第131話:相棒のもとへ
一、 断絶の虚無と、静寂の覚悟
漆黒の闇が支配する『隔離の迷宮』。
上下左右の概念はおろか、時間すらも弛緩したかのように歪む、使徒エノクの手によって作り出された絶対不可侵の虚無空間。
「……ハァ……ッ……ハァ……ッ……」
その暗黒の渦のただ中で、カルムは血の混じった荒い呼吸を整えていた。
彼の両腕の生身の皮膚に刻まれた『赤蓮の紋様』から放たれていた激しい炎の塊は、今や静まり返り、ごく僅かな陽炎となって彼の肉体を包み込んでいる。
先ほどまでのカルムは、暴走しかけていた。
アルとエレナが自分の視界から強引に引き剥がされ、見知らぬ空間へと隔離された焦燥。
「相棒を失う」という、彼にとって最も耐え難い恐れが、かつての『極光炎』のような無秩序な爆発を引き起こさせ、虚無の壁へ無差別に拳を叩きつけさせていたのだ。
だが。
(……違ぇ。……俺のやるべきことは、こんな壁を力任せに殴ることじゃねぇ……)
カルムは、静かに目を閉じた。
彼の心臓の深腔——『赤蓮の紋様』の核となっている部分で、トクン……と確かな鼓動が響く。
それは、どれほど広大な次元の断層に隔てられていようとも、決して絶たれることのない、ひと筋の【緋色の温もり】であった。
アルの祈り。
「早く僕の元へ帰ってきて」という、あの小さくも力強い相棒の魂の叫び。
マナ回路を焼き切り、右腕を炭化させ、左腕の骨を砕かれ、三十倍・百倍の異常重力が渦巻く武神の孤島という底なしの地獄へ落とされた時、カルムを現世へ繋ぎ止めていたのは、この祈りだった。
魔女から与えられた星の生命力も、武神から託された真理の承認も、全てはこの【アルとの約束】という土台があったからこそ、カルムの肉体に定着したのだ。
「……エノクの野郎は、言ったな」
カルムは、闇の中で低く呟いた。
その声には、先ほどまでの荒々しい焦燥感は微塵もなかった。
氷のように冷たく、それでいて星の核のように熱い、完全なる修羅の静謐。
「……俺の炎は他者を想う祈りで成立してるから、祈りの対象を失えば向かうべき方向を失って自滅する……だと?」
カルムは、ゆっくりと目を開いた。
彼の左目——黄金色に輝く【解体眼】が、暗黒の虚無のただ中で、カッ……と鋭い光を放つ。
「……笑わせんじゃねぇよ。……俺とアルは、そんな目に見える距離や空間の理屈で切れるような……安い繋がりじゃねぇんだよッ!」
解体眼の透過視界が、物質の表面を剥ぎ取り、マナの流動を解きほぐし、空間の曲率を露わにしていく。
エノクの敷いた隔離の迷宮は、空間の折り紙のように幾重にも位相をずらし、幾何学的に無限のループを構築していた。どれほど強力な攻撃を放とうと、そのエネルギーは位相の隙間へと受け流され、空間の別の場所へと虚しく還っていくだけの巧妙な仕掛け。
だが。
「……視えるぜ。……どこをどれだけ折り曲げてようが……俺とアルを繋ぐ『命のスジ』がよ……!」
カルムの解体眼には、虚無の暗闇を突っ切る一本の【細く、力強い緋色の線】が、鮮明に透過して映し出されていた。
それはマナの糸ではない。物理的なベクトルでもない。
カルムの魂とアルの魂が結ばれている、絶対の『因果の軸』。
使徒エノクは空間を断絶した。だが、二人の魂の因果そのものを消去したわけではない。
繋がっている以上、そこに直線は存在する。
そして、その直線上にどれほど歪んだ次元の折り目が立ち塞がっていようと——。
「……解体いて、一本の道に叩き直すだけだ」
カルムは、右足を一歩引き、腰を低く落とした。
両腕を体の横へ引き絞る。
生身の両腕の赤蓮の紋様が、血が巡るように鮮やかな緋色と真紅の光を交錯させながら、周囲の暗闇を激しく照らし始めた。
二、 孤立した闘技場と、絶体絶命の盾
その頃。
大聖堂の地下深く、幾重にも空間を隔離された巨大な『断絶の闘技場』。
ドガァァァァァァァァァァンッ!!!!
重々しい破砕音が響き渡り、白大理石の床が蜘蛛の巣状に砕け散った。
「……ガ……ハッ……! ゲボォッ……!」
エレナ・ルミナスは、口から鮮血を吐き出しながら、膝を折った。
彼女が身につける白銀の装甲は、すでに至る所がひび割れ、内部の鎖帷子が引きちぎれていた。手にした大盾——不滅の守護を誓った聖光の盾も、表面の金箔が剥げ落ち、今にも真っ二つに叩き割れそうな痛々しい亀裂が幾筋も走っている。
「……エレナさんッ!!」
背後で、アルが悲痛な叫びを上げた。
彼自身も、無傷ではない。額からは血が流れ、左足は不自然な方向に曲がりかけていた。
二人の周囲を取り囲むのは、エノクが空間の隔離と共に解き放った三十体におよぶ神造処刑兵器——『処刑天使』の群れ。
それらは人間のような感情を持たず、背中に四枚の機械的な光翼を生やし、手にした巨大な『裁きの処刑鎌』を機械的な動作で振るい続けていた。
処刑鎌の一振りが放つのは、物理的な鋭利さだけではない。触れた箇所のマナと生命力を強制的に削ぎ落とす、使徒直属の『腐敗の法則』。
「……ハァ……ッ……ハァ……ッ……。……大丈夫だ、アル殿……。……まだ、盾は砕けていない……!」
エレナは、血に濡れた右腕で大盾の持ち手を固く握り直し、震える両足で再び立ち上がった。
視界は赤く染まり、失血と疲労で意識は今にも途切れそうだ。
だが、彼女の瞳から『騎士の誇り』は一光年も失われていなかった。
(……私は、カルム殿と約束したのだ。……彼が己の全てを賭けて修練へと向かったあの日、この背中は私が護ると……!)
教国の最下層スラムで育ち、使徒の理不尽によって居場所を奪われた少女と少年。
彼らの泥臭くも気高い絆を目の当たりにしたあの日から、エレナにとっての『正義』は、教国の神ではなく、この不器用な少年たちの作る温かい食卓(居場所)を守ることへと変わっていた。
「……来い、神の傀儡どもッ! このエレナ・ルミナスの命がある限り、一歩たりともアル殿には触れさせんッ!」
エレナの叫びに呼応し、処刑天使たちが一斉に光翼を羽ばたかせた。
十体の処刑天使が上空へ飛翔し、残る二十体が地を滑るような超高速で、殺戮の円陣を縮めてくる。
十数の処刑鎌が、全方位からエレナの死角を狙って振り下ろされる。逃げ場のない、絶対の断罪。
「……くっ……!」
エレナは大盾を頭上へ掲げ、残された全ての聖光マナを盾の表面へ集約させた。
【絶対守護障壁】。
だが、すでに限界を迎えた彼女の盾では、三十体の処刑天使による連撃を耐え切ることは不可能。
一合目。
ガキィィィィンッ! と、甲高い金属音が響き、盾の表面の亀裂がさらに深まる。
二合目。
ドカァァンッ! と衝撃が走り、エレナの右肩の骨が鈍い音を立てて外れた。
「……がぁぁぁぁっ……!」
「エレナさんやめて! もう十分だよ……僕が、僕が包丁で……!」
アルがボロボロの黒鉄の包丁を構え、前に出ようとする。
彼の【真理の目】には、処刑天使たちの鎌の軌道、マナの流動が完璧に見えていた。
どこを切れば彼らの駆動回路が狂い、どこを突けば鎌が折れるか、全て解っていた。
しかし——アルの肉体には、マナが存在しない。
彼の小さく華奢な腕力では、見えたスジへ向かって包丁を打ち込んでも、神造金属の硬度に弾き返され、刃が折れるのがオチだった。
『理は見えているのに、それを断ち切る【力(火力)】がない』
それは、料理人であるアルが、これまで何度も突きつけられてきた絶望の壁であった。
「……ダメだ、アル殿! 前に出てはならんッ!」
エレナが激痛に耐えながら左手でアルを背後へ押し戻す。
その瞬間。
上空から飛翔してきた三体の処刑天使が、エレナの開いたガラ空きの脇腹を狙い、処刑鎌を最速の速度で突き出してきた。
死の鎌先が、エレナの薄い甲冑を切り裂き、その肉へと達するコンマ数秒前。
(……カルム……!)
アルは、絶望の悲鳴を上げるのではなく。
涙で濡れた両目を固く閉じ、胸の前でボロボロの包丁を抱き締め、己の魂の底から、ただ一人の相棒の名を強く叫んだ。
(……来てッ!! カルム!! 僕たちの、最高の火力を……ッ!!)
三、 我流極奥義・赤蓮解躰、次元穿孔
暗黒の『隔離の迷宮』。
「……呼んでるぜ、シェフ」
カルムの口元に、凶暴で、どこまでも優しい笑みが浮かんだ。
彼の身体を包んでいた僅かな陽炎が、一瞬で収束した。
真紅の命の熱。
緋色の祈り。
そして、武神の孤島で手に入れた【空間の理を解体する黄金の真理】。
それら三つの異なる要素が、カルムの両腕の『赤蓮の紋様』の内部で、原子レベルを超えた高密度で圧縮され、摩擦を始める。
ジジジジジジジジッ……!!!!
カルムの周囲の暗闇が、熱によってミシミシと音を立てて歪み始めた。
物理的な熱量ではない。
空間の「存在確率」そのものを焼き焦がす、超次元の概念熱。
「……エノク。てめぇの作ったこの迷宮は、確かに上手ぇこと空間を折りたたんでやがる」
カルムは、両手の手刀を交差させ、胸の前でピタリと重ね合わせた。
彼の両腕から伸ばされたのは、もはや剣の形すら留めていない。
ミクロン単位の厚さにまで研ぎ澄まされ、白熱化した【二条の概念光線】。
「……だがな、折りたたんだ紙がどんだけ分厚くなろうが……上から真っ直ぐに針を刺せば、全部まとめて貫けるんだよッ!」
カルムの解体眼が、アルの叫び声(因果の直線)の先にある『座標』を完璧に捉えた。
そこに存在する、何千、何万という空間の折り目。
位相の歪み。次元の壁。
「……俺たちの道を邪魔する理不尽は……全部まとめて三枚におろしてやるッ!!」
カルムの魂が爆発した。
「……【我流極奥義】……ッ!!!!」
交差させた両腕を、因果の直線へ向けて、全霊の速度と力で突き出す。
「……【赤蓮解躰・貫穿】ッ!!!!!!!!」
スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………………ッ!!!!!!!!
世界から、音が消失した。
爆発は起きない。光の破片も散らない。
ただ、カルムが突き出した二条の純白の概念光線が、暗黒の虚無空間の『中心線』を穿ち抜いた瞬間。
エノクが幾重にも折りたたみ、無限のループとして構築していた『隔離の迷宮』の全ての空間ブロックが。
まるで、針で刺された薄い紙の束のように、貫通孔を中心に【一瞬で破綻(解体)】したのだ。
パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!
響き渡ったのは、次元そのものが砕け散る、澄み切った破砕音。
虚無の闇が裂け、位相の折り目が伸び、幾何学的な迷宮の壁が、真紅と緋色の熱波によってドロドロに溶けて蒸発していく。
カルムの放った概念光線は、数百の空間の層をコンマ一秒で貫通し、そして——。
アルとエレナが追いつめられている『断絶の闘技場』の天井を、真っ直ぐにぶち破った。
四、 降臨する流星、粉砕される不滅の法則
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!
断絶の闘技場。
エレナの脇腹を処刑鎌が引き裂こうとしていた、まさにその瞬間。
闘技場の強固な大理石の天井が、まるで内側から巨大な槍で突かれたかのように、直径数十メートルにわたって十文字に爆砕した。
「……なっ!?」
処刑天使たちが一斉に上空を見上げる。
崩れ落ちる天井の瓦礫と、激しい煙幕を突き破って降臨したのは——。
真紅と緋色の炎の翼を背に広げ、両腕に美しく輝く赤蓮の紋様を浮かべた、一人の修羅の少年。
「……カルムッ!!!!」
アルが、叫んだ。
カルムは落下の勢いを殺すことなく、空中で身体を半回転させると、エレナの脇腹を狙っていた三体の処刑天使の頭上へ向かって、二本の赤蓮の概念刃を一直線に振り下ろした。
スパーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
音すらない。
神造金属で造られ、使徒の『腐敗の法則』を纏っていた三体の処刑天使たちの巨体が。
カルムの刃が触れた瞬間、まるで豆腐のように斜めに綺麗に真っ二つに両断され、何の一抗もなく地面へと崩れ落ちた。
ズガァァァァァンッ!!
カルムが、エレナとアルの直前……彼らを庇うような位置へ、激しい地響きと共に着地する。
真紅と緋色の熱波が四方八方に爆発的に吹き荒れ、残る二十七体の処刑天使たちを強烈な衝撃波で後方へと吹き飛ばした。
「……ハァ……ッ……ハァ……ッ……。……遅くなって、悪かったな」
カルムは膝を突き、ゆっくりと立ち上がった。
彼が振り返り、血まみれのエレナと、涙を流すアルへ向けたのは。
どんな絶望も一瞬で吹き飛ばしてしまうような、最高に不敵で、誇らしげな八重歯の覗く笑顔だった。
「……カルム殿……! 君は……あの無数の空間の壁を……自力で破ってきたというのか……!?」
エレナが、信じられないものを見るように目を見開く。
使徒エノクの持つ空間干渉能力は、教国でも『神の奇跡』と称される絶対の法則。それを、力でこじ開けるのではなく、空間の構造ごと解体して突破するなど、人間の領域を遥かに超越していた。
「……あんなペラペラな紙切れみたいな空間、何百枚重ねてようが関係ねぇよ」
カルムは、生身の右手でアルの頭をぽんポンと叩いた。
「……それより、アル。お前、さっき『最高の火力をくれ』って言ったな?」
「……うんッ! うんッ!!」
アルが、泥と血で汚れた顔をそのままに、激しく首を振る。
「……よし。……お前が見た『スジ』を、俺に全部教えろ」
カルムは、両腕の赤蓮の双刃を静かに構え直し、態勢を立て直そうとしている残りの処刑天使たちを、黄金の左目で睨み据えた。
「……お前の『眼』と、俺の『火力』があれば……こんな神様の作った人形ども、一秒で三枚におろしてやる」
五、 完全なる共鳴、二人の厨房の完成
『……目標、隔離空間の脱出を確認。……脅威度、測定不能。……全処刑天使、処刑陣形「絶無」を展開せよ』
吹き飛ばされた二十七体の処刑天使たちが、空中で体制を立て直し、円陣を組んだ。
彼らの手にする処刑鎌が一斉に白銀の光を放ち、闘技場全体を覆うように、生命力を根こそぎ奪い取る『絶対腐敗領域』を作り出そうとマナを集中させる。
敵の総攻撃。
だが、今のカルムとアルの前には、その神の法則すらもただの「雑な仕込み」でしかなかった。
「……カルム! 一番左の五体! 鎌の根元のマナ回路が重なってる!」
アルが、カルムの背後から即座に叫ぶ。
アルの【真理の目】が、処刑天使たちが連携攻撃を仕込もうとした瞬間の、微細なマナの不全をコンマ一秒の狂いもなく捉えていた。
「……見えたッ!」
カルムの足が地を蹴る。
縮地。
カルムの身体が視界から消え、次の瞬間には一番左の五体の処刑天使の懐へと滑り込んでいた。
右腕の赤蓮の刃が、滑らかに横一閃。
スパーンッ!
アルの指摘した通りの角度で入った刃は、五体の処刑天使の鎌の根元を一切の抵抗なく切り飛ばし、彼らのマナの循環を内部から破綻させた。
『……ガ……ハ……!?』
言葉にならないバグ音を残して、五体の処刑天使が光の塵となって消滅する。
「……次は、上空の三体! 合体魔法の予備動作が入ってる、胸のコアが狙い目!」
「……任せろッ!」
カルムの背中から赤蓮の翼が広がり、急上昇。
上空で合体魔法を唱えようとしていた三体の胸のコアへ向けて、左腕の刃を三連突きの軌道で撃ち抜く。
ズスッ! ズスッ! ズスッ!
完璧な精度。
アルの「眼」が敵の構造の弱点を指し示し、カルムの「技と火力」がそこを一切の無駄なく切り拓く。
マナを持たない少年と、マナを捨てて魂の火を手に入れた少年。
二人の能力が完璧に噛み合った時、そこには教国のどんな魔法体系も、使徒のどんな絶対法則も介入できない、完全無欠の【解体空間】が創り出されていた。
「……すごい……」
地面で大盾を支えにしながら見ていたエレナが、息を呑む。
それは、戦いというよりも、まるで完璧に計算された【極上の料理の工程】だった。
暴力を振るうのではなく、敵の存在そのものを、最も美しく、最も無駄なく処理していく二人のコンビネーション。
二十七体いた処刑天使たちが、ほんの数十秒の間に、次々と光の部品となって空中に解け去っていく。
六、 崩壊する迷宮と、使徒への宣戦布告
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!
最後の三体の処刑天使が、カルムの放った真紅と緋色の交差斬りによって十文字に切り裂かれ、完全に消滅した。
静寂が、断絶の闘技場を包み込む。
三十体におよぶ神の処刑兵器が、一瞬にして全滅。
そして、彼らを統制していたエノクの『空間隔離の法則』も、カルムが天井を撃ち抜いた際の過負荷によって、完全に崩壊し始めていた。
バリバリバリバリッ……!
闘技場の四方の壁に巨大な亀裂が入り、神聖マナで作られた疑似空間が剥がれ落ちていく。
その亀裂の向こう側に広がるのは、本来の大聖堂の巨大な中央広間——そして、その上空に浮かぶ『神の玉座』。
「……ハァ……ッ……ハァ……ッ……」
カルムは空中で旋回し、フワリとアルとエレナの前に舞い降りた。
両腕の赤蓮の紋様が、静かにその熱を収めていく。
「……怪我はねぇか、アル、エレナ」
「……うん! カルムが守ってくれたから、僕、全然大丈夫だよ!」
アルが涙を拭い、弾けるような笑顔で答える。
「……私もだ。カルム殿、君の成長には……言葉もない。感謝する」
エレナも、傷だらけの顔に誇らしげな笑みを浮かべた。
カルムは、二人の無事を確認すると、崩れ落ちていく空間の亀裂の先……『神の玉座』に座る三使徒たちに向かって、ゆっくりと生身の右指を突き突き突き突き突き突き突き突き突き立てた。
「……おい、エノク。メリエル。バアル」
カルムの声が、崩壊する大聖堂の隅々にまで響き渡る。
「……てめぇらが作った、この不味そうでペラペラな迷宮ごっこは、もう終わりだ」
玉座の上で、エノクの顔から冷徹な笑みが消え、メリエルが不快そうに顔を歪め、バアルが凶暴な笑みを深める。
「……お前らがどれだけ神様の法則でズルしようが関係ねぇ。……俺とアルの二人が揃ったんだ。……次はお前ら全員を、まとめて三枚におろしてやるよッ!」
カルムの背中から、真紅と緋色の概念炎が、大聖堂の天井を突き破るほどの極光となって爆発的に噴き上がった。
地獄の孤島(武神の試練)を乗り越え。
絶望の隔離空間を打ち破り。
ついに、最強の相棒と再会を果たしたカルム。




