016
本日2話目の更新です。
「おい、小僧。よくもゴンダさんをやってくれたな」
「頭の仇だ、悪く思うなよ」
盗賊の2人が仇討ちとばかりに粋がり、黒髪の少年へ襲い掛かっていく。正直なところ、少女から見てあの大男をやった少年にこの2人が勝てる未来は想像できなかった。しかし、向こうは数で押せば勝てると踏んでいるのか少年に対して攻撃を仕掛けた。
ナイフを持ったひとりが肉薄する。
未だ、少年はひとりの世界に入っているようで盗賊の接近に気付いていないように見えた。
「あぶない!」
少女は声を上げた。
「うん?」
黒髪の少年はひょいと右にずれてナイフを避けると、足を掛けて盗賊を転ばした。
「てっきり逃げだすのだと思ったが、それはそれでありか。じゃあ、これの実験台になってもらおう」
もうひとりが迫るなか、黒髪がそう呟くと同時に左手を上に振った。
ズシャッという音とともに、盗賊の片腕が吹っ飛んだ。
「なっ!」
いつ出したのか、黒髪の男の手には黄金の輝きを放つ剣が握られていた。
「お、お、あおまえ! うで、腕ぇ!」
ナイフを持った腕が飛び、盗賊が悲鳴を上げる。
「嘘っ!」
彼はいつ剣を出したというの? ……まさか、収納持ち!
「なるほど、念じれば出せるのか。しかも疑似抜刀状態になるとは、この技使えるな」
「こ、この野郎……」
腕を切られた盗賊はもう片方の腕で落としたナイフを拾い、再度少年へ詰める。
しかし、黒髪が剣を振るうと盗賊の首が飛んだ。
血しぶきが少年を濡らし、歴戦の猛者感が滲み出る姿となった。
「ひ、ひい。化け物!」
相方がやられたことで、残りの盗賊は一目散に逃げていく。敵に背を向けるなんてなんとも情けないことだ。
しかし彼はそれを追うことなくただ見ており、興味を失ったのか大男の方へ歩いていく。身を屈めて死体に手を伸ばした。血の海を弄り、金目のものをいくつか拾いだしていくと大男の腰の革袋にまとめて入れていく。そして綺麗そうな服を剣で切り取ったあと、その場で剣を振り、血を払ってからその布で剣先の血をふき取っていった。
「やっぱりこの剣、割といいものだな」
まるで初めて得物を切ったかのような感想を黒髪の少年は述べていた。金目の詰まった革袋を手
に、改めてこちらを向いた。
「で、大丈夫か?」
なんともマイペースな男だった。
正当防衛とはいえ人を殺したというのに、その表情はとても落ちついていた。盗賊相手だから殺しても罪に問われることはないが、自分と同じくらいの年だろうがどこかこなれていた。いや、よく見てみると不自然に取り繕っているようにも見える。
少女は彼も気丈に振舞っているのだと分かり、ほっとした。
「ええ、身体は痛いけど、我慢できる範囲だわ。それであなた、……本当に人間なの?」
それでも気になって仕方ない。
見たところ、魔力の塊を感じないので魔石は持っていない。つまり人間ではあるのだが、この馬鹿げた惨状を目の当たりにしてしまうとにわかに信じられなかった。また、ところどころ人では考えられない部分が見える。
「ああ、人間なんじゃないか?」
なんとも曖昧な返答が返ってきた。
「じゃないかって……」
「最近自分でも人間であることの自信がなくなってきてな」
頭を掻きながら黒髪の男はバツの悪そうに困った表情で答えた。
人間であれば、私は即座に逃げたことだろう。けど、この人はどこか私と同じ感じがする。これなら多少頼りにしてもいいかもしれない。
確かに先ほどの力はすごかったが、魔法が使えるのであれば中級の魔法師でも簡単にできることだろう。しかし、問題はこの森でそれが行えることなのだ。
「この森で魔法が使えないのは前に教えてもらった。だから不思議に思っているのだろうけど、それは俺も同じでな。胸を開いて魔石があるか確かめたわけじゃないから否定しがたいんだ」
無いものを見つけるという方が無理だろう。
「それなら、大丈夫よ。あなたは魔石を持っていないわ」
「へえ、分かるのか?」
「ええ、だって私は……」
そこまで言って、少女ははっとする。そして、顔をそむけた。
「私は?」
彰は聞き返すが、
「いえ、なんでもないわ」
男は首を傾げ、黒髪を揺らした。
どうやら彼は自分が獣人族だというのになにもしてこない。そっと彼の顔を見て視線を合わせるも特にこちらをどうにかしようという意思が見えなかった。
「? そうか。ところでお前、魔法使いなのか?」
「ええそうよ。あ、それと助けてくれてありがとう。あなたいいひとなのね」
「ああ。なんか襲われているのが見えたからな。ほんとここのところ物騒だよな。この前も襲われている奴を助けてな」
この前も? この人、よほどお人よしなのかしら?
「そ、そうなの。ところで、あなたは冒険者かしら?」
「ああ、違う。俺は学生だった。けど今はフリーだな」
「……学生ですって?」
「そうだが?」
ただの学生がこんな力を持つはずないじゃない。何か秘密があるはずよね。
少女は続けて聞いた。
「じゃあ、あなたは何をしにこの森へ入ったの?」
「……さあ?」
思いもよらない返答に少女はさらに困惑した。
「さあって、あなたは意味もなく森の深くまで入ってきたというの」
「まあ、そうなるな。気づいたらこの森にいたから偶然というほかない」
「飛ばされた? 転移魔法かしら? ……でもそんな魔法はこの世に存在するとは思えないし」
彰は正直に言うべきか悩んでいた。先日ルシェを助けた時も同じような反応をされたので、今回はアプローチを変えてみるか。
「……俺は名前と学生だった以外の記憶がなくてな。ただ、どこの学院だったかも覚えていない。さっきも言ったがいつのまにかこの森にいたんだ」
「……もしかしてあなた、記憶喪失?」
この前もこうして乗り切ればよかったと、今更ながらルシェに偽名を名乗ったとは言え素直に話したことを後悔した。以降は記憶喪失である設定で行くか。
「……ああ、そうなのかもな。きちんと意思疎通はできるけど、それ以外はからっきし」
「そうなの、それは辛かったわね」
なんか、すんなり受け入れられてしまった。まあ、これからこの世界で行動していく上では特に困らないからいいか。
「それでなんだが、俺に常識を教えてくれるか?」
「うん、わかったわ。命の恩人だもの、私の知っていることであれば教えてあげるわ」
少女は明るい顔で頷いてくれた。
「助かる。あ、俺は『ハクサン』だ」
「私はイーラよ」
よろしく、と右手を差し出してきたので彰は握った。
「さて、イーラ。まずはこの森から出たいのだが、案内してもらえるか? 話は歩きながらでもできるからな」
「ええ任せなさい。私の住んでいる町に案内するわね」
イーラは薄い胸を張って言った。




