第一章15『ニンゲンたちの全力』
アイゼンは一人で戦っている。あのいつ倒れてもおかしくない体で化け物と対峙している。いくらアイゼンが歴戦の猛者だとしても、衰えや老いには逆らえない。普通の人間である限り、それは絶対的な宿命なのだ。
そんな彼がブモンの頼みを聞いて命を張っている。ならば、ブモンもそれに応えなければならない。
「まずはレックスからだ。って、酷いな。さっきまで戦ってたのが信じられないぐらいだ。それにロンも……これで生きてるなんて、二人とも十分化け物だ」
おそらくアイゼンは長く持たない。一刻も早くレックスとロン、そしてこのゾンビを回復させなければ。
「おい君。名前は?」
「オレの名前はゾルト•チーフだ」
「そうかチーフか。もう一度言うが、任せたぞ」
「当然だ。必ずオマエたちを守り抜く」
「ーー回復」
心強いその言葉に胸を打たれつつも、ブモンはさっそくレックスの額に回復をかけ始める。
ブモンは体力や魔力こそあるが、その精度は低い。普通の術師が五分で完了する治療を、ブモンは十分かけて終える。人の二倍、その効力が低いのだ。無論、その分人の二倍ほどの量を治療できるのは誇れることではあると思うが。
「待ってろよ、二人とも。必ず私が助けてみせるから」
ブモンは手に力をより一層強く込めた。ブモンの担った役割を果たすために。
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「どうした。こんなものか? 『瘴屍』よ」
無論、口ではこう言っているがそうではないことぐらい分かっている。この程度で終わってくれればありがたいのだが、現実はそうもうまくいかない。
現実なんて、うまくいくことの方が少ないぐらいだ。
「あまり舐めるなよ。キサマの攻撃はワレを吹き飛ばしはするが、それほど痛いものではない。この程度、せいぜいかすり傷にしかならぬわ」
「ったく、老いるとは辛いものじゃのぉ」
心からの悲しみを込めて口に出してみたが、口に出してみればそれはそれで悲しくなるだけだった。口に出すだけ惨めだ。もう言うのはやめようと心の中で誓った。
ゴストンの言っていることがただの強がりならば問題なかったのだが、それが真実なものだから困った話だ。ロンたちのことを回復させる時間を稼ぐことがアイゼンの目的だとしても、このままではいずれ限界が来る。
「炎!!」
「はっはっは! 相変わらずおっかない魔法じゃな」
ゴストンから放たれた巨炎は、アイゼンに容赦なく迫る。が、それもザーゲハンマーの前には無力。
ザーゲハンマが、再び炎を粉砕した。
さて、そろそろゴストンが違和感を覚え始める頃だろうか。
「キサマ、ワレの魔法を軽々と捌くとは、一体どうやったのだ? いくら伝説といえど、その老いぼれた体でそこまでできるとは考えられぬぞ」
「失礼じゃな。君は老人に対する敬意というものがないのか? ワシだって頑張っとるんじゃわい」
と口では言っておくが、やはり徐々に察しがつき始めたようだ。当然だ。こんな老ぼれに自分の魔法を軽々防がれてしまえば、疑念の一つや二つは湧くだろう。
最後までカラクリに気づかれなければ良いのだが。
「フンッ!」
「っと、呑気なことは言っておれんようじゃな」
また炎の拳が迫る。だが炎を纏っているなら好都合だ。ザーゲハンマと相性がいい。アイゼンはザーゲハンマを振り下ろし、ゴストンの拳を弾き返した。
だがゴストンも一発だけでは止まらず、一発、また一発と拳を何度も放つ。その度アイゼンがハンマーで弾き返すも、その攻防は続く。
「ずいぶんと乱暴じゃな」
「だがこれがキサマにとっての有効打。違うか?」
「君、その見た目で頭脳派じゃとは。正直驚いたわい」
「言ってくれるッ」
ゴストンの蹴り攻撃を防いだのを最後に、ゴストンはアイゼンと距離を離した。危なかった。あのまましばらく続けられていたら、アイゼンは間違いなくやられていた。こんな老ぼれに長期戦は無理だ。体力が落ち過ぎている。
だが距離が離れたのならば結構。こちらにも遠距離攻撃がある。
「お返しじゃ。鋼鉄槌!!」
再び赤く光ったザーゲハンマから、炎のように赤い斬波が放たれる。それは空気を切り裂きながらゴストンの元へと一直線に進んでいく。
「その技はもう見飽きた!」
案の定アイゼンの斬撃はゴストンに打ち砕かれ、ゴストンに命中することはなかった。だが、
「いない?」
ゴストンが見る先にアイゼンの姿はない。当然だ。アイゼンはもうゴストンの背後をとっている。
「いつの間にッーー」
「残念じゃったな。さっきのは囮じゃ」
ゴストンの体を背後から鋼が強打する。ゴストンの巨躯は前方に吹っ飛び、再び地面に打ち付けた。
これでだいぶ効いたと思いたいが、どうにもそういかなさそうである。
「やってくれるな、『鋼の鉄槌』」
「そうじゃろ。ワシはやる時はやる男じゃ」
ゴストンが立ち上がっている姿を見るあたり、あまりアイゼンの攻撃が効いていないと窺える。軽口を叩いている余裕などなさそうだ。
「ーー時に、キサマのそのハンマー。魔反石でできているのではないか?」
ーー魔反石。世界的にも貴重な鉱物の一種で、受けた魔力を吸収する特性がある。さらにその魔反石に魂力を込めると、吸収した魔力を斬波にして放つことができる。
どんな魔力でも吸収してしまう点や魂力を込めるとすぐに斬波を放ってしまう点、また細かな加工が難しい点から鎧などには用いられていないが、アイゼンのように武器に加工して使う者は一定多数いる。
だが一見最強見える魔反石にも弱点はある。それは、単なる物理攻撃に何の特攻性もないということだ。
魔力攻撃ならば簡単に対処できるが、普通の物理攻撃、すなわち魂力を用いた攻撃などには特効がない。これも、鎧などに用いられていない理由の一つだろう。というか、おそらくこれが一番の理由だ。
だから、単なる物理攻撃にも長けていそうなゴストンに気づかれるのはまずかった。
「なるほど、そういうことだったのか。となれば、ワレがやることは一つだ」
来る。確実に来る。集中しろ!
「フンッ!」
魔力を纏わない普通の拳が迫る。ザーゲハンマで防ぐこともできるが、先みたいに簡単に弾き返すことはできない。
アイゼンは不利だと判断し、拳を躱してその場を離れた。
「やはりな。キサマ、魔力を用いない単純な攻撃に弱いな」
「……バレてしまったのなら仕方あるまいな」
ゴストンが距離を詰め、次々と拳を振るう。その度にアイゼンは避けて後ろに下がり、それをゴストンが詰めて攻撃する。そんな終わらない攻防だった。体力的にも、このまま持久戦を強いられると持たない。傷は回復魔法で癒せても、体力や疲労は癒せないのだ。
「どうしたッ! キサマの力はその程度か?」
「はっはっは! 言ってくれるわ」
なんとか攻撃をする隙を見つけ腹に一発入れ、ゴストンを吹っ飛ばすことができた。しかし今の攻防のせいで大幅に体力を消耗してしまった。後どれだけこの体が持つかわからない。
「一つ気づいたのだが、ワレは一箇所に瘴気を集中させて纏えるのではないか?」
ある意味一番気づかれてはいけない事実に気づかれてしまった。
ある程度の強者ならば、瘴気を腕や足の一箇所に集中させることも可能だ。込めた瘴気量によるが、集中させた箇所は筋肉量が増え、巨大化もする。
つまり、魔力や魂力を使わずに、その部位を大幅に強化することができるのだ。
だから単純な物理攻撃に強く出られないザーゲハンマを使う身からすると、一番気づかれてはいけない事実だったのだ。
「なんのことか分からないのぉ。ワシはそんなもん知らんわ」
「まあいい。試すのが一番だ」
ゴストンの右腕が瘴気の力によって巨大化する。ゴストンは不敵な笑みを浮かべた。
「これが瘴気の真の力か。面白い技だ」
ゴストンは巨大化した右腕を後ろに引き、風のような速度でアイゼンの元へと駆ける。この一撃はまずい。しかしハンマーで受け止めるにもゴストンが魔力を纏っていなければ押し負けてしまう。ならば避けるか? だけどそんな場所一体どこにーー、
「フンッ!」
「ーーっ!」
間に合わなかった。なんとハンマーで受け止めたが、威力が尋常じゃない。アイゼンの体はハンマーと共に大きく吹っ飛ばされた。
飛ばされている中、全方向から風に揉まれる。このままでは木に衝突してしまう。なんとか体を捻ってハンマーで威力を殺さなければ。
「はぁっ!!」
アイゼンは体を無理やり捻り、ハンマーでタイミングよく地面を殴って安全に着地する。骨が折れていなければまずいが、感覚的には痛みはない。無論、痛みを感じないほど衰えていれば話は別だが、おそらくそうではない。
「はっはっは。やってくれおったな」
「どうやらこの技はキサマへの有効打のようだな。ならば」
ゴストンは瘴気で右足を巨大化させ、そこに炎を纏う。そしてその足で地を蹴り、高く空に飛び上がる。
あの構えは確か炎乱だれ打ちのものだったはずだが、一体何をする気だ。まさかこの場に及んでまたあの技を放とうとはしないだろう。
「これは効くだろう。天下落拳!」
瞬間、空からゴストンが目にも止まらぬ速さで落ちてくる。向かう先はアイゼンただ一つ。さらにそんな彼の右腕は巨大化ときた。落下の勢いに乗ってアイゼンのことを殴り殺す気だ。
逃げるにも間に合わず、弾き返すにも力が足りない。こうなれば、一か八かハンマーでその拳を受け止めるしかない。
アイゼンはザーゲハンマの柄を両手で握り、頭上に掲げる。
ゴストンの拳がハンマーと衝突する。凄まじい衝撃がハンマーから体中を伝い、文字通り骨まで響く。
なんとか凌ごうと抗うも、その拳は止まらない。徐々に体が沈み、ハンマーを握る両腕も沈み始める。このままでは押し負ける。
「これで終わりだ!」
「くっ、はぁぁぁっ!!」
アイゼンは絞り出せる限りの力を体中から絞り出し、出せる限りの声を出しながら拳を押し返そうとする。
しかし現実とは無情なもの。アイゼンがどれだけ足掻こうと、体は地に沈みゴストンの拳が押し返されることもない。老ぼれた今のアイゼンがどれだけ頑張っても、その現実を覆すことはできない。
「キサマとの戦い、悪くはなかったぞ。フォーレ•アイゼン」
ゴストンの巨拳がアイゼンの防御を打ち破り、その老体を地面へと叩き伏せた。
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ーーイストス•ロンはシェイク村で生まれた少年ではない。もっと何処か、遠いどこかの場所で生まれ育った少年だ。それがどこかはわからない。なにせ三年前にこの村で目を覚ました以前の記憶がないのだ。
どこかで生まれ、どこかで育ち、どこかで力をつけて、そしてどこかで事件が起こった。後にシェイク村で目を覚まし、今のロンという人格が作られた。だからシェイク村に住む以前の人格も、強さも、きっと今とは違うはずだ。
昔のことを思い出そうとしても、まるで記憶に蓋をされたかのように思い出せない。
だが正直、昔の記憶がないことに不満はない。今の生活にも満足しているし、正直このままでいいとも思っている。
少なくとも、今のロンはこの生活を気に入っている。それに、見ず知らずのロンを一人の村人として慕ってくれる村のみんなが大好きだし、当然感謝もしてる。
だからこの生活を脅かす悪を、ロンは絶対に見過ごさないし、許すつもりもない。それが、ロンにできる最大限の恩返しだから。
「ぁ、ここは?」
目を開けると、そこは森の中だった。暗く黒い空にざわめく葉。
思い出した。ロンはゴストンと戦って、そこで意識を失ってしまったのだ。
「よかった。目を覚ましたか」
体を起こし、横を見るとそこにはブモンがいた。そしてそんな彼が手をかざす先には倒れ込んだレックスの姿もある。頭から血を流し、見たところ重症だ。
「ブモンが治してくれたのか。助かった、ありがとう」
「まあな。けど礼なら後にしてくれ。今はこいつの回復に集中させて欲しい」
「そうだな、悪い」
村随一の回復術師のブモンがやってくれているのだ。レックスの心配はいらないだろう。それより今はーー、
「チーフ。ゴストンは?」
ずっと刀を構えてゴストンの動きを凝視しているチーフに尋ねる。おそらくブモンが回復魔法をかけている間、ずっと護衛として守ってくれていたのだろう。チーフの傷も消して浅いわけではないのに。
「見ての通りだ。アイゼンが足止めしてくれてるが、それももう持ちそうにない」
「アイゼンさんが戦ってくれてたのか。オレたちも援護に回るか?」
「そうだな。オレ一人だけなら無理だったが、ロンもやるならどうにかなりそうだ」
見たところ、アイゼンはゴストンの拳をハンマーで防いでいる最中だ。しかしもう持ちそうにない。
「っ、アイゼンさん!」
ゴストンの巨拳に耐えきれず、アイゼンは地面に殴り伏せられてしまった。
自分はまた大切なものを守れず、目の前で失ってしまうのか。このままではアイゼンは殺される。レックスはまだ目覚めていないが、今ならゴストンに奇襲できるかもしれない。
「チーフ、アイゼンさんを回収してくれ。オレはゴストンに一発重いのを入れる」
「ロン……分かった。悪いブモン。やっぱりオレの回復はなしにしてくれ」
ゴストンの巨拳が倒れ伏したアイゼンに振り下ろされる直前、目にも止まらぬ速さで駆けつけたチーフがアイゼンを回収し、離れた場所にそっと寝かせた。
「火足」
ロンもチーフに続き、地を蹴ってゴストンの元へと向かう。そして炎を纏った拳を前へと突き出しーー、
「火拳!!」
ゴストンの不意をついた渾身の一撃を浴びせてやった。ゴストンの巨躯は吹っ飛び、地面に打ち付ける。
「き、キサマらいつの間にーー」
「よくもアイゼンさんを!」
地面に倒れ伏したゴストン。今ならもう一発いけるのではないか。
ロンは炎を纏った拳をゴストンに振り下ろす。思いっきり、力の限り、思うままに。何度も、何度も殴る。
何故か一切反撃せずロンのことをずっと見つめてくるこのゴストンという男を何度も、何度も、何度も、何度もーー、
「憐れだな。イストス•ロン」
「あ?」
「怒りに飲まれて我を失えば、本来守れるものですら守れなくなるぞ」
「何分かったようなこと言ってんだ。お前に分かるわけないだろ! 大切な人を失うことへの恐怖が」
「ーーーー」
どうした。何故黙る。何とか言えよ。どうして、どうしてお前はそんな目でオレのことを見るんだ。
それは嘲笑でもない。怒りでもなければ悲しみでもない。ただ彼のいう通り、彼の目はロンのことを憐んでいるように見えた。だからこそロンは、そんな彼の目が理解できなかった。そして、許すこともできない。
やがて攻撃を続けるロンの手はゴストンの巨手によって掴まれ、ロンの体は遠くに投げ飛ばされてしまった。
「分からないとは言わぬ。ただ、今はその気持ちを踏み躙ってでも先へ進まなければならないだけだ」
「ゴストン……」
ロンの元に駆け寄ったチーフがボソッと呟く。どうやらゴストンは嘘をついていないらしい。チーフとゴストンは、過去に大切な人を失ったのだろう。その記憶が、ゴストンの目をあんな風に変えたのか。
ゴストンは紛れもない敵だ。だが、まだロンは大切な人を失っていない。ゴストンの言う通り、まだ我を失ってはいけない。
今のロンにとって一番大切なこの村を守るために、ロンは戦っているのだ。それが、ロンにできる最大の恩返しだから。
「レックスが目を覚ましたぞ!」
そんなブモンの声が聞こえた時、ロンの視線は倒れていたレックスへと移る。見ればレックスは寝た状態からひょいっと体を起こし、高速で落とされている剣を拾い上げ、その後ロンたちの横に現れた。馬鹿みたいに元気そうだ。
「悪いな、待たせた」
「気にすんな。オレもさっき起きたところだ」
「チーフ! 本当に君の治療はいいのか?」
「ああ、大丈夫だ。オレの傷はそんなに深くない。それに、今はこいつらとゴストンを倒すのが先だ」
「分かった。けどもしキツかったら言ってくれ」
アイゼンは死んでいない。少し思い一撃をくらって戦えなくなってしまっただけだ。何も心配はいらない。
今はロンたち三人で、ゴストンを倒すことに集中しよう。
「今度こそ負けねぇ!」
「勝つのはオレたちだ」
「決着をつけようぜ、相棒」
レックス、ロン、そしてチーフの三人が再びゴストンにそれぞれの決意を向ける。空を静かに聞いたゴストンは何も言わずに足を巨大化させ、さらにそこに炎を纏った。そして地を蹴り砂埃を立て、炎を纏う拳と共に豪速でレックスへ迫る。
「対象登録完了。反撃開始!」
レックスの雷を纏った剣とゴストンの炎を纏った拳が火花を散らしてぶつかり合う。互いに一歩も譲ろうとしないほど強烈な威力。近くにいるだけでも思わず吹っ飛ばされそうな気分になった。
「はぁぁっ!」
レックスの件を防ぐのに精一杯のゴストンに、横からチーフが斬りかかる。だがそれが見えていたのか、ゴストンはその不意打ちを避け、後転してその場を離れた。
「炎!」
「火拳!!」
だが離れながらも、ゴストンはそれを隙にはしない。後転しながらも両腕に炎を纏い、何発か炎を放つ。そして、それはロンに向かっていた。
だが当然こんな攻撃に怯むほどロンは弱くない。両拳に炎を纏い、全ての炎弾を潰した。
その隙に、レックスとチーフは持ち前の高速移動で一気にゴストンへと詰め寄る。
「雷閃!!」
「瞬斬!」
左右から二つの鋼がゴストンに迫る。流石のゴストンもこれの対処は厳しいのではないか。
「フンッ!!」
「なっ!?」
そう思った途端、ゴストンの両腕はどちらも巨大化し炎を纏って、二方向からの剣撃を同時に防いだ。瘴気を使えばこんなことまできるのか。
レックスとチーフはどちらも部が悪いと悟り、ゴストンから距離を置いて下がった。
「何だあいつの体! 急ににでかくなったぞ」
「あれが瘴気の力だ。見た感じ、一時的に筋肉を増強させているようだ」
「三人で一気に押し込むぞ!」
「おう!」
今のレックスは前よりも速くなった。そんなレックスとチーフが高速剣戟をすれば、もしかするとゴストンに効くかもしれない。それに少しでも隙が生まれれば、ロンもそれに乗じて攻撃できる。
「雷閃!!」
「瞬斬駆嵐!」
レックスとチーフの速さは、目を凝らしても追うのが難しいほど速かった。そんな二人の剣が多方向から襲いかかるのだ。ゴストンからしても、これは嫌なのではないか。
だがその期待を裏切るように、ゴストンは二人の剣を全て見切り完璧に捌く。しかしここまではロンの想定内だ。二人の邪魔にならないようにロンもそこに参戦し、ゴストンを叩く。
「火拳!」
「キサマもかッ!」
ロンの攻撃にも上手く対処したゴストンだが、一瞬その動きが乱れた。ロンの参戦が想定外のことだったのだろう。それもそのはずだ。下手にロンが動けば、それこそレックスとチーフの邪魔になる。このタイミングで参戦するのはなかなか難しいことなのだ。リターンも高いがリスクはもっと高い。
しかしリスクを冒していかなければリターンなど来ない。勝つためにはやるしかないのだ。
何発も、何発も拳を打ち込む。当たるまで何度もだ。少しでもレックスとチーフへの対処の邪魔にでもなれば十分。そのためなら、この拳を何発でもーー、
「鬱陶しいッ!!」
「ーーっ!」
ゴストンの拳が、二人の剣でもロンの拳でもなく地面を強打した瞬間、そこを中心に炎と突風が広がる。三人は炎が迫る寸前になんとかそれを避けた。だがそのせいで、またゴストンが攻撃できる間が生まれてしまった。
案の定ゴストンは休む間も無く両腕に炎を纏う。そして足が地面にめり込むほど踏ん張り両腕を後ろに大きく引き、
「炎乱れ打ち!!」
空気を何度も殴りつけて炎の弾を無数に放つ。狙いは逃げる際に孤立してしまったチーフだ。ここからじゃ援護に間に合わない。
「いや、オレも魔法できるじゃねぇか」
そうだ。ロンはずっと火拳を使っていたせいでつい忘れていたが、ロン自身も焔を使うことができる。ゴストンほどの威力は出せないが、それでも今のチーフを援護する程度なら可能だ。
「炎!!」
少しの間だが、チーフに迫る無数の炎を掻き消せた。そしてチーフは、ロンが稼いだその少しの間にその場を離れることができた。
「助かった。ロン」
「まあな。上手くいってよかった」
「炎!!」
しまった。チーフを助けられたことに安堵して、ゴストンの方へ注意を向けていなかった。
ゴストンの詠唱からして、おそらく今迫っているのはあの高威力且つ広範囲の焔。今から対処するのは困難ーー、
「はぁぁぁっ!!」
迫るその巨炎を、少年が握る青光の剣が斬っていた。しかしレックスだけであの炎を完全に斬るのは無理だ。急いで援護に入らなければいけない。
「火拳!!」
「瞬斬!」
ロンとチーフも加わり、なんとかあの巨炎を打ち倒すことができた。そしてなによりいいのは、先まで魔法を放つためにその場から動いていなかったゴストンが、まだそこから離れていなかったことだ。今なら一瞬、隙を突けるかもしれない。
「チーフ!」
「瞬斬!」
ロンと同じことを考えていたのか。ロンが名を呼んだと同時にチーフはゴストンに一直線に斬りかかる。流石のゴストンもそれを想定していなかったのか、反応が遅れかろうじて躱す。
ゴストンはチーフの一撃目を避けたが、チーフは二撃目を打つための準備ができている。
チーフの二撃目が、ゴストンの上半身を浅く斬る。刃は深くまで入り込めず皮膚に浅い傷がついた程度だが、それでもゴストンからすれば攻撃させる隙を与えたことになる。
完璧なものも、一つ崩れればまた一つと崩れ始める。皆で生み出したこの好奇を逃すわけにはいかない。
「レックス、行くぞ!」
「おう! ーー解放!!」
雷光が地を蹴って飛び出す。さっきブモンが治した体が一瞬にして傷だらけになるも、レックスの剣は全てを飲み込むような光を放っている。ゴストンの対処は間に合わない。
「反撃保存!!」
「ぐっ……ッ」
剣から放たれる光がゴストンの巨躯を襲う。ゴストンにそれを防御するための時間はなく、その全てを全身で受け止めるしかない。
為す術なくゴストンは吹っ飛ばされ、何度もその体を地面に打ち付ける。
その隙を見てロンは地面に倒れ伏したゴストンの頭上に飛び、
「火拳!!」
灼熱に燃える炎と共にその巨頭を思いっっっきり殴りつけた。




