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神殺しのフルコース ~少年料理人と修羅の創世食卓~  作者: solune
第2章:古代都市アガルタ編

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第23話:冷たい鉄の体温

一、 地下第二層への避難と機甲人形の観察

崩落する中央ルーン・タワーの最深部から脱出し、アル、カルム、エレナ、そして目覚めた機甲人形オルタの四人は、古代都市アガルタの地下第二層に位置するかつての居住区遺跡へと辿り着いた。


頭上からは時折、地鳴りのような重い振動と、はるか上層で巨岩が崩れ落ちる鈍い音が届いてくる。しかし、この第二層を覆う分厚い白磁の隔壁と黒鉄の支柱は数千年の歪みに耐え抜き、広場を静寂の中に包み込んでいた。


「ハァ……ハァ……っ! ここまで来れば、ひとまず崩落には巻き込まれずに済むな……!」


カルムが背中の巨大な荷物をドサリと金属床に下ろし、膝に手を突いて荒い息を吐いた。赤銅色の髪から大量の汗が滴り落ち、両拳の赤蓮の魔力炎が静かに収まっていく。


「うむ。タワー最下層の自爆シークエンスはこの区画までは届いていないようだ。……少年、怪我はないか?」


エレナが『星霜の聖剣』を鞘へと収め、警戒を怠らない眼差しのままアルへと振り返った。白磁の甲冑には瓦礫の擦り傷やすすが付着していたが、彼女の佇まいには最高位聖騎士長としての気品と力強さが戻っていた。


「うん、僕は大丈夫! エレナさんも、カルムもありがとう!」


アルはボロボロになったエプロンを軽く払い、隣に立つ少女――オルタへと視線を向けた。


彼女は、崩落の恐怖も、死の危険も一切感じていないかのように、ただ静かに佇んでいた。

白磁のように滑らかな肌、雪のように白い銀髪、そしてルビーのように澄み切った機械の瞳。

その体表面には、先ほどまでの激しい脱出劇による傷一つついていなかった。人間であれば息を乱し、動悸に胸を痛めるような死線であっても、彼女の精密な機甲素体は寸分の乱れもなく機能を維持していたのだ。


「オルタ……本当に、痛いところはない?」


アルが心配そうに覗き込むと、オルタのルビー色の瞳がチチッ……と微かな光を点滅させた。


『――――当機の構造体に物理的・機能的損傷は検知されません――――』


淡々とした、風の音すら混じらない合成音声。


『――――内部ログの解析を実行。……マスター・アル、ならびに個体名【カルム】、個体名【エレナ】の移動速度および回避行動は、当機の試算する生存確率の限界値を三四パーセント上回っていました。不合理な行動パターンです。なぜ、ワタクシという『不要な重量物』を抱えたまま、自らの生存リスクを高める選択を行ったのですか?――――』


オルタは首を小さく三十度傾け、アルをじっと見つめた。

彼女の論理回路(思考プログラム)において、脱出時に足手まといとなる重い機甲人形を庇い、抱え直しながら逃げるという行為は、明確な「エラー(非効率)」でしかなかったのだ。


「不要な重量物だぁ?」


カルムが不機嫌そうに鼻を鳴らし、自分の首の後ろをガリガリと掻いた。


「お前なぁ、さっきから黙って聞いてりゃ、自分のことを鉄クズだの重量物だのって……。俺たちはなぁ、お前を『荷物』として運んだんじゃねぇよ。仲間を置いて逃げたら、後で喰う飯が不味くなるから助けたんだよッ!」


『――――仲間……?――――』


オルタのルビー色の瞳が、再び不規則な速度で点滅した。


『――――『仲間』という概念は、相互の利益および生存率を向上させるための協調行動単位と定義されます。しかし、現時点においてワタクシが皆様に提供できる機能的利益は存在しません。したがって、ワタクシは『仲間』の定義に適合しません――――』


「適合するかどうかなんて、お前が決めることじゃないよ」


アルは優しく微笑み、オルタの白磁の手にそっと自分の手を重ねた。


「僕たちが『一緒にいたい』って思ったら、もう仲間なんだよ」


二、 冷たい指先と小さな疑問

アルの手が重ねられた瞬間、オルタの胸の奥底にあるメインコアが、かすかな電子音を鳴らした。


ピ……ピピッ……。


『――――未知の熱入力。……マスター・アルの手掌部より、摂氏三六・五度の熱エネルギーが連続して流入中――――』


オルタは自らの手元を見つめた。

アルの小さく、傷だらけで、けれど暖かな手。


『――――マスター・アル。質問があります――――』


「なに? オルタ」


『――――ワタクシの外殻組織は、高密度神聖合金およびルーン磁器によって構成されています。熱伝導率は極めて低く、排熱処理以外の目的で自ら熱を発生させる機能は存在しません。……しかし、先ほどスープを摂取し、現在マスターから熱を与えられている影響により、ワタクシの内部メインコアの温度が規定値を二・一度上回ったまま低下しません――――』


オルタは、自らの白磁の胸元――『ALTA-00』の刻印がある位置に、反対側の小さな手を当てた。


『――――これは……ワタクシの構造体における『不具合(不純物混入)』でしょうか? もし不具合であるならば、直ちに冷却シークエンスを実行し、この熱を強制排出する必要があります――――』


オルタの声には、恐怖も焦りもなかった。ただ純粋に、自身の内部で起きている未知の現象(熱)に対する疑問と、それを排除すべきか否かというプログラミング上の判断を求めていた。


「不具合なんかじゃないよ」


アルは、オルタの手を優しく握り直した。


「それはね……オルタの中に『命の熱』が灯り始めた証拠なんだ」


『――――命の熱……?――――』


「そうだよ。人間はね、生きていると体の中が温かくなるんだ。ご飯を食べて、誰かと喋って、笑ったり、泣いたりすると……胸の中がポカポカしてくるんだよ。……オルタの胸の中にある熱はね、オルタが『生きてる』ってことなんだ」


『――――ワタクシは機械です。自律思考型機甲素体であり、生物学的『生命』の定義からは外れています――――』


「機械だって、なんだって関係ないよ」


カルムが豪快に歩み寄り、オルタの銀髪をガシガシと乱暴に撫で回した。


「おい、お前。俺の手を触ってみろ」


カルムが大きな、火傷と拳ダコだらけの無骨な手をオルタの前へ突き出した。

オルタは言われた通り、自分の冷たい白磁の指先を、カルムの手のひらへそっと触れさせた。


『――――個体名【カルム】の表皮温度……摂氏三七・一度。脈拍、毎分七二。……非常に高い熱量と、荒々しい生の振動を感知――――』


「だろ? 俺の身体はな、熱くて傷だらけだ。毎日ケンカして、必死こいて生きてっからな」


今度はエレナが、手袋を外した華奢で引き締まった素手を差し出した。オルタはその手にも指先を触れさせる。


『――――個体名【エレナ】の表皮温度……摂氏三六・八度。脈拍、毎分六五。……引き締まった、澄み切ったマナを伴う温かな熱量を感知――――』


「私は教国の騎士として、自らを冷たい兵器だと偽っていた時期があった」

エレナは、青い瞳に優しい光を湛えて語りかけた。

「だが、アル殿のスープを口にし、人々の体温に触れた時、知ったのだ。本当の強さとは、冷たさに耐えることではなく……温かさを分かち合うことなのだとな」


最後に、オルタはアルの手を両手で包み込んだ。


『――――マスター・アルの表皮温度……摂氏三六・六度。……熱量そのものは個体名カルムより低いですが……胸の奥底から、計測不能な密度の『熱源(エネルギー)』が途切れることなく波及してきます――――』


アルの手の温もり。

それは、カルムの荒々しい炎とも、エレナの澄んだ極光とも違う。

まるで、冬の寒さの中でポッと灯る薪の火のように、冷え切った魂をどこまでも優しく包み込んでくれる「本当の体温」。


オルタのルビー色の瞳が、チチチ……と不規則な速度で点滅を繰り返した。


『――――理解……不能です。……皆様の表皮温度は、物理的には単なる分子運動の熱に過ぎません。しかし……ワタクシのメインメモリーは、この熱量を『不快』ではなく……『心地よい(エラー値)』と判断しています。……ワタクシの冷たい鉄の身体が……皆様の熱を求めています――――』


感情を知らない機甲人形の口から漏れ出た、あまりにも愛おしく、切ない白状。


アルは、最高に温かな笑顔をほころばせた。


「うん! 求めちゃっていいんだよ、オルタ!……今夜はね、オルタのその冷たいお腹を、もっとポカポカにする最高の料理を作るからね!」


三、 オルタのための特別な「温もり」

「よしっ! 料理の準備をしよう!」


アルはエプロンの紐をキュッと結び直すと、手製の鉄鍋と、旅のリュックから食材を取り出した。


アガルタの地下第二層の居住区遺跡。

かつては味も温もりもない『ペレット』しか配給されなかったその無機質な空間に、アルの『移動厨房』が設営される。


カルムが手際よく金属廃材を組み合わせて竈を作り、その奥へ向かって手のひらを差し出した。


「任せときな、アル! 『我流・極小微火』だッ!」


パチパチパチ……!


カルムの手元から、まるで春の陽光のように柔らかく、安定した赤蓮の魔力炎が吐き出され、鉄鍋の底をじっくりと温め始める。

先ほどまでの脱出劇で激しく消耗しているはずのカルムだが、その火加減の手さばきには一切の狂いがなかった。アルの料理に合わせる火入れこそが、彼の最高の誇りだからだ。


アルは、まな板の前に立ち、黒鉄の包丁を構えた。


トントン、トントン、トントン――――ッ!


静まり返っていた古代の居住区に、軽やかでリズミカルな包丁の音が響き渡る。


アルが『真理の目』で見極めながら刻んでいるのは、スラムから持ってきた「乾燥マナ肉の出汁」、荒野で採取した「岩塩の結晶」、そしてアガルタの遺構の隅にひっそりと生えていた、かすかに青く光る「地底のルーン野草」だ。


地底のルーン野草は、通常であれば強い苦味と微弱な魔力毒(アク)を含んでいる。

しかし、アルの振るう黒鉄の包丁の前には、毒など存在し得ない。


シュッ、シュッ――――。


アルが包丁の刃先を滑らかに滑らせるたび、野草に含まれていたアクの結び目が寸分の狂いもなく切り離され、純粋な清涼感と旨みだけが残されていく。


【真理解体・下ごしらえ】。


アルの包丁の手さばきに合わせ、刃先からパラパラと舞い散る黄金色の光の微粒子。

それを見たオルタのルビー色の瞳が、釘付けになった。


『――――解析……実行。……マスター・アルの刃物の軌道に、既存の剣術・解体術のデータベースとの適合率ゼロ。……分子レベルでの結合切り離し現象を確認。……美しく……合理的です――――』


無機質な分析の言葉。しかし、オルタの瞳には、明らかに「見とれている」ような光が宿っていた。


「よしっ、お鍋に入れるよ!」


グツグツと煮立った鉄鍋のお湯の中へ、アルが下ごしらえを終えた極上肉と刻み野草、そして荒野の特製スープ粉末を投じた。


ジュワァァァァァァァァァァッ……!


その瞬間であった。


数千年間、冷たい鉄と薬品の臭いしか存在しなかったアガルタの空間へ、爆発的な「命の湯気」が広がっていった。


カニ肉のような濃厚な旨味、岩塩の引き締まったコク、そしてルーン野草がもたらす清々しく甘い香気。

それらが温かな湯気となって、冷たい白磁の壁を洗い流すように充満していく。


「ふぅ……いい匂いだ」


エレナが聖剣の前に膝をつき、目を細めた。


「アル殿の料理は、いつどこで匂いを嗅いでも……心が洗われるような温もりがあるな」


「だろぁ? これぞチーム『最高の厨房』の味よ!」


カルムが誇らしげに胸を張る。


アルは、木のお椀にたっぷりと湯気の立つスープを注ぐと、一番最初にオルタの前へ差し出した。


「はい、オルタ。オルタのために作った、特製のお粥スープだよ!」


スープの中には、柔らかく煮込まれた肉と、透き通ったルーン野草、そして出汁を吸って柔らかくなった穀物の粒が、花びらのように美しく咲き誇っていた。


【真理解体・アガルタを照らす命のスープ粥】。


オルタは、木のお椀を見つめた。

お椀の縁から立ち上る、黄金色の湯気。

それが、彼女の顔や銀髪を優しく撫で、冷たかった鼻腔と肺の配管を通って、体内の奥深くへと温かな香りを届けていく。


『――――内部センサー……作動。……『美味しそう』という未定義の判定シークエンスが……自動発生しました――――』


四、 道具としての過去、これからの存在

オルタは、白磁の小さな手でお椀を抱えた。

お椀から直接皮膚へ伝わる、じわじわとした優しい熱。


「フーフーして食べるんだよ」

アルが優しく教える。


オルタは、薄い桃色の唇を小さく開けた。


「……フゥ……フゥ……」


不器用なフーフー。

そして、彼女は木のおさじでスープ粥をひとくち掬い、口の中へと運んだ。


ゴクリ。


『―――――――――――――――』


オルタのルビー色の瞳が、カッと大きく見開かれた。


物理的な栄養補給ではない。

アルの『黒鉄の包丁』で毒を抜かれ、彼とカルムの『命の熱』を宿したスープ粥が。

オルタの口内から、体内の複雑なマナパイプを通って、彼女の冷たいメインコアへと一気に流れ込んでいったのだ!


ジュワァァァァァァァァッ……!


オルタの身体の中で、冷たく凍りついていた何かが、激しい音を立てて溶けていく。


肉の旨味が舌の上でほどけ、穀物の甘みが全身の回路を巡り、野草の爽やかな香りが彼女の思考システムをどこまでも清々しく澄み渡らせていく。


「あ……あぁ……っ」


オルタの口から、漏れ出た吐息。

それは、合成音声の無機質な響きではなく、一人の少女としての「感動の声」であった。


『――――オイシイ……です。……マスター・アル……とっても……温かいです……っ――――』


オルタは、涙など流せないはずの白磁の頬を、朱に染めながら、夢中でスープ粥を口へと運んだ。


ズズッ……ズズズッ。


「ゆっくりでいいんだよ、オルタ。おかわりはたくさんあるから」


アルが優しく頭を撫でると、オルタは小さくコクンと頷いた。


半分ほどスープ粥を平らげたところで、オルタはお椀を胸に抱えたまま、静かに口を開いた。


『――――マスター・アル……個体名カルム……個体名エレナ――――』


その声は、相変わらず淡々としていたが、どこか深い思索を孕んでいた。


『――――ワタクシは……数千年前、古代アガルタの技師たちによって建造されました。目的は、神の『過失管理』に抗い、街を守るための最終防衛兵器としてです――――』


オルタは、自らの冷たい白磁の手を見つめた。


『――――しかし、ワタクシは完成直前、神の介入によって『心(感情プログラム)』を凍結され、封印されました。兵器として未完成のまま……ワタクシは『欠陥品』として捨てられたのです――――』


オルタのルビー色の瞳が、静かにアルたちを見つめる。


『――――兵器にとって、感情や体温は無駄なノイズでしかありません。効率を阻害し、判断を鈍らせる不純物です。……なぜ、皆様はワタクシという『欠陥品の機械』に、これほどの熱と温もりを与えてくださるのですか? ワタクシには……それに応えるだけの機能(価値)が存在しません――――』


彼女の問い。

それは、数千年間自分を「道具」と定義し続けてきた少女が、初めて直面した「自らの存在理由」に対する大きな惑いであった。


カルムが、干し肉を噛みちぎりながら、呆れたように鼻を鳴らした。


「ハッ……バカ野郎が。欠陥品だぁ?」


カルムは立ち上がり、オルタの前へどかっと腰を下ろすと、彼女の額をデコピンでトンッ! と軽くな小づいた。


「いっ……」

オルタが目を丸くする。


「痛ぇだろ? 生きてりゃ痛ぇし、お腹も減るんだよ。……お前が兵器だか欠陥品だか知らねぇがな、そんなの俺たちには関係ねぇんだよ。俺たちが欲しいのは、神様の言う通りに動く完璧な兵器じゃねぇ。『一緒に美味ぇメシを食って笑える仲間』なんだよッ!」


「カルム殿の言う通りだ」


エレナもまた、優しい微笑みを浮かべてオルタを見つめた。


「私もかつて、教国の指示通りに動く完璧な兵器であろうとした。だが、それは生きているとは言わん。……オルタ、君には心がある。君が今、アル殿のスープを『美味しい』と感じたその熱こそが、君がただの機械ではない証なのだ」


アルは、オルタの白磁の手を、もう一度両手で包み込んだ。


「オルタ」


アルの声は、太陽のように温かかった。


「完璧じゃなくていいんだよ。役に立たなくたっていい。……僕の包丁はね、誰かを倒すための兵器じゃない。みんなで一緒に温かいご飯を食べて、笑い合うための道具なんだ」


アルは、オルタのルビー色の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「オルタが僕のスープを食べて『美味しい』って笑ってくれたら……それが僕にとって、一番嬉しいんだよ。だから……僕の側にいてほしい。僕たちの仲間になってほしいんだ!」


五、 冷たい鉄の芽生えと仲間への誓い

『――――マスター……アル……――――』


オルタの思考回路の中で、膨大なデータが交錯していた。


神の管理プログラム。古代アガルタの命じられた防衛コード。効率と計算。

それら数千年間彼女を縛り続けていた冷たい論理が、アル、カルム、エレナの三人の「体温」によって、みるみるうちに溶けていく。


『――――了解……しました――――』


オルタの薄い唇が、静かに紡いだ言葉。


『――――ワタクシは……道具としての機能を……停止します。……これよりワタクシは……マスター・アルの仲間……【オルタ】として……稼働します――――』


その言葉が発せられた瞬間。


オルタの胸の奥底のメインコアから、カチッ……と小さな、けれど決定的な封印の解除音が響いた。


彼女の白磁の肌に、ポッと人間のような綺麗な桜色の血色が定着する。

冷たかった彼女の指先から、ほんのりと温かな「体温」が放たれ始めた。


「あ……!」


アルが声を上げた。


オルタの手が、温かい。

まだ人間ほど高くはないけれど、確かに「生きている命の熱」が、彼女の冷たい鉄の身体からアルの手へと伝わってきたのだ。


「温かくなったよ、オルタ!」


「……ハイ、アル。……アナタの手と……同じ熱が……ワタクシの中にも……あります」


オルタのルビー色の瞳に、初めて小さな、小さな「光の揺らぎ(感情)」が灯っていた。


「へっ……やったじゃねぇか!」

カルムが豪快に笑い、オルタの肩をポンと叩いた。


「これで決まりだな! チーム『最高の厨房』に、四人目の仲間が加わったってわけだ!」


「うむ! 歓迎するぞ、オルタ!」

エレナも嬉しそうに頷いた。


四人となったチーム【最高の厨房】。

アガルタの冷たい暗闇の中で、小さな、けれど不滅の「体温の食卓」が完成した瞬間であった。


六、 迫り来る「冷たい意志」の足音

しかし――。


幸福な宴の空気が広がっていた、その時であった。


ピリリリリリリリリッ……!!


広場全体の天井に埋め込まれていた青白いルーン・コアが一斉に激しく明滅し、嫌な赤色の警戒光へと変色した!


「な……なんだッ!?」

カルムが弾かれたように立ち上がり、両拳に赤蓮の魔力炎を纏わせる。


「警戒しろ! 何かが来る!」

エレナが聖剣を抜き放ち、前方を睨みつけた。


アガルタの居住区を囲む白磁の壁面。その各所に配置されていた古代の通信スピーカから、ノイズ混じりの冷酷な合成音声が地鳴りのように響き渡った。


『――――緊急告知。区画2において、固有素体【ALTA-00】の定格外変質(感情コードの獲得)を確認――――』


『――――判定:当個体は神の管理プロトコルに対する致命的な『感染性バグ』へと変質した。……直ちに廃棄シークエンスを開始する――――』


「何だと……!?」

エレナの顔から血の気が引く。


アガルタの中枢管理システムが、オルタが「心」と「体温」を得たことを検知し、彼女を完全消去するための自動防衛機構を起動させたのだ!


ズズズズズズズズズッ……!!


広場の正面、そして背後の隔壁が重重しい音を立てて爆砕された。

暗闇の向こう側から現れたのは――先ほどの清掃ドローンとは比べ物にならない、身の丈5メートルを超える巨大な黒鉄の重装殺戮機械群であった。


【アガルタ中枢殲滅機甲・タイプ-EXEC】。


その数百を超える赤色レンズが一斉にオルタへと向けられ、右腕の巨大な魔導大砲が、冷酷なチャージ音を響かせ始める。


「オルタを……渡すわけねぇだろぁぁぁッ!!」


カルムが咆哮し、炎の拳を構える!


「アル殿、オルタの背後を護れ! ここは私と喧嘩屋で食い止める!」


エレナが幾何学の不滅障壁を展開する!


「オルタ……大丈夫だよ!」


アルは、黒鉄の包丁を力強く抜き放ち、温かくなったオルタの手を固く握り締め直した。


「誰も……オルタを傷つけさせない! 僕たちの『厨房』は……僕たちが守るッ!!」


感情を得た機械の少女オルタと、仲間たちの絆。

アガルタの中枢システムが放つ圧倒的な「冷たい殺意」に対し、彼らの温かな体温を賭けた真なる戦いの火蓋が、いま切って落とされようとしていた!

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