もう死んでいる
川から離れて歩を進めていくと、森が深くなっていく。
木が密集してくると同時に葉が大きく厚い木が増え、空を覆い隠していく。そのため足元は薄暗く、空気が冷えてくる。
すでに道らしき道はなく、膝まで草が生えている獣道と木の根を足掛かりに進んでいる感じだ。
そのうちに、皮膚を伝う雰囲気がピリピリとしたものに変わっていくのを感じた。
「ゴモリ」
「うん。私とは種族が違うけど同じ精霊同士、なんとなくわかる。どんどん近付いている感じかなー」
森の奥から感じる魔力の波長。
召喚の儀で数多くの精霊の魔力を感じてきたから、精霊の魔力だってわかる。
精霊と人間の魔力の違いはその波だ。人間は縦の波に近いけれど、精霊は横の波に近い。
不規則な魔力の横波が、僕の肌をピリピリと刺す。
同時に、鳥や獣の気配が消えていた。
森の奥の湖に「そいつ」はいた。
森にある湖というと陽光を水面が反射する金波銀波のイメージがあるけれど、この湖は苔や藻が水面から見える、淀んだ湖だった。
精霊というけど動物や植物の形ではなく、またティーアのように瞳が赤いわけでもない。どちらかといえばゲーリングのガイストに近い外見だ。
不特定の黒い影の塊が湖の中央にあり、時折影の一部が本体から切り離されると湖や空に落ちていき、一定時間周囲を暗く染める。だがしばらくたつと陽光に浄化されるように影の塊は消えていく。
消える頃には再び影の塊が本体から切り離される。
その繰り返しだった。
「確かにこれはよくないな……」
こいつがいるだけで周囲が暗く、鳥や獣が逃げていってしまう。
近付かなければいいだけの話だけれど森に生きる獣や狩人、ドルイドたちからすれば迷惑な存在だろう。
「それにしても、こいつを召喚した精霊使いはどうしたんだ?」
僕は一人呟いた。
精霊は、精霊使いが必ず側にいるはず。ヒアのフェアリーも、ゲーリングのガイストもそうだった。精霊は精霊使いの魔力でこの世界での存在が維持されているので、あまり離れられないというのもあるが。
「ご主人様。 多分、もう死んでるよ」
「死んでる? そんなはずないよ、だって精霊使いが死ねば精霊は自動的に送還されるはず」
それが精霊と精霊使いのルールだ。精霊使いの魔力によってこの世に存在している以上、召喚した精霊使いがいなくなればこの世に存在を保っていることはできない。
「違う。この精霊が、だよ」




