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送還術

 許せなかった。

 僕が今まで味わってきたものと同じ屈辱をドゥンケルも味わってきたんだ。

 その場に必要な力がないと、つまはじきにされて迫害される。

 相手が一人でも複数でも同じことだ。

 どんなに別のことで役に立とうとしても、期待に応えられなかった存在は邪魔ものでしかない。

「何をしたって言うんだよ……」

「ご主人様?」

 掌の中央に膨大な魔力が集積していく。

「何も悪いことしてないじゃないか。誰かを傷つけたわけでもないのに。ただ期待にこたえられなくて、それが申し訳なくて、それでも役に立とうと一生懸命頑張って……」

 全身をめぐる魔力をはっきりと意識できる。

 全身を駆け巡る魔力が掌に集まっていく。

 両掌からほとばしる、左右であるために僅かに波長の違う魔力はドゥンケルの魂に干渉していく。

「もうこれ以上苦しまなくていいから」

 この子の魂にこれ以上傷ついてほしくない。

 この世をもう彷徨わなくていい。

 その思いを魔力に乗せて、込めていく。

 魔力が風を呼び、雲を散らしていく。

 はるか高い空にある白い雲が目にはっきりとわかる速さで移動していく。

「帰って、いいんだよ」

 雲がすっかり払われた青空の元で、ドゥンケルは風とは対照的に、穏やかに、そして静かに消えていった。

 彼女が消えた後、彼女のいた場所には碧く澄んだ湖だけが残っていた。



「他の精霊使いは、なんでこうやって送還術で返さなかったんだ? あんなにひどいこと言ったりしたりするよりまだマシな方法じゃないか」

 僕は帰り路まだ怒りがおさまらず、ゴモリに疑問をぶつけてみた。

「んー、まず送還術自体が難しくて使える精霊使いが滅多に現れないことかなー。ご主人様で50年ぶりだね」

「50年ぶりの精霊使い……」

「そーだよー、他の精霊使いが誰もできなかったことを平然とじゃないけどやってのけた、50年ぶりの精霊使い。ご主人様はすごい精霊使いなんだよ」

 精霊使いとして褒められるのが初めてなので、嬉しくて胸がくすぐったい。

「それと、精霊使いの里が整備されてこっそり召喚して虐待するような人がいなくなったのもあるね。精霊を一生のパートナーとして徹底してくれたから、もうドゥンケルみたいなのはここしばらく現れてない」

「だから精霊使いの里なんていうのができたのか」

「そーだよー。精霊は一生のパートナー、そういう考え方のみを刷り込んでいけば自然とそう言う考え方になるからねー。だから使う必要もなくなって、精霊使いの間では失伝しちゃったんだ」

「でも疑問が残るな…… なぜ昔の精霊使いたちはそういったブラックな搾取をやめて、精霊に対して手厚く接するようになったんだろう? さすがにかわいそうになったっていうことかな?」

「それもあるねー」

 ゴモリは重い話題なのに、軽い調子で流した。

「ところで、ああいう風に魂だけが残ってる精霊、グロレンって、まだいるのかな?」

「けっこういると思うよー。昔の送還術を使える人が大部分は帰してくれたけど、まだ残ってるのがいるはず、だから」

 ゴモリの口調が辛そうなものに変わる。

 これ以上深入りしてはいけないと感じて、僕はこの話題を切りあげた。

 機会が来たら、ゴモリから話してくれるようになったら、また改めて聞こうと思った。


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