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勇者を二人も召喚してしまいましたが、何故か二人とも上半身裸です。  作者: ネコ雲


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20/23

バナナゴリラと湖の姫様


 エリーが連れ去られた。


 その姿を追いかけようとした優太たちだったが、身体は思うように動かなかった。


 グラトンとの戦いから続く疲労が、四人の身体に重くのしかかっている。


 息は荒く、足は重い。


 それでも、遠ざかっていくエリーを放っておくわけにはいかなかった。


「くそ……!」


 優太が歯を食いしばる。


 先を走る魔物を睨みつけた。


「なんだあいつ!」


 勝平が叫ぶ。


 遠くでは、大きな猿のような魔物がエリーを連れて走っていた。


 筋肉質な身体。


 長い腕。


 そして何より目を引くのが、その頭に生えた大きなコブだった。


 黄色がかったそのコブは、まるで巨大なバナナのように頭の上から突き出している。


 アリンが目を細めて魔物を見つめた。


「あの特徴的なバナナみたいなコブ……」


「知ってるのか?」


 優太が聞く。


「はい」


 アリンは頷いた。


「あれはバナナゴリラです」


「……なんか見た目そのままだな」


 勝平がつまらなさそうに呟く。


「名前にもう少しひねりがあってもいいと思うけどな」


「名前なんて分かりやすければいいでしょう」


 アリンは平然と答えた。


 その時、優太が真剣な顔をする。


「猿型の魔物が女性を攫う理由は一つだ」


 アリンが興味深そうに優太を見る。


「どんな理由ですか?」


「それは――」


 優太は走りながら、バナナゴリラの姿を見つめた。


「花嫁にするためだ」


「……」


 アリンの目が少し輝いた。


「なるほど」


「そんなことを言っている場合ではありません!」


 ミッシェルが叫んだ。


 その顔には焦りが浮かんでいる。


「姫様をあんな奴に渡すわけにはいきません!」


 ミッシェルは残った力を振り絞るように、さらに速度を上げた。


「待ってくれ!」


 優太が叫ぶ。


「ミッシェル!」


 勝平も後を追う。


 アリンも杖を握り直して走り出した。


「仕方ありませんね」


 四人は必死にバナナゴリラを追いかけた。


 しばらく走ると、森の木々が途切れた。


 その先に、小高い丘が広がっている。


 丘の向こうから、風に乗って水の音が聞こえてきた。


「……あそこだ!」


 優太が指を差す。


 丘の先端。


 そこには、バナナゴリラとエリーがいた。


「姫様!」


 ミッシェルが叫ぶ。


 エリーの足には、太い蔦が何重にも巻きついていた。


「ミッシー!」


 エリーも四人の姿に気づく。


「助けてください!」


「今行きます!」


 ミッシェルが走り出す。


 優太と勝平、アリンも続いた。


 しかし――。


「うっ……」


 優太の身体が大きくよろめいた。


「くそ……」


 足に力が入らない。


 そのまま片膝をついた。


 隣では勝平も同じように膝をついている。


「……戦いの疲れが」


「こんな時に!」


 エリーが叫ぶ。


 ミッシェルも一瞬、足を止めた。


 息を整えようとするが、身体が言うことを聞かない。


「まだ……動けます」


 そう言いながらも、その声には疲労が滲んでいた。


 四人が動けないことを確認したバナナゴリラは、エリーの足に巻きついている蔦へ手を伸ばした。


「え?」


 エリーが振り返る。


 次の瞬間。


 バナナゴリラが蔦を掴み、大きく振り回した。


「きゃあああああ!」


 エリーの身体が宙を舞う。


 その先には、丘の下に広がる大きな湖があった。


「姫様ー!」


 ミッシェルが叫ぶ。


 ドボォン!


 エリーはそのまま湖へ落ちた。


 大きな水柱が上がる。


「エリー!」


 優太が湖を見る。


 しかし、身体が動かない。


 勝平も息を切らしながら湖を見つめる。


 すると、湖面からエリーが顔を出した。


「きゃああああ!」


 足にはまだ蔦が巻きついている。


 バナナゴリラは蔦を掴んだまま、エリーを湖の水面へ引っ張った。


 ズザザザザッ!


 エリーの身体が水面を滑っていく。


「きゃあああああ!」


 湖面を引きずられながら、エリーが悲鳴を上げる。


 まるで巨大なルアーのようだった。


 バナナゴリラは、まるで本当に釣りをしているかのように、エリーを湖の上で左右に振り回している。


「……」


 その光景を見つめていた勝平が、ぽつりと呟いた。


「エリー、なんか楽しそうだな」


「楽しそうじゃありません!」


 エリーが絶叫しながら叫び返す。


「バカなこと言ってないで助けてください!」


 必死に助けを求めるエリー。


 それでも勝平は、妙に感心した顔をしていた。


「流石エリーだな」


「何がですか!」


「あの状態からでも突っ込みがくるとは」


「褒めてる場合じゃありません!」


 エリーがさらに叫ぶ。


 優太も湖面を見ながら、真顔で呟いた。


「エリーは猿に振られたか」


「……」


「何と不憫な」


 そう言って、優太は笑った。


「笑ってる場合じゃありません!」


 エリーの叫び声が湖に響く。


 その様子を見ていたミッシェルが、ついに声を荒らげた。


「バカなことを言ってないで、早く姫様を助けてください!」


「分かってる!」


「今行く!」


 二人が立ち上がろうとする。


 しかし、足元はまだふらついている。


 ミッシェルは二人を見て、ぎゅっと拳を握った。


 自分も限界だった。


 それでも――。


「二人とも!」


「え?」


「姫様を助けてください!」


 ミッシェルは残された力をすべて使い、二人の背中を思い切り蹴り飛ばした。


「うおおおお!」


「うわあああ!」


 優太と勝平が前へ吹き飛ぶ。


 ミッシェルは二人を蹴り飛ばしたところで、とうとう力尽きた。


「……はぁ……」


 その場に倒れ込む。


「ミッシェル!」


 優太が振り返る。


「私は……もう……」


 ミッシェルはそのまま地面に伏せた。


 一方、吹き飛ばされた二人は地面を転がり、しばらく動かなかった。


 やがて、二人がゆっくりと立ち上がる。


 そして拳を握った。


「筋肉ー!」


「筋肉ー!」


 二人が叫ぶ。


「何で今それなんですか!」


 エリーが湖の上から叫ぶ。


 しかし二人は気にしない。


 そのままバナナゴリラへ向かって走り出した。


「行くぞ!」


「おう!」


 その時だった。


 湖の中から、大きな影が現れた。


「……ん?」


 優太が足を止める。


 湖面が大きく揺れている。


 やがて、水面下を巨大な影が泳いでいるのが見えた。


「なんだ……あれ」


 勝平も目を凝らす。


 巨大な魚だった。


 しかも、その魚はエリーを追いかけるように泳いでいる。


「エリー!」


 勝平が叫ぶ。


「何ですか!?」


「後ろ!」


「え?」


 エリーが振り返る。


 次の瞬間、巨大な魚が水面から一気に迫ってきた。


「きゃああああ!」


 エリーの顔が引きつる。


「食べられるー!」


 ガブッ!


 巨大な魚がエリーに食いついた。


「きゃあああああ!」


 エリーの身体が魚の口へ飲み込まれていく。


 そして――。


 丸ごと、消えた。


「エリーが食べられたー!」


 優太が叫ぶ。


「姫様ー!」


 ミッシェルも地面に伏せたまま叫んだ。


 その一方で、バナナゴリラは魚がかかったことに気づいた。


 蔦を掴み直す。


 そして、魚を釣り上げようと力いっぱい引っ張った。


「今だ!」


 勝平が叫ぶ。


「スピードブースト!」


 スキルの力によって、勝平の身体が一気に加速する。


「うおおおお!」


 地面を蹴り、その勢いのままバナナゴリラへ飛び込んだ。


「ドロップキック!」


 ドゴォン!


 勝平の両足がバナナゴリラの身体に直撃する。


「ウホォッ!」


 バナナゴリラが吹き飛んだ。


 その衝撃で、握っていた蔦が手から離れる。


「今だ!」


 優太が叫んだ。


「パワーブースト!」


 優太が蔦を掴む。


「うおおおお!」


 さらに勝平も蔦を掴んだ。


「俺も手伝う!」


 二人が力を合わせる。


 蔦の先には、エリーを飲み込んだ巨大な魚がいる。


「せーの!」


「おりゃあああ!」


 二人が一気に引っ張った。


 ズルズルズルッ!


 魚の巨体が少しずつ湖から引きずり出されていく。


「よし!」


 優太が叫ぶ。


 最後の力を振り絞り、二人は巨大な魚を陸へ引き上げた。


「はぁ……はぁ……」


 その場に二人とも倒れ込む。


 そこへ、ミッシェルが這いつくばりながら魚へ近づいていく。


「姫様……」


 巨大な魚は地面の上でピチピチと跳ねている。


 ミッシェルはその魚を見つめた。


「姫様……どこですか……」


 すると――。


 パカッ。


 魚の口が開いた。


「……?」


 ミッシェルが目を見開く。


 次の瞬間。


「ぶはっ!」


 魚の口から、べちゃべちゃになったエリーが飛び出してきた。


「姫様!」


 ミッシェルが駆け寄る。


「ミッシー……」


 エリーはそのままミッシェルに抱きついた。


「死ぬかと思いました……」


「姫様!」


 ミッシェルはエリーを強く抱きしめる。


 そこへ、アリンと優太、勝平もよろよろと歩いてきた。


「エリー、生きててよかった……」


 優太が安堵の息を吐く。


「本当だな」


 勝平も息を切らしながら頷く。


 その横では、巨大な魚がまだピチピチと跳ねている。


 アリンは魚を見た。


 それからエリーを見る。


 そして、何も言わずに杖を向けた。


「クリーン」


 淡い光がエリーを包み込む。


「……?」


 突然、身体を綺麗にされたエリーが首を傾げた。


「アリンさん?」


 アリンは少しだけ目を逸らす。


「……気にしないで下さい」


「え?」


 エリーは不思議そうな顔をした。


 その時だった。


 優太と勝平が、エリーをじっと見ていることに気づいた。


「……何ですか?」


 エリーが二人を見る。


 優太は無表情で呟いた。


「なんか色々とすけてるぞ」


「えっ!」


 エリーが慌てて身体を隠す。


 勝平が手を振った。


「隠さなくても大丈夫だ。興味ないから」


「……」


 エリーの動きが止まった。


 そして――。


 ゴンッ!


「痛ぇ!」


 勝平の頭に、エリーの拳骨が落ちた。


「何で俺まで!」


 優太が驚く。


「あなた達!」


 エリーが凄い形相で二人に詰め寄った。


「私が湖に投げられた後も、沢山バカなこと言ってましたよね!」


「そんなことないぞ!」


 優太が必死に言い訳する。


「とても心配したんだぞ!」


「そうだぞ!」


 勝平も必死に頷く。


「めちゃくちゃ心配してた!」


 エリーは二人をじっと見る。


 そして――。


 にっこり笑った。


「そうですか」


「……」


「心配してくれてたんですね」


「はい」


「そうだぞ」


 二人は無言で頷いた。


 エリーは笑顔のまま続けた。


「そういえば……」


「……ん?」


「今日、何回『筋肉』と言いましたか?」


 二人の顔が固まる。


「……」


「……」


「禁止にしていたはずですよね?」


「いや、それは……」


 二人がゆっくり後ずさる。


 エリーは笑顔のまま言った。


「今日のこと、私への借り。さらに二倍で許してあげます」


「えっ!」


「待て!」


 優太が叫ぶ。


「けど、助けたの俺達だぞ!」


 勝平も抗議する。


「そうだ! 横暴だ!」


 エリーは首を傾げた。


「そうですか?」


 そして、クスリと笑う。


「じゃあ――」


 二人の顔が引きつる。


「さらに二倍ですね」


「…………」


「…………」


 優太と勝平は、絶望の表情を浮かべた。


 その横で――。


「ピチピチ」


 巨大な魚が跳ねている。


 その光景を見ながら、五人の間にしばし妙な沈黙が流れた。


 だが、その静けさは長く続かなかった。


「……ウホォ」


 遠くから、低い声が聞こえた。


「……え?」


 エリーが振り返る。


 崖の下。


 そこから、ゆっくりと何かが這い上がってくる。


「まさか……」


 優太が呟いた。


 巨大な手が崖の縁を掴む。


 そして――。


 バナナゴリラが、崖を這い上がってきた。


「ウホォォォ……!」


「……」


 五人が固まる。


 バナナゴリラはゆっくりと立ち上がった。


 その頭には、特徴的なバナナのようなコブ。


 そして、その目は五人を睨みつけている。


「……まだやる気かよ」


 優太が拳を握る。


「さすがに疲れたぞ……」


 勝平も構える。


 ミッシェルはエリーを守るように前へ出る。


 アリンも杖を握り直した。


 エリーも身構える。


「……みんな」


 五人の前で、バナナゴリラが大きく胸を張る。


 そして――。


「ウホォォォォォッ!」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

ブクマと評価していただけると嬉しいです。

他にも何作品か投稿しています。皆様が一作品でも面白いと思って頂ける作品があれば幸いです。

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