連隊長
「何の騒ぎだ?」
鼻の下にひげを蓄えた厳ついおじさんがギルドに入ってきた。門番と同じ青を基調にした軍服だけれど、微妙にデザインが違ってなんとなく高級そうだ。兵と将校の違いだろう。
「ライナルト・バウマン連隊長!」
バウマン連隊長がギルドに入ってくると、ギルド内の冒険者たちが一斉に姿勢を正した。
冒険者と兵隊じゃ所属する組織が違うけど、連隊長ともなるとやっぱり世間の見る目が違うのだろう。
僕もギルド内のみんなにならって姿勢を正す。ヒアとゴモリも空気を読んでか姿勢を正した。
「なんで連隊長なんて偉い人が……?」
僕は側にいたフリーダさんに小声で聞いた。
「彼はこのドルトムントに駐留する軍のトップですし、冒険者と軍で作戦や部隊の動きのすり合わせを行なう必要がありますから。兵隊に志願する冒険者だけでなく、冒険者として独自に戦争に参加する人たちもいますし。特にランクの高い人たちはそうですね」
数千の兵を率いる連隊長ともなるとやっぱりオーラが違う。僕やヒアは少し気圧されていたけれど、ゴモリは何の気負いも見せずにすたすたと近づいていった。
「連隊長さーん」
ゴモリは外見は子供なので、バウマン連隊長も警戒することなくゴモリの無邪気な声に微笑で返している。
「はい、これ」
蝋で止めた羊皮紙を差し出した。
「読んで」
バウマン連隊長も子供のいたずらと思っているのか、苦笑いしながらも羊皮紙を開いて軽く目を通す。
初めは苦笑いしていたけれど、すぐに羊皮紙を見る目が変わった。
「これは誰が書いた?」
もう目が少女を見るそれでなく、完全に軍人のそれと化していた。
「それは後で教えるよー。でもここじゃ人目につくから、別室で……」
ゴモリの言葉に、バウマン連隊長はすぐに応接室に向かった。事務員であるフリーダさんも慌ててそれに続く。
応接室はギルドの二階の奥の部屋で、肘かけのついた柔らかい皮張りの椅子が配置されており、別の事務員さんがお茶を人数分入れて持ってきてくれた。
バウマン連隊長、ギルド長、僕、ヒア、フリーダさん、ゴモリしかこの部屋にはいない。
「さて」
バウマン連隊長が茶を一口すすって喉を湿らせると、口火を切った。
「この地図を描いたのは誰だ? ヒア殿、精霊使いであるあなたか?」
ヒアは少し不機嫌そうに首を横に振った。
「……精霊使いならエルだってそうなのに……」
小声で愚痴を言うけれど、僕をかばった内容なのが少し嬉しい。
「では誰だ? 斥候隊が戻ってきてはいるが、ここまで精密な内容ではなかった。彼らの報告と照らし合わせてもこれが嘘でなく、かつより優れた内容であることは一目瞭然。そちらの男子か?」
僕も首を振る。
「では……」
バウマン連隊長が首を巡らせる。
「私だよ―」
ゴモリが挙手する。当然彼はいぶかしげな顔をするが、息を継ぐ間も与えずゴモリは立て板に水を流すがごとく、地図の軍事的な解説を行なった。




