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勇者を二人も召喚してしまいましたが、何故か二人とも上半身裸です。  作者: ネコ雲


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賢者、筋肉に良い食材を思い出せない


 王立図書館。


 天井まで届く巨大な本棚が並ぶ館内を、五人は歩いていた。


 今回の目的は、筋肉に良い特殊食材について調べること。


 そのために賢者であるアリンの知識を頼りにしていたのだが――。


「確か、昔読んだ本に書いてあったような……」


 当のアリンは、本棚を眺めながら首を傾げていた。


「本当に覚えてるんですか?」


 エリーが不安そうに尋ねる。


「はい。特殊な食材について書かれていたことは覚えています」


「おお! さすが賢者!」


 優太が感心したように声を上げた。


「それで、どんな食材なんだ?」


「えっと……」


 アリンは目を閉じ、記憶を探るように考え込んだ。


「栄養が豊富だったような気がします」


「普通の食材より?」


「そうだったと思います」


「肉か?」


「そこまでは……」


「じゃあ、どんな形をしてた?」


「覚えていません」


「色は?」


「忘れました」


「味は?」


「食べたことがないので、分かりません」


「何も分かってないじゃん!」


 エリーが思わず叫んだ。


 アリンは申し訳なさそうに微笑む。


「すみません。九十八年も生きていると、色々忘れるんですよ」


「それ、年齢のせいにしてませんか?」


「エルフにとっては、まだまだ若いんですけどね」


「じゃあ、まだまだ覚えていられるはずでしょう!?」


 エリーが思わず声を上げると、勝平が腕を組んだ。


「つまり、賢者の知識を頼りに来たけど、今のところ手がかりはゼロってことか」


「はい」


「そんなに堂々と認めるな!」


 エリーの声が図書館に響きかけ、ミッシェルがそっと口元に指を当てた。


「エリー様、ここは図書館ですので」


「あっ……すみません」


 エリーは慌てて声を落とした。


「とにかく、手当たり次第に探すしかないな」


 優太が本棚を見上げる。


「そうだな。食材の本を片っ端から調べよう」


「五人で手分けしましょう。何か見つけたら教えてくださいね」


 エリーの提案に、全員が頷いた。


     ◇


「おっ、これじゃないか?」


 最初に声を上げたのは優太だった。


 取り出した本の表紙には、『世界の野菜図鑑』と書かれている。


「野菜なら栄養も豊富だろ。これで決まりじゃないか?」


「待て。俺たちが探してるのは特殊食材だぞ」


 勝平が本を受け取り、表紙を確かめる。


「普通の野菜の図鑑じゃないか。これで特殊食材が見つかるのか?」


「野菜だって育て方によっては特殊になるかもしれないだろ」


「そんなことが書いてあるのか?」


「いや、今考えた」


「じゃあ、勝手に決めるなよ!」


 勝平は本を元の場所に戻した。


 優太は納得がいかない様子で、その背表紙を見つめている。


「でも、筋肉にいい野菜があるかもしれないぞ?」


「それはそうだが、今回は特殊食材を探すんだ。目的を忘れるな」


「……分かった。肉を探そう」


「極端だな!」


     ◇


「こちらには魔物の生態について書かれた本があります」


 ミッシェルが一冊の本を手にしていた。


「特殊な食材が魔物から採れる可能性もありますから、調べてみる価値はあるでしょう」


「なるほど! さすがミッシェル!」


 優太が感心する。


「じゃあ、食べられそうな魔物を探そうぜ!」


「食材になる魔物と、食べられる魔物は同じとは限りませんよ」


「どう違うんだ?」


「……それを今から調べるのでは?」


「確かに!」


 優太はあっさり納得した。


 勝平が本を開き、ページをめくっていく。


「ゴブリン、オーク、巨大な狼……色々いるな」


「どれが一番うまそうだ?」


「図鑑に味は載っていません!」


 エリーが小声で突っ込む。


 勝平はしばらくページを眺めていたが、やがて本を閉じた。


「よし。食材になるかどうかは分からないが、魔物について詳しくなった」


「目的から遠ざかってませんか!?」


「いや、知識は大事だろ」


「今必要なのは食材の情報です!」


 二人は顔を見合わせた。


「……次、行くか」


「そうだな」


 エリーは深いため息をついた。


     ◇


「これは薬草の本ですね」


 今度はエリーが一冊の本を手に取った。


「薬草の中にも食べられるものはありますし、栄養価の高いものが載っているかもしれません」


「おお、いいじゃないか!」


 優太が覗き込む。


「それで、筋肉にいい薬草はどれだ?」


「まだ中を見ていません!」


 エリーがページを開き、目次を確かめる。


 薬草の名前と効能が細かく並んでいたが、特殊食材についての記述は見当たらなかった。


「うーん……これは違うみたいですね」


「そうか。残念だな」


 勝平は少し考え、真面目な顔で尋ねた。


「エリー、薬草を食べるだけで筋肉がつくことはあるのか?」


「知りませんよ! そんなこと、ここで聞かないでください!」


「いや、可能性を確認したかっただけだ」


「その可能性を調べるために、今ここにいるんです!」


 エリーは本を閉じ、棚へ戻した。


 そして、二人を交互に見つめる。


「お願いですから、少しは自分でも本を探してください!」


「俺たち、ずっと探してるぞ?」


「探し方の問題です!」


     ◇


 しばらくして。


「あっ!」


 アリンが小さく声を上げた。


「思い出しました」


「本当に!?」


 四人が一斉に振り返る。


 アリンは嬉しそうに頷いた。


「特殊食材について書かれた本です。確か、『特殊食材と危険地域』という題名だったと思います」


「最初からそれを思い出してくれよ!」


 勝平が思わず声を上げる。


「すみません。今、思い出したので」


「まあ、思い出せたならいいじゃないか」


 優太はあっさり許した。


「で、その本はどこにあるんだ?」


「たぶん、あちらです」


 アリンが本棚の奥を指差す。


「たぶん?」


「昔読んだ本なので、場所までははっきり覚えていません」


「そこも忘れてるのか……」


 勝平が肩を落とした。


「大丈夫ですよ。探せば見つかります」


 アリンは自信たっぷりに歩き出した。


 その後ろを、四人がついていく。


 ところが、案内された本棚には、料理の本や農業の本が並んでいるだけだった。


「あれ?」


 アリンが首を傾げる。


「違いましたか?」


「アリン……」


 エリーの声が少し低くなった。


「もう少し先かもしれません」


 アリンは隣の棚へ移動した。


 そこには魔物の図鑑が並んでいた。


「この辺りでもないですね」


「アリン、もしかして本当に場所を忘れてるんじゃないか?」


 優太が尋ねる。


「そんなことありませんよ。少し記憶が曖昧なだけです」


「それを忘れてるって言うんだよ!」


 勝平の声が響きかけた、そのときだった。


「あっ、ありました!」


 ミッシェルが一冊の本を取り出した。


 表紙には、『特殊食材と危険地域』と書かれている。


「これで間違いありませんね」


「やりましたね、ミッシー!」


 エリーが嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます!」


「いえ。見つかって何よりです」


 ミッシェルは本をエリーに渡した。


 エリーはさっそくページを開く。


「ええと……特殊食材の生息地についても書かれていますね」


「どこだ? 筋肉にいい食材は!」


 優太が身を乗り出す。


「ちょっと、近いです!」


 エリーは本を抱え直し、該当する項目を探した。


「あっ、ありました。北の地域には、通常の食材よりも栄養価が高い特殊食材が存在すると書かれています」


「北か!」


 勝平が地図の載ったページを覗き込む。


「栄養価が高いなら、筋肉にもいいかもしれないな」


「まだ筋肉にいいと決まったわけではありませんよ」


「でも、試す価値はあるだろ?」


 優太の言葉に、勝平も頷いた。


「そうだな。実際に見つけて確かめるしかない」


「そうですね。北の町へ行けば、目的の食材が見つかるかもしれません」


 エリーも本を閉じた。


「よし、決まりだな!」


 優太が拳を握る。


「北へ行こう!」


「おう!」


 勝平も拳を握った。


「二人とも、図書館では静かにしてください!」


 司書の鋭い声が飛んできた。


 五人の動きがぴたりと止まる。


「す、すみません!」


 エリーが慌てて頭を下げた。


「すぐに出ます!」


「えっ、もう出るのか?」


 優太が本棚を見回した。


「まだほかにも食材の本があるぞ?」


「目的の本は見つかったでしょう!」


「でも、ほかにも筋肉にいい食材が――」


「続きは外で考えてください!」


 エリーは優太の腕を引いた。


「勝平さんも、アリンも、ミッシーも行きますよ!」


「はい」


「分かりました」


「かしこまりました、エリー様」


 こうして五人は、司書に見送られることもなく、王立図書館を後にした。


     ◇


 王立図書館の外。


 五人は、手に入れた情報を改めて確認していた。


「結局、北へ行けばいいんだな」


 優太が言う。


「はい。ただし、栄養価が高いというだけで、筋肉にいいかどうかは分かりません」


 エリーが念を押した。


「行ってみれば分かるだろ」


「そうですね。実際に確かめるのが一番です」


 勝平も納得した様子で頷く。


 アリンは本棚で迷子になったことなど忘れたように、穏やかに微笑んだ。


「無事に手がかりが見つかってよかったですね」


「アリンが思い出すまで、結構かかりましたけどね……」


 エリーが苦笑する。


「でも、アリンが読んだ本だったから見つかったんですよ。ありがとうございます」


「どういたしまして」


 アリンは嬉しそうに笑った。


 ミッシェルもエリーの隣で頷く。


「それでは、北の町へ向かう準備をいたしましょう」


「よし、そうと決まれば――」


 優太が歩き出そうとしたところで、勝平が肩をつかんだ。


「待て。北って、どっちだ?」


「……あっ」


 二人は顔を見合わせた。


 エリーはゆっくりと目を閉じた。


「……まずは地図を確認しましょう」


     ◇


 その頃、王城では――。


「まだ来ないのかぁぁぁぁぁぁ!!」


 国王の叫び声が、王の間に響き渡っていた。

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