第一章4『どうして』
ーーイストス•ロンはジュリアス•レックスと一緒に戦いつつも、そんな彼の行動に疑念を抱いている。なぜ自分とは無関係の村のためにそこまで命をかけられるのかと。
ロンならば無理だ。自分こと、それか身内のことなら話は別だが、出会って間もない男にそこまですることはできない。
「ほんとすごいよな、お前」
「ん? なんか言ったか?」
それでも、隣でレックスが戦っている。他人事のはずなのに、それでも命をかけて立ち向かう少年が、今隣にいるのだ。それを前に、どうしてロンに怖気付くことができる?
「ただの、ちっぽけな独り言だ」
「「「ニンゲン。ワレラニアダナスソンザイ。ハイジョスル!」」」
「物騒だなぁー。そんなに人間が嫌いなのか?」
レックスが驚く通り、その光景は確かに異様なものだった。
全てのゾンビが口を揃え、同じタイミングで同じことを言う。ーーそれも、人間への憎悪のこもった言葉を、何かに取り付かれたかのように。無論、それが怖気付く理由には到底ならないが。
剣を振り翳そうとこちらに走ってくるゾンビを前に、レックスとロンは攻撃の構えを取る。
「邪魔だ! 火拳!」
「はぁぁっ!!」
おおよそ十の迫り来るゾンビを、雷と炎の一撃が葬った。しかし不思議なことに、それらのゾンビは攻撃をくらうと共にその場に倒れ伏し、その後白い灰となって消えていった。
ウルファーを倒した時、確かにその死体は残った。ケルベロスを倒した時でさえ、だ。だが今回はどうだ。モンスターが死んで灰になるなど聞いたことがない。ロンが知らないゾンビ特有の最期なのか、それとも何か別のーー、
「ロン! 来るぞ!」
「ーー! 仲間が死んでもお構いなしかよ」
「「「ニンゲン。ワレラニアダナスソンザイ。ハイジョスル!!」」」
なぜだ? さっきまで同じ時間を共に過ごしていた仲間が死んだというのに、そのゾンビたちは少しも狼狽えていない。それどころか、先よりもその勢いが増している気がする。
「ったく、分からないもんだな。モンスターってのは!」
「雷閃!!」
前方に迫っていた数多くのゾンビは、拳から放たれた炎と、見えない速度で移動し相手を斬った雷の閃光に焼かれ灰となった。
ゾンビからは狂気こそ感じるものの、やはり個としては思ってるよりも強くなさそうだ。
と、そんなことを考えていると、一斉に放たれた無数の矢がロンたちの前で空を舞っていたのに気づいた。
「って、今度は矢かよ。そういえば弓を持ってる奴もいたな」
「ロン、どうする?」
「大丈夫だ。オレに任せろ」
そう言い全身に巡る炎魔力を両手に集中させ、それから迫る無数の矢に両手を広げ、
「焔!」
その詠唱と共にロンの手からは爆炎が放たれ、それは迫り来る全ての矢を焼き尽くした。
「す、すげぇ!! ロン、お前魔法使えたのか!」
「まあ、炎系のやつだけだけどな。よし、先を急ぐぞ」
「おう!」
そう言い残し、レックスはまたもや雷魔力を用いた高速移動で敵のもとに突撃していった。正直、最初からそれをすればあの矢を避けられた気もするが……。
「細かいこと気にしてたらだめだよな」
ロンも先を急いだ。
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「これで終わりだ!」
「ニンゲン。ワレラ、ニアダナスソンザイ。ハイジョ、ス、ル……ッ」
レックスは最後のゾンビを斬り、ようやくこの洞窟のゾンビを全て倒すことができた。
思えば長かったような、短かったような。夢中だったから、そこら辺はよく分からない。
「やったな。ロン! ……ロン?」
「ーーおかしい。やけに呆気なさすぎる。それに、例の親玉候補二人はどこに……っ! レックス後ろだ!!」
「っ!」
そう言われ瞬時に後ろに振り返り、迫り来るであろう何かに向けて剣を振り翳した。だがーー、
「ーーこう見えて、オレも結構悩んでるんだ。ニンゲンを殺すべきか、それ以外の方法を取るべきか」
ーー確かに振り翳したレックスの剣は、それを拒絶する鋼によって堰き止められていた。
「とりあえず、仲間を殺したツケは払ってもらうぞ」
鋼と鋼が打ちつけ合う音が響く中、青い瞳でレックスを睨みつける男は、殺意のこもった声でそう言ったのだった。
右手には今まさにレックスの剣を防いでいる刀。そしてなんといっても、他とは違う青い瞳。それだけで、このゾンビが他の個体とは違う何かであることが察せられた。
そういえば、確かロンが刀を持ったゾンビについて何か言っていたようなーー、
「レックス! そいつから離れろ!」
「っ!」
もう全てが遅い。レックスはそう悟った。
明確な殺意を突きつけられ、体中を上から重い何かで押し付けられたような感覚がレックスの背筋を伝う。
レックスには雷足が使える。そうすれば、この場から一時的に離れられる。
だがそれをしても、だ。後にこの相手と戦わなければならない。だったら、この後は一体どうすればいいのだ?
「レックス!!」
だめだ。余計なことばかり頭に浮かんで、行動がうまく脳から体全体に伝えられない。まるで、脳と体とを繋ぐ神経回路が断たれてしまったかのようにーー、
「終わりだ」
「レックス!!」
「動けぇぇぇぇーーー!!」
剣士ゾンビはレックスの剣を弾き退け、一切乱れることなく横からその刃をレックスに振り翳す。本能が、この攻撃を受けてはいけないと必死に警告していた。
脳と体とを繋ぐ神経回路を無理やり繋げ直し、なんとかして雷足を使い後ろに飛び、その一撃を躱わすことができた。だが上手く着地できず、レックスはその場に倒れてしまった。
「外したか。だが次はーー」
「火拳!!」
「っ!」
満身創痍のレックスを守るかのように、剣を振るって隙が生まれた剣士ゾンビの懐にロンは潜り込み、その腹に思いっきり炎の拳をくらわせた。それが効いたのか、剣士ゾンビは大きく後ろによろけ、下がった。
「せめて、名前ぐらい名乗ってくれないと、オレもやりにくいぜ? なあ、親玉候補」
「親玉候補、か。だが、確かに名前ぐらいは名乗っておいて損はなさそうだ」
ロンの言うことを肯定した剣士ゾンビはそのまま名前を名乗るのかーーそんなことはなかった。
明らかに刀を先よりも強く握りしめ、地面を蹴っていつでも飛び斬りができる体勢になっていた。その様子を見て、ロンは再び拳を構えーー、
「ーーオレの名前はゾルト•チーフ。ゾンビを指揮する副指揮官だ」
「っ! いつの間に!」
その瞬間、ロンに殴られたのをやり返すかの如く、ロンの懐に潜り込んだ刃はその刀身をーー。
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確かにいつ来ても問題ないよう構えていた。目も逸らしていなかった。その動き一つ一つ地に注意を向けていた。そのはずだった。なのにーー、
「っ! いつの間に!」
なぜか。目の前にいる剣士ゾンビーーゾルト•チーフは既にそこにいた。何かの魔法か、それとも単純な本人の技量か。どちらにせよまずい。このままでは間に合わないーー、
「雷閃!!」
「チッ」
あと刹那で刃がロンを切り裂いていたというところで、差し掛かった雷の一閃がそれを寸前というところで食い止めていた。それでチーフを殺せていたならば良かったが、どうやら現実はそう甘くはないようだ。
チーフは接近したレックスに瞬時に反応し思考。レックスの剣を止めるのが優先と判断し、その攻撃を正確に剣で防いでいた。
「多勢に無勢。やはり二対一は不利か」
チーフのやけにあっさりとした結論を出したことに、ロンは混乱する。おそらくレックスも同じだ。
突如として発した弱気とも取れるその発言は、先までのチーフからは考えられないものだったからだ。冷静な判断をしたにしても、キッパリとしすぎだ。
「よく分かんねぇけど、ロン。俺が抑えてる間にやっちまえ!」
「おうよ! 火拳!」
放った拳は、これまでが嘘かのように容易くチーフの体を貫き、チーフの体は灰となって消え去った。
勝った。勝ったのだ。副指揮官とはいえ、勝利は勝利だ。ーーだがロンの中では、勝利への喜びよりも違和感が勝った。今後何かあるのではと思わせてくる何かだ。不安、とも言うだろう。
それを言うならば、今倒したゾンビ全てに共通して言えることだ。ーーまるで命はなくなっても再生するものだと思ってるような言動をしていた。
「やったな! ロン」
「ーーそ、そうだな……」
疑念は残るし、まだ勝利を手放しに喜ぶことはできない。だが、それでも今は次のことに目を向けるべきだ。ーー例えこの後どんなことが起きようと、それはその時に解決すべきことだ。
浮かない顔をしつつも、ロンはレックスとハイタッチを交わした。
「後は指揮官ーー巨体のゾンビだけだな」
「そうだな。しっかしどこにいるんだ? 見た限りどこにもいねぇぞ?」
「それはそうだな。全く見当たらない」
まさかボスが仲間の死を目の前に背中を向けて一人逃げ出したとは考えにくい。無論、モンスターならその可能性も十分に考えられるが。
「まぁ、どっちみち他のゾンビは全部倒したんだ。親玉一人残ったところで何にもできねぇんじゃねぇか?」
「ーーそれも、そうか……」
もしかするとレックスの言うとおりかもしれない。
親玉一人の強さがどれほどのものかは分からないが、どっちみち雑兵ゾンビがいなければ大胆なことはできまい。姿を表せば、その時に倒せば良い。
「とりあえず、親玉を残したゾンビは全員倒した。今日は村に帰ろう」
「そうだな」
ロンの提案にレックスは快く頷き、とりたえず初陣では勝利を収めた二人はその場を後にした。
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「いやー、それにしても案外楽勝だったな」
「いや、時々レックスも危なかったぞ? オレもだけどよ」
長い長い階段を上り、レックスとロンはようやく地上へと戻った。空はまだ暗く、星星が輝きを放っている。綺麗な星空だ。
「そんじゃあ、帰るか」
「ーーなんだ? この焦げ臭い匂い」
確かに、ロンの鼻にはその匂いが感じられた。この嗅ぎ覚えのある匂いーー炎だ。炎が何かを焼いている時に出る独特の匂いだ。でもどうしてーー、
「ーーまさか……!」
ロンの脳裏を、ふと最悪の結末が脳裏を過った。嘘だ。やめてくれ……。
「……み、みんな!!」
「ロン!」
嘘だ。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……!!」
嘘だ。
「みんな、みんな、みんな、みんな……!」
確かにゾンビは倒した。なのにどうして。親玉一人がこれをしたというのか。ロンの中を、無数の『どうして』が漂う。
「ーーぁ?」
「ロン! やっと追いついーーは?」
嫌だ。目の前に広がる光景を信じたくない。ーーロンが愛するシェイク村。それが、火の手に襲われているなんて。それも、倒したはずの大量のゾンビ共によって。
「噓だぁぁぁあああーーー!!!」
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして……。
「ーー遅かったではないか、ニンゲン。ワレは待ちくたびれたぞ」
「ロン!!」
「ーーあ、ぁぁ」
少年は見た。この手で葬ったはずのゾンビが、今目の前で自分の故郷を焼き尽くしているのを。
「さあ、次はワレと戦ってもらおう。丁度退屈していたのだ」
守れなかったという無念と絶望と後悔が少年の精神をビリビリに破き、その心はズタボロに破れる。先まで喜んでいた勝利がまがかりそめのものだと知る。
最悪の結末ーーバッドエンドだ。
こういうのが書きたかったんだよぉぉぉぉ!!




