第一章14『鉄槌』
ーー赤。チーフの声が聞こえた頃には、既にそれがレックスの視界を埋め尽くしていた。反応に遅れ、頭が回らず、それが何かという思考には至れなかったものの、それが危険なものであるということは直感で分かった。だからーー、
「雷足!」
右の足に可能な限りの力を込め、横に体を投げ飛ばす。上手く受け身を取れずに体が地面に何度も打ち付けられてしまったが、それでもあの危険な赤からは逃げられたはずだ。しかし何故か、左足に微かな違和感がーー、
「うっ、ぁぁあ、あしがぁぁぁーーッ」
突如左足を襲った焼けるような痛み。見れば左足の膝から下が全て焼けていた。真っ黒に焦げた肉と一部の肉が燃え尽きたことにより僅かに姿を現した骨、それがレックスの左足の姿だった。
急だったということに加えて初めての大怪我だったこともあり、レックスの思考回路は痛みに乗じて止まってしまった。
逃れられない痛みから逃れようと、その場で足を押さえて踠き苦しむ。が、何も変わらない。むしろ足を押さえたことによりより一層痛みが増す。だめだ。上手く頭が回っていない。怪我している部位を触れば痛みが増すことぐらい、レックスでも知っていることだ。
「レッーーだぃーーぁ?」
ロンの声が聞こえる。だけど、痛みと叫び声のような鼓動が脳と鼓膜を支配して何も聞き取れない。完全に外からの情報を追い返している。まるで、ずっと空いていた扉に鍵がかかってしまったかのように。
「レッーーいまたすーーロンーートンをあしどーーれ!」
「わ、わーーせろ!」
途切れ途切れ。レックスの世界は、音が途切れ途切れ。痛みに堪えるために目も瞑っているから、世界も真っ暗。いや、時々目を開けるからそれも途切れ途切れだ。
何もかもが途切れ途切れでそこに途切れ途切れなものなんてなくて、けれど途切れ途切れじゃ勝てないからだめで結局何もかもが途切れ途切れーー、
「ーー回復」
その詠唱が聞こえた瞬間、左足を襲っていた焼けるような痛みが消え、途切れ途切れだった世界はいつの間にか普通に戻っていた。音も、視界も途切れ途切れじゃなくて、全てが一つの線みたいにきちんと繋がっている。
見るとレックスの左足は、中の骨など一切見えず肉もしっかり元通りになっていた。
そしてそんな綺麗な足に向けて、何やらチーフが両手をかざしていた。そして肝心なのが、その両手から何やら青色の優しい光が放たれていたこと。おそらく、その光がレックスの傷ついた足を癒してくれたのだろう。
ブモンが今朝レックスの怪我を治したと言っていたが、チーフのそれとブモンの治癒方法は同じなのだろうか。
「レックス、立てるか?」
「悪りぃ。助かった、ありがとう。今の、チーフが治してくれたのか?」
「治癒魔法を少し使えたんだ。それより、もう一回行くぞ」
「おう!」
ロンの方を見ると、巨碗を振り回すゴストンをロン一人で押さえていた。けれどそれも長く持ちそうになく、早く復帰して助太刀しなければまずそうだ。
一瞬とはいえ、戦場でレックスに時間を取ってしまったのは事実。ならば、今度はレックスがその分の戦果を上げるのが鉄則というもの。レックスの全力でゴストンに一撃をーー、
「いや、それも違うな」
今まで通りの全力じゃだめだ。それじゃ、今の全力を超えたゴストンに届かない。
「あいつを倒すには全力じゃだめだ。だったらーー」
今までを超える。この戦いに勝つためには、レックスには全力をさらに超える力が必要だ。
チーフとレックスの高速移動剣戟ではゴストンに及ばなかった。だから、それを超える速度でなければならない。
自分でも想像がつかないような速さで、ゴストンを斬る。それが、この戦いの打開策だ。
足に全力以上の全力を集中させ、雷を纏った剣を落とさないように両手でガシッと握る。
「ーー。雷足!!」
レックスの体は豪速に揉まれ、足にちぎれそうなほど強烈な振動と反動が訪れる。その速度は、おそらく音と同等かそれ以上。その速度の中では、当のレックス自身も何も見えず、何も理解できないはず。なのに、
「ーー遅い」
音速と同等な速さの中で、ゴストンの姿が遅く見える。手の動きも、足の動きも、丸ごと全部遅い。それに加えて、いつも以上に頭の回転が早い。これもチーフの魔法の仕業か、あるいは他の何かか。
いずれにせよ、これならゴストンを斬れる。狙うは横腹、そこにこの雷を纏った剣を突き刺す。
「がはッ。き、キサマいつからそこに……」
レックスの狙い通り、見事その剣はゴストンの横腹を突き刺した。だが無論、それで倒せるとは思っていない。レックスの狙いは、ただ剣を突き刺すことではない。
「チーフ、ロン! 今だ!」
「か、体がッ」
レックスの雷を纏った剣には、相手を感電させ痺れさせる効果がある。強化された今のゴストンにどこまで通じるかは分からないが、ほんの一瞬でも動きを封じられれば十分だ。その一瞬を、ロンとチーフが攻撃するための一瞬にできるのなら。
「火拳!!」
「瞬斬!」
レックスによって動きを封じられたゴストンの巨軀に、ロンとチーフの一撃が容赦なく迫る。これならいけるーー、
「この程度で」
「ーーっ!」
「ワレを殺せると思うな!」
レックスの感電攻撃が効かなくなったのか、ゴストンの体は自由を取り戻し炎を纏ったゴストンの巨拳がレックスに迫る。何故だ? レックスのこの攻撃をゴストンの体が克服したのか? 分からない。分からないが、考えている暇はない。
レックスはゴストンの体から剣を抜き、瞬時に雷足で後ろへ下がってゴストンの反撃を避けた。
「くそっ、あと少しだったのに」
「このままじゃオレたちが体力を消耗する一方だ。やはり何か策が必要だ」
どうする。反撃保存を使えば、この不利な形勢を逆転することができるかもしれない。だがゴストンを二度殺さなければならないことを踏まえると、反動のことからまだ使いたくない。
いや待てよ。仮にレックスが反動によって致命傷になったとしても、チーフならばまた治せるのではないか。
「チーフ。さっきみたいに、また俺のことを回復させることってできるか?」
「オマエ、急に何言ってーーまあできる。だけどあれは魔力を大きく消費する。だから、やるとしても残り一回までにしてほしい」
「分かった。なら十分だ」
となれば、少なくとも二回反撃保存を使えるわけだ。となれば、そのうちの一つを今使うこともできる。ならば、
「ロン、チーフ。今から俺がもう一回隙を作るから、そこでゴストンを倒してほしい」
「分かったが、どうやって隙を作る気だ?」
「そっか、二人にはまだ見せたことなかったな。まぁ簡単に言えば、俺の必殺技だ」
「ってことは、多分レックスの『祝福』、『反撃保存』か。ちょうど見たかったんだ」
「オマエ、『祝福』を持ってたのか」
やはり、いつになっても反動への恐怖は消えないものだ。可能性の話をするならば、レックスが今から反動に耐えきれずに気絶する可能性もある。そうなれば、それはレックスだけの負けではない。全員の負けなのだ。
だが無論、そんなものに怖気付くほど余裕もない。きちんとレックスにしかできないことをやるのだ。
「それとチーフ。俺が技を発動した直後に、俺のことを回復してほしい」
「分かった。任せろ」
「ーー解放!」
瞬間、全身を溶岩に放り込まれたかのような痛みが襲う。だが、瞬時にそれを温かい緑光が癒す。傷つきボロボロになった体はあっという間に治り、チーフの技術の高さに驚かされた。
「オマエ、なんで急にそんなボロボロに……オマエの体どうなってるんだ」
「悪りぃが説明は後だ。けど助かったぜチーフ。おかげで、あいつの隙を作れそうだッ」
レックスは駆ける。今までとは比べ物にならない速さーー音速にも遅れを取らない速さで駆ける。
見える。ゴストンが昨日のように反撃保存を無力化するための魔法ーー焔を細かく分けて雨の如く放とうとしているのが。
レックスの必殺技をくらえばまずいことを知っているからこそ、それへの対策は抜かりなくやってくるだろう。
剣に少しでもゴストンの攻撃が当たれば、その時点でこの技は終わりだ。
「勝負しようぜ、ゴストン。俺が攻撃を当てるのが先か、お前が攻撃を当てるのが先か」
「望むところだ。炎!」
昨日の時と同じように、ゴストンの手から大量の炎の粒子たちが迫る。ただ昨日と違うのは、その数と大きさだ。
昨日ではせいぜい塵ほどの大きさだったが、今回はざっとそれの五倍ほどの大きさに当たる。それに加えて、その数は昨日の二倍以上といったところだろう。
だが幸いなことに、先のゴストンの魔法により周りの木々は焼け落ち、ここは広く開けた場所になっている。ならば、大きく旋回して別の道から行くことも可能だ。
レックスは左に旋回して炎を振り切る。そこから走り、その後ろを無数の炎が追いかける。少しでも速度を緩めれば、反撃保存が失われるどころか、レックス自身も無事では済まないだろう。
避けながらも、レックスは徐々にゴストンとの距離を縮める。そろそろいい頃だろう。
レックスは炎との距離を確認すると、一瞬立ち止まった末ゴストンに急接近。その速度にゴストンも反応が遅れる。
「俺の勝ちだ、ゴストン!」
「は、速い!」
「反撃保存!!」
ゴストンは咄嗟に防御の姿勢を取るも、そんなものは関係ない。ゴストンがレックスの剣に与えた全ての攻撃が、眩い青光と共に満遍なくゴストンに降り注ぐ。
自分の放った攻撃をそのまま返されたゴストンは、大きく後ろへ吹っ飛び何度も地面に打ち付けられる。
あとは頼んだ。ロン、チーフ。
「行け! ロン、チーフ!」
後ろで大きく地を蹴る音がした。その瞬間、レックスの左からは炎が、右からは鋼が猛スピードでゴストンの方へと迫った。
「「ーー合技•炎屍豪来!!」」
ーー炎と刀の一撃が重なり合い、ゴストン巨躯を貫き抜いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「やるではないか。キサマら」
二つの大きな傷の入ったゴストンの体は、もはや生物として生きることができないものとなっていた。体がみるみる崩れ落ち始め、もはやそれは原型すらとどめていない。
「次はないと思え」
その言葉を最後に、ゴストンの巨大な体は全て灰となって地面に崩れ落ちた。
だが今ゴストンが残した言葉は、ただの負け惜しみでも脅迫でもない。紛れもない事実だった。ゴストンには次がある。死んでもまだ戦えるのだ。
「気をつけろ! ゴストンはどこからでも復活してくるぞ!」
チーフが警告を叫んだその瞬間だった。レックスの後ろから、冷酷な低い声が聞こえてきたのは。
「ーーもう遅い」
「がは……ッ」
気づいた時にはもう遅かった。レックスの体は前方へ大きく殴り飛ばされ、何度も顔を、腕を、足を、レックスの体の全てが地面に打ち付けられる。そして背中に強い衝撃が走ったことによって、地面からの猛攻は止んだ。どうやら木に背中を打ちつけたようだ。
右目からの視界全てが赤に染まって、周りがよく見えない。額の痛みからして、そこから出血した血が垂れてきたのだろう。
手に思うように力が入らない。ならばせめて、剣を杖のようにして立ち上がるーー、
「け、剣が、ない」
どれだけ右手に力を込めて握ろうとしても、握ったのはそこにある空気だけ。見れば、さっきレックスがゴストンに殴り飛ばされた場所に剣が落ちていた。攻撃を受けた際に手放してしまったのか。
いずれにしても、剣がなければレックスは何もできない。急いで取りに行かなければ。
「くっ」
「ロン!」
声が聞こえる。決して途切れ途切れではないが、内容がうまく脳まで伝わらない。右耳から入って左耳からそのまま抜けて行っているような、そんな感覚だ。それに足だって思うように動かない。歩くことはできても走ることは無理そうだ。
それでも一歩、また一歩と歩みを進め、剣に近づく。思うように頭が回らず剣を取った後のことなど全く考えていないが、とにかく今は剣を取らないとと思い、何度も足を前に出す。
「ーーキサマ、この剣がそれほど大事か?」
「ぁ?」
「だが、今のキサマが剣を握って何が変わる。その体でできることなど何もないだろう」
「う、うるせぇ。やってみねぇと、分かんねぇ、だろ」
「愚かだな」
瞬間、レックスの腹に重い衝撃が加わり、ゴストンとの距離がどんどん遠ざかる。それが腹を殴られたことによるものだと気づいたのは、レックスが地面に再び殴られたときだった。
「く、くそぉ」
ゴストンがレックスの剣を拾い、それを見定めるかのように見る。だがその瞬間、ゴストンの表情が一変した。先までは冷酷で無感情な表情だったのが、今では信じられないものを目にしたように目を大きく見開いている。
その剣を見る瞳もその剣を握る手も、ゴストンの体全てが震え始めている。
「キサマ、この剣を使っていたのか……?」
何を言い始めるのかと思えば、なんだ急に。さっきまで見てただろ。レックスがその剣を使っていたのを。
「チーフ。聞こえているだろう。ーー今すぐジュリアス•レックスを殺さなければ、後に後悔するぞ」
ゴストンの呼びかけに、剣を杖代わりにして立ち上がっていたチーフが応える。
「オマエ、何を言っているんだ。誰が後悔する? オマエか? オレか? それとも魔王か?」
「ーー世界だ」
「っ、何を言い出すのかと思えば、全く言っている意味が分からないな。敵の戯言として受け取っておこう」
「そうか。まあどの道、ワレがキサマらを皆殺しにするだけのことだ」
あいつは何を言っているんだ? レックスを殺さなきゃ世界が後悔する。レックスは世界の破壊も厄災も望んでいない。望むのは、あの約束を果たすことだけ。人の不幸も、世界の悲しみも、何もかも望んでなどいない。
それこそ、チーフの言う通りただの戯言だ。仲間割れさせてレックスを殺させるための発言に違いない。
そういえば、ロンの姿が見当たらない。一体どこにーー、
「ろ、ロン」
後ろから微かに気配がしたので振り返ってみたら、そこには木にもたれて気絶していた重症の少年がいた。口から溢れた血が服に染み、レックスの呼びかけにも応じない。無論死んでいるとは考えられないが、それでも嫌な予感を感じずにはいられなかった。
レックスは、ほとんど自力で動かすこらもできない体を奮い立たせ、ロンの元に体を引き摺りながら近づく。
そんな時、ロンの元へ向かうレックスの元にチーフが現れた。そしてその視線の先には、一歩ずつ確実に歩みを進めるゴストンの姿がある。レックスの剣は、乱暴に捨てられ、先まで剣を持っていたその拳には炎が纏われている。
「チーフ。キサマだけではもう何もできぬ。ワレが目を瞑っている間に失せろ」
「オレがオマエから尻尾巻いて逃げる? 冗談じゃない」
チーフは強気なことを言って後ろにいるレックスとロンを庇っているが、レックスには分かる。内心でチーフがこの状況に恐怖を覚え危機感を覚えているのが。レックスも同じだからだ。
ゴストンは突然足を止め、両手をこちらへ向ける。そこに赤の粒子が集い始め、やがてそれは一つの炎となって形を成す。
「炎!」
「く、くそぉぉぉ!」
無念なレックスの叫びが響き渡る中、ゴストンの両手から猛火が放たれこちらへ向かってくる。チーフは逃げない。しかしチーフだけではこの炎をどうにもできない。二人を庇うチーフがまず最初に炎に飲まれーー、
「ーー酷いやられ様じゃな。じゃがワシらにもまだ正気はある。そうは思わんかね?」
瞬間、目の前を取り巻いていた炎が全て巨大なハンマーによって掻き消される。
ーー鋼の音が鳴る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ずっと逃げていた。もう自分はロクに戦えもしないほど年老いたと勝手に決めつけて、その仕事をロンやレックスに一任していた。
けれどそれではダメだ。村を襲った雑魚ゾンビを相手していて、自分は自分が思っている以上に戦えるということを知った。運の悪いことに、その後怪我を負って戦えなくなってしまったが、それでもアイゼンは戦わなければならないということをずっと考えていた。
彼らは怪我をしてもなお立ち上がり、そして戦っている。この村のために。
「情けないものじゃのぉ」
全盛期ならば、あのゾンビたちなど相手にもならなかっただろう。だがアイゼンは年老い過ぎた。かつては『鋼の鉄槌』という肩書きがあったほどなのに、今ではそれを背負って戦えるほどの力がない。はたして、今の自分が戦場に出てできることがあるのだろうか。
そんなことを考えていた時、アイゼンのボロボロの家に一人の男が現れた。背丈が高い黒髪の男、ブモンだ。確か普段はキノコ屋を経営していたはずだ。
「村長。私は、回復術師としてロンたちの元へ行きたいです。けど僕だけじゃ力不足で、力を貸してくれませんか?」
「君は、確かブモンじゃったかな」
「はい」
「分かっておるのか? あそこに行くことがどれだけ危険なことか」
そうだ。正直言ってブモンは今のアイゼンよりも戦う力がない。回復魔法という点ではこの村随一だが、それでも魔獣すら倒せないような男だ。そんな彼が戦場に出れば、回復魔法を使う間も無く死んでしまう。アイゼンとしては承諾したい所だが、ここは諦めてもらうしかーー、
「それでも、ロンやレックスは戦ってます。私よりも年下の少年たちが、命懸けで戦っているんです。それなのに、私はここで何もしないというのはおかしな話だと思います」
「ーーーー」
「彼らが命を賭けて戦うのなら、私は彼らと同じように戦いたい。お願いします。村長の力を貸してください!」
「……それがたとえ、自分が死ぬ可能性があってもか?」
「当然です」
自分が情けない。自分よりも力のない人間が、自分よりも前を向き、命を賭けて仲間のために戦おうとする。それがどうして否定できようか。
「すまなかったな。ワシがバカじゃった。ーーワシも共に行こう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
やってやろう。自分のできる全力で、命を賭けて彼らと共に戦ってやろう。『鋼の鉄槌』として、なすべきことなすべきことを成そう。
「ーー酷いやられ様じゃな。じゃがワシらにもまだ正気はある。そうは思わんかね?」
傷だらけの重症だったレックスたちを守ゾンビが一人いる。あのゾンビには見覚えがある。確かアイゼンのことを、襲ったゾンビのはずだ。ロンからはゾンビの副指揮官と聞いていたが、まさかレックスたちの味方になっていたとは。
迫っていた猛火を自分の何倍もある巨大なハンマーで全て打ち消し、ハンマーを肩に乗せる。
「君がゾンビの指揮官。そう捉えていいわけじゃな」
「いかにも、ワレが『瘴屍』アングリフ•ゴストンだ。キサマは確か、『鋼の鉄槌』フォーレ•アイゼンだな。ようやくワレの前に現れたか」
どうやらゾンビ側にはこちらの素性がバレていたらしい。一体どうやったんだか。
「隠しておったつもりじゃったんだが、その様子じゃとワシの過去を知っとるということで良さそうじゃな」
「無論だ。ワレらゾンビは、キサマの正体を知っている。ーーかつて伝説の冒険団と名高かった『ブレイド冒険団』の一員。それがキサマの正体だろう?」
「まさかそこまで知っておったとは、驚きじゃな」
さて、ここからどうしたものか。見たところ味方のゾンビはまだ動けそうだ。このゾンビに二人を任せ、アイゼンは回復のための時間を稼ぐためにゴストンの足止めをすべきだ。
「おい、そこのゾンビよ。そのままレックスとロンを守っておいてくれんか? ワシはちょいと一暴れしようと思う」
「それはいいが、そこからどうするんだ? あまり長くは戦えないだろ?」
「老人を甘く見るなと言いたいところじゃが、実際そうじゃ。じゃから、ワシが暴れている間君たちには回復してもらおうと思う」
アイゼンは後方の茂みに目をやり、頷く。すると、そこから危険を感じて隠れていたブモンが静かに出てきた。
「わ、私は回復魔法を使える。時間はかかるが、三人全員を回復することも可能だ」
「オレたち全員をか。それは助かる。オレにはできないことだからな。安心しろ。その間は何があっても守るから、魔法に専念してくれ」
「分かった。君を信じるよ」
アイゼンの目指していた盤面が整い始めてきた。後は、アイゼンがゴストン相手にどこまでやれるか。
見た感じ、ゴストンは瘴気を大量に取り込み、それを最大限に生かしている。幸い、まだ『魔人』にはなっていなかったようだが、それもいつまで持つことか。
「アイゼン。キサマさえ現れなければ、全てが上手くいった。だがキサマの登場により全てが覆った。どう責任を取ってくれる?」
「なんじゃ、負け惜しみか? ワシが取る責任なんかどこにもないわい。悔しかったらワシを殺してみろ」
「……上等だッ」
アイゼンの挑発に乗ったゴストンは右足に炎を纏い、その足で地を蹴ってこちらへ急接近してくる。なかなか早い速度だ。それに拳にも炎を纏っている。どうやら瘴気の他に炎魔法もうまく使えるようだ。となれば、先の魔法は炎と見て間違いないだろう。
「フンッ!」
放たれた炎の拳がアイゼンに迫る。それに対しアイゼンは両手で握る巨大ハンマーーーザーゲハンマーを振りかざし、その拳の攻撃を打ち消した。
もう年老いてあまり魂力を込められないが、この攻撃を受け止める程度ならば何ら問題はない。それにザーゲハンマーには……。
「受け止めるか。ならばこれはどうだ!」
そう言い捨てると、ゴストンは両腕に炎を纏って遥か上空に飛んでいった。それから体を捻って拳を後ろに引き、
「炎乱れ打ち!!」
無数の炎が雨の如く放たれる。だが遅い。これなら対処可能な範囲だ。
アイゼンはハンマーを迫り来る炎に向かって何度も振り回し、頭上にある炎を全てハンマーで捌いた。
「さて、ワシもそろそろ仕掛けるか。ーー破壊鎚!」
瞬間、ザーゲハンマーが炎のように真っ赤な光を放ち、アイゼンが上空にいるゴストンに向けて振りかざすと真っ赤な斬撃のようなものが飛び出す。それは一直線にゴストンへと突き進み、やがて命中する。
何が起きたかも理解できずに攻撃を受けたゴストンは、そのまま地へと落ちていく。
「少し侮っていた。やはり老いても伝説は伝説のようだな」
「はっはっは! すっかり衰えてしもうたが、『鋼の鉄槌』はいまだ現在じゃ」
「どうやらそのようだなッ!」
着地すると同時にゴストンは地を蹴り、アイゼンとの距離を詰める。そして炎を纏った拳を振るいーー、
「はっ!」
「ーー!?」
迫る拳をハンマーで弾き返し、ゴストンの隙を生み出す。そして、
「破壊鎚!」
赤い光を纏ったザーゲハンマーがゴストンの体を森の奥へと突き飛ばした。




