第32話 スカウトした荷役作業員が、アーク最初の安全担当になった
三枝拓真のアーク加入予定日が一日早まった理由は、未来掲示板をいくら眺めても書かれていなかった。
昨夜までの未来では、正式加入は二日後だった。それが、東京湾から「明日の訓練に一班追加できる」という連絡が届いた直後、一日早い日付へ変わった。
未来が変わった原因として思い当たるものは、それしかない。
ただ、だからといって今日の訓練が終われば三枝さんが必ず入社する、と決めつけるつもりはなかった。
未来掲示板は、今のまま進んだ先にある結果を表示している。
今朝、俺が余計なことを言えば変わるかもしれないし、三枝さんが帰宅して家族と相談した結果、考え直すことだってあり得る。
だから俺は、未来で加入すると知っていることを頭から追い出して、東京湾の訓練施設へ向かった。
少なくとも、そのつもりだった。
「佐伯さん、今日やたら俺の顔見るな」
午前の訓練が始まる前、三枝さん本人に指摘された。
「見てませんよ」
「さっきから五回くらい目が合ってる」
「たまたまです」
「何か未来で見た?」
最近、この人たちの察しが良くなりすぎている。
俺が黙ったことで答え合わせになったらしく、三枝さんは作業用ヘルメットの顎紐を調整しながら苦笑した。
「別に言わなくていいけど、訓練中は変な顔で見ないでくれよ。気になるから」
「分かりました。今日は未来より今を見ます」
「それ、普通は最初からそうするんだよ」
反論できなかった。
今日参加するのは二班。
午前十二人、午後十一人。
当初は二日に分ける予定だったが、第六倉庫が引き続き使用停止になっていることで勤務調整が可能になり、会社側が一日で両方実施することを認めてくれた。
これが終われば、三枝さんが最初に求めた「第六倉庫で働いていた全員が、一度は前駆現象を想定した避難訓練を経験する」という条件が達成される。
もっとも、本人は条件とは呼んでいなかった。
自分がアークへ移るか考える前に、今いる仲間が次に同じことへ遭遇しても生き残れるようにしたい。
ただ、それだけだった。
◇
午前の訓練には、これまでと違う仕掛けを入れなかった。
三枝さんの提案だった。
「毎回こっちが問題を用意して、それを解けるか試すだけだと、訓練用の正解を探すようになると思うんです。今日は普通に警報だけ鳴らして、どう動くか見ませんか」
神代征司さんがその意見を採用し、参加者にも「今回は異常内容を事前に知らせない」とだけ伝えた。
午前十時十五分。
警報が鳴る。
十二人が作業を止めた。
以前なら、まず責任者を見る人が多かった。誰かの指示を待ち、何が起きたのか聞き、それから動く。
今日は違う。
近くにいる者同士で声を掛け合いながら、最寄りではなく、事前に安全確認済みの退避経路へ向かう。
先頭の男性が通路を一つ確認し、「異常なし」と後ろへ伝える。別の女性は最後尾を確認し、誰かが作業場所へ戻ろうとしていないかを見る。
派手なことは何もない。
走る人間もいない。
英雄的な判断をする者もいない。
開始から一分五十八秒。
全員が建物外へ出た。
点呼完了まで二分二十一秒。
残留者なし。
再侵入者なし。
そして何より。
訓練終了後に三枝さんが参加者へ尋ねた。
「もし中に一人残ってるって分かったら、どうする?」
一人の男性が答えた。
「最後に見た場所を責任者へ伝える。自分では戻らない」
「財布をロッカーに忘れたら?」
「諦める。あとで回収してもらう」
「知らない扉を見つけたら?」
「開けない。近づかない。場所だけ伝えて、その区画から出る」
「いつもの出口まで行ったら、距離がおかしく感じたら?」
「出口が見えてても使わない。別経路へ切り替える」
三枝さんは、そこでようやく手元のチェック表から顔を上げた。
少しだけ。
本当に少しだけ、肩の力が抜けたように見えた。
「じゃあ午前は終わり。お疲れさまでした」
参加者たちが解散していく。
その背中を見送りながら、俺は隣へ立った。
「どうです?」
「まだ穴はあると思う」
「そこは素直に喜ばないんですね」
「昨日まで一回もやったことなかった連中が、四日で完璧になるわけないだろ。でも……」
三枝さんは、誰もいなくなった訓練用通路を眺めた。
「少なくとも、次に何か出ても全員が俺みたいに戻ることはないと思う」
最初の日。
三枝拓真は、まだ残っていると思った同僚を探すため、自分から異常が発生した倉庫へ戻った。
結果だけを見れば、一人を助けた。
未来ではそれが英雄譚になっていた時期さえある。
けれど本人が四日間かけて作ったのは、自分と同じ英雄を増やすための仕組みではなかった。
誰も戻らなくて済む仕組みだった。
それが、三枝拓真という人間なのだと思う。
「午後も終わったら、時間ありますか?」
俺が尋ねると、三枝さんはこっちを見た。
「スカウトの話?」
「はい。今度はちゃんと会社として話します」
「昨日までちゃんとした会社じゃなかったのか?」
「……そこは言い方の問題です」
「冗談だよ。分かった。聞く」
未来掲示板の答えを知らないふりをする必要はない。
でも、未来掲示板の答えを本人の答えにしてはいけない。
それだけは忘れないようにした。
◇
午後の訓練も、大きな問題なく終わった。
十一人全員退避。
点呼完了まで二分三十六秒。
午前より十五秒遅かったが、初参加者だけで構成された班としては十分だった。
これで、第六倉庫に所属していた全従業員が一度以上訓練を経験した。
ただ、最後の訓練が終わった瞬間に、誰かが拍手するようなことはなかった。
「終わったな」
「終わりましたね」
そんな会話があちこちで聞こえ、それぞれが片づけへ入っていく。
現場の訓練というのは、本来そういうものなのだろう。
世界を救ったわけではない。
何かを倒したわけでもない。
次に危険が来たとき、生き残れる可能性を少し上げただけだ。
でも俺には、その「少し」が未来でどこまで広がるか分かっている。
だからこそ、今ここで大げさな意味を付ける必要はないと思った。
午後四時過ぎ。
研修施設の小会議室を借り、俺は三枝さんと向かい合った。
同席したのは神代さんと瀬尾。
今度は避難訓練ではない。
机の上に置かれているのは、アーク・フロンティアの雇用条件と組織案だった。
「まず、最初に言っておきます」
俺は資料を三枝さんへ渡した。
「探索者として雇うつもりはありません」
三枝さんが書類へ伸ばしかけていた手を止めた。
「……昨日、俺あの化け物相手に動いたよな?」
「動きました。でも、それを見て声をかけたわけじゃないです」
「じゃあ何で俺なんだ?」
「現場で人が死なない仕組みを作れるからです」
三枝さんは黙った。
俺は組織案を開く。
まだ正式な部署名すら仮だった。
《安全運用室》
人員、一名。
室長欄、空白。
「今のアークには研究担当も、情報担当も、行政との調整役もいます。戦える人も増えてきました。でも、現場で実際に働く人がどう動くかを専門に見る人間がいません」
「俺にそれをやれって?」
「やってほしいです。ただし、机に座ってマニュアルを書く仕事だけじゃない」
俺は第六倉庫方式の改訂履歴を横へ置いた。
一日目。
避難後に人が戻る問題。
二日目。
異常を見つけた全員がその場で止まり、通路が詰まる問題。
三日目。
出口が途中で使えなくなった際、上司の指示を待とうとする問題。
病院。
そもそも避難できない人がいる問題。
「これ、ほとんど現場で出てきた話です。俺たちだけで会議室にいたら、半分も気づけなかったと思います」
神代さんも頷く。
「行政側から見ても必要な役割だ。施設ごとの事情を無視して一律の規則を配れば、かえって危険になる場合がある。三枝君には、現場側からその穴を見つけてもらいたい」
三枝さんはしばらく資料を読んでいた。
「給料、今より上がるな」
「そこも大事でしょう」
「普通もっと、『人類の未来のために』とか言わない?」
「それで給料が下がったら困るでしょう」
「まあ困るけど」
「夜勤も減ります。ただし現場調査で不規則になる可能性はあります。出張も増えると思います」
「危険な場所には?」
「行くことはあります。ただし、安全手順を作る人間本人が危険を無視して前へ出るのは禁止です」
「俺、信用ないな」
「初対面の日に魔物の前へ出てますからね」
「それを言われると何も返せない」
三枝さんが苦笑した。
それから、資料を最初のページへ戻した。
「一個、条件つけていいか?」
「内容によりますけど、聞きます」
「現場を見ないでルール決めるのだけは、なしにしてほしい」
声が少し真面目になった。
「倉庫なら倉庫で働いてる人に聞く。病院なら看護師とか設備担当に聞く。学校なら先生だけじゃなく、できれば実際に避難する側にも聞く。こっちが正しいと思ったものを持っていって、『これ守ってください』で終わらせたくない」
俺は瀬尾と顔を見合わせた。
瀬尾が小さく笑う。
「それ、条件というより、この部署の方針にしたほうがよくないですか?」
「俺もそう思います」
三枝さん本人が少し戸惑う。
「そんな簡単に決めていいのか?」
「昨日作ったばかりの部署なので」
「不安になる言い方するなよ」
「でも必要だと思ったことを、必要になった時点で作る会社なので」
それが今のアークだった。
一年前から準備しているからといって、最初からすべて揃っているわけではない。
問題が起きる。
足りない役割が見える。
人を探す。
仕組みを作る。
そして未来が変わる。
三枝さんはもう一度、資料を最初から最後まで読んだ。
急かさなかった。
未来では今日加入する。
俺はそれを知っている。
でも、ここで「どうせ入る」と思って待つのと、本人が何を考えているかを待つのは違う。
五分ほど経っただろうか。
三枝さんが一枚だけ書類を机へ置いた。
「今の会社に、明日から来ませんって言うのは無理だぞ」
「当然です」
俺は用意していた別紙を出した。
「そこは会社側とも相談しました。第六倉庫が再開するまでの間、アークの安全対策事業へ出向という形にできないか打診してあります」
「……いつの間に?」
「三枝さんが訓練を始めた二日目くらいです」
「未来で俺が来るって知ってたから先に話進めた?」
痛いところを突かれた。
「半分はそうです。でも、三枝さんが断った場合には契約自体を成立させない話にしてあります」
「そこまでしてたのか」
「欲しい人材なので」
ごまかさず答えた。
三枝さんは困ったような顔をしてから、少し笑った。
「未来の俺、そんなに使える?」
「知りません」
「知らないのかよ」
「今回は調べてません」
本当に調べていない。
三枝拓真が十年後にどんな役職へ就いているのか。
どんな肩書きで呼ばれるのか。
いくらでも検索できる。
でも、途中から見る必要がなくなった。
「今の三枝さんが必要だから誘ってます」
そう伝えると。
三枝さんは数秒。
俺を見ていた。
やがて書類へ視線を戻し、用意されていたペンを取る。
「出向期間中に、合わないと思ったら戻っていい?」
「もちろんです」
「元の職場の訓練も続ける」
「業務に入れます」
「現場の人間に無理だって言われた規則は、偉い人が決めたあとでも直す」
「そこは神代さんと相談してください」
「佐伯君。なぜ私へ投げる」
「行政と揉める部分なので」
神代さんがため息をついた。
「必要なら私が揉めよう」
「父親譲りですね」
「何がだ?」
「昨日、朔夜君も似た感じでした」
「……それはあとで聞く」
少しだけ会議室の空気が緩んだ。
三枝さんは最後にもう一度、書類へ目を通す。
そして。
名前を書いた。
《三枝拓真》
未来掲示板に書かれていたからではない。
俺が決めたからでもない。
三枝拓真本人が。
自分で決めた。
「よろしくお願いします」
俺が頭を下げると。
三枝さんも少しぎこちなく頭を下げた。
「よろしくお願いします。……社長って呼んだほうがいい?」
「今までどおり佐伯さんでいいです」
「助かる。急に社長って言うの気持ち悪かったから」
「もう少し言い方ありません?」
こうして。
アーク・フロンティアに。
戦闘でも。
研究でも。
未来知識でもない。
最初の《安全》担当が加わった。
◇
事務所へ戻って未来掲示板を開くと、予想どおり記録は変わっていた。
---
【昔話】三枝拓真って、何でアーク入ったの?
522:名無しの探索者
第六倉庫事件のあと
523:名無しの探索者
魔物と戦いたかったからじゃないの?
524:名無しの探索者
全然違う
最初の所属は探索部じゃなくて安全運用室
525:名無しの探索者
しかも初代室長兼現場担当一人だけ
526:名無しの探索者
後のアーク安全管理局の前身な
527:名無しの探索者
今じゃ世界中のダンジョン施設で使ってる
《現場優先原則》を最初に社内規定へ入れた人
528:名無しの探索者
「安全規則は現場を知らない人間だけで完成させてはいけない」
これ三枝の言葉だったのか
529:名無しの探索者
第六倉庫の荷役作業員が
十年後には百二十七か国のダンジョン安全基準に影響与えてんの
人生分からんよな
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そこで俺は、思わず画面から顔を上げた。
百二十七か国。
今日。
小さな会議室で。
「現場を見ないでルールを決めたくない」と言った。
それだけだ。
でも未来では。
それが国境を越えている。
人材を集めるというのは。
強い人間を集めることではない。
未来の肩書きが大きい人間を先に買うことでもない。
今、その人が持っている考えや経験が。
未来のどこまで広がるのか。
俺のスマホは。
その結果だけを教えてくれる。
だったら俺がやるべきなのは。
結果を本人へ押しつけることではなく。
そこへ到達できる場所を。
少し早く作ることなのかもしれない。
俺は掲示板を閉じようとして。
思い直した。
三枝さんの加入は終わった。
なら。
今度は昨夜から止まっている調査だ。
《P5 共通曝露源》
検索する。
結果は少ない。
未来でも未解決なのだから当然だった。
いくつか古いスレッドを開き。
論文の引用。
研究者同士の議論。
真偽不明の噂。
それらを一つずつ読んでいく。
やがて。
気になる書き込みを見つけた。
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【前駆適応群研究】P5共通曝露源説ってまだ生きてる?
301:名無しの探索者
完全否定はされてない
302:名無しの探索者
でも五人の生活圏重なってないじゃん
303:名無しの探索者
地理だけ見ればな
304:名無しの探索者
昔の榊原研が調べたのは場所だけじゃない
305:名無しの探索者
何調べたの?
306:名無しの探索者
時間
307:名無しの探索者
五人の最古反応推定時期が
ほぼ同じだった
---
俺の指が止まる。
場所ではなく。
時間。
続きを開く。
---
308:名無しの探索者
ほぼ同じって何日くらい?
309:名無しの探索者
日じゃない
310:名無しの探索者
当時残ってた事故記録とか医療記録とか
電子機器ログから逆算した結果
五人の生活圏で最初に異常が出た時刻
誤差込みでも七分以内
311:名無しの探索者
全国バラバラの場所で?
312:名無しの探索者
そう
313:名無しの探索者
同時多発の前駆現象だっただけじゃないの
314:名無しの探索者
それなら他の地域にも同じ規模の記録があるはずだろ
315:名無しの探索者
実際には五地点だけ
316:名無しの探索者
しかも後から座標重ねたらもっと変なこと分かったやつ
317:名無しの探索者
それ以上書くと例の話になるぞ
---
そこから先。
数件の書き込みが削除されていた。
でも。
今回は。
十分だった。
五人は同じ場所にいなかった。
日本各地にいた。
面識もなかった。
なのに。
五人の周囲で。
ほぼ同じ時刻に。
何かが起きている。
俺はすぐに榊原さんへ電話をかけた。
『何だ』
「P5の件です。未来の研究では、五人の最古の異常記録が七分以内に集中しているらしいです」
電話の向こうで。
数秒。
沈黙があった。
『何年前だ』
「そこまでは書かれてません。ただ、事故記録や医療記録、電子機器のログから逆算したみたいです」
『五人の当時の生活圏は?』
「別々です」
『なら、その五地点を出せ』
「今からですか?」
『今やらずにいつやる』
電話が切れた。
相変わらず早い。
俺は未来掲示板へ戻り、検索条件を変えた。
五人それぞれ。
前駆適応。
初期記録。
所在地。
一つずつ。
断片的な情報を拾っていく。
九条。
白石。
東雲。
深町。
神代。
未来の研究資料をそのまま入手することはできない。
それでも掲示板の引用や過去記事から、少しずつ候補地を絞る。
一時間後。
榊原さんから共有された地図に。
五つの印が載った。
北海道でも。
九州でもない。
しかし。
東京からは離れている。
それぞれ数百キロ単位で。
別の県に散らばっている。
「やっぱり同じ場所じゃない……」
俺が呟くと。
隣で地図を見ていた榊原さんが言った。
「当たり前だ。分かっていただろ」
「じゃあ、未来掲示板の『こっち側の場所なら』って何なんです?」
「知らん。だが」
榊原さんは。
五つの地点を。
別々に拡大した。
衛星写真。
地形図。
地下構造。
当時の建物配置。
何度も切り替えて。
一つの画面へ戻す。
「同じ場所である必要がないなら、同じなのは別のものだ」
「別のもの?」
「時間が同じだった。そして反応波形も同じ」
榊原さんは。
地図ではなく。
前駆粒子の五本の波形を表示した。
「仮に、こちら側の五地点へ別々の現象が起きたんじゃないとしたら?」
俺は意味を理解するまで。
少し時間がかかった。
「一つの現象が……五か所へ?」
「仮説だ」
「でも一つの場所が、同時に五か所へつながるなんて」
言いかけて。
止まった。
もう見ている。
本来存在しない通路。
距離が伸びる地下空間。
別の場所へつながる扉。
こちらの地理法則を無視した前駆現象。
なら。
こちら側で五地点離れていたからといって。
向こう側でも離れていたと。
誰が言える?
未来掲示板の一文が。
頭の中へ戻ってくる。
『同じ場所にいる必要ないんじゃね』
『こっち側の場所ならな』
俺と榊原さんは。
ほとんど同時に。
五地点の地図を見た。
もし。
一つの《向こう側》が。
八年前。
同時に。
日本の五か所へ接触していたのだとしたら。
未来ランキングTOP5全員が日本人だったことも。
偶然ではない可能性が出てくる。
「佐伯」
「はい」
「政府の過去記録だけじゃ足りない」
「何を調べるんです?」
榊原さんは五つの地点を順に指した。
「この日、この七分間に何が起きたのか。停電でも、事故でも、動物の異常でも、通信障害でもいい。公的記録に残らなかったものまで全部拾う」
「八年前の話ですよ?」
「だから今から始める」
五人の未来を。
追っていたはずだった。
でも。
調べるべきものは。
十年後ではなく。
八年前にある。
世界ランキング一位から五位まで。
まだ誰もアークを知らず。
互いの名前すら知らなかった頃。
その五人の人生へ。
同じ七分間に。
何かが触れていた。
そして。
俺のスマホが十年後へつながるより。
ずっと前から。
この物語は。
もう始まっていたのかもしれない。




