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進軍

城門が開き、ドルトムントの第八連隊の進軍が始まった。

 といっても一個連隊がいっぺん進むと最前列が戦場にたどりついているのに最後尾はまだ出発していないという事態にもなりかねないので、分散進軍といって一個小隊規模に分けて出発させ、戦場で再び集合するらしい。

 戦場に向かうというのに年をとった中年の兵隊は緊張が少なく、笑い話をしている余裕すらある。逆に若い兵隊は緊張が目に見えて、顔を青くしている人までいる。

「ここ二十年戦争がなかったからな。訓練は欠かさなかったとはいえ、若い兵隊連中にとってみればこれが初陣だ。緊張もするだろうよ」

 僕と一緒に馬を走らせていた冒険者の一人が声をかけてきた。身の幅ほどもある大剣を背負った豪快なおじさんだが、プラチナクラスの冒険者らしい。名をマルティンというそうだ。

「マルティンさんは怖くないんですか?」

「それは怖いさ。だが怖さにも慣れる。戦場にも出たし、ティーアとも数え切れないほど斬り合った。所詮は慣れよ、慣れ」

 恐怖に対する話題を笑い飛ばしながら答えるマルティンの背中と、傷と修理跡が数え切れないほど刻まれた鎧はすごく頼もしく見えた。

 そうして半日ほど経つと斥候から連絡が入ってきた。この先の丘陵に第十一連隊が待機しているということだ。

「思ったより早いな」

「相手もこちらに向かって軍をすすめてたって言うことだろうねー」

「でも好都合だな。進軍距離が想定より少ない分兵の疲労も少ない」

「作戦通りいくぞ! 各中隊長は指揮下各部隊に戦闘準備!」

 バウマン連隊長が伝令を飛ばし、分散進軍中だった第八連隊が戦闘隊形に切り替わっていった。



「うーんと、右翼が弱いね。右翼って言っていいかわからないくらいバラバラだけど。それと、グロレン本体がとりついている指揮官だけは方形陣みたいに厳重に守られてるね、そこまで穴を開けないと」

 フェアリーに頼んで空中に浮き、戦場を俯瞰していたゴモリがつぶやいた。それから連隊長まで伝令将校に頼んで報告してもらう

 空中に浮いていてもこの距離ならば第十一連隊の銃の射程範囲外だし、第八連隊にとっては戦場に浮く少女が神秘的なのか、さっきまで青い顔をしていた若手の兵たちすら闘志旺盛に銃を構えている。

「歩兵は第一・第二小隊、前へ! 騎兵は第三小隊待機!」

 連隊長の号令で数十人ほどの塊の兵たちが一つの生き物のように動き始める。

「てー!」

 各小隊長の号令で歩兵小隊が一斉射撃を行なう。

 二十秒に一発しか打てないマスケット銃でも隊列を組んでの射撃による破壊力はかなりのものがあり、第十一連隊は動きを止めた。

「吶喊!」

 歩兵連隊に配属されている騎兵たちが小隊長の号令でサーベル片手に突っ込んでいく。

 騎兵の突撃力の前に数で勝る第十一連隊の隊列に穴ができ、指揮官を護る隊までの道ができた。

 騎兵たちはグロレンの本体に接近しすぎないように駆け抜け、隊列を整え、再び突撃を繰り返す。

「今だよー、ご主人様、ヒアちゃん!」

僕は降りてきたヒアを馬に乗せ、鞭を打って走らせる。左右が第十一連隊だけになり、どんどんと敵指揮官に近付いているのがわかる。

だが敵中に深く入り込むほどに瘴気が深くなり、体への負荷も大きくなる。馬もやられたのか、息が荒くなり走る速度が落ちてきた。

第十一連隊は何で平気なんだ?

「毒蛇が自分の毒でやられることがないのと同じだね。精霊は自分の魔力に染まった相手には害にならない」

 ヒアが僕の考えを読んだかのように教えてくれたけれど、それどころじゃない。

「ヤバいよ…… この速度じゃ追いつかれる」

 馬に乗りながら振り返ると、隊列を立て直した第十一連隊が僕たちを追ってきていた。速度はゆっくりだけど、囲まれているからこのままじゃ辿りつけなくなる。

「なにか…… なにかないか」

 僕は必死に考えを巡らせるけど、鉈とナイフ、送還術しか使えない僕にできることなんて限られてる。ゴモリの能力も一度に一人にしか使えないから軍隊を相手にするのは不向きだ。


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