔力を帯びた風で干渉したんだねー」

「……そう。私の力じゃ瘴気を消すことはできないけど、濃い部分を移動させることはできるって、フィーが言った」

 フェアリー、改めフィーは自慢げにヒアの周りをくるくると飛び回る。

「いい名前だねー。この子も気に入ったみたい」

 ゴモリがそう言うと、ヒアは初めて精霊の呼び方を変えたことに気がついたようだ。

「……なれなれしかったかな? でもなんだか、自然に出て……」

「いいんじゃないー? 精霊使いと精霊の間に遠慮は無用だよー。もっと仲良くなっていいと思うよー」

硝煙の臭いが立ち込める戦場を、僕たちは駆けてゆく。

「あとちょっとだ!」

 それでも僕たちに対して攻撃を仕掛けようとする兵は残っている。

 うつろな瞳で小銃に弾を込め、銃口を僕たちに向ける。グロレンに操られている状態でも訓練によって染みついた動きはできるらしい。

 引き金を人差し指が引き絞るのが遠目にもはっきり見えた。

 撃たれる、僕はそう思って体を固くして衝撃に耐えようとする。

「私がいるよっ!」

 ゴモリが叫び、目を黄金色に輝かせる。でも間合いが遠すぎる。ゴモリの能力が効くのはもっと近くのはずだ。だが今回は両目でなく、右目だけが光っている。

 兵たちの背後、サーベルを振りかざして指揮をとる士官が目線を動かし、ゴモリと目が合った。

「フェルン・アオゲ(fern auge)」

 ゴモリと目を合わせた士官がその場に膝をついて崩れ落ちる。すぐに立ちあがるけれど、兵たちは銃を構えたまま発砲していなかった。

「今のは?」

 ゴモリの力が通じるには距離が遠すぎたはずなのに……

「フェルン・アオゲっていうんだ。有効距離を伸ばせる分、通じる時間が短くなって一秒も効かない。欠点だらけでめったに使わないんだけど……」

 士官が崩れ落ちたのを見た兵は銃口を僕たちに向けたままだった。その隙に僕たちの馬は彼らの射線から外れていく。

「士官の合図がないと兵は撃てないからね、こういうリーダーを一瞬でも止めればいい状況では有効なんだ」

 いよいよ敵指揮官が見えた。先日の偵察で見たひと際立派な軍曹をまとい、左胸にいくつもの勲章をつけた精悍な男性、その顔を視認できる距離にまで近づいた。その周囲を菱形に兵隊が取り囲んで守っていたが、僕たちを見つけるとそのうちの一部がこちらに突出してきた。

 彼我の距離は五百メートルほど、間にある兵は二個小隊くらい。

 瘴気がすごいけどフィーの力で守ってもらっているから瘴気にあてられることもない。敵兵が小銃を構えて狙ってくるけれどフィーの風で弾道をそらしてもらっている。

 なんだか気分が高揚してきた。

 弾丸を潜り抜け、馬を駆けて敵将の目の前まで突っ込んでいく。

 すごくハイになるというか、気持ちいい。

 怖いけれど誇らしい。

 マルティンさんもこういう気分を味わってきたんだろうか。 


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