第一章2『冒険の始まり』
いよいよ、フィッツインプロミスの冒険が幕を開けます!
ーー目が覚めると、視界には絵に描いたような快晴の青空が広がっていた。
「う、あぁ……よく寝た」
そもそもどうしてレックスは、快適な宿屋にあるようなベッドではなく、この見るからに危険そうな大森林で目を覚ましたのか。
全てを話すと長くなりそうなので手短にまとめると、東にあるアフェル武力国家にいたレックスは魔王を倒すための仲間を集めるために国境を跨ぎ、ここアジャ王国の東端にあるシェイク大森林へと辿り着いた。ざっくり話すとこんな感じだ。
今思えば、こんな危険な大森林で無防備にも眠っていたレックスは馬鹿としか言いようがないし、そう言われても言い返せない。
ーーなにせ起床と同時に、レックスの目の前には三匹の黒い狼のような魔獣たちが、青い短髪、瞳を持った少年ーーレックスを瞳に映し、お腹を唸らせて立ちはだかっていたのだから。
「やっぱり、お前らも朝ごはんの時間だよな。俺もだ!」
丁度いい。レックスの茶色のリュックに入っていた食料は空っぽ。ちょうど朝ご飯に困っていたのだ。まさか自分から朝ご飯がやってくるとは思ってもいなかった。
やる気に駆られたレックスは立ち上がり、寝て少しだけ凝った肩や腰を回す。
「勝負しようぜ。どっちが朝ごはんを食べられるか」
レックスは腰に差している鞘に仕舞われた剣の柄に触れ、こちらを睨む猛獣を挑発する。挑発を受けた三匹の猛獣はそれに乗ったかのように咆哮を上げた。
「おっと。はっ!」
一匹の魔獣が飛びかかってくるとレックスはそれに即座に反応し、そっと横に避けた。それから鞘に仕舞っていた鉄剣を抜き、その魔獣を両断した。
それを見た残りの魔獣は少し身構えし、唸り声を上げながらレックスを睨みつけた。
「ーー来ねぇのか。だったら今度は俺から行くぜ!」
そう言ってレックスは、魔獣の一匹に斬りかかる。しかしあまりに単純なレックスの攻撃は躱され、逆に魔獣は噛みつこうと飛びかかってきた。だがーー、
「これでもくらえ!」
そんな魔獣に、レックスは思いっきり蹴りを入れ、魔獣を吹き飛ばした。
そしてそこから、後ろにいたもう一匹の魔獣の方へ振り返ると同時に、剣の一振りを浴びせて倒した。
そして、さっき蹴られて吹っ飛ばされた魔獣は、その様子を見るやいなや背中を向けて逃げ出してしまった。
「ーー! させるかっ!」
しかし、レックスには食料がかかっている。せっかくの獲物をみすみす逃してしまうなど、レックスにはできなかった。
距離的にここから剣は届かない。ーーならば、いっそのこと投げてしまおう。
レックスは狙いを定め、右手に握る鉄剣を逃げる魔獣の背中に向けて思いっきり投げた。それは命中し、目覚めと共にレックスを食べようとした魔獣は、全てレックスの食料となった。
「朝の運動にしては上出来だったんじゃねぇか?」
レックスは満足しながらそう呟き、仕留めた魔獣の死体を一箇所に集めた。そして持ち前の火打石とそこら辺に落ちていた木の枝を使って火を起こし、あっという間に魔獣肉を調理する準備が整った。
流石に食べられない部位もあるので、そこは剣で切り落とす。だがそうやって可食部だけを残していっても、一匹で一食分。三匹で三食分の食料となるので、この森にいれば食料に困ることはない。少なくとも、レックスにとっては。
「よし、そろそろいけるだろ。いただきまーす!」
焚き火で直接焼いた骨付き肉の中で、焼き具合が良さそうなものから手に取り、食べた。
多くの人は知らないが、魔獣の肉もきちんと加熱して可食部だけを残していけば、普通の動物肉と同じぐらいの美味しさで食べることができる。レックスがアフェル武力国家にいた際、知り合いから第一に教わった生存術の一つだ。
「なんでこんなに美味ぇのに、食べてる人は少ねぇんだろ。いつかこの旅が終わったら、『魔獣肉の美味しい食べ方』を、世界中に広めるための旅でもしてみてぇな」
そんなことを考えながら、レックスは魔獣一匹分の肉を完食し、火事にならないように焚き火の火を消した。流石に木々に燃え移ることはないだろうが、念には念を入れてだーー、
「誰かーー! 助けてくれーー!!」
「ん? この声……向こうからだ」
自分以外の人間の声を聞いたのは何日ぶりのことだろう。しかし、それがまさか悲鳴になろうとは。流石のレックスも予想だにしなかったことである。
声の大きさからしてかなり危険な状況なのだろう。一刻も早く助けてやらねばならないと思ったレックスは、急いで木のそばに置いていたリュックを拾い上げて背負い、剣を鞘から抜いて悲鳴のした方向へと走った。
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少し走ると森のひらけた場所に出て、木の枝を握った悲鳴の主らしき男ーーそれを前方から睨む五匹の魔獣の姿を発見した。森を歩いていると、魔獣に遭遇した。おそらくそんなところなだろう。
それにしても、この魔獣だらけの森を進むのなら、剣や魔法の杖やらの武器を一つでも持っていて欲しいものなのだが、どうしてこの男は木の棒だけの無防備な装備でこんなところを彷徨いていたのだ? ーーいや、この森でぐっすりと眠っていたレックスも、十分負けていないだろうが……。
「ま、魔獣が! く、来るなぁぁ!!」
「まぁ、それは後で聞くとして、今は助ける!」
そうして魔獣の一匹が、男の木の枝による牽制を無視して飛びかかる。それに動揺し、男はその場で後ろに転んでしまった。
「はぁぁぁ!!」
だが、魔獣の牙が男に噛み付くよりも先に、駆けて突き技をしたレックスの剣がその魔獣の頭を勢いよく貫いた。
「き、君は? ってそうじゃなくて、ありがとう! 助かったーーって後ろ!」
男の警告。それに即座に反応したレックスは魔獣の頭から剣を抜き、後ろから飛びかかってきた魔獣の頭を切り裂いた。
それに怒ったのか。それとも今なら森の脅威を排除できると思ったのか。残りの三匹が一斉に多方向からレックスへ向かって飛びかかる。ーー見えている。
「これで終わりだ!」
その叫びと共に繰り出されたレックスの回転斬りは、多方向から襲いかかる魔獣の頭をを全て切り裂いた。
これでこの男を襲っていた魔獣は全て倒した。レックスは血振るいをして剣についた血汚れを振り落とし、鞘に収めた。
「お前、大丈夫か?」
レックスが恐怖で立ち上がれなくなった男に手を差し伸べると、男は「あ、あぁ」と言葉にならない声で返事をしてその手を取り、立ち上がった。
「本当に助かったよ、ありがとう! それにしても、まさかこの森に、ロンと同じぐらい強い少年がいたとは。ーーそうだ、何か礼がしたい。なんでもいいから言ってくれないか?」
「お礼か……そんじゃあ、この近くにある村に案内してくれ!」
「村、それってシェイク村のことか?」
「おう! そうだ。ちょうどそこの場所が分かんなくて困ってたところなんだ」
レックスがこの危険なシェイク大森林をわざわざ通るのには訳がある。ーーそれが、今言ったシェイク村だ。レックスは、その村に用がある。
簡単に言うと、武器の調達である。レックスが今使っている鉄剣も、随分と年季が入っており、いつ壊れてもおかしくない状況なのだ。
そんな時ちょうど、シェイク村が武器鍛冶に優れていると聞いたので、ならば冒険のついでに立ち寄ってみようというわけだ。
「そんなことでいいなら、任せてくれ。なにせ、シェイク村は私の住んでいる村なのだから」
「ほんとか! ありがとう! そんじゃあ早速案内を頼むーー」
そうレックスが言いかけてやめたのには理由があった。感じたのだ。不吉な予感を。
「ーー来る!」
「えっ、何が来るんだ?」
「分からねぇ。けど、間違いなく強敵だ。下がってろ!」
「強敵……まさかケルベロスか!?」
その男が言ったケルベロスという名前。その存在ぐらいならレックスも知っている。確か、頭が三つある巨大な犬のような魔獣だったはず。実際に見たことはない。
「ケルベロス……そんなやつが森にいるのか」
「あぁ。この森にいる魔獣の親玉だ」
「へぇー、そりゃいいな。つまり、そいつを倒したら、しばらくは食料に困らねぇってことだろ」
「ーーは?」
強敵相手には腕がなるというものだ。レックスは再び鞘から剣を抜き、どこから来るかも分からない敵に向けて構えた。
ここは少しひらけた場所だが、それでも辺りは木々と茂みに囲まれている。だから、多少近づかれても、物音さえ立てなければレックスは気付けない。無論、そんな魔獣が物音一つ出さずに接近するのは不可能だろうが。
「ーー! そこか!」
案の定右の方から音がし、レックスは右に振り向き、そして剣を再び構え直す。
しばらくの間緊張と沈黙が辺りを包み込んだかと思うと、突如としてそれは姿を現した。そしてレックスたちの姿を見ると、その大きな口で森中に響き渡る咆哮を上げた。
その姿は、レックスが聞いていた話と大きく酷似していた。
あの狼のような魔獣の頭が三つ、そして全てを切り裂くような鋭い爪。そして竜のように長い尾。その存在感は、この危険な森に似合っていた。そして、更にその存在感を引き立てるのが、
「思ってたよりもでけぇな……」
その大きさ、先レックスが戦った狼のような魔獣の三倍ほど。頭一つでレックスのことを丸呑みにできそうな大きさだ。
「け、ケルベロスだぁぁ!! ーーお、おい! 今すぐ逃げるぞ!」
「いや、逃げねぇ。ここで仕留める!」
「何言ってるんだ! 相手はあのケルベロスだぞ! 勝てるはずがないだろ!」
男がそう言いってレックスの服の裾を引っ張るのも、少し分かる。確かにこの魔獣はやばい。そこら辺を彷徨く魔獣とは格が違う。だがーー、
「いや、勝てる! 絶対に」
「は、はぁ?」
「それにーー」
呆れて声も出なくなった男に、レックスは振り返って、
「ここで逃げちまったら、俺は約束を果たせなくなる。なんか、そんな気がするんだ」
「約束ってーー」
「危ねぇから下がってろ。終わったら、村への案内頼むぜ」
レックスはその男の唖然とした顔を見て微笑み、ケルベロスに向けて駆け出した。
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ーーさて、どうしたものか。この巨体をねじ伏せるのは、思っている以上に困難なのかもしれない。無論、それが諦める理由には到底なり得ないが。
ふと思いついた考えだと、一つずつケルベロスの頭を潰していく、というのがある。おそらくこれが討伐方法の一つなのだろうが、それをするのが難しい。
「まぁ、やるしかねぇよな。やるって決めたんだし」
その時、ケルベロスがついに動き出した。
ケルベロスの右前足が上に上がり、そのまま爪を立ててレックスへと迫った。
「はぁっ!!」
それに即座に判断したレックスはそれを剣で防ぎ、そのまま払い除けた。
それから半歩後ろに下がり、足に意識を集中させる。
「ーー雷足!」
ーー雷足。レックスが生み出した技の一つであり、八種類ある魔力のうち雷の魔力を用いたものだ。原理としては単純で、足に雷魔力を込めることにより高速で移動できるという技だ。
単純にして汎用性が高く、レックスの戦闘において必須の技だ。
そうして雷魔力の力によって加速されたレックスの脚力は、地面を強く蹴ったレックスのことをケルベロスよりも高い空まで飛躍させた。ここからなら、ケルベロスの首を狙える。
「くらえぇぇーー!!」
空高くからケルベロスの首の一つに狙いを定め、高速で落ちながら両手で握る剣をその首に向けて振り翳す。
目にも留まらぬ速度で落ちた刃は、一直線にそのままケルベロスの首を切り落とし、その勢いを殺せぬまま剣は地面に刺さった。
「首を切った! でも、まだあと二つ残ってる……っ、危ない!」
「げっ、やべぇ……!」
残ったケルベロスの頭が、歯を立てて接近していることに気づき、レックスが地面に刺さってしまった剣を抜こうと必死になる。が、それでも剣は抜けず、一旦剣を手放した方がいいかーー、
「ーー火拳!!」
ーーどこからともなく現れた炎が、レックスのことを襲う頭を上から容赦なく殴りつけていた。
文中ででボソッとしか触れられなかったレックスの容姿。大切なことなので、もう一度言います。
「青い短髪、瞳を持った少年」
ちなみに彼、十七歳です。




