偵察 壱
東の空に満月が昇る頃、僕はゴモリを連れて城門近くにやってきていた。城門は固く閉ざされてその前に武装した門番が二人立っており、門には木製の閂がつけられている。
剣呑な雰囲気のためか城門の近くには人っ子一人おらず市民も家の中に閉じこもっているようだ。
「はいっ、と」
ゴモリが建物の陰を利用してできるだけ門番に接近し、意識を乗っ取って城門を人一人通れるくらいの隙間だけ開けさせる。
もう一人の門番は交代と偽の命令を意識に刷り込んで一時的に門から離れてもらった。
洗脳の能力ではないからすぐにおかしいと気がつかれると思うけど、短時間行動を操るくらいなら問題ないらしい。
門のわずかな隙間から僕たちは外に出る。城門の外は堀が掘られていたけれど、一度降りて乗り越えれば難なく突破可能だった。
「ここまでは可能か……」
僕は雲のせいで笠がかかった月を見上げながら呟いた。
今日はゴモリの行っていた通りの曇りで、月が隠れたときと出たときで全然明るさが違う。月が出ていても影になっている部分はほとんど見えないのだ。雲に月が隠れるとほとんど何も見えなくなってしまう。
「地図を見たところここから馬で半日くらいの位置に敵軍がいるみたい。この月だし夜は行軍できないと思うから絶好の機会だよー」
僕の足元に大きな影が落ちた。
「早いね、ヒア」
ヒアが風の精霊、フェアリーの力で馬をゆっくりと城壁から下ろしてきてくれた。ヒア自身も城壁からゆっくりと降りてくる。
「……エルは何度かやったことあるけど、馬を上空から下ろすのは初めてで結構大変だった。お陰でフェアリーには無理させた」
特別なことがない限り、いつもヒアの周りを飛び回っているフェアリーが今ばかりはヒアの肩の上でぐったりしている。
「ごめんね、無茶な作戦で」
「……いい。エルとゴモリの判断にわたしが従っただけ。いざ問題になっても私が精霊使いとしてやったことにすれば多少のお咎めはもみ消せる」
ヒアの馬車に群がる通行人たちの反応を思い出した。それにボールシャイト家の御威光もあるか。
フリーダさんから普通に城外に出ることは不可能だと聞かされた後、こっそり出ることを提案した。ゴモリの能力を使えばできると思ったからだ。
僕たちだけで行こうとしたけれどヒアに反対され、協力してもらうことになった。
無茶な作戦だと思ったし、ヒアから領主に働きかけて外に出る許可をもらおうとも考えたけれど今度はゴモリが反対した。
『許可を取ってる暇がない。進軍のペースはゆっくりだけど、下手をすると数日以内に侵攻してくる。そうなるとこの兵力差じゃあっという間だよ。城を攻める側は守る側の三倍の兵力が必要っていうけれど防備も整っていない城なんて容易く落とされる』
ということで急遽出発することになった。
「じゃあ行くよー」
馬はヒアの乗ってきた馬車の馬を借りているが、フェアリーの力では一頭しか下ろせなかったのでヒアの後ろから僕が乗り、手綱を握った。ヒアはズボンをはいているので馬に乗りやすい。ゴモリはフェアリーに浮かせてもらって馬の尾を捕まえている。
浮いていれば軽いのか、馬の負担にもならないらしい。
「しっかりつかまっててね」
農耕馬がメインだったけど、リンツの村にも連絡用の馬はあったので乗馬の訓練は受けている。
馬の腹を軽く蹴ると、馬は駆け出した。




