宇宙に出たHuman
西暦2056年。世界は度重なる異種族との戦争で傷付きながらも、人類は復興と共に文明を発展させていった。
一方で、世界人口は100億に迫り、地球だけでは土地が足りないという重大な問題に直面した。
この状況に対し、人類は手にした文明をフルに活用して、月と火星を開拓したり、スペースコロニーをいくつも建設したりするなどして、少しずつ生活圏を拡大させていった。
そうして、地球外での生活も当たり前になり始めたこの時代。横須賀にあるとある大学のキャンパスでは、
「あれ? 機種変したの?」
「うん。昨日買ったんだ。いいでしょー? これでSNS投稿もソシャゲも捗るってもんよ」
「相変わらずだね、あんたも。調子に乗って炎上とか高額請求とかされても知らないよ?」
とか、
「ん? それ、新しいコロニーの移住希望者募集のサイトか?」
「あぁ。なんでも、リゾート仕様らしくってな。ビーチとかカジノとかまであるんだ」
「マジか! 行きてぇ」
とか、
「いっけね! まだレポート出してなかった!」
「レポートって、今朝、教授が言ってた、あの? 確か、『環境問題と害獣の関係性とその解決法について』ってやつ?」
「そう、それ。ったく、別に死ぬまで地球に住まなきゃならねぇってわけじゃねぇのに、解決法とか。教授の思想を学生に押し付けんなっての」
「つべこべ言ってるヒマがあったら、早く出してきなよ。単位がとれなきゃ、地球外に移住も何もないんだから」
といった、規模こそ宇宙クラスになったものの、他愛もない会話で溢れていた。
そんな学生達の声を側で耳にしながら、読書をしていた空色の長髪が特徴的な女性は、心の中で嘆息を漏らした。
(わかってはいたけど、人の意識ってそう簡単に変わらないものなのね)
彼女の名前は天神冴月。3年前から、この大学で環境学を学んでいる学生である。
ただ、彼女には普通の人とは少し違う点がある。それは――
(リーダーや私を撃ったあの人が、この世界の現状を見たら、どう思うんだろう?)
そう。彼女は24年前のあの時に撃たれて死んだ殺人犯。【殺人女神】の異名を持ち、テログループに所属していた過去を持つ女なのだ。
何故、自分が生きてるのかは、彼女にもわからない。
死んですぐ地獄に落ち、そこで咎人として、想像を絶するような罰を何年も受け続けてきたのに、3年前のある日、突然、無罪放免となったわけでもないのに、生前と変わらぬ姿のまま復活した。
誰が何のために? その答えを知りたい彼女は、思わぬ形で得た2度目の人生を歩みつつ、情報を集めていた。
とはいえこの3年間、手掛かりはまるで無し。生きてきた時代とのギャップや変化のない毎日に、冴月はもどかしさを感じていた。
「あ、いた。冴月ー!」
同じ学部の同期の友人である安達友子に呼ばれた冴月は、読んでいた本を閉じた。
「どうしたの?」
「ミスコンの実行委員が、当日のことで話があるってさ」
「当日って、え? ファイナリストに選ばれたの?」
「みたい。ま、あたしは選ばれると思ってたけどね」
悪意なく勝手にエントリーし、自分の手柄のように胸を張る友子に、冴月は頭を抱える。
「はぁ……私は『遠慮する』って言ったのに」
「いいじゃん。実際、冴月って美人だし、万が一ミスコンとれなくても、それはそれでいい思い出になるでしょ?」
「もう、他人事だと思って。わかった。とにかく行ってみる」
全く乗り気じゃないながらも、渋々了解した冴月は、綺麗に整備された中庭を抜けて、ミスコンの実行委員会がいるところへと向かった――――




