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フィッツインプロミス  作者: えれべ
第一章『激動の大森林』

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第一章3『頼み事』

 ーー空から炎が落ちてきたのかと、レックスは始め自分の目を疑った。疑った通り、それは炎ではなかった。一人の少年だ。


「す、すげぇ」


「ん? 誰だ、お前」


 そうして二つ目の頭を潰した少年は、空中から地へと降り立った。そして、レックスの姿を見るやそう聞いた。

 炎のように赤い短髪と、燃え盛るような瞳。両手には黒いグローブをつけていて、拳を用いて戦うナックラーなのだと予想できる。

 レックスはようやく剣をひっこ抜き、ケルベロスから距離を取ることができた。


「ロンだ。ロンが来た!」


「俺はレックス。ジュリアス•レックスだ。シェイク村に用があって、この森に立ち寄ってたんだ」


「なるほどな。オレは、イストス•ロン。シェイク村の番人だ」


「へぇー、番人か。そりゃ、かっこいいな!」


 そう言われたロンは少し鼻を鳴らし、それから拳を鳴らし、  


「詳しい話はまた後にしようぜ。今は、このケルベロスを倒すのが先だ」


「おう!」


 残る首は一つ。対してこちらには新戦力がもう一人。レックスは負ける気がしなかった。


「オレは右から行く。レックスは、左から行って、ケルベロスを叩いてくれ」


「分かった。任せろ!」


 レックスとロンは目を合わせて互いに頷くと、それぞれの方向に向かって走り出した。

 左右バラバラに分散され、頭が一つしかないケルベロスは混乱した。なにせ今までであれば別の頭でそこを攻めれば良かったのを、今は一つの頭で対処しなければいけないのだから。


「くらえ、魔獣! 火拳(ファイヤーパンチ)!!」


 右へ旋回したロンは、そこからケルベロスの黒い巨体を力いっぱい殴った。ーーそれもただの拳ではなく、炎を纏った拳で。

 先も炎を纏った拳を用いていたが、これを見るにロンは炎の魔力を使うナックラーというわけなのだろう。


「俺も負けてられねぇな。ーー雷剣(らいけん)!」


 ロンに負けていられないと、レックスも雷魔力を発動する。

 雷魔力を纏った手で剣の刃を握り、鉄剣に電気を帯電させる。そうすることにより、斬る度に相手を感電させられる剣の完成というわけだ。


「はぁぁっ!!」


 そうして雷を纏ったレックスの鉄剣が、ケルベロスの巨体に突き刺さり、ケルベロスは体の内側から強烈な電気の刺激を受け、体中が麻痺した。今ならやれる。

 レックスがこの剣をケルベロスから抜くとか、または剣に纏った魔力が底を尽きればケルベロスの麻痺は解かれ、再び動き出すことになる。だからレックスはこの場を離れられない。だから、


「ロン、今ならいける。やってくれ!!」


「ーー任せろ!」


 レックスから大声で頼まれたロンは、それを聞くや全速力で駆け、あっという間にケルベロスの正面へ。それから地面を大きく蹴り上げ、


火拳(ファイヤーパンチ)!!」


 ケルベロスの顎下から、炎の拳がケルベロスの最後の頭を殴り、苦しむ間も与えず穿った。

 三つの頭を失ったケルベロスは体を支える力もなくなり四肢の力が抜け、その場に崩れ落ちた。


「やったな! ロン」


「おうよ!」


 倒れ伏したケルベロスを前に、レックスとロンは笑顔でハイタッチをかました。 


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 レックスとこの男ーーブモンは、ブモンが襲われていたところをレックスが助け出したこと、そしてケルベロスに立ち向かったその経緯を全て話した。

 ブモンの話によると、どうやら彼はシェイク村でキノコ売りの商売をしているらしく、この森にキノコを採りに来ていたというのだ。危険なのであまり奥に入るつもりはなかったのだが、夢中になっているうちに気がつけば危険な森の奥というわけだ。まったく、不用心にも程があるものである。


「なるほど、そういうことだったのか。それにしてもブモン、お前すごい目に遭ったんだな」


「本当だ! 助けてくれたことにはとても感謝しているが、その後でケルベロスを倒すって言い出すんだぞ! しかも一人で!」


「まーいいじゃねぇか。最終的には勝てたんだし」


 ブモンは少し呆れたような表情をし、そしてため息をついた。


「まあ状況は理解した。レックス、お前をシェイク村に連れて行ってやる」


「お! ありがとうーー」


 そうレックスがはしゃぐのも束の間。そんなレックスに対して、ロンは手を出し「その代わり」と言い、


「一つ頼みたいことがある」


「頼み事か? いいぜ。なんでも言ってくれ」


「ーーまあ、詳しい話は村についてからだ。まずはありがとよ、レックス」


 ロンのお願い。当然レックスには全く見当がつかないが、まぁ村に着いたらわかるだろう。

 今考えるのはやめておいた。


 そうしてレックスはロンとブモンにシェイク村への案内を受け、歩くこと数分。木々で囲まれた森を抜け、レックスはシェイク村に辿り着いた。

 アフェル武力国家からアジャ王国に着いてから、最初の村ーー人が住む地、と言ってもいいだろう。レックスはここに来てからずっと森を彷徨っていたのだから。軽く五日ほどだろうか。


 見渡してみると、辺りには木造の家屋がずらりと並んでおり、村の真ん中にはちょっとした噴水があった。場所は違えど、どの家屋もその噴水に正面を向いており、なんというか不思議な感じだった。


「おぉーー!! ここがシェイク村かぁ。アジャ王国に来てからの最初の村だ!」


「ん、レックスはアジャ王国出身じゃないのか?」


「あぁ。俺の出身はアフェル武力国家なんだ。少しの間家族でアジャ王国を旅して、そんで色々あって一回戻って。で、もう一度ここに来たって感じだな」


「なるほどな」


 ロンは腑に落ちたようにそう言った。

 そうして話していると、横にいたブモンは急に駆け出してレックスとロンの前で立ち止まり、


「レックス、ロン。色々合ったが本当に助かった。ありがとう。このお礼はいつか必ず」


 そう言って頭を下げて感謝の言葉を述べた。別に大したことはしていないのだが……。何なら、レックスの思いつきでケルベロスとの戦闘に巻き込んでしまったぐらいだというのに。

 だが彼がそう思っているのなら、レックスもそれに応えるべきだ。


「おう! また会おうぜ!」


「今度は気をつけろよ、ブモン」


 そうしてブモンは村の奥へと向かって姿を消した。おそらく、自分の店か家に帰ったのだろう。


「ーーそれじゃあレックス、着いてきてくれ。村長の所へ案内する」


「おう、分かった」


 そうしてレックスはロンの案内の元、再びシェイク村を歩き出した。

 歩きながらもレックスは、シェイク村についての情報を集めてみることにした。無論、目視できる範囲に限られるが。

 見た感じだと村人は普通に多く、産業も発展してそうだ。この立地だと、林業などが盛んそうだがどうなのだろう。


「着いたぞ。ここがシェイク村の村長ーーフォーレ•アイゼンさんの家だ」


 そう声をかけられ前を見ると、そこには他とは少し大きさが違う、大きな木造の家があった。違うといっても、他に比べて一回り大きいだけだが。だが確かにここなら、村長の家だと言われても驚きはしない。


「へぇー、ここが村長の家か」


「ここで少し待っててくれ」


 そう言われ、家の中へと入って行ったロンをレックスはしばらく待っていることにした。

 何もせずずっと同じ場所で待っているというのはとても退屈なことだが、ここで待てと言われたら少しぐらいは楽しみながら待てそうだーー、


「よし、レックス。来てくれ」


「思ってたよりも早かったな……」


 珍しく憂鬱でないと感じれそうだったレックスの待機時間は、今回はお預けだそうだ。


 扉を開け中に入ると、そこは中も木造の床と壁で構築された広い家だった。外から見て大きかったので広い家なのは予想してたが、いざ中に入るとやはり違うものだ。

 何やら本がびっしりと詰まった本棚や、大きな机。どうやら書斎のようだ。

 そしてその大きな机の前に座り、こちらを見る人影が、レックスとロン以外にもう一つあった。


「初めまして、レックス。私はこの村の村長、フォーレ•アイゼンじゃ。よろしく頼むぞ」


 その老人は椅子から立ち上がり、杖をつきながらレックスとロンの元へ歩み寄る。そして優しく右手を出して握手を求めてきた。その上品な態度にレックスは感心し、もちろん握手を交わした。


「俺はレックス。ジュリアス•レックスだ。よろしく!」


 そうして互いの名乗り合いも終わり、三人は書斎にある会議卓の周りに置かれた椅子に、そっと腰を下ろした。

 

「それじゃあレックス。早速だが聞いてほしい。この村が今抱えてる問題について」


「おう」


 先までの明るい空気は消え、ロンは不穏な空気を漂わせながら言葉を綴り始めた。その表情から見て、相当深刻な話なのだろう。


「レックスも知ってると思うが、この村はシェイク大森林に囲まれてる」


「あぁ、知ってるぜ。魔獣がいっぱいいて、結構危ねぇよな。もしかして、それの駆除とかか?」


「いや、そういうことじゃない。本題は、この大森林に潜んでるモンスター、ゾンビについてだ」


「ゾンビ?」


 ゾンビ。その名前ぐらいなら、レックスも聞いたことがある。確か体中が腐ってて、人間を見ると襲いかかってくる人型モンスターだったはずだ。群れで生活しているとも聞いているが、それが今回の話に関係してくるのだろうか。

 話の続きを聞くべく、レックスは二人に耳を傾けた。


「そうじゃ。ゾンビ自体は昔からいて、それほど大きな問題じゃなかったんじゃよ。ーーじゃが、最近になってそのゾンビの行動が凶暴になってきてるんじゃよ」


「凶暴に? なんで?」


「理由は分からん。じゃが、このままじゃ村が危ないってのは確かじゃ」


「そこで、レックスにはオレと一緒にゾンビ退治に協力してほしい。勿論、無理にとは言わないけどな」


 話は分かった。つまり、昔からシェイク大森林にいたゾンビが凶暴になって、この村が危ないということだ。この村の規模を見るに、モンスターの群れに襲われたらひとたまりもないのは何となく予想がつく。ロンも強いが、一人では厳しいのだろう。


「そういうことなら分かった。手伝うぜ」


「いいのか? まだ話を聞いたばかりじゃぞ?」


「もう少し考えてくれてもいいんだぜ?」


「いや、もう決めた。俺はロンと戦って、この村を助ける。それに、俺が悩んでる間も、ゾンビの危険は消えねぇんだ。だったら、今決めて今やる方がいいだろ」


 話を聞いた。聞かせてくれた。ならば、それに全力で応えるのが当然のことだろう。レックスは即断し、ロンとアイゼンに力を注ぐことにした。


「約束しようぜ、ロン。必ず俺たちでこの村を救うって」


「ありがとう、レックス。ーー分かった。オレたちで、村を脅かすゾンビをぶっ飛ばす。約束だ」


「レックス、そしてロン。本当にありがとう。この村を、どうか頼んじゃぞ」


 三人は会議卓の上で、強い決意を胸にグータッチを交わした。ーー約束を果たすために。


「作戦の決行は今夜だ。ゾンビが夜にどれだけ動けるかは分からないが、とりあえず奇襲にはなるだろう」


「そうだな。っで、場所は分かってるのか?」


「ああ。場所は、シェイク大森林の北側ーーゾンビが巣穴にしてる洞窟だ。この前、そこに大勢のゾンビがいるのを確認した」


「なるほどな。っで、親玉とかはいるのか?」


「確証はない。けど、候補なら見つけてある。一人は巨大な体を持ったゾンビ。もう一人が、腰に刀を携えている剣士ゾンビだ。おそらく、こいつらのどちらかがゾンビの親玉だ」


 ーーこのロンという男。あまりにも事前準備が整いすぎている。それくらい、この村を救いたいという意思が強いのだろう。

 だがやはり親玉がいるのだ。ゾンビの統率力も高いことだろう。社会性も、もしかすると人間並みにあるのかもしれない。そういう情報に乏しいレックスには、予想もできぬことだが。


「まぁ、行ってからじゃねぇと分からねぇよな。とりあえず、今日の夜頑張ろうぜ!」

 

 そのレックスの発言が正しいのか間違いなのか。それはレックスには判断しかねることだ。

 だがそう言われたロンの表情も硬いものではなく、「それもそうだな」と言ってレックスに同調した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 そうして迎えた、ゾンビ討伐作戦の今夜。レックスとロンは村の北門に集い、戦いに向け軽く体を動かしていた。


「ロン、調子はどうだ?」


「悪くはないな。むしろ絶好調だ」


「そっか。ならいいや」


 体を動かすこと軽く数分。レックスとロンの体は温まり、戦いへの準備が整った。

 二人は互いに目を合わせ、頷く。


「行くぞ、ロン!」


「おうよ。オレたちの力、見せてやろうぜ!」


 そうしてレックスとロンは、明るい村から月光が照らし出す暗闇の森へと足を踏み入れた。

 普段、夜にこの森へ入ることは自殺行為に等しい。なにせ魔獣の動きが特に活発なのは朝や昼ではなく夜なのだから。レックスも何日かの夜を森で過ごしたが、相当な数を相手にしなければいけなかった。


 つまり言いたいことは、敵はゾンビだけではないということだ。魔獣のことも忘れてはならない。


「って、早速出てきたな」


「ウルファーか。さっさと蹴散らすぞ!」


 取り囲んできた狼の魔獣ーーロン曰くウルファーという名の魔獣の数は五匹。この数なら問題ない。なにせ今はレックス一人ではないのだから。


「はぁぁっ!!」


火拳(ファイヤーパンチ)!」


 レックスによる剣の一振りとロンによる炎の拳が五匹のウルファーに炸裂し、二人を取り囲んでいた魔獣はその場に為す術なく倒れた。


「よし、行くぞ!」


「おう!」


 本当に小さな本音を言えば、今倒した魔獣も食料としては最高なのだ。だから食べたいーー少なくとも、今はやめておこう。それに、そういうことならゾンビを倒した後にだってできる。

 レックスはすぐに自分を納得させ、ロンと共に先を急いだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ーー着いた。ここだ」 


「ここが……」


 そう言われ、ロンが指差す方向に目を向ける。そこにあったのは、木々や蔦によって部分的には隠されつつも、その大きな穴の存在感だけは隠しきれていないような、そんな洞窟だった。

 この洞窟の奥にゾンビがいる。そう思うと、少し緊張してきた。


「レックス、準備はいいか?」


「ーー。おう!」


 レックスは剣を抜き、ロンと共に暗闇の洞窟へと突き進んだ。

 中に入るとそこには下へと通ずる長い階段が続いており、レックスたちはそこを下った。


 そうして少し下っていると、下にうっすらと灯りが見えた。おそらく、そこにゾンビの巣窟があるのだろう。


「あれだ、レックス。準備はいいか?」


「おう! いつでも行けるぜ!」


「よし、行くぞ!」


 レックスは階段を飛び降り、その洞窟の全貌を目にする。ーー圧巻。その二文字がレックスの脳裏を最初に横切った。

 それは噂通りゾンビの見た目が腐ったような緑色の肌だったことに対してでもなく、その数がざっと五十ほどだということに対してでもない。

 洞窟内は松明で満遍なく照らされ、色々な場所で剣やら弓やらを持ったゾンビたちがそれぞれ焚き火を中心に集まっている。


 レックスの驚愕、それはモンスターであるゾンビだけで生み出した住処に対してだ。間違いなく、発展途中の人間よりも栄えているだろう。モンスターだと鷹を括っていた自分が恥ずかしくなるぐらいだ。


「これが、ゾンビ……」


「驚いただろ。オレも、初めて見た時は驚いた。まさかモンスターにこれほどのことができるなんてってな」


 レックスとロンの話声が響いたのか。洞窟内にいた全てのゾンビたちは、一斉にこちらを血のような赤の瞳で睨みつけた。そして次の瞬間、血肉に飢えた獣のような咆哮を上げ一斉に立ち上がり、レックスたちに襲いかかってきた。


「くるぞ!」


「おう! やってやろうぜ!」


 ーーニンゲンとゾンビの戦いが、幕を開けた。

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