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溶接工が異世界転生して、『裏波』で世界を救って帰還する話  作者: もしものべりすと


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第十六章 真実の暴露

王の謁見の間は、夜明けの光に満たされていた。


 高い天井のステンドグラスから、朝の光が斜めに差し込み、大理石の床に色とりどりの模様を描いていた。


 玉座の王は、夜通し眠っていなかったらしい。

 目の下に深い隈が刻まれていた。

 その横に宰相、宮廷魔導士団長カルツェル、副団長、王国軍幹部が並んでいた。


 俺は書類の束を抱えて、玉座の前に進んだ。

 ルクレイア、ミナ、シスター・エリスが、俺の後ろに控えた。


「陛下」


 俺は深く頭を下げた。


「異邦人、芝山陽介。聖剣修復事件の真相について上奏申し上げます」


 王はゆっくりと頷いた。


「申せ」


 俺は書類の束を宰相に手渡した。

 宰相がそれを、王の前の机に丁寧に並べた。


 俺は書類を一つ一つ指し示しながら、説明を始めた。


「まず、こちらが神殿が独立して計測している、聖剣保管庫の温湿度記録です」


 俺は神殿のシスター長の押印が押された記録を、王に示した。


「修復完了直後の湿度は四十パーセント。標準値です。しかし修復後九時間で、九十一パーセントまで上昇しています。これは換気孔が密閉されていたことを意味します」

「それは本当か」


 王がカルツェルを見た。


「陛下」


 カルツェルが咳払いした。


「神殿の数値は、計測誤差を含みます。私どもの正式記録では、湿度は適正に管理されておりました」

「そうですか」


 俺は二つ目の書類を提示した。


「次に、これは神殿が独立して計測している、保管庫への人員出入記録です」


 羊皮紙には、夜半から朝までのすべての出入りが、時刻と共に記録されていた。


「夜半過ぎ、零時十五分、宮廷魔導士団長カルツェル様、保管庫に入室。零時二十分、退室。その直後から、湿度の上昇が始まっています」

「これは何を意味するか、結合師どの」


 王が低い声で尋ねた。


「カルツェル様が保管庫の換気孔を、自分の手で閉鎖したと推定されます」


 会場がざわめいた。


「異議を申す!」


 カルツェルが立ち上がった。


「私が保管庫に入ったのは、修復後の聖剣の状態を確認するためだ。換気孔の操作など、行っていない」

「証拠があります」


 俺は三つ目の書類を提示した。


「これは保管庫の換気孔機構の、操作記録です。神殿が独立して、機構の磨耗状態と操作履歴を追跡しています」


 羊皮紙の上に、機構の操作履歴が時刻別に記されていた。

 零時二十分、換気孔、閉鎖。操作者、不明(記録なし)。

 六時、換気孔、再開放。操作者、団員B(公式記録あり)。


 俺はその時刻と、カルツェルの保管庫退室時刻が、完全に一致していることを王に示した。


「カルツェル様の退室時刻と、換気孔閉鎖の時刻が一致しています。これだけでは間接的な証拠ですが」


 俺は四つ目の書類を提示した。


「私の業務記録です」


 俺の手帳の該当ページの写し。

 ルクレイアが王国の書式に書き直したもの。


「私は修復前日、副団長に対し、修復後二十四時間の換気孔開放を書面で要請しました。副団長は書面通りの対応を約束しました。これがその依頼書の控えです」


 俺は五つ目の書類を提示した。


「副団長、よろしいですか」


 俺は副団長に向き直った。

 彼は青ざめた顔で頷いた。


「副団長は私の依頼を、団員Aに伝達しました。団員Aは夜半に、換気孔を開放しました。これが初期開放の記録です」

「ええ。私は書面通り、開放を指示しました」

「では、その後、零時二十分に換気孔を閉鎖したのは、誰ですか」


 俺は副団長を、まっすぐに見た。


「私ではありません」


 副団長は震える声で答えた。


「換気孔を操作する権限を持つのは、私と団員AB、そして団長です。零時の時間帯、私は自分の執務室にいました。団員ABもそれぞれの当番表通り、別の場所にいました」


 副団長は王に向き直り、深く頭を下げた。


「陛下。換気孔を閉鎖した者は、団長以外、おりません」


 会場が静まり返った。


 カルツェルが玉座の方を見た。

 その顔から徐々に、血の気が引いていった。


「陛下、これは……」

「カルツェル」


 王が低く、彼の名を呼んだ。


「弁明があるか」

「これは陰謀です。神殿と辺境伯家が結託して、異邦人を救うために」

「陰謀」


 王の目が鋭くなった。


「神殿とヴァン・アルテリオン家、両家の押印が捏造されたものだと、申すか」

「いえ、その」


 カルツェルは言葉に詰まった。


 俺は最後の書類を提示した。


「もう一つ、根本的な問題があります。陛下」

「申せ」

「過去三人の鍛冶師が、聖剣の修復に失敗した記録です。それぞれ予熱を行わずに作業し、母材を割っています。三人とも宮廷魔導士団の指導下で、作業を行いました」

「指導下で?」

「ええ。宮廷魔導士団は五年間、聖剣修復において、必ず予熱を省略するよう、鍛冶師に指示してきました」


 俺はルクレイアが集めた過去の修復試行記録を、机に並べた。


「予熱を省略すれば、聖剣は確実に割れます。これは古代の結合技術を理解する者なら、すぐに分かる明白な事実です」


 俺はもう一度頭を下げた。


「カルツェル様は、聖剣が修復されないことを五年間、望んでおられた、ということです」


 会場が再びざわめいた。


 王はしばらく目を閉じていた。

 それからゆっくりと目を開けた。


「カルツェル」

「陛下」

「貴様の処分は別途、議会にて決定する。今は王国の名において、貴様を宮廷魔導士団長の任から解く」


 カルツェルは両膝を、その場でついた。

 白い長衣が、大理石の上に広がった。


「陛下、お聞きください」

「弁明は聴聞会で行え」


 王は俺に向き直った。


「結合師、芝山陽介よ」

「はい」

「貴殿に対する火刑判決を、王国の名において撤回する。それと王国は、貴殿の名誉を深く損なったことを、深く詫びる」


 王は玉座から立ち上がった。

 そして玉座を降りた。


 王が俺の前に立った。


「貴殿の仕事を、王国は改めて認める」


 王は俺の前で深く頭を下げた。


 会場の全員が、再び膝をついた。


 俺はただ、頭を下げ続けた。


 胸の奥で、所長の声がもう一度聞こえた気がした。

『前にやった奴、いい仕事してたな』

 所長、と俺は心の中で呟いた。

 俺、この世界の王に、いい仕事だった、って言わせましたよ。


 その時、城門の方角から、急報の鐘が鳴り響いた。


 乱打の鐘の音。

 非常事態。

 今度は聖剣の事件ではなかった。


 使者が謁見の間に駆け込んできた。


「陛下、辺境より急報! 魔王軍、大規模侵攻、開始!」

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