イングリッド
太陽が東の空に昇る頃、城門前にバウマン連隊長率いる第八連隊六百人が集められた。本来なら三千人はいるらしいけど、急な召集だったためこれだけしか編成できなかったらしい。
城壁の上から彼らを見ると、やっぱり格好いい。
デザインの統一された服装の将兵六百人が一糸乱れぬ整列で、ある兵は銃を肩に担ぎ、ある兵はサーベルを腰に吊って騎乗している。昨日は第十一連隊の間を通る時に生きた心地がしなかったのに、味方の軍と言うだけでこんなにも心強く感じるのか。
僕とヒア、ゴモリとフェアリーは精霊使いと精霊ということで警備の兵以外は市民はおろか中隊長クラスでさえ上がっていない城壁に、特別に上がることを許された。
「勇敢で忠実なるわが将兵たちよ! このドルトムントに無謀にもウェルス領駐屯の第十一連隊が兵を出している」
城壁の上に立つバウマン連隊長が熱弁をふるい始めた。
「彼らの兵力はわが軍の約五倍である! だが恐れることはない。彼らは意識を精霊に乗っ取られているゆえに統率がとれていない! 各員遊撃と足止めを行い奴らをかく乱させよ。その隙に若き精霊使いが彼らを操っている精霊を『送環』する!」
将兵六百人の目が一斉に僕らを向く。
僕は適当に挨拶を返し、ヒアは丁寧にお辞儀し、ゴモリは陽気に彼らに手を振っている。
そしてフェアリーは城壁の下に用意してあった馬を風の力で浮かせた。将兵に一瞬の間の後にどよめきが広がる。
本来はもっとすごい使い方があるけれど、初めて精霊を見る人にとっては馬が空に浮かぶなんて奇跡にしか見えないだろう。
「この通り彼らは一流の精霊使いである! 本来ならば王都に直行するところを義憤によってこの町に立ち寄り、我らに力を貸してくれるのだ! 皆の者、恐れるな! 我らには精霊使いと神の御加護がある」
バウマン連隊長はボルテージの上がっていた演説で最後のほうをゆっくりと、そしてはっきりと締めた。
将兵の間から地面が震えるほどの歓声が沸き起こる。
「バウマン連隊長万歳!」
「ドルトムント万歳!」
「精霊使い万歳!」
将兵が集まっている城門とは反対の、場外の門に降りてきたヒアは不満そうにつぶやいた。
「……納得いかない。送還するのは私じゃなくてエルなのに」
「まあ仕方ないよ。やっぱりフェアリーの方がはるかにインパクトあるし、それにヒアが前面に出た方が士気が上がると思う」
すごい美少女だし、赤色のチョッキが映えるし、なによりフェアリーの力で宙に浮くのがすごい。
「……私は送還術を駆使し、人型の精霊を召喚したエルが相応の扱いを受けないことが許せない。エルが自分のことを過小評価するのも」
ヒアは珍しく僕に怒りを向けて呟いた。
「私はエルがもっと評価されてほしい。エルが自分に自信を持って振舞ってほしい」
ああ。やっぱりだ。
精霊を召喚できない時期が長くて、誰も僕を認めてくれなかったけれど、ヒアは僕を認めてくれる。それだけで嬉しい。
でも。それだけじゃ駄目なんだ。
ヒアは僕がヒア以外にも評価されてほしいと思ってる。
なら、それに全力で応えないと。
僕はヒアの手を握って、目を見て言った。
「わかった。じゃあ、この一件で僕の力を認めさせよう。だからヒア、手伝って」
ヒアのプラチナ色の瞳に僕が映っている。白い頬が赤みがかっていく。
「……う、うん…… 頑張ろう」
僕はヒアの両手を握っていることに気がつく、
ヒアは目を反らして、手をほどいた。
思わず手を握っちゃったけど、怒ったんだろうか?
宿でもなんだか気不味そうな感じだったし……
そんなことを考えながら、城外に降り立って馬に乗った。
今度は僕とヒアに馬が一頭ずつ用意されている。精霊と精霊使いはペアで動くので、僕とゴモリ、ヒアとフェアリーが同じ馬に乗る。
ヒアが馬に乗るのを見るのは久しぶりだったけど、やっぱり様になっている。ウエストラインを締めた紅いチョッキ、馬上から高みを見渡すその視線は変に肩肘張らずにゆったりと構えた自然体。
それにズボンに入ったスリットの隙間から見える真っ白な太股。体を動かすと服が揺れて、僥倖のように肌が見える面積が増える。全体的に露出が少ない中でそこだけ素肌がのぞき、眩い。
ほとんど素肌が見えない分、不意打ち気味に目に素肌が飛び込んでくるとそっちのほうがドキドキする。
そして場外に、冒険者たちの集団が何パーティーか集まっていた。戦場にはティーアもいる可能性があるので、ティーアとの戦いに慣れている冒険者たちが主にティーアと戦うらしい。
僕はギルド長、複数パーティーの中のリーダーと打ち合わせをする。
皆、上位ランクである金やプラチナクラスの冒険者たちだそうで、中には見た目がゴモリと変わらないくらい小さな子もいる。イングリッド・バーデという子で、フードを目深にかぶっていて表情はよくわからない。そのせいか、ゴモリが精霊ということはギルド長から聞いているのか、リーダーやそのパーティーメンバーも僕やゴモリを侮る様子なく接してくれている。




