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地図

本日から日曜まで18時に連続投稿します。

もしくは村を追放された住所不定で安定しない職業の男なんて早めに見切りをつけたのか?


 それにさっきからヒアの様子がおかしい。僕と目を合わせようとしないし、気まずそうな雰囲気だ。

 何か悪いことをしたんだろうか? 知らない間にヒアの機嫌を損ねるようなことを言ったりしたりしてしまったんだろうか?


「気になるんなら私が見て見よ―か?」


 ゴモリが意識に入り込もうとしたけれど、僕はそれを止めた。むやみに人の心はのぞいていいものじゃないと思う。

 その時突然、カンカンと連続で鐘が鳴り響いた。宿の中にも、外にも、町中に響き渡っている。

 教会が時刻を知らせるゆっくりしたテンポじゃない、けたたましいという表現がぴったりな、人に不安と警戒を呼び起こす音色。



 窓の外から通りを見ると、道行く人が慌てふためいたように駆けまわり、馬に乗った兵士が忙しく駆けまわっている。

 この鐘の音は、警鐘。緊急事態が起こったことを町中に知らせる合図だ。

 僕はなにが起こったのかとカウンターに降りて宿の女将さんに聞いてみたけれど、詳しくはわからないと言っていた。とにかく警鐘が鳴った時は一般庶民は家の中で身を潜めているべきらしい。

 僕も本来はそうするべきなのだろう。だけど僕はただの人間じゃない、精霊使いだ。


 ヒアは村長の娘だけあってこうした場合にどうするべきなのか教育されているのか、傍目には落ち着いて見えた。


「……エル。こういう事態に詳しそうな人に心当たりはない? まず情報が必要」

 心当たりか。兵士なら何か知っていると思うけどあいにく顔見知り程度だし……

 いや、いるじゃないか。



 僕とヒアは冒険者ギルドにやってきた。

 ちなみにお互い徒歩だ。道は馬に乗った兵士や慌てふためく一般人がいっぱいで、幅の広い馬車の通行は難しい。御者さんには馬車で待機してもらった。


 冒険者ギルドの中は完全武装したギルド員たちでごった返していた。巨大な剣を背中に担いだ人、弓の手入れをする人など。皆一様に殺気だっていて、まるで今から大規模クエストにでも行くような感じだ。

 僕みたいな新米には興味がないのか、一瞥しただけで皆武器の手入れに戻ってしまった。精霊使いということがばれたらトラブルになりそうなので、ヒアにはフェアリーを服の中に隠してもらっている。


「フリーダさん!」

 僕はこのギルドの中で一番話をしている声をかけた。

 フリーダさんは受付だけど、ちょうど今客足が途絶えたらしくカウンターには誰もいない。

「ああ、エルンストさん、ゴモリさん」

 フリーダさんは僕たち二人を見て声をかけてきた。相当に忙しいのか、少し見るだけで疲労しているのがわかる。


「また、女の人……」

 ついてきたヒアがフリーダさんを睨む。

 女嫌いだっけ? まあそんなことは後回しだ。今は状況確認。


「この警鐘は? 一体何が起こったんですか?」

 ちょっと失礼かもしれないけど、緊急時なので僕は聞きたいことだけシンプルに聞く。


「直球ですね。でもこんな時にはそう言う方がいいです。実は、隣のウェルスの領主が突如、兵を州境に展開し始めたんです。ドルトムントの領主は軍に戦時体制に移行を命じました。今城門を閉じて、人の往来を制限しています。明日中には領主から正式に御触れが出ます」


 フリーダさんは一旦言葉を切った。


「冒険者ギルドは兵士ではないですが、戦力として優秀ですので、兵として志願する人も多いです。志願して武勲を立てれば国から勲章も授かりますし、ギルド内での昇進も早まります」


 彼らはそれで殺気立ってたわけか。


「僕も行った方がいいんでしょうか?]

 怖いけど、リンツで暮らすうちに仲良くなった人もいる。冒険者ギルドにも顔なじみができた。彼らが危ない橋を渡ろうとしているのに、僕だけ安全地帯にいるのは後ろめたいし、悔しい。

「それは助かりますが、強制ではありません。自信が無いのなら足手まといになりますし、むしろいかない方が助かるくらいです」


 フリーダさんの言い方はきついけれど、僕に気を使っているのが感じられた。


「わかりました。でも僕にできることはします。それよりヒア。ここにいたら危ないかもしれない。急いでこのドルトムントを離れるか、一度リンツに戻った方がいいかもしれない」


「それは無理です。スパイの侵入を防ぐために城門は固く閉ざされていますし、街道に出るのはかえって危険です。しばらくはここで身を潜めていた方がいいでしょう」


 そう言われて、ヒアは不安げな表情を浮かべた。

「それなら僕もヒアと一緒にいよう。ヒアはこの町に来たばかりだし、御者の人はいるけど僕も一緒にいた方が安心でしょ?」

 僕は腰の鉈とナイフを軽く撫でで言った。


「……いいの?」


「良いに決まってる」


 こんな状況だけど、ヒアと一緒にいる理由ができたのが嬉しかった。


「……ありがとう」


 ヒアは胸を手で押さえて、顔を伏せて呟いた。でも緊張のためか、銀色の髪からのぞく耳が赤くなっている気がする。


「ところでー」

 それまでずっと黙っていたゴモリが挙手した。

「軍の配置ってどうなってるの? それに敵軍の動きは? 騎兵と歩兵の割合は? 城壁をさっき見たけどまだ防備は固めてないね。野戦で決着? それとも籠城? それがわからないと対処しようがないよー」

 ゴモリはすらすらと軍事の情報を並べたので、フリーダさんは目を丸くした。

「ここは兵士志願者も集まりますし、お教えできる範囲でお答えしてもかまいませんが…… ゴモリさんはお詳しいですね」

「まーね。何と言っても精霊だしね!」

 ゴモリはドヤ顔で胸を張る。体を反らしながら胸を張るものだから、大きな胸がさらに強調された形になる。

 でも僕は鋼鉄の意志で目を反らし、フリーダさんが地図を持ってくるのを待った。


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