第29話:古代の防衛機構
一、 光の向こうの不穏な鳴動
古代都市アガルタ、地下第三層の最奥。
暗く静まり返った廃棄パイプラインを抜け、アル、カルム、エレナ、そしてオルタの四人が足を踏み入れたのは、ドーム状の天頂がかすかに青白く光る、果てしなく広大な巨大ホール――『中央昇降機前庭』であった。
ホールの真ん中には、地表の『天竜山脈』の麓へとまっすぐに伸びる、幾何学模様の白磁と鋼鉄で編み上げられた超巨大な柱状構造物――【天竜昇降機】が聳え立っている。
「……ついに、出口だな」
カルムが背中の巨大な旅リュックを担ぎ直し、口元に笑みを浮かべた。
赤銅色の髪が、上方から吹き降りてくる冷ややかな風に揺れる。その風には、数千年の間この地下都市を包んできた薬品や鉄の匂いだけでなく、かすかに地上の土や生い茂る草木の香りが混じり始めていた。
「うむ。あの昇降機を稼働させれば、一気に地上へと出られるはずだ。長かった地下での探索も、これでようやく一区切りだな」
エレナも、白磁の甲冑の手触りを確かめるように胸に手を当て、安堵の息をついた。その美しい青い瞳には、過酷な激闘を共に乗り越えてきた仲間たちへの強い信頼が宿っている。
「オルタ、昇降機の起動コードは入力できそう?」
アルが優しく問いかけると、彼の隣で白磁の手をそっと重ねていた少女オルタが、ルビー色の瞳を瞬かせた。
『――――肯定です、マスター・アル。ワタクシの内部メインコアに記憶された最上位アクセス権限により、天竜昇降機の緊急解放シークエンスを即座に実行可能です。……地上到達までの予測時間は、一四分三〇秒――――』
オルタの声は、かつての感情を持たない機械の合成音声とはまるで違っていた。
アルから分け与えられた「体温」と「美味しい」という感情、そして仲間たちの温もりを知り、涙を流した彼女の声には、確かに血の通った一人の少女としての人間らしい響きが宿っていた。
オルタは、白磁の小さな手でアルの手をぎゅっと握り返し、愛らしく目を細めた。
『――――地上へ出たら……アルの作った、太陽の下での温かいご飯を……ワタクシ、もっとたくさん食べたいです――――』
「うん! 任せてよ、オルタ! とびっきりのごちそうを作るからね!」
アルが最高に温かな笑顔を弾けさせた、まさにその瞬間であった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
突如として、巨大ホールの床面全体が、地震など比べものにならないほどの激しい地鳴りを上げて震動し始めた。
「な……なんだっ!? また崩落か!?」
カルムが弾かれたように体勢を低くし、両拳を構える。
「違う! これは……地下都市全域のマナラインが、一箇所に集中している音だ!」
エレナが聖剣の柄を固く握り締め、驚愕の声を上げた。
ホールの天井、壁面、そして床面に敷き詰められていた幾何学模様の白磁装甲。
それらすべてから、それまで灯っていた青白いルーン光が消え去り――代わりに、目を刺すような、おどろおどろしい【不吉な漆黒と緋色の警戒光】が一斉に点滅し始めたのだ。
『――――緊急警報。緊急警報――――』
ホールの全方位から、数千年間使われていなかった超古代の中枢アナウンスが、地鳴りのような音圧となって響き渡る。
『――――区画01から03における、最終隔離コードの破綻を確認。……感染性バグ個体【ALTA-00】ならびに未定義有機生命体の地上への流出を阻止するため……最終防衛シークエンスを起動します――――』
『――――全都市マナの九割を強制徴収。……【アガルタ最終裁定種・オメガ・ルヴァイアサン】を覚醒させます――――』
「最終裁定種……だと……!?」
エレナの顔から、完全に血の気が引いた。
「おいおい……! アガルタの鉄クズどもの一番のデカブツが起きてきやがったのかよッ!」
カルムが前歯を剥き出しにし、苛立ちと闘志を交錯させて叫ぶ。
アルたちの目の前――天竜昇降機の足元の鉄鋼床が、まるで生き物のように観音開きに割れ開いた。
その底なしの暗闇から、数千年の冷たい静寂を破り、あまりにも巨大な「絶望の巨躯」がゆっくりと浮上してきた。
二、 起動する最終防衛兵器(アガルタの遺威)
ズズズズズズズズズズズ……ッ!!
暗闇の底から姿を現したのは、これまでアルたちが戦ってきた清掃ドローンや殲滅機甲とは、スケールも格も全く異なる超古代の絶対兵器であった。
【アガルタ最終裁定種・オメガ・ルヴァイアサン】。
身の丈、五十メートル超。
古代の城砦と巨大な多脚戦車を融合させたかのような、圧倒的な威容。
全身は、あらゆる攻撃を概念レベルで減衰させる、厚さ数メートルの最高純度神聖金属(神聖オリハルコン)と高密度白磁装甲で隙間なく固められている。
胴体中央には、都市全体の動力を司る巨大な疑似ルーン太陽――【漆黒の裁定核】が禍々しい赤黒い光を放って渦巻いていた。
そして、その巨躯から生え揃うのは、八本の巨大な多節構造の鋼鉄脚と、超高出力の魔導破壊砲を備えた四本の巨腕。
『――――ターゲット固定。……バグ個体【ALTA-00】ならびに共犯者――――』
オメガ・ルヴァイアサンの胴体各所に配置された、何百という赤色センサードットが一斉に発光し、アルたち四人を完璧に捕捉した。
『――――神の管理を逸脱した不純物に、存在の許可は降りない。……これより、分子レベルでの完全消滅を実行する――――』
キィィィィィィィィィィィィン――――……ッ!
オメガ・ルヴァイアサンの四本の巨腕の先、そして胸の裁定核から、大気を激しく振動させる充填音が響き渡った。
広場全体の空気が一瞬で熱を奪われ、真空に近い状態へと巻き込まれていく。
それだけで、周りの残っていた鉄パイプがひしゃげ、岩石が粉々に砕け散るほどの超高密度マナの圧迫感。
「く……っ! なんというマナの質量だ……! 使徒の消去光線に匹敵する……いや、物理的な破壊力においてはそれ以上だぞ!」
エレナが、聖剣を構えながら前に出た。彼女の白磁の甲冑が、迫り来る圧力だけでミシミシと悲鳴を上げる。
「チッ……! ここまで来て、こんな巨大な鉄クズに邪魔されてたまるかよッ!」
カルムが咆哮し、全身から鮮やかな赤蓮の魔力炎を爆発させた。
だが、その表情には先ほどまでの余裕はない。目の前に立ちはだかるのは、個人の武力でどうにかできる範疇を遥かに超えた、都市そのものが姿を変えたかのような「神の理不尽な城砦」なのだ。
「オルタ、あのデカブツの攻撃……防げる!?」
アルが黒鉄の包丁を両手で構えながら叫ぶ。
オルタは、ルビー色の瞳をカッと見開き、瞬時に敵の全身のデータを走査した。
『――――ネガティブです、マスター・アル!……オメガ・ルヴァイアサンの出力は、アガルタ都市全マナの九一・二パーセントに達しています! ワタクシの持つ最上位アクセス権限すら、敵の物理的オーバーライド遮断壁によって拒絶されています!――――』
「権限が効かない……!?」
『――――肯定です! 敵は『命令を聞く機械』ではなく、バグを潰すためだけに起動した『自動処分機構』です! ワタクシたちを完全に消去するまで、攻撃を止めるプログラムが存在しません!――――』
『――――全砲門、放流――――』
無機質な機械音声の終了と同時に。
ズバアァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!!!!
オメガ・ルヴァイアサンの全砲門から、広場全体を跡形もなく覆い尽くすほどの、極大の赤黒い破壊光線束が撃ち放たれた!
大気が蒸発し、床の白磁装甲が一瞬で溶融して赤熱のマグマへと変わる。逃げ場など存在しない、絶対の焦土攻撃!
三、 四人の『最高の厨房』、一丸の攻防
「【星霜不滅の領域】――――ッ!!」
エレナが全魂の悲鳴を上げ、聖剣を力任せに地へと突き立てた!
彼女の身体から、かつてないほど巨大な青白銀の幾何学極光が展開される。
ただの円形障壁ではない。アルたちの前方に、何重にも重なり合う巨大な光の盾が、立体制圧陣となって構築された。
ドドドドドガァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!!!!
極大の破壊光線束と、エレナの絶対障壁が真っ正面から破砕音を立てて激突した!
「ぐああぁぁぁぁぁっ……!? ぬぅぅぅぅぅぅっ……!!」
エレナの白磁の甲冑の肩当てが、反動の衝撃で弾け飛ぶ。口元から血が激しく吹き出し、彼女の膝が深く泥と溶岩へとめり込んでいく。
だが、エレナは倒れなかった。
(私は……不滅の盾……! アル殿の……私たちの『厨房(居場所)』を……絶対に踏み荒らさせはしないッ!!)
エレナの気迫が、神の破壊光線をギリギリのところで受け止め、左右へと受け流していく。弾け飛んだ光線の余波だけで、広場の数十メートルの壁面が崩落し、巨岩が粉々に砕けていった。
「ナイスだ、騎士様ッ! 次は俺の番だぁぁぁッ!!」
障壁が切り開いた一瞬の隙。
カルムが、爆発的な踏み込みで融解した床を蹴り上げた!
彼の身体は、深紅の流星となって、オメガ・ルヴァイアサンの右前脚の関節部へ向かって一直線に突進する!
「【我流神殺・赤蓮穿撃】ッ!!」
カルムの両拳に圧縮された、太陽の表面温度にも匹敵する赤蓮の魔力炎。
それが、敵の巨大な前脚の繋ぎ目へ向けて、穿岩ドリルよろしく回転を伴って叩き込まれた!
ドガァァァァァァァァァァンッ!!
激しい火花と金属の悲鳴!
しかし――。
「ギギ……ッ! 物理的打撃を検知。……装甲表面の衝撃分散層を起動――――」
オメガ・ルヴァイアサンの巨大な脚は、カルムの火炎パンチの衝撃を、全身の金属フレームへと瞬時に分散させて吸収してしまった。カルムの打撃は、数センチの煤をつけただけで、完全な無力化へと追い込まれたのだ。
「なっ……!? 衝撃を逃がしやがっただと!?」
カルムが目を見開いた瞬間、敵のもう一本の巨腕から伸びる巨大な鋼鉄の爪が、カルムの身体を虫ケラのように叩き潰さんと、頭上から襲いかかってきた!
「カルム、避けてッ! 三メートル左ッ!!」
「なにッ!?」
声の主は、オルタだった!
オルタは、ルビー色の瞳を限界まで見開き、内部の演算処理能力を全開にして、敵の攻撃の軌道とタイミングを完璧に先読み(予知)していたのだ。
「左脚の油圧ラインが作動! 爪の振り下ろしまで、あと0・二秒ですッ!」
「おっしゃぁぁぁッ!!」
オルタの正確無比なナビゲーションを受け、カルムは即座に左へ旋回!
ズドォォンッ! と、カルムがいた場所へ巨大な爪が突き刺さり、間一髪のところで圧死を免れた。
「助かったぜ、オルタッ!」
「はい! カルム、次は敵の背後から迫るサブ兵装に気をつけてください!」
オルタは、ただの「守られる存在」ではなかった。
彼女の持つアガルタの知識、超高度な解析能力、そして仲間を護りたいという熱い「自我」。それらが一つとなり、オルタはチームの絶対的な『司令塔』として覚醒したのだ!
「アル殿! 敵の装甲は単なる打撃や聖術では突破できん! あの巨躯を支えている『因果の結び目』はどこだ!?」
エレナが、迫り来る第二波の砲撃を障壁で防ぎながら、アルへと叫んだ。
アルは、エプロンを風になびかせ、黒鉄の包丁を低く構えて前線へ躍り出た。
彼の漆黒の瞳に、太陽のごとき【真理の目】の黄金の輝きが、かつてないほどに強く、美しく灯っていた。
「見えてる……! 全部、見えてるよッ!!」
四、 連携の極致と『真理解体』の閃光
アルの黄金の視界の中。
五十メートルを超える超巨大防衛兵器オメガ・ルヴァイアサンの、圧倒的な構造がモノクロームの世界となって解き明かされていく。
最高純度の神聖金属。絶対の衝撃分散構造。
一見すると、隙などどこにも存在しない完璧な城砦。
しかし――どんなに強大で、どんなに頑丈に作られた機械であっても。
アガルタの都市全体から引き込んでいる膨大なマナと、五十メートルの巨体を運動させるための物理構造。その二つが交差する点には、必ず【エネルギーと因果の結び目(絶対の筋)】が存在するのだ!
「オメガ・ルヴァイアサンの体の真ん中……あの胸の『漆黒の裁定核』の奥!」
アルが、黒鉄の包丁の刃先を突き突き出した。
「あの核を支えている、四本の『太いマナ供給パイプの結び目』! あそこを解体すれば……あの大きな体は、動かなくなるッ!」
「了解だ、アル殿!」
エレナが聖剣を高く掲げた。
「しかし、あの胸の核の前には、厚さ三メートルの神聖金属のメイン装甲が立ち塞がっている! まずはあれを剥がさねば、君の包丁すら届かん!」
「メイン装甲の固定ボルトの『結び目』は……あの四本の巨腕の関節の裏側にあるよ!」
アルの明確な指示!
「任せろッ!!」
カルムが、再び地面を強く踏み鳴らした。
「オルタ! 指示を出せ! 俺の炎で、その関節の裏側を焼き切ってやるッ!」
『――――了解です、カルム! 敵の右前脚の関節裏、冷却ダクトの隙間! 攻撃の猶予時間は、一・四秒です!――――』
オルタの弾けるような声!
「そこだぁぁぁぁぁぁぁっ!! 【我流神殺・赤蓮一閃】ッ!!」
カルムが、敵の攻撃の隙間をすり抜け、オルタの指示した寸分狂わぬポイントへ向かって、全魔力を注ぎ込んだ赤蓮の炎の突きを叩き込んだ!
ドガァァァァァァンッ!!
「ギシャアアアアッ!?」
オメガ・ルヴァイアサンの右前脚の冷却ダクトが内側から大爆発を起こし、巨体が大きく左へと傾いた!
「次は左の巨腕! エレナさんッ!」
『――――ターゲット固定! 左巨腕の付け根、高圧マナラインの接合部です!――――』
「【星霜一閃・穿】ッ!!」
エレナの放った青白銀の極光の槍が、オルタの示した接合部をミクロの精度で撃ち抜いた!
ズバァァァンッ!!
オメガ・ルヴァイアサンの左巨腕が、根本から火花を散らして千切れ飛び、地響きを立てて崩れ落ちた!
左右の腕の機能を奪われ、バランスを崩した巨大兵器。
その胸部の中央――厚さ三メートルのメイン装甲を固定していた、無数の『因果の結び目』が、アルの【真理の目】の前に、完全に無防備となって露出した!
「今だ……ッ! アル殿ッ!!」
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ、アルッ!!」
「マスター・アル! 胸の裁定核の開放まで、あと三秒ですッ!!」
仲間たちの叫び、想い、そして最高のサポート!
「みんな……ありがとうッ!!」
アルが、白磁の地を爆発的に蹴り上げた!
彼の手の中にある『黒鉄の包丁』。
刀身の墨流し模様が、アル体内の命の熱『炉』の爆発的な高まりに応えるように、黒い鉄から――【太陽のごとき純金の極光】へと完全に変貌を遂げる!
アルの身体は、空中で一筋の金の流星と化し、五十メートルの巨大兵器の胸元へと一直線に飛び込んでいった。
「ギギ……ガ……ッ! 特異点の接近を感知……! 主砲、臨界発射――――」
オメガ・ルヴァイアサンの胸の裁定核が、アルを至近距離から蒸発させんと、死の赤黒い光を放とうとした。
しかし――アルの動きの方が、コンマ数秒早かった。
アルは空中で身体を限界まで捻り、純金の極光を纏った黒鉄の包丁を、胸のメイン装甲の『結び目』へ向かって、舞うように滑らかに滑り込ませた!
「【真・理・解・体――大・下・ご・し・ら・え】―――――――――ッ!!!!!!!!!!!」
シュッ――――――――――――――――――――――――。
世界から、すべての雑音が消え去った。
アルの振るった包丁の刃先が、厚さ三メートルの神聖金属装甲を留めていた、無数の因果の筋を、一瞬にしてすべて完璧に切断した。
サクッ――――。
世界で一番美しく、澄み切った「下ごしらえ」の音。
次の瞬間。
ガカァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!!!!!!!!
絶対の強度を誇っていたオメガ・ルヴァイアサンの胸のメイン装甲が、まるで完熟した桃の皮のように、ボロリ、ボロリと綺麗に剥がれ落ちたのだ!
「『――――な……なに……!? 装甲の結合が……解体された……!? あり得ない……あり得ないッ!!――――』」
オメガ・ルヴァイアサンの合成音声が、絶望のノイズを発して狂い叫ぶ。
剥き出しになった胸の最奥。
そこには、アガルタ都市全マナを凝縮させた、直径十メートルの巨大な【漆黒の裁定核】が、無防備な姿を晒していた!
五、 打ち砕かれた冷たき理不尽
「トドメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
アルが空中で道を譲った、その瞬間。
アルの背後から飛び出してきたのは、全魔力を両拳に集束させ、全身を深紅の炎で包み込んだカルム!
そして、そのカルムの隣には、聖剣に全生命のマナを注ぎ込み、一筋の銀の彗星と化したエレナ!
二人の最高火力が、完璧な同調を果たし、無防備になったオメガ・ルヴァイアサンの胸のコアへと一直線に叩き込まれる!
「【我流神殺・赤蓮極大撃】ッ!!!!」
「【我が絆の不滅を証明せよ……星霜無窮極光斬】ッ!!!!」
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
二人の放った全開の炎と幾何学極光が、オメガ・ルヴァイアサンの胸の裁定核の中心へ、寸分の狂いもなく同時に激突した!
「『――――ギ……ガガガッ……! 破壊……不能の……コアが……っ! 融解……崩壊……ッ!』――――」
五十メートルの超巨大防衛兵器オメガ・ルヴァイアサンの巨体が、内側から大爆発を起こし、激しく膨張していく。
だが――アルは、着地と同時に黒鉄の包丁を大きく空中で一回しした。
「【再・創・生】――――ッ!!」
カァァァァァァァァァァッ……!
爆発によって散らばるはずだった、敵の持つ膨大なマナと有毒な爆発エネルギー。
それが、アルの包丁の極光によって瞬時に毒だけを完全に消去され――広場全体を優しく照らす、圧倒的な【温かな生命のマナの光】へと劇的に変質していったのだ!
シュワァァァァァァァァァァァァァァァァァッ……!
崩壊したホールの床、溶けていた白磁の装甲が、奇跡のような速度で元の美しい姿へと再生していく。
広場全体を包み込むのは、命を滅ぼす冷たさではなく、春の陽光のような、どこまでも優しい温もり。
パカーンッ!!!!!!!!!!!
超巨大兵器オメガ・ルヴァイアサンの巨体は、一粒の傷も残さず、黄金の光の粒子となって砕け散り、大気の中へと綺麗さっぱりと昇華して消え去った。
アガルタの最後にして最大の防衛機構――【最終裁定種】の完全撃破。
神が遺した冷たい計算式と絶望の兵器が、四人の「最高の厨房」の熱き絆の前に、完全に打ち砕かれた瞬間であった。
「ごちそうさまでした!」
アルが黒鉄の包丁を滑らかに鞘へと収めた。
シャリン……。
静寂が戻った広場。
「ハァ……ハァ……ハァ……っ!」
カルムが、拳から煙を上げながら膝をついた。
エレナも聖剣を支えにして息を整えている。
二人の顔には激しい疲労が浮かんでいたが、その口元には、最高に爽快な笑みが浮かんでいた。
「やったな……! やったぞ、アル、エレナ、オルタッ!!」
カルムが立ち上がり、空に向かって叫んだ。
「うむ……! 見事な勝利だったな!」
エレナも感涙を浮かべて頷く。
「マスター・アル……!」
オルタが小走りで駆け寄ってきて、アルの腰にぎゅっと抱きついた。
そのルビー色の瞳には、もう過去の恐怖や迷いは一切なかった。
「ワタクシたちの勝利です……! ワタクシたちの『厨房』の勝ちですっ!」
「うんッ! やったね、オルタ!」
アルも、オルタの小さな身体を力いっぱい抱きしめ返した。
ズズズズズズズズズッ……!!
オメガ・ルヴァイアサンの滅亡とともに、広場の中央に聳え立つ【天竜昇降機】の巨大な白磁の扉が、ゆっくりと、完全に解放された。
扉の向こう側から降り注いでくるのは――真の地上の風。
太陽の光をたっぷり含んだ、暖かく、どこまでも澄み切った「命の風」であった。
「さあ……行こう!」
アルが立ち上がり、仲間たちに向かって、最高に輝く笑顔を向けた。
「地上へ……僕たちの新しい冒険の舞台へッ!!」
「おうッ!」
「うむ!」
「はい、アル!」
四人の絆は、アガルタの絶望を完全に打ち破った。
不滅の情熱と体温を抱き、チーム『最高の厨房』は、ついに未知なる地上世界へ向かって、開かれた昇降機へと踏み出していくのであった。




