二回目
月が再び雲間に隠れ、足元さえもあやふやな闇の中僕は馬を走らせていた。
行きよりも早く、早く、早く。少しでもあそこから遠ざかりたかった。
馬に何度も鞭打って、駆歩で走らせたので馬の疲労が激しくなってきた。二人も乗せているせいか息は乱れ、毛の下から汗が染みだしてきている。
「ご主人様―。ここで休憩にしよー。第十一連隊は大分離したし追ってくる様子もない。それにこれ以上無理させると馬がつぶれちゃうよ?」
ゴモリの忠告は冷静な響きで、血が上っていた頭をすっと冷やしてくれる。
僕の腕の中のヒアはまだ顔色が悪く、さっきの魔力に当てられた状態から回復しきっていない感じだ。
僕は馬の歩みを緩める。
馬蹄の響きが規則的なものへと変わり、ゆっくりとしたリズムになると同時に縦揺れも小さくなる。ヒアも少しは楽になった感じだ。
「ごめん、ヒア……」
僕は恐怖にとらわれて、自分が逃げたいということしか考えていなかった。
腕の中のヒアはこんなにも苦しそうだということにすら、気がついていなかった。
ぼくがこんなだからヒアは宿屋で、僕から離れようとしたのだろうか?
「……私は大丈夫、エル」
ゴモリを下ろしたフェアリーが、ヒアの周りを飛び回って涼しい風を送り込んできている。精霊のフェアリーが喚ぶ風は浄化の力もあるのか、ヒアの声が少しずつ穏やかになっていく。
やがて雲間から再び月が出てヒアの顔を照らす。
銀色の月光に照らしだされたヒアは例えようもなく綺麗で、目が離せなかった。宝石のような色の瞳と、プラチナのような髪が月の光を浴びて、太陽の下で見るヒアとは別人のようだった。
「エル……?」
ヒアが僕の腕の中で僕を見上げる。やっと目を合わせてくれた。
どうやら嫌われてはいなかったようで、ほっとする。
気がつくと顔と顔が近い。
互いの睫毛の数すら数えられそうなほどの距離で、ヒアの潤んだ瞳の中には僕がいる。僕の瞳の中にはヒアがいるんだろうか?
でも宿屋で、なぜ僕からあんなにあっさり離れようとしたんだろう。
村から出るときにあんなに泣いてくれたのに……
それに宿で村に僕が帰らないって言った時、なぜ泣いたんだろう。
そんなことを考えているとヒアがそっと目を閉じ、あごを持ち上げた。
これって……
ヒアの唇まで月光に照らされ、輝いているように見える。
荒い息と上気した頬が、妙に大人っぽい。今までヒアが見せたことのない表情に、体の芯が熱くなる。
これで二回目。
僕は前回の感触を思い出しながらー




