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異形者の目指したものは  作者: 夜空 切
18/20

018

「まさか、ここまで魔獣に襲われるとは思わなかったわ」


 森の中を歩くイーラは疲れたように力なく呟いた。

いつもならこんなに魔獣と遭遇することはないのだけれど、今日は厄日なのかしら。

 とぼとぼと道なき道を歩く。空は青く、雲も少ないはずなのに目の前はそれほど明るくない。だが、イーラは迷うことなく進んでいく。


「お疲れだな」


 横を歩くハクサンは疲れ切ったイーラを見て苦笑した。どう考えても自分の体質に巻き込まれているため、内心申し訳なく思っていた。自身の不運はかえでのような幸運でないと相殺できないのだ。近くにいる人次第で多少はましになることもあるが、今回はそうではないらしい。

 だから、昔ついたあだ名は疫病神。間違っていないので否定しづらく嫌な思い出だ。


「まあ、あなたが返り討ちにしてくれているからそこまで疲れてはいないのだけれど」

「そうか」

「しかし、あなた本当に強いわね。そこらの冒険者なんて比較にならないじゃない」


 これまでに遭遇したモンスターはすべてワンパンで倒しているので自身が強いことは分かっていたが、イーラ曰Aランク冒険者と呼ばれていても違和感がないとのこと。この森がいかに危険な魔獣がいるのかを教えてもらった。未だに超危険な奴とは出会ってないようなので、まだましとのこと。

 道中、ハクサンはイーラからこの世界について色々と聞いた。ルシェからの教えと合わせて一般常識もある程度把握できた。かなり多くの情報だったが、要所要所覚えて、後で復習すればいい話だった。とりあえず冒険者ギルドがあることは確認したが、登録するかは説明を聞いてからにしようと思っている。

 なぜなら冒険者に登録してしまうと今後自由に動けない可能性が出てきてしまう。力を得てしまった以上、下手に目立つのは得策とは言えなかった。一応、登録していなくとも素材の買い取りはしてもらえるとのことだったので、割とそのまま放浪生活を続けていくのがいいのかもしれない。

だが、しばらくは登録ができないとのことだった。なぜかというとこれから向かう町には冒険者ギルドがないのだとか。素材の買い取りをしてもらえる店はあるとのことなので、特に問題はない。

 彼女は孤児のようで、拾って貰った義理の両親が他界してからはひとり暮らしをしているとのこと。彼女には失礼だが高貴な身分という厄介事を避けられたのは大きい。

 それと、肝心のステータスについてなのだが、結論を言えば確認できなかった。

 真っ先にイーラに確認したことなのだが、彼女は知らないというのだ。つまり、この世界は自身のステータスを表示できないのだろう。となれば、先ほどのステータス画面? は現状俺にしか確認できないスキルといったところか。日本にいたときと変わらないのだが、異世界でも同じとは少しだけがっかりした。人のを見られるなら自分のだって見れていいはずなのに。


「ハクサン、見えてきたわよ!」


 だんだんと木々が減り、砂利道が続く大通りが表れた。久しぶりのならされた道にハクサンは安堵の息をついた。

 正直、今のハクサンであれば自身の脚力で飛んでいけばどこかの町にはたどり着けたのだが、それをしなかったのには理由があった。

 それは町に入るのにひとりだと通行できない可能性が捨てきれなかったのだ。

 異世界転生の問題として町に入る前にひと悶着するのを避けたのだ。そのため、誰か案内人を捜していたところ、偶然にも襲われているイーラを見つけたというわけだ。

 イーラに先導されて歩いていると向かいから馬車が近づいてきた。

特にこちらを気にすることなく馬車は横を通り過ぎて行った。

段々と人通りが多くなってきて、町が近い証拠と言えた。その誰もが獣人族で、人族はまだ見ていない。もしかしたらこの町は獣人族だけの町なのだろうか。


「もうすぐ町に着くわ」

「ちなみになんだが、その町の名前は?」

「イブリスタよ。私の生まれ育った町でもあるわ。森に隣接しているけれど大きい町よ」

「そうなのか」


 イーラは明るく答えたくれた。傷が痛むだろうに努めて明るく振舞っているのは見ていていいものではなかったが、こちらに気を使ってくれているのが伝わるので何も言わないようにしていた。

 唐突にイーラの顔が曇る。


「それと、ハクサン。 ……申し訳ないけれど、町に入ったら、全速力で私の家に来てほしいの」

「それはどういうことだ?」

「……お願い。あとで教えるから」


 真摯な瞳で頼まれれば嫌とは言えないが、気になる。なら、確かめてみるか。


「なあ、イーラ。もしかして部外者は町に入れないんじゃないのか?」


 ぴくりと形の良い眉が震えた。

 ……図星か。


「俺は別の町を捜す方がいいんじゃないか? ダメなら無理に押し入るつもりはないぞ」

「流石にそれは……ハクサン。10ウェンほどで戻るから、入り口の傍で森の中にいてくれないかしら。命の恩人にこんなこと頼むのは恥もいいところなのだけれど。お願い」


 他に町の当てがない以上、10分待つことで入れるなら儲けものだろうか。いや、何か嫌な予感がする。


「……なあ、イーラ。今から素材をいくつか渡すから、それを換金してきてくれないか?」

「……そう。わかったわ」


 アイテムボックスからいくつか素材を取り出して大き目の皮袋に入れていく。イーラにそれを渡すとしぶしぶ受け取ってくれた。


「じゃあ、行ってくるね」


 テンションが下がったイーラの背を見送ったハクサンは、森に入り適当な木の幹へ背を預けてイーラが戻ってくるのを待った。

 それからどれくらい経っただろうか。30ウェンよりも早いだろうというところで、イーラが町から戻ってきた。

 彼女の後ろには何人か付いてきている。どうも武装をしているようで、雲行きが怪しい。

 ため息を吐きつつハクサンは森から出てイーラへと近寄っていく。


「意外と早いかったな」


 ハクサンが声を掛けると、奥の2人がじろりと睨み付けてきた。更に近寄ろうと歩を進める。


「止まれい!」


 後ろについていたひとりが大声でこちらに停止を呼びかけた。あからさまにこちらを敵視していた。

 これはどういうことだろう?


「……イーラ。一体どういうことだ?」


 説明を求めたが、わなわなと慌てていて返事をしてくれなかった。


「貴様か! イーラをたぶらかした人間は!」

「はあ?」

「だから、違うと言っているでしょう! 彼は盗賊から私を助けてくれたのよ! ほら、この魔力発散の腕輪。これが証拠よ」

「人間がか? そんなわけあるか。大方こちらの勢力を視察しに来たに違いないだろう!」

「なんで決めつけるのよ!」


 聞いている限り、俺は密偵か何かと勘違いされているようだ。ハクサンは怒鳴り散らしている男を観察する。40代の男で、彼の瞳も紫だ。うん? 待てよ。人間と敵対していて紫の瞳っていや、もしやこいつら魔族か。だとすれば人間嫌いも頷ける。フィクションでも人間と友好的な魔族ってそれほど多くないし、この世界も例に及ばずといったところか。


「お前はもう黙っておれ! この裏切り者が!」

「なっ!」


 イーラの話を遮ると、もうひとりの男がイーラに槍を突き付けようとする。


「おいおいまじかよ!」


 思考を止めてハクサンは足に力を込めて一気に加速する。槍がかすろうというタイミングでイーラの元に飛ぶと細い腰を抱きしめて二人で地面へダイブした。空中で身体を捻り、イーラを抱きかかえ

ると、背中から落ちる。


「いで!」


 二人分の重さを背に受けて、思わず声が出た。


「おい、大丈夫か!」


 怪我をしていないかさっと見るが、どうやら無事のようだ。


「あ、ありがと」


 イーラはきょとんとして、そして、かぁと頬を赤らめた。

 いやいや、状況を考えろよ。こんなところで照れるな。


「こいつなんなんだ!」

「おい、お前ら。この人間を始末するぞ!」


 わらわらと人が集まってくる。だれもが魔族や獣人族だった。

 どう考えても町に入ることは叶わないな。


「イーラ、話はあとだ! 逃げるぞ」

「う、うん」


 俺はイーラを抱えたまま立ちあがると、そのまま地面を強く蹴って先ほどの森とは逆の方の森へ飛んだ。


「なっ!」「はぁ?」「あいつ本当に人間かよ!」


 こちらの逃走手段にあっけにとられたのか、呆然と俺らを眺めていた。

 頭が悪くて助かったというべきか、簡単に逃げられた。


「逃がすか! 追え、追えー!」


 ひとりが叫んでいるものの、他は特に気にした様子も見せなかった。どうやらあいつが気にしすぎなのかもしれない。

 恐らく追っては来ているのだろうが、捕まってやる義理もない。


「……しばらく進めば人の町に入れる。そうすれば追ってこないよ」


 胸の中でイーラが言う。人の町ってどういうことだ?


「ごめんね。助けてもらったのにまた襲われるようなことになって」


 か細い声が風音越しに聞こえてくる。見れば彼女の瞼にはうっすらと涙が浮かんでいた。それがどのような感情によって生まれたのかはハクサンには理解できなかった。涙は風に飛ばされ、はらりと舞った。


「……後で聞く」


 まずは逃げるのが先だ。


「うん」


 ハクサンは飛ぶような真似はせず、森の中を爆走した。なるべく地面や木の枝を傷つけずに走るのは苦労したが、段々と力の使い方が分かってきたためうまく調整できた。

 途中魔獣が立ちはだかるも、ハクサンは手に剣を出して力任せに一刀両断していく。

 素材が勿体無いが今は我慢だ。

 そうやって障害を排除しつつ森をひたすらまっすぐ進んでいくと、森が晴れて先がよく見えるようになった。

 さっと周りを見やる。モンスターも少なく、こちらから手を出さない限り害の無いやつらがほとんどだ。


「……とりあえずこの辺で止まって」

「いいのか?」


 隠れるには不都合な場所なのだが。


「ここまでくれば大丈夫。お願い、信じて」


 懇願されて、ハクサンはしぶしぶ足を止めた。そして抱えていたイーラを地面に下ろすと、適当な太い木の根に腰を下ろした。

 イーラもハクサンと向かい合う形で手ごろな根に座る。

 お互い落ち着いたところで、ハクサンが切り出した。


「で、なんであいつらは俺とお前を襲ったんだ?」


 確認のためにイーラへ疑問を投げかける。

 僅かに悩む姿勢を見せたが、イーラは観念したかのように口を開いた。


「……まずは、ごめんなさい。あたしが町に来てほしいなんて言ったばかりにこんなことになっちゃって。いえ、今はいいわね。本題だけれども、それはあなたが人間だから。そして……私が獣人族だからよ。あそこは魔族と獣人族の共同町で人間は誰ひとりとしていない場所なの」

「ああ、なあるほどね」

「そりゃあ、納得するわよね」


 人間と異種族が敵対関係であることは良く知られている。こっちでもな。つまり、この世界も例にもれずといった構造なわけだ。というか、イーラはそんな危険な場所に俺を連れて行こうとしたのか。イーラの軽率な行動にハクサンは僅かに苛立ちを覚えるが、引っ掛かることがあるためその感情は表に出さずに続けた。


「ああ。ただ、疑問がある」

「なぜ私があなたを嫌わないのか?」

「いいや、なぜ俺を町に入れようと思ったのか」

「ああ、そのことね。それはハクサンが私を見ても何も思ってなかったからかな。あなたなら、異種

族が相手でも渡り合える。そんな気がしたの。あとは人族ぽくなかったから」


 少し前に遭った人間をそこまで信じられることに驚いた。


「けれど失敗しちゃった。こちらから歩み寄ることができなかった」

「そりゃあ、嫌いな人間が入ってきたら怒るだろうさ。あの感じ、余程人間嫌いみたいだしな。だが、仲間を切ることまでする必要があるのか?」

「村には我関せずの人たちが多いけれど、彼はあの町の領主で反人主義者なのよ。だから私が人間に肩入れするのを見過ごせないってところかしらね。あーもう、頭固くて嫌になっちゃう。改めて本当にごめんなさい! 私の判断ミスだわ」


 土下座でもしそうな勢いで頭を下げた。


「いや、いい。イーラが俺を嵌めたわけではないとわかったから」


 こんなにも誠心誠意謝ってくれるのだからね。それで裏切られたなら俺の見る目がなかっただけのことだ。

 昔からそういった人の悪意を見分けるのは得意だった。もしかしたらそれが能力に反映されているのかもしれないな。


「でだ、イーラはもう家には帰れないわけだが、今後どうするんだ?」

「それなのよね。あれだけ騒がれた手前、流石に戻れないわね。家族はいないしひとり暮らしだったから大丈夫だけど、先立つものが何もないわ。それに、これを何とかしないと魔獣を狩れないし」


 忌々しそうに、右手の腕輪を睨んだ。

 確か、魔力を発散させる腕輪だったな。


「なあ。それを無理やり外すと問題があるのか?」

「いいえ。壊しても問題ないわ。ただの腕輪だもの」

「……なら、なんとかなるかもな。ちょっと見せてくれ」

「ええ」


 近づいてきて右手を目線に合わせてくれた。

 見た感じ鉄のようで、5㎜ほど幅がありわずかだが接続の線が見られる。これならば行けるだろう。

 ハクサンは立ち上がり、地面をざっと見る。


「おっ」


 手ごろな大きさの石を見つけた。


「よし、この石の上に腕輪を乗せてくれ」

「わかったわ」 


 イーラは腕を垂直にして、腕輪の端を石の上に置く。ハクサンはさらに手のひら大の石を持つと、反対の手に小ぶりのナイフを取り出す。

 腕輪のつなぎ目にそっと刃の先端を合わせた。


「動くなよ」


 そう言って、握る石をナイフの柄に振り下ろした。

 バキンという音とともに、腕輪が割れた。


「うそでしょ」

「いや、見た光景を信じろよ」


 イーラはぽかんと嵌められていた右腕を見た。そこには無骨な腕輪は存在しておらず細い手首があった。イーラが夢ではないかと自分の手首を何度も見ているのが面白かった。ただわずかに切り傷が出来てしまっていた。

 腕に突き刺さらないようにぎりぎりのところでナイフを抑えたのだのだが、無傷とはいかなかったらしい。


「で、どうなんだ? これで魔法は使えるようになるんだろう?」


 ハクサンの問いでイーラは我に返った。


「はっ、そうね。ちょっとやってみる」


 そして僅か一秒。


「はい。これでどうかしら?」

「?」


 どうと言われても、何かしたのだろうか。首を傾げつつイーラの身体を下から上へ見ていくと、変わっている個所に気が付いた。


「ああ、耳としっぽがない」


 獣人族の特徴が消えて人間になっている。


「そうよ。これさえ何とかなれば見た目は人間と違わないから」

「へえ。ほかに獣人族だとバレそうなものは?」

「不可能なことだけれど、ステータスを覗き見られたらアウトだし、後はこの幻術を見破られるとまずいわね」

「あくまで見た目の違いは目だけなのか」

「ええ」


 恐らく力量も変化するのだろうが、外観だけならば人間と言って差し支えないレベルいに似ていた。


「ねえ、ハクサンはどうするの?」


 イーラが尋ねてきた。


「……まずはこの格好をどうにかしたいから町に行くつもりだ。そしてなにか仕事を捜す」

 突然異世界に連れてこられても目標がないのだ。しいて言えば帰還方法を捜すことだが、向こうの俺は死んでしまった可能性が高いため、こちらで生きる術を確立させる方が優先だ。そのあとで今後のことはじっくりと考えていけばいい。

「そっか。あの、ここまで迷惑かけた手前言いにくいのだけれど……」


 しゅんと縮こまり、イーラは上目遣いでこちらを見てきた。


「私も一緒に行ってもいいかしら。一応腕は立つからお金も稼げると思うわ」

「俺がこんなことを訊くのは変かもしれないが、人間からすると異種族は問答無用で滅ぼす相手なのか?」

「互いにしょっちゅう戦争しているけど、人間側の内情は分からないわ。多分7割くらいが異種族に対して敵意をもっていそうね」


 つまり、イーラが獣人族だとバレれば俺も人間の裏切りものになるわけか。俺としてはこの世界の案内人が欲しいところではあるが、言い方は悪いが爆弾を背負ってまで行動するメリットはあるだろうか。今後の状況を思い描きつつ、無表情に考え込んでいるとイーラが続けた。


「貴方が心配していることはわかるわ。目の前で起こったことだものね。そこで、提案があるわ」

「ほう、訊こうか」

「この妖魔の森は国境として機能しているのよ。人間の地と魔族の地、そして獣人の地。ここは三国の国境で、私は獣人の地に向いたいと思っているわ。そこがまだ安全だし、迷惑も掛からないわ。ただ、ハクサンが人間の地に行きたいというなら、無理に付いていくことはしない。ひとりで向かう」


 獣人の地。また新しい情報が出てきた。


「獣人族だけの国もあるのか…… イーラが行動するには都合がいいな」

「ええ」

「さっきは聞けなかったから確認したいのだが、イーラは人間のことをどう思っているんだ? 俺は恩人枠として友好的なのはわかるんだが、他の奴らに対しては?」

「私は種族による差別はしないわ。今のところ誰にも恨みはないもの。 ……そうね、むしろ同族に少しだけ恨みができたわ」

「なるほどね。さっきの住人たちを見る限り、互いに大部分が毛嫌いしていて、戦争している感じか」

「断言はできないけれど、さっき言ったように好戦的な方が多いと思うわ。戦争は国を分けてからしてないと思うけど」

「俺は別に人間の地でなくとも生きていけるなら問題はない。ここの案内人は欲しかったし、獣人の国が自由に動けるならそれでもいいさ。ただ、別の懸念ができた。誰でも通行できるということはあの町の裏切り者になったお前を追って刺客がくるんじゃないか?」


 あの領主の人間を見る目は腐ってたし、私怨だけで動くタイプだろうから油断はできない。


「それほど心配することはないと思うわ。獣人の国も広いし、下手に目立たなければ大丈夫よ」


 そうは言うが、人の噂は怖いぞ。どこに追手が潜んでいるかわからないからな。

先ほどから連続で襲われているというのに、イーラはどこか楽観視しているように見えた。それがどうにも引っ掛かる。ここが安全であると断言するのもそうだし、彼女には何か手があるのだろうか。


「なら、お互い偽名を使うべきだろうな。名前が違えば離れている相手に対して見つかる確率は下がるはずだし」

「そ、そうね」

「どうかしたか?」


 一瞬狼狽えたイーラに首を傾げる。


「いえ、なんでもないわ。……じゃあ、しばらくは私のことをマリーと呼んでね」

「マリーね。俺はラキアと呼んでくれ」

「了解。ラキア」


 お互いの名前を言い合ったところで、ほっとしたのかイーラの顔に笑みが浮かんだ。それがとてもうれしかった。なんだかんだ言いつつも、俺も気が緩んでいるようだ。これからは気を引き締めなくては。


「さて、落ち着いたしそろそろ向かうか」

「ええ」

「落ち着いたところすまないけど、ちょっと待ってくれないかな?」


 何処からともなく発せられた第三者の声に、ふたりはびくりと身体を震わせた。

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