いざダンジョンへ
エリーたちの食事が終わっても、優太と勝平、そして三人の冒険者は、まだ店の中で正座をさせられていた。
五人とも黙ってエリーの前に座っている。
やがてエリーが満足そうに頷いた。
「優太様、勝平様。そろそろ帰りましょうか」
「はい!」
「はい!」
二人は勢いよく立ち上がった。
その様子を見ていたミッシェルが、少しだけ呆れた顔をする。
「……姫様」
「どうしました?」
「服を渡してもよろしいですか?」
「はい。もう十分でしょう」
エリーは笑顔で答えた。
「ミッシー、二人に服を渡してあげてください」
「承知しました」
ミッシェルは持っていた服を二人に差し出した。
「お二人の服です」
「おおっ!」
優太が服を受け取る。
「やっとか!」
「助かった……」
勝平も嬉しそうに服を受け取った。
二人は急いで服を着る。
上着を羽織った瞬間、優太が深く息を吐いた。
「……暖かい」
「服ってすげえな」
勝平も腕を広げる。
「今まで当たり前だと思ってたけど、服って偉大だったんだな」
「何で服を着るだけで、そんな感動してるんですか」
エリーが笑う。
「いや、本当に寒かったんだぞ」
「そうだぞ。俺たち、ずっと上半身裸だったんだから」
「それは二人が勝手に裸だっただけでしょう」
「……そうだったな」
優太と勝平は顔を見合わせた。
「俺たち、ずっと裸だったな」
「そうだな」
「何でだ?」
「知らん」
エリーは思わず笑った。
「ふふっ」
五人は店を出る。
扉が閉まると、店の中には三人の冒険者だけが残った。
しばらく誰も動かなかった。
「……もう立っていいのか?」
「たぶん」
「本当に?」
三人は恐る恐る立ち上がった。
ようやく自由になった。
そして、三人は顔を見合わせる。
「……お姫様、怖かったな」
「そうだな」
「絶対に逆らわないようにしよう」
三人は深く頷いた。
その頃、店を出た五人は宿へ向かって歩いていた。
服を着た優太と勝平は、さっきまでとは別人のように元気になっている。
「やっぱり服があると全然違うな」
「寒さが普通に耐えられる」
「最初から着ていればよかったのでは?」
エリーが言う。
「それはそうなんだけど……」
優太はミッシェルを見る。
「なあ、ミッシェル」
「何でしょう?」
「何であんなに服を渡してくれなかったんだ?」
「……旅の間に色々ありましたから」
「まだ根に持ってたのか」
「当然です」
ミッシェルは即答した。
「蜂の件も、沼の件も、夜の件も、魔法の件も忘れていませんから」
「……すみません」
「……俺も」
二人は素直に謝った。
その様子を見ていたアリンが、くすっと笑う。
「二人とも、今日は素直ですね」
「俺たちだって反省するときは反省するんだよ」
「そうだぞ」
「では、これからもお願いしますね」
「おう」
「任せろ」
そんな会話をしながら、五人は宿へ戻った。
宿の部屋に入ると、優太が椅子に座った。
「そういえば……」
「どうした?」
勝平が聞く。
「俺たち、ダンジョンの情報を集めに行ったんだったよな?」
「……」
「……」
二人とも黙った。
エリーが振り返る。
「そうですよ」
「完全に忘れてた」
「俺もだ」
「何をしていたんですか?」
「肉を食ってた」
「酒も飲んでたな」
「楽しそうでしたね」
エリーが笑顔で言う。
二人は目を逸らした。
「……はい」
ミッシェルがため息をつく。
「幸い、私は町である程度の情報を集めておきました」
「本当か?」
「はい。ダンジョンはこの町の近くにあります。冒険者も多く出入りしているようです」
アリンも頷く。
「かなり大きなダンジョンみたいですね」
「じゃあ、明日行くか」
優太が言う。
「そうですね」
エリーも頷いた。
すると、勝平がふと思い出したように言った。
「……でも、食事代」
「食事代?」
「エリーにツケにされたやつ」
部屋の空気が止まった。
エリーがにっこり笑う。
「そうでしたね」
「……」
「二倍ですよ」
「今から行くか?」
優太が立ち上がった。
「今から?」
勝平も立ち上がる。
「今からだ」
「もう夕方ですよ?」
「関係ない」
「食事代が二倍ですからね」
「行こう」
「行くしかないな」
二人の決断は早かった。
エリーたちも準備を整える。
こうして五人は、宿を出てダンジョンへ向かうことになった。
町を出ると、雪の積もった道が続いていた。
しばらく歩くと、遠くに大きな岩山が見えてくる。
その麓には、暗い穴のような入口がぽっかりと口を開けていた。
「……あれがダンジョンか」
優太が立ち止まる。
「思ってたより本格的だな」
勝平も入口を見つめる。
エリーが二人の横に並んだ。
「ここから先は、気をつけてくださいね」
「分かってる」
ミッシェルも剣に手を添える。
「何が出てくるか分かりません。油断しないでください」
「はい」
アリンも杖を握った。
五人は顔を見合わせる。
今までの旅とは、少し違う空気だった。
優太が一歩前へ出る。
「じゃあ、行くか」
「おう」
「はい」
「ええ」
「行きましょう」
五人は並んで、暗いダンジョンの入口へ足を踏み入れた。




