ロリババア
「さっきのは?」
僕たちはおじさんに二つで250二―ロにまけてもらったサンドを頬張りながら、道を歩いていた。
「わたしの能力。他人の意識に入り込んで感覚を共有できるんだー。すごいでしょー!」
感覚を共有?
「つまり一定時間私があの人の意識を乗っ取った状態になるのかな。でも私が動けなくなるわけじゃなくて、意識が二つに分かれる感じかな」
「意識を乗っ取る……」
それが事実なら飛んでもない能力だ。
「でもいくつか制限があるよー。まず相手と目を合わせないといけないし、距離が離れすぎても駄目―。捉える相手の強さにもよるけれど石を投げるより短いねー」
それでもすごい。
精神干渉系なんてめったにお目にかかれない、激レアな精霊だ。
悪用すれば詐欺がやり放題になるのではないだろうか。
「それに相手の精神力や距離にも左右されるけど、数秒間が限界―」
「数秒か…… 大分短いね」
それだと使える状況がかなり限定されそうだ。
戦闘では相手の足止めくらいにしか使えないだろうし、日常ではさっきみたいに限られた秘密をのぞき見るくらいか。
「これでも大分修業したんだよー? 二百年前は瞬きくらいの一瞬しか能力を使えなかったんだから」
ゴモリがクリームみたいに真っ白な頬を可愛く膨らませて怒ったが、それより聞き捨てならない台詞が今の会話に出てきたぞ。
「二百年前?」
「これでも私は精霊だからねえ、長生きなんだよ。仲間には千歳超えてるのも珍しくないしー」
っていうと、この子ロリじゃなくてロリバ……
「ねえ。今失礼なこと考えなかったー?」
ゴモリが僕の目をじっと見る。顔が笑っているのに目がちっとも笑ってないのが逆に怖かった。
ゴモリの力が詳しくわかった所で、僕は仕事を探すことにした。精霊使いでも僕は正規の手続きで村を出た人と違って伝手がない。そんな僕にろくな仕事はあるとは思えないけれど、町では日雇いの仕事で食べている人が多いと聞く。
まだいくらかお金はあるけれど、町では一日過ごすだけでお金がいる。あまり無駄遣いはしたくない。とりあえず一日食べる分のお金を確保して、町にある浮浪者を収容する施設か馬小屋に泊まろう。
でもゴモリの能力が有効活用できる仕事でもあると良いんだけど…… そうすれば幾分いい仕事につけるかもしれない。
僕は色々と考えながら冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドというのは商人ギルドや職人ギルドと違って来るものは基本拒まず去るものは追わずの非常にオープンな組織で、肉体労働や皿洗いなどの簡単な仕事からティーア退治などの危険を伴う仕事まで色々と紹介してくれるらしい。
僕は簡素な看板が立てかけられたレンガ造りの建物に入る。
中にはいかにも日雇い労働者っていう感じの簡素な服に日焼けした体の精悍な男の人から、これから大型のティーアを狩ろうという感じのランスやクロスボウを携えて鎧に身を包んだ大柄な男性数人組もいた。
小柄な子供二人が入るのは場違いかと思ったけれど、みんな僕たちに一瞥くれただけでまた各自の話しに戻っていった。
よく見ると僕たち以外にも子供はいる。彼らは飲食店の皿洗いの仕事などを行なっているのだろうか、腕や顔の皮膚と比べて手がひどく荒れていた。
入ってすぐのところにある受付で登録を済ませた。これで滞在費はもう払わなくて済む。受け付けは事務の女性がカウンター越しに座って登録証を発行するだけで簡単に終わった。
こんなに簡単でいいのかと思ったけど、一番簡単なギルド登録証は日雇いクラスの仕事を斡旋するだけの許可証なので簡単らしく、ベテランのみが取得できる銀・金・白金クラスとなると強力な身分証明書を兼ねるので審査が何日がかりにもなって大変だそうだ。
「これが登録証? 意外と安っぽいねえ」
ゴモリが銅クラスの自分の登録証を光にかざしながら呟くと、事務のお姉さんが口元に手を当ててくすくすと笑った。見た目が子供だからほほえましく思っているのだろうけど、実際年齢を聞いたらどんな顔をするだろうか。
「その年で冒険者になるの? 偉いわね」
受付のフリーダというお姉さんがそう言うと、またゴモリはぷりぷりと怒りだす。
フリーダさんは眼鏡をかけた知的な雰囲気のする女性で、年齢は三十代前半くらいだろうか。
「私をバカにしたら罰が当たるよー。私精霊なんだから」
精霊と聞いたとたん、フリーダさんはゴモリの目を観察するかのようにしばらく凝視していたが、やがてフリーダさんは目を丸くした。
「本物の精霊のようですね……」
リンツから出た精霊使いのほとんどは大貴族に招かれて王都もしくはそれに近い大都会に行くのが普通だ。それゆえに精霊に人型がいてもおかしいと感じなかったらしいが、子供の冗談と思わなかったのだろうか?
「私これでも魔力を感知するのは得意ですので。あなたの体を覆っている魔力は普通の人間ではまず見られない類いのものです」
「そこまで知っているなんて…… もしかしてフリーダさんも精霊使いの一族ですか?」
精霊を召喚できなかった人は村を追い出される。僕が生まれてから追い出された人はいなかったらしいけど、このフリーダさんが三十歳くらいなら僕の前に追い出された人だって可能性がある。
精霊使いなら精霊と人間の魔力の違いくらい簡単にわかるはずだ。
だけどフリーダさんは感情を押し殺したような目でゆっくりと首を振った。
「いえ、私は曾お爺ちゃんが村を追い出された精霊使いというだけで…… そもそも精霊使いの血はすっかり薄まっていますから、もうこれくらいしかできません。私の子の代ではこの能力すら途絶えるでしょう」
精霊使いの力が少しずつ薄まっていくというのは、寂しいというか勿体ない気がした。そういえばリンツでは嫁入り婿養子の話は聞かず、村人同士で結婚する人が多かったけど、そのせいもあるのだろう。
「湿っぽい話しになってしまいましたね、でもこの町は村と違ってそんなに閉鎖的ではありませんし、村にはない娯楽もあります。そんなに悪いことばかりでもなかった、と曾お爺ちゃんは語っていました」
それが強がりなのか本心なのか、僕にはわからない。
それに世界には精霊を召喚する以外にも様々な魔力の使い方があると聞く。村では詳細は教えられなかったけれど、フリーダさんもそういった使い方ができるのかもしれない。
「それなら一つ頼みたいことが」




