勇者食料になる?
肉ウサギとの戦いを終えた五人は、そのままダンジョンを進み、三層までやって来た。
「今日はここで休みましょう」
エリーがそう言うと、五人は少し広い場所を見つけ、そこで野営することにした。
「腹減ったな」
「俺も」
優太と勝平が同時に言う。
「そうですね。肉ウサギもありますし、食べましょうか」
エリーが答える。
すると、アリンが肉ウサギを取り出した。
「では、解体しますね」
「頼む」
「お願いします」
アリンは杖を構えた。
「アリン98の秘技――ディセクション」
次の瞬間、肉ウサギの皮と肉と骨が、見事なまでに分けられていく。
「相変わらず凄いな」
「グロいけど」
「グロいけど便利だな」
二人が感心すると、アリンが頬を膨らませた。
「……もう解体しませんよ」
「悪かったって」
「ごめんごめん」
二人がすぐに謝る。
しかし、優太がふと思い出した。
「けど前に解体した時、アリン98の秘技じゃなかったよな」
「……お二人が聞いてなかっただけです」
「聞いてなかっただけか」
「そういうことだな」
二人はあっさり納得した。
アリンは二人に聞こえないように小さく息を吐いた。
「フゥー……二人が単純で助かりました」
「ん? 何か言った?」
「なんでもありません」
その後、アリンがファイアで火を起こし、五人は肉ウサギを焼いて食べた。
「うまい!」
「やっぱり肉はいいな!」
優太と勝平は次々と肉を口に運んでいく。
エリーとミッシェル、アリンは、その食べる量に呆れていた。
「二人とも、本当によく食べますね」
「まあ、腹が減ってるからな」
「肉だからな」
「理由になってませんよ」
エリーが苦笑する。
やがて食事を終えると、五人はそれぞれ休むことにした。
その前に、エリーがミッシェルへ声をかける。
「そういえばミッシー、二人への言葉遣いどうしたんですか?」
「姫様、二人に丁寧に喋るのはバカらしいと思いまして」
「俺達、今バカにされた?」
優太が勝平を見る。
「そうかもしれないな」
「まあ~いいか」
「いいのかよ」
勝平が呆れる。
エリーは思わず笑った。
そして五人は眠りについた。
翌朝。
「おはようございます」
五人は起きると、荷物をまとめて再びダンジョンを進み始めた。
四層へ下りたところで、景色が大きく変わった。
「……何だ、ここ」
優太が立ち止まる。
目の前には、巨大なキノコが無数に生えていた。
床だけではない。
壁にも、天井にも、大小様々なキノコがびっしりと生えている。
「すごいですね……」
エリーが辺りを見回す。
「道が分かりませんね」
ミッシェルも警戒する。
「まあ、俺たちなら迷わないだろ」
優太が胸を張る。
「そうですね。さっきから同じ場所を三回通っていますけど」
「……」
エリーの言葉に、優太と勝平が黙りこみ、話しをそらした。
「このキノコ、全部食べられるのか?」
勝平がキノコを見ながら言った。
「さあな」
「でも、食べられるなら採っていこうぜ」
二人はさっそくキノコを採り始めた。
「ちょっと! 勝手に採って大丈夫なんですか?」
エリーが止める。
「大丈夫だろ」
「たぶん」
「たぶんで採らないでください!」
アリンがキノコを見ながら言った。
「食べられるものもありますが、全部が食べられるわけではありませんよ」
「じゃあ食べられるやつだけ採ればいいんだな」
「そういうこと――」
アリンが言い終わる前に、優太が大きなキノコを手に取った。
「……ん?」
優太が鼻を動かした。
「このキノコ、松茸のお吸い物みたいな匂いがするぞ」
「本当か?」
勝平も近づいて匂いを嗅ぐ。
「……本当だ。なんか美味しそうな匂いだな」
「だろ?」
二人の目が輝く。
「これも採ろうぜ!」
「おう!」
二人はさらにキノコを採り始めた。
すると――。
ボフッ!
キノコの傘から白い胞子が吹き出した。
「うわっ!」
二人が慌てて離れる。
だが、胞子は一つだけではなかった。
ボフッ!
ボフッ!
ボフッ!
辺りのキノコから次々と胞子が吹き出していく。
「みんな、下がって!」
エリーが叫ぶ。
しかし、逃げる前に優太、勝平、ミッシェル、アリンが胞子を吸い込んでしまった。
「ゴホッ!」
「なんだこれ!」
「……っ!」
アリンも咳き込む。
エリーだけは、少し離れていたため無事だった。
「大丈夫ですか、みんな!」
「大丈夫……だ」
優太が答えた。
その直後だった。
優太の身体が勝手に動いた。
「うわっ!」
拳が勝平へ飛んでいく。
「痛ぇ!」
勝平も反射的に腕を動かし、優太へ攻撃してしまう。
「お前、何してんだ!」
「お前こそ!」
二人は互いに殴り合う。
「ちょっと、やめてください!」
エリーが叫ぶ。
だが、二人の身体は言うことを聞かない。
さらに――。
ミッシェルの身体まで動いた。
「姫様、離れてください!」
そう言いながら、ミッシェルの拳が優太へ飛んでいく。
「痛ぇ!」
「ミッシェルまで!」
勝平が叫ぶ。
ミッシェルは止めようとする。
しかし、身体は勝手に動き続ける。
「やめろ!」
「俺は何もしてないぞ!」
「私だってしてません!」
それでも身体が止まらず、優太と勝平へのミッシェルからの攻撃がさらに激しくなる。
「おい勝平!」
「なんだ!」
「これ、ミッシェルわざとじゃないか?」
「俺もそう思ってた!」
二人が叫ぶ。
エリーがミッシェルを見る。
「ミッシー、こんな時ふざけてる場合じゃないですよ!」
「姫様違いますぅー!」
ミッシェルが必死に叫ぶ。
しかし、その身体は勝手に優太たちへ向かっていく。
「だから違いますって!」
ミッシェル自身も泣きそうな顔になる。
「避けて下さい!」
後方からアリンが大声で叫んでいる。
「え?」
三人が振り返る。
アリンの杖から、巨大な炎が生まれていた。
「ちょっと待て!」
「アリン!」
「私も止められません!」
アリンの身体は勝手に杖を振り下ろす。
「インフェルノ!」
巨大な炎が一気に前方へ放たれた。
「うわあああ!」
三人は必死に横へ飛び退く。
直後、目の前を凄まじい炎が通り過ぎた。
巨大なキノコが次々と炎に包まれていく。
「殺す気か!」
優太と勝平が叫ぶ。
「ごめんなさい! 身体が言うことききません!」
アリンも叫ぶ。
炎はキノコの森を焼き払い、辺りに充満していた白い胞子まで焼き尽くしていった。
やがて炎が消える。
そこには、焼け焦げたキノコが大量に転がっていた。
アリンが周囲を確認する。
「……今ので胞子が消えました」
「本当か?」
「はい。あの胞子には、吸い込んだ生き物の身体を思い通りに動かせなくする効果があります」
「だから身体が勝手に動いたのか……」
「そういうことです。ですが、胞子が消えたので、身体もじきに治ります」
「よかった……」
エリーが胸を撫で下ろす。
その横で、優太と勝平が立ち上がった。
「治った!」
「俺も!」
超回復によって、二人の身体はすぐに元へ戻った。
「じゃあ、逃げましょう!」
エリーが言った。
「二人とも、アリンとミッシェルを抱えて逃げますよ!」
「分かった!」
優太はアリンを抱え上げる。
「えっ、ちょっと――」
「勝平、ミッシェルを頼む!」
「おう!」
勝平はミッシェルを抱え上げた。
「姫様! 私はもう大丈夫です!」
「今は走るほうが先です!」
「はい!」
五人は一気に走り出した。
後ろでは、焼け残ったキノコの間から魔物たちが追いかけてくる。
「まだ追ってきてるぞ!」
「走ってください!」
五人はキノコの森を抜ける。
そして――。
「……抜けたか?」
優太が振り返る。
目の前には、焼けたキノコの森とは違う広い空間が広がっていた。
しかし。
「グルルル……」
低い唸り声が響いた。
五人がゆっくり前を見る。
そこには、巨大な四足の魔物が立っていた。
鋭い牙。
太い脚。
虎のような巨大な身体。
その目は、五人を獲物として見ている。
アリンが息を呑んだ。
「……グラトン」
「グラトン?」
勝平が聞き返す。
「人間を食べるタイプの魔物です」
「……人間を?」
優太がグラトンを見る。
グラトンが一歩踏み出す。
ドンッ。
地面が揺れた。
「これ……戦えるか?」
「無理じゃないか?」
二人が顔を見合わせる。
その背後からは、まだキノコの魔物たちが迫ってきている。
「前にも後ろにも魔物……」
エリーが青ざめる。
「どうするんだよ!」
優太が叫んだ。
その時――。
「お前ら、何を連れてきたんだ!」
聞き覚えのある声が響いた。
五人が振り返る。
そこにいたのは、町の酒場で出会った三人の冒険者だった。
「お前ら!」
「なんでここに!」
三人の冒険者はグラトンを見る。
そして、すぐに状況を理解した。
「お前らは右へ走れ!」
「え?」
「こいつは俺たちが引き受ける!」
三人は武器を構えた。
グラトンが咆哮する。
「来るぞ!」
一人が前へ飛び出した。
グラトンの注意を引きつけ、横へ走る。
「今だ!」
二人目が足元の石を蹴り飛ばす。
石が別方向へ飛び、グラトンの視線がそちらへ向く。
「こっちだ!」
三人目が地形を確認しながら叫ぶ。
「岩場へ誘導しろ!」
一人目がグラトンを引きつけ、二人目が進路を変え、三人目が逃げ道を作る。
三人は一切慌てることなく、グラトンを岩場へ誘導していく。
「すげえ……」
優太が呟く。
「俺たちより、ずっと落ち着いてるな」
勝平も驚く。
「この三人……かなり強いですね」
ミッシェルが言った。
「そうですね」
アリンも頷く。
「経験の差ってやつか……」
優太が呟く。
やがて三人はグラトンを岩場の奥へ誘導し、五人から引き離すことに成功した。
「これくらいは冒険者ならな!」
一人が胸を張る。
五人は三人へ駆け寄った。
「助けてくれてありがとうございます!」
エリーが頭を下げる。
すると――。
三人の冒険者が固まった。
「……姫様」
「はい?」
「……いえ、何でもありません」
三人は一歩、エリーから距離を取った。
「……?」
エリーが首を傾げる。
ミッシェルは、その様子を見て小さく笑った。




