殺された
精霊が死ぬ……?
そういえば精霊の寿命は人間よりずっと長いから、精霊が死んだらどうなるかなんて考えたこともなかった。というか、リンツで教えられたこともないし会話にのぼったこともない。
「なんで死んだんだろう? 戦に巻き込まれたのかな?」
ゴモリは顔を歪めて、何も答えなかった。
「私が意識に入り込んで心を見てみる」
ゴモリの目が金色に輝いたが、影の精霊の動きに変化はなかった。
「でも今の状態じゃ難しい…… ご主人様が弱らせて。肉体的・精神的に疲労すれば私の能力は通じやすいから」
「わかった」
詳しいことはわからない。
なんでゴモリが何も答えないのか、わからない。
でもゴモリがこんなに悲しそうな顔をするのは初めてで、何かできるなら何とかしてあげたい、ただそう思った。
僕は腰の鉈とナイフを抜いて、精霊と対峙する。
精霊ではゴモリとかぶるので、こいつは暗さから連想した「ドゥンケル(dunkel)」と呼ぶことにした。
ドゥンケルは僕が武器を構えたのを見ると、影の塊の一部を僕に飛ばしてくる。
当たったらどうなるかわからないけれど、僕は咄嗟に避けた。影の塊本体は移動しないので、石を投げてみたが当たっても影に吸い込まれてしまう。
何回か投げたが、結果は同じだった。
「効果がない……?」
「ご主人様! 気をつけて」
僕は湖に入っていく。石を投げて駄目なら、鉈とナイフの攻撃を叩きこむだけだ。
湖の底が浅いので船を使わずにドゥンケルのところまで接近できたが、膝丈まで水につかってしまったので僕の動きはかなり鈍っている。
「迂闊に接近するとまずいな」
僕は膝丈が浸かった場所で一旦足を止めた。まだ三歩ほど鉈の間合いには届かないけれど、この距離ならドゥンケルの攻撃に対処できる。
ドゥンケルが再び影の塊を放ってくる。今度は膝を狙ってきたので、水の抵抗を脚に感じつつ、ジャンプして避けた。
だが僕がかわした足元の藻に影の塊が当たる。
影は藻と同化したように色を薄くすると、そのままいままでの影の塊と同じように消えていった。
ただし、今度は藻ごと消えゆき、今まで影と藻があった場所には濁った水以外は何も残っていなかった。
「これは…… 物体を影と同化させて消し去るのか?」
とんでもない能力だ。
もし脚に当たっていたら、と思うとぞっとする。
とりあえず今は撤退だ。鉈の攻撃が当たったとしても通じる保証はないし、湖の中にいる以上こちらの動きが鈍ってしまう。
「おねがい! 諦めないで」
だがそんな僕を、後ろから聞こえたゴモリの声が押しとどめた。
「でも、このままじゃリスクが高すぎる。せめて準備を整えてから」
「でも、一刻も早く救ってあげたい」
「どういうこと?」
ゴモリはまるで、この精霊に何があったのか知っているような口ぶりだ。
「だって……」
ゴモリはためらいながらも口を開く。
「その子、その子を呼んだ主人に殺されたんだよ」
ゴモリはそれから、僕の知らなかった精霊使いの闇について語ってくれた。




