予算削減
「改めて自己紹介させていただく。私はこのドルトムントの町に駐屯する歩兵第八連隊連隊長ライナルト・バウマンだ。階級は中佐」
そう言って右手を差し出してくる。握った手は分厚く固く、そして傷痕があった。
「第十一連隊と軍服が違いますね。同じ国なのに」
斥候に行ってきた際の第十一連隊の服は青みがかった軍服だったがドルトムントの兵隊さんたちは緑がかった色だ。
「兵にも色々いてな。中央の影響力の強い地域から新しい軍服に交換していっておるのだ。全軍を一度に交換できるほど国の財政も潤っていないのでな」
「というか、軍服を私費で取り換えるような通達じゃないかなー? だから進まないんだよ」
ゴモリの一言にバウマン連隊長が俯いた。
「実はそうなのだ……さすがはハインリヒ将軍の従者。二十年続いた平和により軍関係の予算は年々削減されていておってな…… 銃や馬など兵器に限られた予算を回さざるを得ない状況が続いているのだ」
「軍人にとっては世知辛い世の中だよねー」
ゴモリが腕を組んでうんうんと頷く。腕を組むと大きい胸がさらに強調されるから目に毒だ。
「それで全体的な作戦はどうするかだが」
バウマン連隊長は重々しく口を開く。連隊と言っても兵が常駐しているわけではなく、実質一個大隊程度の兵力しかなく第十一連隊と第八連隊の兵力差は五倍近い。さらに王都から援軍がくるまで時間がない。
「うって出るしかないだろうな」
ゴモリも頷く。
「……兵力差があるのにうって出る? 攻めは守りの三倍の兵力がいると聞くけど、籠城の方が有利では。そのまま、王都から援軍が来るまで待つのは?」
ヒアが疑問を呈するが、ゴモリがそれに答える。
「でもその分この町に兵を集中させられるよー。数が多くてもグロレンの影響で、野戦では統一されていないから各個撃破しやすいけど、街を取り囲めば兵が自動的に集中してしまう。『集中の原則』をこっちから敵に提供してしまう形になるからねー」
集中の原則とは大事な箇所に兵力、兵站、士気などを集中させるのが良いという原則らしい。
「それに、援軍が来るのが間に合わないよー。王都から援軍が来るのに半月はかかるはずだし、それに統率がとれてなくても、相手は死を認識していなかった。決死の兵と同じ。どれだけ倒しても倒しても向かってくるはずー」
決死の兵と聞くと、バウマン連隊長が唇を軽く噛んだ。兵を率いる立場である以上、感情を周囲には読み取られない訓練をしているはずだけど、それでも動揺が現れるほどのことなのか……
「だから連隊で引きつけてもらって、付かず離れずを繰り返して第十一連隊をひっ掻きまわしてもらっていい? その隙に指揮官にとりついたグロレンを私たちが送還してくるー」
ヒアは送環術について説明するが、こんな常識外のことを説明して信じてもらえるだろうか? 精霊使いの僕やヒアですら実際に目にするまではなかなか信じられなかったのだ。
しかしバウマン連隊長はたやすく首を縦に振った。
「そうか、わかった。ではその作戦でいこう」
え。
「ちょっと、バウマン連隊長」
「なんだ?」
バウマン連隊長は作戦会議の流れを止められたのでいささか不機嫌そうだったが、これだけは確認しておかないと。
「なんで送環術なんて初めて聞く単語をあっさり信じたんですか? それに一個連隊の運命を僕なんかに賭けていいんですか?」
「あれだけの偵察を行なえる御仁だ。敵の情報を一番よく把握しているのがゴモリ殿だからな」
「……やれることを、やるだけ。私はエルについていく」
「上官がやれと言われれば、下は従うまでです」
「軍の決定に口をはさむ権利も権限もない」
ヒア、フリーダさん、ギルド長がバウマン連隊長の言葉に同意した。
「ご主人様、軍人は憶測で物を語ったりしない。彼にも彼なりに信じた理由と背景があるはずだよ。それに、ハインのことを知ってれば送環術のことくらい知っていておかしくない」
バウマン連隊長は鷹揚に頷いた。
「ご明察だ。さすがはハインリヒ将軍の従者」
言われてみれば当然か。細かいところまで言わなかったのは、それだけ時間がおしているからだろう。




