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翌朝

 ドルトムントの町についたころには既に月が西の空に沈みかけた頃だった。

 もし日が昇れば門番が大勢やってくるから戻るのは難しかっただろう。


 城壁の下までくると、フェアリーがまず馬に小さな手で触れて、ふわりと地面から浮かせて城壁の上まで運んだ。その次にヒア、ゴモリ、最後に僕が続く。

 城壁の上の見張りはゴモリの力であらかじめ遠くに追いやっておく。

 城壁の上からは下の門番の動きがわかるから楽だ。門番や兵の死角に馬を下ろせばいい。


 それから馬を返し、宿へ戻った。ヒアは従者さんともっといい宿に泊っているそうなので、途中で別れて僕はいつもの宿に戻った。

 徹夜で馬を走らせてきたのですごく眠い。

 ベッドに倒れ込むとすぐに睡魔が襲ってきた。


 ひと眠りしようかと思ったけれどゴモリは窓から差し込む朝日を明かりにして、羽ペン片手に羊皮紙に何かを書いている。

「何書いてるの?」

「報告書だよー。正式の命令でなくても、斥候の役割は果たしたことを証明しないと」


 ヒアは書き終わり、インクが乾いたことを確かめると羊皮紙を書いた面が下になるように巻いて、蝋を紙の境目に垂らして止めた。

 それを見て僕も眠りに落ちる。


 ひと眠りしたら大分体力が戻ってきていた。昼ごろに机に突っ伏して寝ていたドルヒを起こし、昼食を取るけど宿のみんなの雰囲気は暗い。


「第十一連隊が攻めてくるんだってねえ…… 今まで戦争なんて二十年近くなかったのに……」

 昼食を持ってきてくれたおかみさんも、不安げな表情で怯えていた。

 この人たちを、護りたい。

 そんな気持ちが自然とわき上がってきた。



 ヒアを迎えに行った後に冒険者ギルドへ辿りつくと、他の冒険者たちが昨日と同じように完全武装して待機していたけれど、フリーダさんたち事務員が大忙しで書類と格闘していた。


「フリーダさん…… どうしたんですか?」

 フリーダさんは眼鏡を外し、眉間を指でほぐしながら呟いた。

「エルンストさん…… 聞いて下さいよー。昨日の晩こっそり城壁を超えて抜け出した人がいたらしくて、スパイじゃないかって、その対応に軍も冒険者ギルドもピリピリしてるんですよー。お陰で仕事が増えていい迷惑です」

 フリーダさんは相当疲れているのか、口調がおかしくなっている。


 同時に申し訳ない気がして、フリーダさんと正面から目を合わせられない。ヒアもばつが悪そうにしていた。


「あ、それ私たちだからー」


 あっさりゴモリが吐いた。


「ゴモリ!」

「なんで黙ってるのー? 私たち何も悪いことしてないよー」

 そうなんだけどさ! ああ、こういうところで子供だ。


「敵の情報を仕入れるより大事なことはないよー」

 と思ったら意外と大人だった。


 フリーダさんはそれを聞くや。

「勝手なことをして! まったく、今の状況を考えてください。下手するとスパイ容疑で投獄されてもおかしくないんですよ?」

 それを皮切りに、フリーダさんのお説教は続いていく。最初はおとなしく聞いていたけれど、とめどなくお説教されるのでさすがにムカついてきた。


 確かに町の命令には背いたけれど、命がけで偵察してきたんだぞ? そう思って僕は精霊の仕業だとフリーダさんに訴えるが、頭に血がのぼった彼女には信じてもらえない。それどころか話を聞いていた他の冒険者たちが僕たちのことを口々に罵ってきた。


「精霊の仕業?」

「なんでわかるんだ? 精霊使いでもないくせに」

「そんなに言うなら精霊を見せてみろってんだ」

 彼らの言うことに、何も反論ができなかった。

 ゴモリは精霊にはとても見えないし、精霊使いの魔力を見せても精霊使いでもフリーダさんのように特殊な目を持つわけでもない彼らにはわからない。


 何も言い返せず、周囲から罵倒される。

 村で悪口ばかり言われていた時の記憶がよみがえり、目が潤んでくる。

 また、こんな風に言われるのか。僕はどこに行っても馬鹿にされるのか。

 そう思っていると、不意にヒアが僕をかばうように前に立った。


「私が保証する。本当に精霊の仕業だった」

ヒアは半袖シャツの上の赤いチョッキの中からフェアリーを取り出して、見せた。

「精霊使い?!」

 一目で精霊とわかるフェアリーを見たギルド員たちが、ヒアとフェアリーに対して一斉に頭を下げた。


 フリーダさんすらも同じような反応だ。そうか、昨日はフェアリーを見せていないし彼女もヒアを注意して見ていなかったから精霊使いだって気がつかなかったのか。

 金、白金クラスはさすがに驚かないが、それ以外はヒアに対して完全に畏まっている。

 世間一般の精霊使いに対する認識というものを改めて思い知った。


「それにこの男も精霊使い。わけあって精霊は見せられないけれど。私が保証する」

 ゴモリのことを上手く言えないから適当にごまかしてくれた。

 僕の言葉をさっきまで信じていなかったギルド員たちが、ヒアの言葉を聞くや否や僕に対しても深々と頭を下げてきた。


 ヒアとの差を見せつけられた気がして少し悔しかったけど。なによりヒアが僕の仇をうってくれた感じがして嬉しかった。


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