食料ダンジョン
北の町にあるダンジョン。
その入口には、大きな看板が立っていた。
『食料ダンジョン』
その下には、別名まで書かれている。
『あなたが食料? それともあなた?なダンジョン』
「…………」
五人は、しばらく看板を見つめていた。
「……恐ろしいダンジョンだな」
優太が真剣な顔で言う。
勝平も頷いた。
「なんか、食べる側と食べられる側が分からない感じがするな」
「でも食料がいっぱいあるんだろ?」
「楽しみだな!」
優太と勝平は、そんなことを言いながら普通にダンジョンへ入っていった。
「……あの二人、全然怖がってませんね」
エリーが呆れたように呟く。
「いつものことです」
ミッシェルもため息をつきながら、エリーとアリンの後を追った。
ダンジョンの中は、広い天然洞窟になっていた。
壁や天井には自然にできた岩肌が広がり、ところどころに魔法の明かりが灯っている。
まだ浅い階層ということもあり、雰囲気としては比較的普通のダンジョンだった。
しばらく進んだところで――。
「いた!」
優太が声を上げた。
前方を、大きなウサギが走っている。
「ウサギだ!」
「あれは肉ウサギですね」
アリンが説明してくれる。
普通のウサギより一回りどころか、かなり大きい。
しかも、その肉は非常に美味しいことで知られている。
「待てー!」
優太が走り出す。
「逃がすか!」
勝平も続く。
二人は剣を持ったまま、肉ウサギを追いかけ始めた。
「ちょっと! 待ってください!」
エリーが呼び止める。
しかし、二人は止まらない。
「速いな、こいつ!」
「絶対うまいぞ!」
「そこなんですか……」
ミッシェルが呆れている間にも、二人はどんどん先へ進んでいった。
「……あれ?」
エリーが足を止めた。
いつの間にか、別の肉ウサギが近づいてきていた。
「かわいい……」
エリーがそう呟いた瞬間。
肉ウサギが、エリーへ向かって飛びかかった。
「えっ!?」
エリーは反射的に手を前へ出す。
「バリア!」
光の壁が目の前に現れる。
しかし――。
肉ウサギは、バリアへ突っ込む直前に身体をひねった。
「えっ、避けた!?」
エリーが驚く。
そのまま肉ウサギは、エリーの横を通り過ぎた。
「ちょ、ちょっと!」
エリーが振り返った瞬間、別の肉ウサギが横から飛び込んでくる。
「きゃっ!」
エリーは慌てて飛び退く。
しかし、着地した場所にも別の肉ウサギがいた。
「えっ!? ちょっと待ってください!」
三匹の肉ウサギが、一斉にエリーへ飛びかかる。
「きゃあああ!」
一匹が服に飛びつく。
「離してください!」
エリーが引き離そうとするが、その隙に別の一匹が足元へ飛び込んできた。
「わっ!」
バランスを崩したエリーの身体へ、さらに肉ウサギが飛びつく。
「ちょっと! なんなんですか、この子たち!」
エリーは必死に肉ウサギを振りほどこうとする。
だが、肉ウサギたちは離れない。
服を引っ張り、足元を走り回り、身体へ飛びついてくる。
「もう! やめてください!」
エリーが逃げようとしたところへ、また一匹が飛びついた。
「きゃあああ!」
「姫様!」
ミッシェルがすぐに飛び込んだ。
「このっ!」
迫ってきた肉ウサギを、剣の柄で叩き落とす。
続けて横から飛びかかってきた一匹を、身体をひねってかわす。
「そこ!」
ミッシェルが剣を振り抜く。
肉ウサギは地面を転がった。
その直後、背後から別の一匹がエリーへ向かって飛びかかる。
「させるか!」
ミッシェルが身体を割り込ませ、剣で弾き飛ばした。
ようやく肉ウサギたちが離れていく。
「……大丈夫ですか、姫様」
ミッシェルが息を整えながら振り返る。
エリーは、その場に座り込んでいた。
「……助かりました」
エリーは自分の服を見る。
あちこちが引っかかれ、ボロボロになっていた。
「……服が」
「申し訳ありません」
ミッシェルが心配そうに見る。
「ミッシーのせいじゃありませんよ」
その横でアリンもエリーを見る。
「……大変でしたね」
そして三人は、ふと気づいた。
「……あれ?」
「どうしました?」
エリーが辺りを見回す。
「優太様と勝平様は?」
「……いませんね」
ミッシェルも周囲を見る。
アリンが少し考える。
「それなら――」
杖を取り出した。
「アリン98の秘技――サーチ」
魔力が広がっていく。
アリンは目を閉じ、二人の位置を探る。
「……見つけました」
「どこですか?」
「かなり奥です」
アリンが指を向けた。
「行きましょう」
三人は、優太と勝平のいる場所へ向かった。
その頃――。
「待てー!」
「逃げるなー!」
優太と勝平は、肉ウサギを追いかけていた。
肉ウサギは洞窟の奥へ、奥へと逃げていく。
「こいつ、どこまで逃げるんだ?」
「知らん! でも絶対に捕まえるぞ!」
しかし――。
二人は気づいていなかった。
肉ウサギが、わざと二人を誘導していることに。
やがて二人は、洞窟のさらに奥へと入り込んだ。
「……あれ?」
優太が足を止める。
「どうした?」
勝平も周囲を見る。
すると――。
大量の肉ウサギが、二人を取り囲んでいた。
「…………」
「…………」
二人が固まる。
「……多くないか?」
「多いな」
正面にもいる。
左右にもいる。
そして、後ろにも。
逃げ道は完全に塞がれていた。
一匹の肉ウサギが、地面を蹴る。
「来るぞ!」
優太が剣を構えた。
次の瞬間――。
左右から同時に肉ウサギが飛びかかってくる。
「おらっ!」
優太が剣を横薙ぎに振り、一匹を弾き飛ばす。
「こっちもだ!」
勝平がもう一匹を斬り払う。
だが、倒れた肉ウサギの後ろから、さらに三匹が飛び出してきた。
「まだ来るのかよ!」
勝平が剣を振り上げる。
頭上から飛びかかってきた一匹を斬り落とし、横から迫ったもう一匹を剣の腹で弾く。
「優太、右!」
「任せろ!」
優太が振り向きざまに剣を振る。
肉ウサギが吹き飛んだ。
しかし、その直後――。
「ぐっ!」
別の一匹が、優太の腕に噛みついた。
「痛っ!」
優太が腕を振る。
肉ウサギが地面へ転がった。
「大丈夫か!?」
「大丈夫だ!」
優太は自分の腕を見る。
噛み跡は残っている。
だが、深くはない。
「……あれ?」
優太が首を傾げる。
「どうした?」
「これ、筋肉で止まってるぞ」
「マジかよ!」
勝平が自分の腕を見せる。
「俺もだ!」
だが、安心する暇はなかった。
「うおっ!」
今度は三匹が同時に飛びかかってくる。
優太と勝平は背中合わせになった。
「囲まれてるな」
「ああ」
「じゃあ――」
「まとめて倒す!」
二人が同時に踏み込む。
剣が左右から振り抜かれ、肉ウサギが次々と吹き飛んでいく。
一匹。
二匹。
三匹。
何匹かを倒すことには成功した。
だが――。
「まだいる!」
勝平が叫ぶ。
倒した数よりも多い肉ウサギが、二人を取り囲んでいる。
「くそっ!」
優太が剣を構え直す。
その瞬間、背後から肉ウサギが飛びかかってきた。
「後ろ!」
勝平が叫ぶ。
優太が振り返る。
だが、間に合わない。
「うおっ!」
肉ウサギが優太の胸元へ飛びついた。
服が引き裂かれる。
「筋肉は無事なのに!」
優太が叫ぶ。
「服ばっかり壊されるぞ!」
勝平の服も、すでに何ヶ所も破れていた。
「こいつら、筋肉じゃなくて服を狙ってるのか!?」
「そんなわけないだろ!」
そう言っている間にも、肉ウサギたちは次々と飛びかかってくる。
剣で弾く。
蹴り飛ばす。
腕で受ける。
それでも、数が減らない。
「多すぎるだろ!」
「どうなってるんだ、このダンジョン!」
二人が必死に応戦しているところへ――。
「いました!」
エリーたち三人が到着した。
「……多いですね」
エリーが目を丸くする。
そして、ボロボロになった二人を見る。
ミッシェルは状況を見渡した。
「……あの二人、肉ウサギの罠にはまりましたね」
「呑気に解説してる場合じゃないですよ!」
エリーが焦る。
その横で、アリンが一歩前へ出た。
「私に任せてください」
「アリン?」
「アリン98の秘技――メタモルフォーゼ」
アリンの身体が光に包まれる。
次の瞬間――。
そこにいたのは、小さなアリンではなかった。
巨大な蛇。
巨大な身体を持つ、マンモススネークへと姿を変えていた。
「きゃあああああ!」
「きゃあああああ!」
エリーとミッシェルが悲鳴を上げる。
「肉ウサギの天敵なので――」
アリンが説明しようとする。
しかし、二人の悲鳴を聞いた肉ウサギたちと優太、勝平が一斉に振り向いた。
「なんだあれ!?」
「エリーたちが襲われてる!」
肉ウサギたちは巨大な蛇を見て、一斉に逃げ出した。
しかし優太と勝平は違った。
「エリーたちを襲ってるのか!」
「助けるぞ!」
二人が巨大なマンモススネークへ飛びかかる。
「えっ!?」
アリンが驚く。
二人が迫ってきた瞬間――。
「ちょっとまって、きゃっ!」
アリンは反射的に変身を解除した。
巨大だったマンモススネークの姿が、一瞬で消える。
そして、そこに小さなアリンが戻った。
「え?」
優太と勝平の身体は、もう止まれない。
「危ない!」
「ぶつかるー!」
「きゃあ!」
ドンッ!
アリンを下敷きにして、二人が地面へ倒れ込んだ。
「……うぅ」
アリンが呻く。
「重たいです……」
小動物のような声だった。
「はっ!」
エリーとミッシェルも、ようやく正気に戻る。
「二人とも、早く起きてください!」
「アリンさん、大丈夫ですか!」
二人を起こし、その下からアリンを引っ張り出す。
アリンは涙目になりながら、二人を見る。
「私……はじめて男性に襲われました……」
「違う!」
優太が必死に弁明する。
「あれはエリーたちが襲われてると思ったんだ!」
「そうそう!」
勝平も頷く。
「大きな蛇を襲う趣味とかないから」
ミッシェルが勝平の頭をコツンとはたいた。
「勝平、何かそれは違うぞ」
「え?」
勝平が頭を押さえる。
「そもそも二人がキャーとか悲鳴をあげるのが悪いんだろ」
勝平がエリーとミッシェルを見て抗議する。
「特にミッシェル、お前だ」
「私?」
「騎士のくせして『キャー』とはなんだ」
ミッシェルの顔が少し赤くなる。
「……しょうがないだろ」
「え?」
「私にだって苦手なものはある」
ミッシェルが少し恥ずかしそうに顔を逸らす。
それを見た優太が笑う。
「確かにミッシェルの『キャー』は可愛かったぞ」
「……!」
ミッシェルの顔が一気に赤くなる。
それを見たエリーが、楽しそうに笑った。
「ホントですね。ミッシー、顔を赤くして可愛いです」
「もう、姫様まで……」
ミッシェルは、さらに顔を赤くした。
「あれ? 私、忘れられてますか?」
アリンが一人ポツンと立っている。




