ボアクッキング
改めて読みなおして面白くなかったり、おかしな所一話から修正してます。
北へ向かう旅、二日目。
五人は朝から街道を歩いていた。道の両脇には草原が広がり、遠くには山々が連なっている。
「北の町までは、あと五日ですね」
アリンが地図を確認した。
「五日か。一週間の旅って、結構長いな」
優太が空を見上げる。
「まあ、急ぐ必要もないでしょう。旅を楽しみながら行きましょう」
エリーの言葉に、勝平が頷いた。
「そうだな。せっかく異世界に来たんだし、のんびり行こうぜ」
「いいこと言うな、勝平」
「だろ?」
「……二人とも、そういうところは気が合うんですね」
エリーが苦笑した。
「そういえば、昨日のボアは今日食べられるんだよな?」
優太がアリンに尋ねる。
「はい。魔法で保存してありますよ」
「よし、今夜が楽しみだな!」
優太と勝平の足取りが、少しだけ速くなった。
「食事の話になると元気ですね……」
エリーは呆れながらも、二人の後を追った。
◇
昼過ぎ、五人は街道脇の大きな木の下で休憩を取った。
水を飲み、一息ついたところで、優太が空を見上げる。
「こうして休んでると、本当に旅をしてるって感じがするな。召喚されたときは、こんなことになるなんて思わなかった」
「私もです。まさか異世界から来た勇者と一緒に旅をするなんて」
エリーは三人を見回し、ふっと笑った。
「でも、思っていたより楽しいです」
「だろ? これからもっと楽しくなるさ」
「はい。そうだといいですね」
ミッシェルは、楽しそうに話すエリーを見て微笑んだ。
「姫様が楽しそうで何よりです」
「ミッシー、ありがとうございます」
「私は姫様の護衛ですから」
短い休憩を終え、五人は再び北へ向かった。
◇
夕方。
「今日はここまでにしましょう。町はまだ先です」
ミッシェルの提案で、五人は街道から少し離れた場所で野営することにした。
木々に囲まれた開けた場所。風も穏やかで、休むにはちょうどよさそうだ。
「よし、テントを張るか!」
優太が意気込む。
「ありません」
エリーが即答した。
「……寝袋は?」
「ありません」
「何もないじゃねえか!」
勝平が頭を抱えた。
「皆さん、野宿の道具は持っていないんですか?」
アリンが尋ねると、ミッシェルも首を横に振った。
「最低限の旅道具だけです。普段は宿を利用しますから」
「私もです。王城では寝る場所に困ることなんてありませんでしたから」
エリーも困ったように笑う。
「王女に騎士に賢者に勇者二人……。誰も野宿に慣れてないって、どうなんだよ」
「文句を言っても仕方ありません。みんなで寝る場所を作りましょう」
エリーが袖をまくると、五人は枝を集め、葉を敷いて寝床を整え始めた。
ミッシェルが手際よく指示を出したこともあり、作業は思ったより早く進んだ。
「おお、意外と何とかなるもんだな」
完成した寝床を眺める優太。
「みんなで作ったからですね」
エリーも満足そうに頷いた。
「こういうのも、悪くないですね」
◇
日が沈み、辺りが暗くなった。
「では、火を起こしましょう」
アリンが杖を構える。
「火よ」
杖の先に灯った光が薪へ移り、小さな炎が上がった。
「おお! やっぱ魔法ってすげえな!」
優太は目を輝かせ、アリンから杖を借りた。
「俺もやってみる!」
真剣な顔で杖を構える。
「火よ!」
……何も起きない。
「もう一回! 火よ!」
やはり何も起きなかった。
勝平が杖を受け取る。
「貸してみろ。火よ!」
こちらも何も起きない。
「俺たち、魔法の才能ないのかな……」
「まだ二回しか試してないだろ!」
「お前も出てないじゃねえか!」
「うるさい!」
エリーがとうとう吹き出した。
「二人とも、魔法を使うときだけ妙に真剣なんですもの」
「異世界に来たんだから、一度くらい使ってみたいだろ!」
「それは分かりますけど……」
「じゃあ、エリーもやってみてくれよ」
「私ですか?」
エリーが杖を構えた。
「火よ」
ボッ。
薪に炎が上がった。
「「おおっ!」」
優太と勝平が同時に声を上げる。
「どうです? 私、聖女ですから!」
「そうだったな」
「そこ、忘れてたんですか!?」
エリーが頬を膨らませると、アリンが楽しそうに笑った。
「皆さん、本当に仲がいいですね」
「どこがだよ!」
優太と勝平の声が重なり、また笑いが起きた。
◇
「そろそろ、昨日のボアを食べようぜ!」
優太の言葉に、アリンが保存していた肉を取り出した。
「待ってました!」
勝平もさっそく準備を始める。
二人が肉を切り分け、ミッシェルが枝を削って串を作る。アリンは火加減を調整し、エリーは焼けていく肉をじっと見つめていた。
「……まだですか?」
「まだ」
「……まだ?」
「もう少し」
エリーの顔が、じりじりと肉へ近づいていく。
「エリー、近い近い!」
「あっ、すみません!」
慌てて顔を離すエリーを見て、勝平が笑った。
「そんなに見つめられたら、肉も緊張するぞ」
「お肉が緊張するんですか?」
「たぶん」
「どうして自信がないんですか!」
やがて、肉の表面にこんがりと焼き色がついた。
「よし、完成!」
優太が五人分に取り分ける。
「いただきます!」
一口食べたエリーの目が輝いた。
「美味しい……!」
「だろ?」
優太と勝平も満足そうに頷く。
「二人とも、料理がお上手ですね」
アリンが感心すると、ミッシェルも笑顔で続いた。
「本当に美味しいです」
「家でも料理してたからな」
優太が答えると、勝平も頷いた。
「こういうのは任せてくれ」
「では、これから料理は二人にお願いしてもいいですか?」
「いいぞ!」
「任せろ!」
二人は即答した。
「では、私は火を担当します」
アリンが手を挙げる。
「私は護衛ですね」
ミッシェルも続いた。
「私は治癒と……味見です!」
エリーが胸を張る。
「味見も立派な役割です!」
「自分で言うのかよ!」
優太が笑うと、勝平も頷いた。
「まあ、味見は大事だからな」
「でしょう?」
エリーは満足そうに肉を頬張った。
焚き火を囲む五人の間には、出発した頃よりも気兼ねのない空気が流れていた。
◇
食事を終える頃には、空一面に星が広がっていた。
「……綺麗ですね」
エリーが夜空を見上げる。
「本当だな。日本じゃ、こんなに星は見えなかった」
優太も寝転がり、勝平は焚き火のそばに腰を下ろした。
「こういうのも、異世界に来たって感じだな」
「昼間も同じことを言ってませんでした?」
「それだけ異世界っぽいってことだ」
エリーがくすりと笑い、アリンも星空を眺めた。
「皆さんと一緒に見ると、いつもと違って見えますね」
「俺たちと一緒だからか?」
「そうかもしれません」
「優太さん、たまに良いこと言いますね」
「たまにって何だよ!」
「普段が普段ですから」
「まあ、それはそうか」
優太自身も笑った。
エリーは、その笑い声を聞きながら夜空を見上げた。
王女として城で暮らしていた頃、こんなふうに焚き火を囲み、仲間と笑いながら食事をすることなど想像もしなかった。
異世界から来た勇者二人に、過保護な聖騎士、そして九十八歳のエルフの賢者。
不思議な組み合わせだ。それでも、今の時間が心地よかった。
「……明日も楽しみですね」
エリーが微笑む。
「おう!」
「そうだな」
「はい」
「明日もよろしくお願いします、姫様」
「こちらこそ、ミッシー」
五人はそれぞれの寝床へ向かった。
北の町まで、あと五日。
明日もまた、五人で旅を続ける。
◇
夜中。
「おい、優太。起きろ」
勝平に肩を揺すられ、優太は眠そうに目を開けた。
「なんだよ……」
「あれを見ろ」
勝平が指差した先には、眠っているエリーとアリンがいた。
二人の顔の上を、何匹ものムカデが這い回っている。
「……うわっ!」
優太は思わず顔をしかめた。
「声がでかい! 起きるだろ!」
「いや、無理だろ、これ!」
二人が小声で騒いでいると、物音に気づいたミッシェルも目を覚ました。
「二人とも、何をしている……まさか、姫様に何か――」
ミッシェルは二人の視線を追い、エリーの顔を見た。
次の瞬間、表情が凍りつく。
「……っ!」
声にならない悲鳴をこらえ、じりじりと後ずさった。
「ミッシェル、逃げてないで助けろよ!」
優太が小声で訴える。
「む、無理だ! 私、あれだけは駄目なんだ! 名前を口にするのもおぞましい……!」
「俺らだって嫌だよ!」
「俺も無理。気持ち悪い!」
勝平も首を横に振った。
「どっちか、アリンさんと姫様を助けてくれ!」
「いやいや、ミッシェルがやってくれよ!」
「護衛だろ!」
「そ、それはそうだが……!」
ミッシェルは二人と眠っているエリーたちを交互に見た。助けに行こうと一歩踏み出すものの、顔の上を這うムカデを見て、すぐに足が止まる。
優太は勝平と目を合わせた。
「……俺たち、少し離れたところで寝るか」
「そうだな」
「ちょっと待て! 私を置いていくな!」
ミッシェルが手を伸ばす。
しかし、二人はさっさと離れた場所に横になり、毛布をかぶってしまった。
「おい! お前たち!」
ミッシェルはしばらく二人を睨んでいたが、やがて肩を落とした。
「……姫様、申し訳ありません。私も寝ます……」
そう呟くと、エリーたちからできるだけ距離を取って横になった。
◇
翌朝。
「んーっ、よく寝ました!」
エリーが背伸びをして起き上がった。
隣ではアリンも目をこすりながら身体を起こしている。
「あれ? 三人とも、そんなに離れて寝てましたか?」
エリーが不思議そうに首を傾げた。
「俺たち、寝相が悪いんだよ」
優太が目をそらす。
「そうそう。気づいたら、こっちに転がってたんだ」
勝平も必死に取り繕った。
「私も寝相が悪かったのでしょうか……」
ミッシェルは遠い目をしている。
「ベッドなら落ちてましたね!」
エリーは無邪気に笑った。
その顔を見ながら、ミッシェルは昨夜の光景を思い出していた。
「……何か、顔がぬちゃぬちゃするです」
アリンが頬をぬぐった。
優太、勝平、ミッシェルの三人は、同時に顔を背けるのだった。




