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第17話 未来で消えた場所に、本人を連れてきた



 九月二十三日、午後五時四十分。


 横浜市北部にある旧共同溝工事区画は、未来掲示板で読んだ印象よりずっと地味な場所だった。


 周囲には新しい住宅や倉庫が建ち始めているものの、工事計画の変更によって途中で使われなくなった区画だけは古いフェンスに囲まれ、入口には立入禁止の看板が残されている。神代征司が事前に管理会社へ話を通してくれていたため俺たちは正式な許可を得て入れたが、何も知らずに通りかかったなら、ここで一年後のダンジョン発生につながる現象が起きるなんて絶対に思わなかっただろう。


「未来では、俺の車があの辺りで見つかったんだったな」


 機材を降ろしていた神代が、道路脇の空き地を見ながら言った。


 本人に自分の失踪現場を案内されるという状況は、何度考えても妙な気分になる。


「書き込みを照合した限りでは、そうです。ただ、車をそこへ停めたあと何が起きたのかまでは未来にも残ってません。今日分かるかもしれませんけど、分からないまま無事に帰れるなら、それが一番です」


「調査へ来ておいて、何も分からなくても構わないと言う研究協力者は初めてだ」


「神代さんの場合、分かろうとした結果が失踪ですからね。俺としては成果より帰宅優先です」


 その会話を聞いていた九条が、機材ケースを二つまとめて抱えながら笑った。


「こいつ、三日前からずっとそれ言ってるぞ。昨日なんか作戦表の一番上に『神代征司を帰宅させる』って書いてたからな」


「重要目標です」


「俺も見ました。第二目標が『誰も消えない』でしたね」


 瀬尾まで楽しそうに口を挟む。


 俺は真面目に作ったつもりだったのだが、ずいぶん評判が悪い。


「じゃあ何て書けばよかったんですか。第一次横浜前駆接続の完全解明とか格好つけて、誰か一人いなくなったら意味ないでしょう」


「私はいいと思いますよ」


 凛だけは味方をしてくれた。


 と思ったのだが、続けて「佐伯さん自身も帰宅する、まで書いてあればもっと良かったですけど」と言われたので、どうやら完全な味方でもないらしい。


 ここ三日で準備したものは、八王子での観測時とは比べものにならない。


 神代と榊原が組んだ地盤・前駆粒子の複合観測装置に、瀬尾が用意した有線カメラと小型走行機。温度、電磁変動、振動、空気組成を同時に拾えるセンサーも増設し、すべてのデータを二系統で記録するようにした。


 通信異常が出た場合に備えて無線だけに頼らず、地上まで物理ケーブルも敷設する。


 そして何より、今日は人間が異常領域へ近づかない。


 共同溝そのものは普通の人工構造物なので、昼間のうちに神代と管理会社の担当者立ち会いで入口付近へセンサーだけを設置した。未来で異常が起きる可能性の高い地点より数十メートル手前から先は無人にし、現在は全員が地上の仮設観測所に集まっている。


 九条は相当不満そうだったが、八王子で実際に《扉》を見てからは無理に前へ出ようとしなくなった。


 未来で世界二位になる男でも、未知のものに対して無謀ではないらしい。


 少しだけ安心した。


     ◇


「数値は安定してる。八王子より前駆粒子濃度は低いけど、基準値の二・一倍くらい」


 午後六時を過ぎた頃、榊原がモニターを見ながら報告した。


 隣では神代が地下構造の解析結果を確認している。


「空間異常の中心は予測地点からほとんど動いていない。ただ、三日前から上下方向への変動周期が短くなっている。八王子で接続が起きる直前にも似た傾向が出ていたから、今日中に何か起きる可能性は高い」


「何時くらいか分かります?」


「そこまで都合よくは分からない。私は未来を見られないからな」


「その未来にも時間までは書いてないんですよ」


 俺はスマホを机の上へ置いたまま答えた。


 今日は、作戦開始後に未来掲示板をできるだけ見ないことにしている。


 神代から頼まれたわけではない。


 八王子のときに感じたことを、俺なりに考えた結果だった。


 未来掲示板は便利だ。


 便利すぎる。


 分からないことがあれば検索する。失敗しそうなら過去スレを探す。誰かが危険なら、その人の未来を調べる。


 その方法で、実際に何人も救えた。


 だから使うこと自体をやめるつもりはない。


 ただ、何でも先に未来の答えを読んでしまえば、今ここで観測したものが「未来にそう書いてあったから正しい」のか、「自分たち自身が確かめたから正しい」のか分からなくなる。


 神代と榊原が研究を始めたことで、その違いは以前よりずっと重要になった。


 俺たちがこれから一年間で作らなければならないのは、俺のスマホがなくても使える知識だからだ。


「佐伯さん、難しい顔してますよ」


 凛に声をかけられて顔を上げる。


「また何か勝手に背負ってるんじゃねえの?」


 今度は九条だ。


「二人とも最近、俺の顔から読み取りすぎじゃないですか?」


「分かりやすいんですよ。普段はもっと落ち着きがないので」


「凛、それ褒めてませんよね」


「褒めてないです」


 普通に返され、瀬尾が笑った。


 以前なら短いやり取りが続いたところだが、今はその笑いに神代まで混ざる。三日前には初対面だったはずの人が、この集団の空気へ少しずつ馴染んでいる。


 そのことが、俺には妙に嬉しかった。


 未来では今日、この人はいなくなる。


 でも今はまだ、ここにいる。


 それだけで十分に未来は変わり始めている。


     ◇


 最初の異常が出たのは午後七時十二分だった。


 榊原の端末から警告音が鳴り、ほぼ同時に神代が椅子から身を乗り出した。


「前駆粒子濃度が上昇。八王子の接続直前より速い」


「空間異常も動いている。上じゃない……こちらへ寄ってきている?」


 神代の言葉に、俺は地下構造を表示したモニターを見る。


 赤く表示された異常領域が、共同溝のさらに下から斜め上へ伸びていた。


 接続予定地点へ。


 そして、その先には無人走行機が置かれている。


「カメラ映像、来ます」


 瀬尾が画面を切り替えた。


 地下の共同溝。


 昼間と何も変わらないコンクリートの通路が映っている。


 先へ進める必要はない。走行機は停止させたまま、首振り式カメラだけを動かす。


 壁。


 床。


 天井。


 どこにも異常はない。


 だが、八王子のときとは違う変化が先に起きた。


「距離計がおかしい」


 瀬尾が眉を寄せる。


「正面の壁まで二十三・四メートルだったのに、今二十四・一……二十五・八。カメラも車体も動いてません」


 映像上では、何も変わっていない。


 同じ壁が、同じ大きさで映っている。


 それなのに距離だけが伸びていく。


 神代が別の測定値を確認すると、声の調子が一段低くなった。


「空間そのものが引き延ばされている。八王子の《扉》とは出方が違う」


 午後七時十四分。


 カメラ映像にノイズが走った。


 今度は黒い線ではない。


 通路そのものが、ゆっくり歪んで見える。


 まっすぐだった壁が内側へ湾曲し、床と天井の距離がおかしくなる。遠近感が崩れ、数十メートルしかないはずの共同溝が、画面の奥でどこまでも続いているように見え始めた。


「これ……入口が開くんじゃない」


 榊原が言った。


「こっちの空間が、向こうへ引っ張られてる」


 その言葉を聞いた瞬間。


 未来で神代征司が消えた理由が、頭の中でつながり始めた。


「神代さん。未来では、この辺まで自分で入るつもりだったんですよね?」


 俺が指差した場所を見て、神代は少し考えてから頷いた。


「測定地点として選んでいたのは、その付近だ。異常が強く出る場所へセンサーを置き、私自身もそこで観測する予定だった」


 今、無人走行機がいる場所より。


 さらに十二メートルほど奥。


 そこへ人間が立っていたら。


「……扉に入ったんじゃない」


 凛も気づいたらしい。


「扉のほうから、神代さんのところまで来たんですね」


 神代は何も答えなかった。


 答えられなかったのだと思う。


 自分が数日前まで立つつもりだった場所が、今まさに普通の空間ではなくなっている。


 未来掲示板に残っていた「神代征司は地下調査中に消えた」という結果だけでは分からなかったことだ。


 本人は、無謀にダンジョンへ飛び込んだわけではない。


 地下にある異常を、安全圏から観測するつもりだった。


 ただ。


 安全圏だと思っていた場所そのものが。


 安全ではなくなった。


「全員、もう五メートル下がりましょう」


 俺が言うと、九条が地下入口のほうを見る。


「地上まで来る可能性あるのか?」


「分かりません。だから下がります。分からないものに対して『たぶん大丈夫』は今日はなしです」


 誰も反対しなかった。


 仮設机と観測機器はそのままにして、人間だけが後方へ移動する。操作は延長ケーブルと無線端末で続けられるよう、最初から準備していた。


 八王子で決めたルールが。


 もう役に立っている。


     ◇


 午後七時十六分。


 異常はさらに拡大した。


 共同溝内のカメラ映像では、通路の一部が完全に別の景色へ変わり始めている。


 コンクリートの床へ黒い石が重なる。


 壁に青白い光が現れる。


 八王子で見たものと似ている。


 けれど今回は、縦長の扉が開くのではなかった。


 二つの空間が薄い紙のように重なりながら、徐々にこちら側を塗り替えている。


「走行機、戻せます?」


 俺が聞くと、瀬尾が操作する。


 車輪が回った。


 しかし。


「進まない」


 モーターは正常に動いている。


 タイヤも回っている。


 それでも映像上の位置が変わらない。


 九条がモニターへ近づいた。


「引っかかってんのか?」


「違います。車輪の回転数ならもう三メートル以上後退してるはずです。でも距離計では、こっちまでの距離が逆に増えてます」


 異常領域が、機体を奥へ引き込んでいる。


 俺はケーブルを見る。


 地上まで伸ばした物理線が、ゆっくり地下方向へ引かれ始めていた。


 最初は僅かだった。


 しかし数秒後には、巻取り機の固定具が軋むほど強くなる。


「切れ」


 神代が即座に言った。


「まだ映像取れてます!」


 瀬尾が答える。


「機材は捨てろ。ケーブルを通じて地上側まで何か起きる可能性がある」


「俺も賛成です」


 俺がそう言うと、九条がすぐ非常用のカッターを取った。


 瀬尾がデータ保存を確認し、榊原が最後の観測値を記録する。


「いいです!」


 その声と同時に。


 九条がケーブルを切断した。


 切れた先端が、まるで誰かに引っ張られたように地下へ走る。


 モニターは暗転した。


 同時に、観測端末の一部がエラー表示へ変わる。


 誰も喋らなかった。


 もし。


 あれがケーブルではなく。


 人間だったら。


「……俺は、ああなっていたのか」


 神代が静かに言った。


 九条が何か返そうとしたが、神代は首を振った。


「怖くないと言えば嘘になる。ただ、それ以上に腹が立つな。三日前の私は、あそこまで準備すれば安全だと思っていた。ケーブルも持っていく予定だったし、地上へ連絡するための装備も考えていた。それでも何の意味もなかったということか」


「違います」


 俺はすぐに答えた。


 神代がこちらを見る。


「一人だったから、意味がなくなったんだと思います。一人で測って、一人で異常に気づいて、一人で撤退を決めなきゃいけなかった。でも今日は、神代さんが現象を見ている間に榊原さんが別の数値を見て、瀬尾が機材を操作して、九条さんがケーブルを切れた。俺と凛も周りを見ていられた。準備が間違ってたんじゃなくて、一人で全部やろうとしたのが危なかったんです」


 自分で言いながら。


 それは神代だけの話ではないと思った。


 未来掲示板を手に入れた俺も。


 最初は全部一人でやろうとしていた。


 情報を集め。


 物を買い。


 人を探し。


 一年後へ備える。


 スマホに未来が入っているなら、それで十分だと思っていた時期もある。


 でも違った。


 一人では。


 見えないところが多すぎる。


 神代はしばらく俺を見ていたが、やがて小さく息を吐いた。


「息子にも、よく同じことを言われる」


「何て?」


「一人で勝手に決めるな、と」


 俺は少し笑った。


「それ、今度会ったら謝ったほうがいいですよ」


「君に言われたくはないな」


「なんでですか?」


「君も同類に見える」


 後ろで凛が大きく頷いた。


 なぜそこだけ全員の意見が一致するのか分からない。


     ◇


 異常が消えたのは午後七時二十一分だった。


 前駆粒子濃度が急速に下がり、神代の空間解析でも異常領域が地下深部へ後退していく。


 予備として設置していた二台目のカメラを使って共同溝を確認すると、そこには元通りのコンクリート通路があるだけだった。


 ただし。


 走行機は消えていた。


 切断したケーブルの残りもない。


 物理的にどこかへ引きずられたのなら、床には傷や引っ掛かった痕跡が残るはずだ。


 何もない。


 まるで最初から。


 そこに機材なんて置かれていなかったように。


「これで、ほぼ確定だな」


 神代が記録を確認しながら言う。


「未来の私は、同じ現象へ巻き込まれた可能性が高い。ダンジョン内部へ自分から進入したのではなく、前駆接続の拡大範囲に取り込まれた」


「生きてた可能性は?」


 九条が聞いた。


「分からない。ただ、機材が向こう側へ移動しただけなら、私も同じようにどこかへ移された可能性はある」


 その言葉に俺は反応した。


 未来では。


 遺体が見つかっていない。


 十年間、帰ってきた記録もない。


 だから死亡したと考えていた。


 でも。


 もし本当に別空間へ移動していたなら。


 ダンジョン発生前の一年間。


 いや。


 その後も。


 どこかに生きていた可能性はある。


 未来掲示板で検索すれば、何か分かるかもしれない。


 俺はスマホへ手を伸ばした。


 そこで。


 少し迷った。


 未来を確認する前に。


 まず今の結果を残す。


「瀬尾。今日の記録、全部三重保存してください。神代さんと榊原さんは、現時点の結論を未来情報なしでまとめてもらえますか」


「佐伯君は?」


「そのあと未来を見ます」


 神代が少し笑った。


「学習したな」


「毎回未来に答え聞いてたら、研究者二人に怒られそうなので」


「俺は怒らない。未来のデータもデータだから」


 榊原が言った。


「ただし、混ぜるなら区別して記録して」


「はいはい」


「返事が軽い」


「榊原さん、もう完全にうちの人みたいになってません?」


「研究場所として効率がいいだけ」


 たぶん。


 十年後まで同じことを言っている気がする。


     ◇


 一時間後。


 すべての観測記録が整理されたところで、俺は未来掲示板を開いた。


 まず検索したのは。


《神代征司 失踪》


 検索結果が出る。


 以前とは違っていた。


 最上部に表示されたのは、未解決事件のスレッドではない。


『〖歴史〗横浜第一次前駆接続観測について』


 開く。


『名無しの探索者:2036/09/23 19:31


 今日でちょうど十年か』


『名無しの探索者:2036/09/23 19:32


 神代征司失踪が消えた日でもある』


『名無しの探索者:2036/09/23 19:32


 歴史改変とかじゃなくて言い方w』


 思わず笑いそうになった。


 未来の人間は。


 もちろん本当に歴史が変わったことなんて知らない。


 さらに読む。


『本来この観測がなかったら前駆接続の範囲拡大型が発生日まで分からなかった可能性あるんだよな』


『無人機一台で済んだの奇跡』


『この事故から《固定安全距離禁止》が出来た』


 固定安全距離禁止。


 俺は神代を見る。


「また安全基準が増えました」


「何だ?」


「異常領域から何メートル離れれば安全、って決め方自体が禁止になるみたいです。今日みたいに接続範囲そのものが動くから」


 神代は少し考えてから頷いた。


「妥当だ。距離ではなく、観測値の変化に応じて退避範囲を動かすべきだな」


 その一言も。


 十年後には教科書へ載っているのかもしれない。


 俺はさらに下を見る。


 そこで。


 一つの記事に目が止まった。


『神代朔夜――史上最年少で世界一位へ』


 まだある。


 未来は変わった。


 父親は消えなかった。


 それでも。


 神代朔夜は世界一位になっている。


 俺は記事を開いた。


 経歴が以前と変わっていた。


 二〇二七年九月。


 ダンジョン発生直後に覚醒。


 母と妹は――。


 俺の指が止まる。


『第一次横浜避難計画により生存』


 助かっている。


 母親も。


 妹も。


 その下。


 二〇二七年十月。


『父・神代征司が参加するアーク・フロンティアの調査活動へ協力』


 二〇二八年。


『正式にアーク・フロンティア探索部へ所属』


「……早くなってる」


「何がです?」


 凛が横から覗き込んだ。


「神代朔夜の加入です。前の未来では二〇二九年だったのに、二〇二八年になってる」


「家族が助かっても、世界一位なんですか?」


「はい」


 その答えを口にした瞬間。


 胸の中に残っていたものが。


 少しだけ軽くなった。


 ずっと。


 どこかで怖かった。


 未来の英雄たちを助けることで。


 その人たちが強くなる理由まで失わせてしまうんじゃないか。


 神代朔夜が世界一位になったのは。


 家族を全部失ったからなのではないか。


 もし家族を救えば。


 未来で必要になる世界最強の探索者を。


 俺が消してしまうのではないか。


 そんな考えが。


 なかったわけじゃない。


 でも。


 違った。


 家族を失わなくても。


 神代朔夜は。


 世界一位になれる。


「佐伯さん?」


 凛が少し心配そうに俺を見る。


「大丈夫です。ただ……良かったなと思って」


「神代君の家族が?」


「それもですけど」


 俺はランキングを開いた。


 一位。


 神代朔夜。


 二位。


 九条蓮司。


 三位。


 白石凛。


 その下の四位と五位も。


 まだアーク・フロンティア所属のままだ。


「未来を良くしたら、未来の英雄が消えるわけじゃないみたいです」


 九条が鼻で笑った。


「当たり前だろ。家族が死ななきゃ強くなれねえ奴が世界一位なら、俺はそいつに負ける気しねえぞ」


「九条さん、未来では普通に負けてますよ」


「今いいこと言ったところだろ!」


 凛が笑う。


 神代まで吹き出した。


 その笑い声を聞きながら、俺はもう一度スマホへ目を落とした。


 今日。


 神代征司は消えなかった。


 一年後。


 妻も娘も助かる未来へ変わった。


 それでも神代朔夜は世界一位になり、しかも以前より一年早くアークへ来る。


 未来を守るために。


 悲劇まで守る必要なんてない。


 そのことを。


 初めて未来のほうから教えてもらった気がした。


 そして。


 俺はランキングの続きを見る。


 世界四位。


 世界五位。


 まだ会っていない二人。


 上位五人を全員アークへ集める未来は、今も残っている。


 なら次は。


 この二人だ。


 ただし。


 強くなる未来だけを見るのは。


 もうやめる。


 その人が十年後に何を手に入れるのかだけではなく。


 そこへ辿り着くまでに。


 何を失うのか。


 先に確かめる。


 そして。


 失わなくていいものなら。


 全部。


 未来から取り返す。


 アーク・フロンティアが世界最強になる理由は。


 悲劇を集めるからじゃない。


 悲劇になるはずだった人間を。


 その前に集めるからだ。


 俺はそういう会社にしたかった。


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