第39話 八年前に消えた作業員の安全タグが、五つの窓から同時に電波を返した
八年前に地下機械室から消えた作業員が、未来では生存した状態で救出される。
しかも、地球側では八年もの時間が過ぎているのに、本人の体感では失踪から救出まで約七分しか経っていない。
昨夜、未来掲示板からそこまで知った俺は、翌朝の会議で最初に一つだけ念を押した。
「救出方法までは調べていません。未来では助かると分かっていますけど、それを理由に今すぐGCS-01を開くつもりもありません。まず、あの人が本当に現在も向こう側にいるのか、こっちのデータだけで確認したいです」
未来で生きているなら、現在も生きているはずだ。そう考えるのは簡単だが、未来は俺たちの行動で変わる。ここで救出を急いだ結果、本来助かるはずだった人を死なせてしまえば、未来掲示板の「生存」という記録そのものが消えるかもしれない。
その危険性を説明すると、三枝さんは特に反対することもなく頷いた。
「それなら昨日と同じでいいと思います。向こうへ何か送らない、接続を開こうとしない、人も現地へ入れない。その条件で確認できるものを先に探す。八年待ってる人を前にして慎重すぎるように見えるかもしれないですけど、本人にとって七分しか経ってないなら、こっちが一日二日急いだところで同じですよね」
「その『本人にとって七分』という情報も、まだ現在側では証明されていないがな」
榊原さんはそう断ったうえで、昨日までのGCS-01解析資料を開いた。
「ただ、方針には賛成だ。未来情報から生存者がいると仮定するのは構わないが、探すのは現在の観測データに残っている生存の痕跡だ。中央構造C1の復元だけでは足りない。人間らしい形に見える、可動部が身体の固定具に見える、八年前の失踪時刻と一致している――全部合わせても状況証拠でしかない」
「人が生きているなら、何か出ませんか? 呼吸とか体温とか」
瀬尾の問いに、榊原さんはすぐ首を横に振った。
「向こう側で時間の進み方が極端に遅いという未来情報が正しいなら、むしろ通常の生命反応は観測しにくい。地球で一時間測っても、本人側では一秒も経っていない可能性がある。呼吸や心拍をこちらの時間軸で探せば、存在していても静止物にしか見えないだろう」
言われてみれば当然だった。
八年が七分になるほど時間差があるなら、今の俺たちが一晩かけて解析している間にも、向こう側の作業員にとってはほとんど時間が進んでいないことになる。
「だったら、本人じゃなくて持ち物はどうでしょう」
三枝さんが昨日の事故記録を指した。
「機械室に残ってたのは工具箱、上着、財布、携帯電話でしたよね。逆に、身につけたまま消えたものが分かれば、GCS-01側のデータから探せないですか?」
榊原さんが答えるより先に、神代さんが事故資料を呼び出した。
「作業服、安全靴、ヘルメット。身につけていたものとして記録されているのはこのあたりだ。ヘルメットだけが現場から見つかっていないことは昨日確認したが、それを映像歪みから特定するのは難しいだろう」
「ほかに会社から持たされてたものはないんですか? 一人で機械室に入る仕事なら、事故が起きたとき用の何かとか」
三枝さん自身が現場仕事をしていたからだろう。俺なら写真や服装ばかり見ていたところで、会社の安全装備へ目が向いている。
神代さんもその可能性を考えたらしく、当時の労災調査資料をさらに遡った。しばらく無言で画面を追ったあと、一つの添付資料を開く。
「これかもしれない。作業員へ貸与されていた《単独作業者安全タグ》。地下設備や機械室へ一人で入る場合、腰に装着する小型端末だ」
資料には手のひらより小さな黒い機器の写真が載っていた。
一定時間動きがない場合や、本体が大きく傾いた状態が続いた場合に警報を出す。施設内に設置された受信機と定期的に無線通信し、作業員の識別番号と端末の状態を送信する仕組みらしい。
「八年前でもこんなのあったんですね」
「珍しいものではない。特に一人作業が発生する設備保守では、導入している会社がある。ただし当時の調書を見る限り、この件では役に立たなかったようだ」
失踪した作業員に貸与されていた端末は、事故後の捜索でも発見されていない。
最後に施設側の受信機が信号を受けたのは、機械室へ入る直前。
その後、通信が途絶えた。
端末ごと消えたと考えられていた。
「端末の識別番号は残ってます?」
瀬尾が尋ねる。
「ある。会社側の貸出台帳に記録されている。機種と製造番号も分かる」
そこで榊原さんが、昨日までの五点観測データとは別のファイルを開いた。
「瀬尾。初回観測で使った環境ロガーに、無線スペクトルの生データは残っているか」
「広帯域の電磁環境は全部取ってます。ただ、通信内容までは解析してませんよ。前駆現象でノイズが出る可能性を見るための記録なので」
「十分だ。安全タグの使用周波数を調べろ。該当帯域にパルスが残っていないか確認する」
会議室の空気が変わった。
俺たちは最初の五点観測で、GCS-01を探すためにさまざまな環境情報を記録している。その中に、誰も必要になるとは思っていなかった無線データまで残っていた。
もし。
八年前に消えた安全タグが。
今もC1に固定されている作業員と一緒に存在しているなら。
GCS-01との接続が一瞬でも成立したとき、何らかの信号がこちらへ漏れていた可能性がある。
◇
端末の仕様が分かったのは三十分ほど後だった。
八年前に使われていた安全タグは、現在では後継機へ置き換えられているものの、メーカーに仕様書が残っていた。作業員ごとに割り当てられた識別番号を含む短いパケットを、一定間隔で送信する。端末自身が基地局へ接続するというより、近くにある施設側受信機が電波を拾う仕組みだった。
「問題は、八年間も電池が持つわけがないってことですね」
瀬尾が仕様書を見ながら言った。
「通常使用で約一年半。仮に新品だったとしても、とっくに切れてます」
「地球側と同じ時間が流れていればな」
榊原さんの答えに、瀬尾が「ああ」と納得した。
未来情報どおり、作業員側では七分程度しか経過していないのなら、タグにとっても同じ可能性がある。
八年前の電池残量のまま。
今も動いているかもしれない。
ただし、その考え自体が未来情報に依存している以上、最初から「信号があるはずだ」と思って探すのは危険だった。
そこで榊原さんは、失踪者の端末識別番号を瀬尾へ渡さなかった。
「まず五地点の対象帯域に、通常の無線環境では説明しにくい共通パケットがあるかだけ抽出する。識別番号との照合は最後だ。番号を先に知れば、ノイズの中から似たものを拾いたくなる」
「未来掲示板だけじゃなく、普通の数字まで答えを隠すんですね」
「答えを知っている人間が解析する以上、それくらいでちょうどいい」
作業が始まった。
五地点。
一時間分。
比較用の五地点も同じ条件で調べる。
通常のWi-Fi、Bluetooth、施設内通信、携帯基地局由来の信号。都市部の観測地点では電波が多く、最初の画面はほとんどノイズの塊にしか見えなかった。
それでも条件を揃えていくと、共通しないものが次々に消えていく。
「対象地点だけに出てる信号、一個あります」
一時間近く経ったところで瀬尾が言った。
画面へ五本の時間軸が並ぶ。
「観測終了直前。前駆粒子が五地点全部で逆方向へ大きく振れたところです。同じ周波数帯に、短いデジタル信号らしいものが入ってます」
「対照地点には?」
「ありません。対象五地点だけです」
しかも時刻がほぼ同じだった。
地理的には数百キロ離れている場所で、同一周波数の短い信号が同時に入ること自体はあり得る。全国で使われる通信規格なら珍しくない。
問題は内容だった。
「信号形式、例の安全タグと似てます」
瀬尾が慎重に続けた。
「まだ識別番号は見てません。メーカーの公開仕様からフレーム構造だけ比較しました。先頭部とチェック用の領域が一致しています。ただ、五地点とも受信状態が悪くて、単独では一つのパケットとして復元できません」
「待て。受信波形の周波数と継続時間は確認したのか。八年と七分を単純な時間倍率として扱い、電波まで同じ比率で引き伸ばされるなら、普通の安全タグと同じ帯域に短いパケットが現れるのはおかしい」
榊原さんの指摘に、瀬尾は解析画面を切り替えた。
「そこは確認しています。受信した信号は仕様上の帯域とパケット長に近いです。ただし、前駆現象と重なってS/N比が低く、どの地点でも単独では復号できません。向こう側の時間が一定して遅いのか、途中で止まっていたのか、それとも接続を通過する際に電波が変換されたのか、現段階では区別できないんです」
「こちらで測定できたのは、こちらへ届いた波形だけということか」
「はい。未来掲示板に出てきた七分という数字も、救出後の本人証言にすぎません。その七分間がどう経過したのかも分からない以上、向こう側の時計の進み方は計算できません」
榊原さんは頷いた。
「なら、時間倍率は未確定として扱え。五地点の信号を合成するときも、偶然の一致や同期誤差を慎重に調べるんだ」
「五地点を重ねたら?」
「やってみます。ただ、勝手にいいところだけ繋げたら意味がないので、同じ時刻位置を機械的に合成します」
また作業が続く。
一地点目では欠けている。
二地点目でも一部が潰れている。
三地点目。
四地点目。
五地点目。
別々の場所で受信された不完全なデータを、時刻だけ合わせて補完していく。
やがて一つの短い数字列が画面に現れた。
「復元できました」
瀬尾の声が少し低くなった。
「完全一致とは言えませんけど、エラー訂正まで通ります。少なくとも安全タグと同じ規格のパケットです」
誰もそこで歓声を上げなかった。
まだ。
この世のどこかにある同型端末の信号を偶然拾った可能性が残っている。
榊原さんが神代さんを見る。
「識別番号を」
神代さんが、八年前の貸出台帳から数字を読み上げる。
瀬尾は一桁ずつ入力するのではなく、すでに復元済みのパケットに含まれる番号と並べた。
上段。
八年前に消えた作業員へ貸与された端末番号。
下段。
五地点の観測データから復元された端末番号。
一致していた。
十桁すべて。
同じだった。
「……偶然で、同じ番号ってあります?」
俺が尋ねると、榊原さんは即答しなかった。
「メーカーが識別番号を再利用していないか確認する。端末が廃棄されたあと、同じ番号を別機体へ割り当てていれば意味が変わる」
すぐメーカーへ照会する。
回答が来るまでの時間が、妙に長く感じた。
約二十分後。
結果は。
再利用なし。
端末番号は製造時に固定され、同型機を含めて重複しない。
該当する一台は。
八年前。
作業員と一緒に消えた端末だけだった。
◇
「これで本人が生きてる証明になりますか?」
三枝さんが尋ねた。
「ならない」
榊原さんは、そこだけははっきり答えた。
「端末がGCS-01内に存在する可能性はかなり高くなった。しかし端末だけが残り、本人が死亡している可能性はまだある。未来掲示板を使わないなら、生存確認とは言えない」
三枝さんは不満そうな顔をするでもなく頷いた。
「じゃあ、どこまで言えるんです?」
「八年前に地下機械室から作業員と一緒に消失した安全タグの識別信号が、現在の五地点から同時に観測された。しかも信号が出たのは、GCS-01側の反応が最大になった時間帯。少なくとも、失踪事件とGCS-01を直接結ぶ物理的な証拠が一つできた」
それだけでも大きかった。
昨日までは。
失踪時刻が一致する。
C1の寸法が人間に近い。
未来掲示板では同じ人物が救出されている。
そうした状況証拠ばかりだった。
今は。
八年前に消えた端末が。
地球上ではあり得ない形で。
五地点へ同時に信号を返している。
「端末のパケットに状態情報は入ってないんですか?」
俺が尋ねると、瀬尾が仕様書を開いた。
「あります。電池残量、端末の傾き、それから一定時間の動作検知。ただ、今回復元できたのは全部じゃないです。五地点とも一瞬しか受信してないので、後半部分がかなり欠けてます」
「復元できる範囲だけでいい」
榊原さんが指示する。
今度は、一度捨てた弱い断片まで含めて解析する。
ただし、足りない部分を想像で埋めない。
読み取れるビットだけ。
確実なものだけ。
最初に分かったのは電池状態だった。
「……正常範囲です」
瀬尾が何度か確認してから言った。
「少なくとも『電池低下』のフラグは立ってません」
八年前の端末。
通常なら一年半程度で電池が切れる。
それが。
まだ動いている。
未来掲示板に書かれていた。
《本人側は八年じゃない》
その記録を。
現在の小さな端末が。
別の角度から裏付け始めている。
「動作検知は?」
「そこが……ちょっと待ってください」
瀬尾が古い仕様書とパケットを何度も見比べる。
「動いてます」
「端末が?」
「はい。ただし、『今この瞬間に動いた』って意味じゃありません。この機種は直近の送信周期内に一定以上の加速度変化があった場合、動作フラグが一になります。向こう側の送信周期が地球時間でどれくらいになるのか分からないので、いつ動いたのかは判断できません」
「機械ごと揺れただけという可能性もあるな」
榊原さんが付け加える。
「だから人間の生存証拠にはまだしない。ただ、八年間完全に静止している端末ではない可能性はある」
俺は椅子へ深く座り直した。
すぐに助けに行きたい。
そう思わないわけがない。
地球では八年間。
家族から見れば。
何の手掛かりもなく消えた人だ。
それが今。
俺たちの観測機器へ。
八年前に持っていた安全タグの電波を返した。
けれど。
ここで一番やってはいけないのは。
その気持ちのまま。
扉を開けることだ。
三枝さんも同じことを考えていたらしい。
「佐伯さん。念のため言いますけど、今日はここまでですよ」
「分かってます」
「本当に?」
「未来では助かるって分かってるからこそ、今失敗したくないです」
そう答えると、三枝さんは少しだけ安心したように椅子へ背を預けた。
「ならいいです。救出するなら、帰ってきた直後の医療対応まで先に作りましょう。本人にとって七分なら、いきなり八年後の世界へ出てくることになるんでしょう? 身体だけじゃなくて、説明する側も準備しておかないとまずいと思います」
そこまで。
俺は考えていなかった。
八年前の二十六歳の作業員にとって。
機械室へ入って。
ほんの数分。
異常な場所へ飛ばされ。
次に地球へ戻った瞬間。
自分は三十四歳になっている。
家族も。
会社も。
社会も。
八年分。
先へ進んでいる。
「それ、安全運用室の仕事ですか?」
「知らないですよ。でも、助け出してから考えるよりいいでしょう」
榊原さんも珍しく素直に頷いた。
「医療班は必要だ。向こうの時間停止が人体へどう作用しているか分からない。大気組成、温度、圧力、前駆粒子濃度も未知。救出できたとして、普通の病室へそのまま入れていい保証はない」
救出。
という言葉が。
初めて。
未来掲示板の書き込みではなく。
今の会議の予定として使われた。
◇
その日の夕方、神代さんは失踪者の家族へ連絡を取るため、当時の担当部署と調整を始めた。
まだ「本人が生きている」とは伝えられない。
未来掲示板を証拠にはできないし、安全タグの信号だけでも足りない。
ただ。
八年間進展のなかった失踪事件に。
新しい物理的証拠が見つかった。
それだけでも。
家族へ何も知らせないまま調査を進める段階ではなくなった。
「家族には、どこまで話すんです?」
「現時点では、八年前の事故と関連する可能性のある異常データが見つかったこと。本人が当時携行していた機器と一致する識別信号が確認されたこと。生死についてはまだ断定できないこと。この三点だ」
神代さんはそう答えたあと、少しだけ間を置いた。
「希望を持たせることも、絶望させることも、証拠がない段階でこちらがしていいことではない」
その言葉を聞いて。
俺は自分のスマホを見る。
俺だけは。
知っている。
未来では。
本人は生きて帰る。
でも。
その答えを。
今の家族へ。
俺の言葉だけで伝えることはできない。
未来を知るというのは。
ときどき。
何も知らないより。
ずっと難しい。
◇
夜。
一人になってから。
俺は未来掲示板を開いた。
今日は。
救出方法を調べるつもりはない。
危険性も。
昼の段階で必要な情報は確認している。
検索したのは。
別のことだった。
《八年前同時接触事象 安全タグ》
昨日までは。
たぶん存在しなかった。
検索結果が。
すぐに表示された。
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【前駆史】六人目の生存が初めて確認されたのっていつ?
2014:名無しの探索者
発生前
2015:名無しの探索者
五点観測の再解析で
失踪時に持ってた単独作業者タグの信号拾った時
2016:名無しの探索者
あれ生存確認扱いなの?
2017:名無しの探索者
厳密には違う
あの時点で分かったのは
「本人と一緒に消えたタグがGCS-01内に存在する可能性が高い」まで
2018:名無しの探索者
今の教科書だと
《六人目存在確認》って書かれてるけどな
2019:名無しの探索者
後から結果知ってるからそう呼んでるだけ
当時のアークはめちゃくちゃ慎重だったらしい
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未来の歴史が。
今日の俺たちの判断を。
もう取り込んでいた。
俺は少しだけ笑った。
十年後から見れば。
今日が。
《六人目存在確認》
という日になる。
でも。
今の俺たちは。
まだ。
「いる」とさえ言い切っていない。
未来というのは。
いつも。
途中を省略する。
だから。
続きを生きる俺たちは。
一つずつ。
確かめるしかない。
画面を閉じようとしたとき。
新しい書き込みが一件増えた。
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2020:名無しの探索者
この時点でタグの動作フラグまで拾えてたんだっけ
2021:名無しの探索者
拾えてた
でもアークは生存判定しなかった
2022:名無しの探索者
慎重すぎるだろ
2023:名無しの探索者
いや正解
その次に拾った信号が決定打だったから
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俺の指が止まった。
次。
読みたい。
何を拾えば。
生きていると。
現在の俺たちにも確認できるのか。
それが分かれば。
危険な接続を開かずに済むかもしれない。
今回は。
読んでもいい。
救出方法ではない。
生存確認の方法だ。
俺は次の書き込みを表示した。
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2024:名無しの探索者
何が来たの?
2025:名無しの探索者
タグの識別信号じゃない
2026:名無しの探索者
音声
2027:名無しの探索者
七分間の向こうから
本人の声が返ってきた
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俺はしばらく画面を見たまま動けなかった。
電波だけではない。
未来では。
声まで届く。
それなら。
こちらから無理にGCS-01を開かなくても。
中にいる人間と。
話せる可能性がある。
ただし。
未来掲示板には。
どうやって声を拾ったのか。
まだ書かれていない。
俺はそこで画面を閉じた。
明日。
まず現在の観測データを調べる。
音を探すのではなく。
最初の五点観測で。
まだ解析していない記録の中に。
音に変換できる何かが残っていないか。
そこから始める。
八年前から止まったままの一人へ。
こちらから扉を開けるのではなく。
向こうから届いていたかもしれない声を。
今度は。
俺たちが見つける番だった。




