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第7話 天才研究者に、十年後の正解を渡してみた



 翌朝。


 大学へ向かう電車の中で、俺は未来掲示板を何度も読み返していた。


『「彼が提示した条件が正しいなら、人類は既知の物理体系を一年以内に書き換えることになる」』


 榊原恭介が、二〇二六年九月六日の研究ノートに残した言葉。


 今日の日付だ。


 そして、その「彼」はどう考えても俺だった。


 問題は一つ。


 今日の俺は、まだ榊原へ何を提示すればいいのか知らない。


「未来の自分にカンニングさせてもらってるのに、肝心な答えだけ書いてない……」


「朝から何ぶつぶつ言ってるんですか?」


 向かいに座った凛が怪訝そうに俺を見る。


 今日は凛と九条の二人が同行している。


 澪は母親の見舞いがあるため病院だ。


 代わりに「終わったら絶対に連絡してください」と念を押されている。


「昨日言った榊原さんの研究ノートです」


「条件がどうとかいう?」


「はい。それが分からなくて」


 隣で腕を組んでいた九条が鼻を鳴らした。


「本人に聞けばいいだろ」


「未来の本人なら知ってますよ」


「じゃなくて、今の本人だ」


「え?」


「そいつが何を研究してるか聞いて、足りないところを未来の情報から探しゃいい」


 俺は九条を見る。


「……正論ですね」


「なんでそんな意外そうなんだよ」


「九条さんから研究について助言されると思ってなくて」


「殴るぞ」


「相談なら聞くんじゃなかったんですか?」


「それは命令の話だ」


 凛が窓の外を見ながら笑いを噛み殺している。


 でも、九条の言う通りだった。


 俺は少し未来知識へ頼りすぎている。


 先に答えを探してから会う必要はない。


 本人が抱えている問題を知り、その答えを十年後から持ってくればいい。


 それこそが、今の俺にしかできないことだ。


     ◇


 榊原恭介が所属しているのは、都内の国立大学にある材料工学系の研究室だった。


 ただし、未来掲示板で《魔導工学の父》と呼ばれている男の現在は、想像していたものとはかなり違った。


「榊原さんですか?」


 研究棟の端。


 半地下に近い小さな実験室。


 そこにいた男は、俺たちを見て露骨に嫌そうな顔をした。


 三十四歳。


 痩せ型。


 伸びた髪。


 無精髭。


 白衣のポケットには工具とペンが無造作に突っ込まれている。


 九条とは別方向に生活感が壊れている。


「誰」


「昨日メールした佐伯です」


「ああ。黒鉛の人」


 認識のされ方が嫌だった。


「少しお時間いただけますか?」


「十五分なら」


「ありがとうございます」


「十六分になったら帰って」


 未来の偉人というものは、もっと人格的にも完成していると思っていた時期が俺にもあった。


 凛を見る。


 世界三位。


 負けず嫌い。


 九条を見る。


 世界二位。


 家賃三か月滞納。


 そして魔導工学の父。


 人の話を十五分しか聞かない。


 未来の肩書きをあまり信用しすぎるのはやめよう。


 実験室へ入る。


 狭い。


 機材は古く、一部は他研究室から回されたものらしい。


 机の上には大量の論文とノート。


 そして壁際には、段ボール箱に詰められた私物があった。


「引っ越しですか?」


 凛が尋ねる。


「追い出されるから」


 榊原は平然と答えた。


 未来掲示板通りだ。


「研究室を?」


「大学を」


「何か問題を?」


「予算を食った。結果を出さなかった。論文が通らない。共同研究先に喧嘩を売った」


 九条が俺を見る。


「お前、こういう奴好きなのか?」


「人聞き悪いですよ」


「俺と似た理由で職なくしてんじゃねえか」


「一緒にしないで」


 榊原が即座に否定した。


「俺は理論的に相手が間違っていると説明しただけ」


「俺だって工場が間違ってたから言っただけだ」


「殴った?」


「胸ぐらは掴んだ」


「じゃあ一緒にしないで」


「こいつ気に入らねえな」


 開始二分で未来の炎帝と魔導工学の父が険悪になった。


 俺は慌てて本題へ戻す。


「榊原さん。GX―17について聞きたいことがあります」


 机に向かっていた榊原の目が、ほんの少しだけ動いた。


「なんであれを買ったの?」


「研究に使うためです」


「何の?」


「未知エネルギーの伝導実験」


 榊原の手が止まった。


 空気が変わる。


 今までこちらへほとんど興味を示していなかった男が、初めて俺の顔を正面から見た。


「もう一回言って」


「未知エネルギーの伝導実験です」


「どこでその言葉を知った?」


「あなたの研究です」


「俺は公表してない」


 知っている。


 未来掲示板でも、それは有名だった。


 榊原恭介はダンジョン発生以前から、「既知の四つの相互作用では説明できないエネルギー伝達が存在する可能性」を研究していた。


 ただし証拠がなかった。


 再現性もない。


 研究費だけを使い続ける異端扱い。


 そのため大学から契約を切られる寸前まで追い込まれた。


「五年前の実験」


 俺は未来掲示板で調べた情報を口にした。


「高密度炭素材へ一定周期の電磁パルスを通したとき、入力と出力の収支が一瞬だけ合わなかった」


 榊原の顔から完全に表情が消えた。


「誤差は〇・〇二パーセント以下。でも一回だけ、〇・三七パーセント消えた」


「……」


「その後、何百回再現実験しても同じ現象は起きなかった」


「誰から聞いた」


「誰からも」


「そのデータは俺のローカル端末にしか入ってない」


「そうでしょうね」


「不正アクセス?」


「違います」


「じゃあ何」


 ここで未来掲示板の話をするか。


 迷った。


 凛と九条には話した。


 澪にも。


 いずれ榊原にも知られるだろう。


 でも、この人は科学者だ。


「未来の掲示板に書いてありました」では、俺の正気を疑われて終わる可能性が高い。


 だから。


「再現させたら、続きを聞いてくれますか?」


 榊原の眉が動いた。


「何を」


「五年前の現象です」


「無理」


 即答だった。


「俺が何回やったと思ってる」


「条件が足りなかった」


「何が?」


 それだ。


 俺はまだ知らない。


 だが今、検索すべき言葉は分かった。


 スマホを取り出す。


 未来掲示板。


 検索欄。


『榊原恭介 〇・三七パーセント 再現条件』


 ヒット。


 大量に出た。


 十年後には、この失敗実験そのものが魔導工学史の有名な逸話になっている。


『榊原の最初の魔力観測って結局何が原因だったの?』


『地磁気』


『正確には地磁気だけじゃない』


『ダンジョン前駆粒子とGX―17と地磁気変動の三重条件』


 俺の指が止まる。


 ダンジョン前駆粒子。


 聞いたことのない言葉だ。


 さらに読む。


『ダンジョン発生の約一年半前から地球上で微量観測されてたやつ』


『当時は観測装置が存在しないから誰も気づかなかった』


『過去データ再解析で判明したんだよな』


『榊原の五年前の異常値は偶然前駆粒子濃度が局地上昇した瞬間と重なっただけ』


「……もう来てる」


 声が漏れた。


「何が?」


 凛が聞く。


「ダンジョンの前兆です」


 来年突然、ゼロからダンジョンが生まれるわけじゃない。


 すでに始まっている。


 人類が観測できていないだけだ。


 掲示板を追う。


 未来の研究資料。


 再現条件。


 今の時代でも可能な簡易実験。


 GX―17。


 特定周波数帯の電磁パルス。


 そして――今日。


 二〇二六年九月六日午後二時十四分から、東京近郊で局地的な前駆粒子濃度上昇が記録されている。


 偶然ではない。


 未来の榊原が今日、研究を再開した理由。


 ようやく分かった。


 俺は時計を見る。


 午後一時四十八分。


「榊原さん」


「何」


「GX―17、少量ならここへ持ってきてます」


 正確には、サンプルとして加工会社から受け取ったものだ。


 バッグから取り出す。


 榊原がすぐに受け取った。


 指で表面を確かめる。


「本物だ」


「実験できますか?」


「何の条件で?」


 俺は掲示板に書かれている数値を読み上げた。


 印加方式。


 周波数範囲。


 試料寸法。


 温度。


 測定間隔。


 榊原の顔つきが、一つ数字を言うごとに変わっていく。


「待って」


 途中で止められた。


「その条件、誰が設計した」


「将来、あなたが」


「は?」


「今はそこ流してください」


「流せるわけないだろ」


「あと二十分しかありません」


「何が?」


「現象が起きるまで」


 榊原は黙った。


 十秒ほど俺を見たあと、突然動いた。


「手伝って」


「何をすれば?」


「九条さんだっけ」


「あ?」


「その棚からパルス電源持ってきて」


「なんで俺が」


「重いから」


「最初からそう言え」


 九条が機材へ向かう。


「白石さん、机の紙全部どかして」


「はい」


「佐伯さんは条件もう一回。今度はゆっくり」


 十五分しか話さないと言っていた男はどこかへ消えた。


     ◇


 午後二時十三分。


 実験装置が動き始めた。


 俺には何が何だか分からない。


 GX―17の小片。


 電極。


 計測器。


 モニターには複数の波形。


 榊原だけが完全に別人になっていた。


 さっきまで死んだ魚のようだった目が、今は画面へ釘付けになっている。


「誤差範囲」


 呟く。


「まだ普通」


 午後二時十四分。


 何も起こらない。


 十五分。


 変化なし。


「外れた?」


 凛が小声で聞く。


「時間は多少ずれるかもしれません」


「未来なのに?」


「記録時刻が秒単位じゃないので」


 嫌な汗が出る。


 もし起きなかったら。


 未来が変わった?


 それとも掲示板情報が間違っていた?


 午後二時十六分。


 榊原が突然、モニターへ顔を近づけた。


「……待って」


 波形が揺れた。


「なんだこれ」


 キーボードを叩く。


「入力変化なし。抵抗値……変わってない。温度も」


 数秒後。


 別の計測値が跳ねる。


 榊原が息を止めた。


「収支が合わない」


 俺にも分かった。


 画面上の数字。


 〇・〇一。


 〇・〇四。


 〇・一二。


 そして。


 〇・三六。


 〇・三七。


「……出た」


 榊原の声が震えた。


「五年前と同じだ」


 さらに。


 〇・四一。


「いや」


 榊原が立ち上がった。


「違う」


 〇・五三。


「五年前より強い」


 〇・七八。


「何か入ってる」


 九条が眉を寄せる。


「何がだ」


「分からない!」


 榊原は叫ぶように答えた。


「外部から何かが系に干渉してる。電磁波じゃない。熱でもない。振動でもない。少なくとも、この装置で測れる既知の要因じゃ説明できない」


 〇・九一。


 そして。


 数値はゆっくり下がり始めた。


 二分後。


 完全に元へ戻る。


 実験室が静まり返った。


 誰も喋らない。


 榊原は椅子へ座り、モニターを見たまま固まっていた。


 俺は未来掲示板を見る。


 記事が更新された。


『二〇二六年九月六日 榊原恭介、世界初のダンジョン前駆エネルギー人工観測に成功』


 人工観測。


 以前は存在しなかった記録だ。


 本来、人類が前駆粒子の存在を知るのは、ダンジョン発生後。


 今。


 一年近く早まった。


「佐伯さん」


 榊原がようやく口を開いた。


「はい」


「説明して」


 もう誤魔化せない。


「来年の九月一日」


 俺は言った。


「世界中に、ダンジョンが出現します」


 榊原は笑わなかった。


 九条のときとも、凛や澪のときとも違う。


 目の前に、既存科学では説明できない実験結果がある。


「今観測したのは、その前兆です」


「根拠は」


「あります」


「見せて」


「俺にしか見えません」


「……何?」


 ここだけはどう説明しても怪しい。


「俺のスマホが十年後の攻略掲示板に繋がっています」


 榊原の目が細くなる。


「本気で言ってる?」


「はい」


「頭の検査したことある?」


「みんな最初そこを疑うんですよね」


「当たり前だろ」


「でも、さっきの条件は当たった」


 榊原が黙る。


「俺はあなたが十年後に何を作るか知っています」


「何を」


「魔石エネルギー変換機構」


 榊原の表情が変わる。


「携帯型魔力炉。探索者用の魔導装備。広域結界装置。回復術増幅器。それから――」


「待って」


 榊原が額を押さえた。


「一個ずつ」


「はい」


「魔石って何?」


「ダンジョンから採れるエネルギー資源です」


「現物は?」


「まだありません」


「じゃあ研究できない」


「全部は」


「全部は?」


 俺はGX―17を見る。


「今日みたいに、発生前でも研究できる部分がある」


 榊原の視線も素材へ落ちる。


 ここからだ。


「榊原さん」


「何」


「大学を辞める予定なんですよね」


「辞めるんじゃない。契約を切られる」


「なら、俺のところへ来ませんか」


 九条が小声で「始まった」と呟いた。


 凛はもう慣れた顔をしている。


「研究費を出します」


「いくら」


 即座に聞かれた。


 九条より早い。


「今ある研究室と機材を確認してから必要額を決めます。ただ、最低限、今より研究規模は落としません」


「所属は?」


「まだ会社すらありません」


「……は?」


「作ります」


「今から?」


「必要になったので」


 榊原が椅子にもたれた。


「佐伯さん」


「はい」


「自分が今どれだけ怪しいこと言ってるか分かってる?」


「最近かなり分かるようになりました」


「研究費を出す。会社はこれから作る。来年世界が変わる。十年後の俺の研究成果を知ってる」


「はい」


「詐欺なら設定盛りすぎ」


「俺もそう思います」


 榊原は笑わなかった。


 代わりに、さっきの実験データをもう一度開いた。


「条件は?」


「え?」


「俺がそっちへ行く条件」


 九条と凛が俺を見る。


 俺も少し驚いた。


「信じるんですか?」


「信じてない」


 榊原は即答した。


「でも、このデータは信じる」


 モニターを指差す。


「俺が五年間追いかけて、誰にも再現できなかった現象を、君は来て一時間で再現した。理由が未来予知だろうが宇宙人だろうが、今の段階ではどうでもいい」


 そう言ってから。


「研究させて」


 それだけ言った。


「未知エネルギーが本当に存在するなら、俺は調べたい」


 未来掲示板で読んだ通りだった。


 金じゃない。


 肩書きでもない。


 この男が欲しいのは、研究する権利だ。


「分かりました」


 俺は答える。


「研究内容には原則口を出しません。論文も成果も、榊原さんの名前で発表していい」


「本当に?」


「ただし条件があります」


 榊原が俺を見る。


「危険な人体実験はしない。俺たちが提供した未来情報を勝手に外部へ出さない。それから、ダンジョン発生までに実用化できるものを一つでも多く作る」


「期限一年?」


「一年ありません」


 今日からなら三百六十日ほど。


「かなり無茶ですよ」


「未来の完成形はこちらで探します」


 榊原の目が見開かれる。


「失敗した実験も?」


「掲示板に残っていれば」


「採用された素材は?」


「探せます」


「最終的な回路設計は?」


「たぶん」


「論文は?」


「未来で有名なら」


 榊原が立ち上がった。


「いつから始められる?」


「ちょっと待ってください」


「なんで」


「会社作って、場所借りて、機材用意して――」


「明日」


「無理ですよ!」


「GX―17はある」


「三百キロあります」


 榊原が固まった。


「……何キロ?」


「三百」


「なんで?」


「必要になると思ったので」


「いくら買った?」


「三百キロ」


「在庫は?」


「会社には一・五トンくらい残ってます」


「全部買って」


「買いません」


「なんで!」


「未来への影響が大きすぎるからです!」


 科学者と初めて会ったはずなのに、開始二時間で素材の買い占めを止めることになるとは思わなかった。


 九条が腹を抱えて笑っている。


「お前よりヤバい奴いたな」


「笑い事じゃないですよ!」


     ◇


 大学を出た頃には、夕方になっていた。


 榊原は研究室へ戻った。


 契約終了まで待つ気はないらしい。


 明日からでも実験を再開するつもりだという。


 当面の研究費については、俺が出すことになった。


 当然、個人の貯金だけではすぐ限界が来る。


「会社、本当に作るんですか?」


 凛が聞いた。


「作るしかないでしょうね」


「何の会社だ」


 九条が言う。


「そこからです」


「決めてねえのかよ」


「昨日まで必要になると思ってなかったんですよ」


 でも。


 人が増えた。


 金を動かす。


 研究設備を持つ。


 資材を購入する。


 これから土地も必要になる。


 個人の集まりでは、もう無理だ。


 未来では世界最強ギルド。


 しかしダンジョンが存在しない現在、日本には探索者ギルドという制度すらない。


 なら、一年前の俺たちは。


 会社から始めればいい。


 スマホが震えた。


 未来掲示板。


『【歴史】世界最強ギルドの前身企業について』


 俺は思わず足を止めた。


「今度は何だ?」


「……会社の話です」


「まだ作ってないだろ」


「未来では作ったことになってます」


 スレッドを開く。


『名無しの探索者:2036/09/06 18:37

 最初ギルドじゃなくて会社だったの知らない奴多いよな』


『名無しの探索者:2036/09/06 18:38

 ダンジョン発生前なんだから当たり前だろ』


『名無しの研究者:2036/09/06 18:39

 事業内容めちゃくちゃだったぞ』


『研究開発』


『人材派遣』


『倉庫業』


『資材調達』


『災害対策コンサル』


『何の会社だよ』


「……未来でも言われてる」


 凛が画面を見られないのに、俺の顔で察したらしい。


「変な会社なんですか?」


「かなり」


「名前は?」


「ちょっと待ってください」


 俺はスクロールする。


 会社名。


 設立者。


 初期社員。


 そして。


『代表取締役 佐伯湊』


 初めて、自分の未来の肩書きがはっきり表示された。


 その下。


『創業時社員 白石凛』


『九条蓮司』


『水城澪』


『主任研究員 榊原恭介』


 さらに。


 俺の知らない名前が並んでいた。


 一人。


 二人。


 三人。


 未来の英雄。


 研究者。


 交渉人。


 生産職。


 名前の横には、後世の肩書きが付いている。


 まだ無名の人間ばかり。


 なのに十年後では、誰もが知っている。


 そして一番下に。


『創業二週間後、最初の自社拠点を取得』


 住所まで載っていた。


 東京郊外。


 現在は閉鎖された古い物流センター。


 価格。


 所有企業。


 売却理由。


 全部ある。


 さらに未来の注釈。


『なお、この土地の地下に翌年、日本最大級の第一世代ダンジョンが出現する』


 俺は文章を二度読んだ。


 三度読んだ。


「佐伯?」


 九条が怪訝そうに覗き込む。


「どうした」


 俺は顔を上げた。


「会社より先に」


「ん?」


「土地、買います」


 凛が目を瞬いた。


「今度は何があるんですか?」


「今は何も」


 一年後。


 日本最大級のダンジョンが出現する。


 その真上の土地。


 世界中の企業や政府が、喉から手が出るほど欲しがることになる場所。


 現在の評価額は。


 未来価格の百分の一以下だった。


 人材。


 技術。


 資源。


 そして次は。


 土地。


 世界がまだ何も知らない一年間は。


 俺が思っていた以上に、とんでもなく価値がある。


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