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神殺しのフルコース ~少年料理人と修羅の創世食卓~  作者: solune
第5章:修羅の修練編

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第130話:海を渡る熱気

一、 絶望の空を割る、希望の極光

教国ルミナが誇る最強の防壁『絶対拒絶結界』。

神の使徒が直接敷いたその絶対的な法則が、カルムの放った『我流極奥義・赤蓮解躰(せきれんかいたい)』によって真っ二つに両断された瞬間。

その余波は、単に聖都の空を切り裂いただけに留まらなかった。


ズゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!


カルムの放った真紅の命の熱と、緋色の祈りが融合した【概念の熱波】。

それは、物理的な熱風として大気を震わせるだけでなく、神のシステムによって押さえつけられていた世界の『因果の停滞』を打ち破る、強烈な【反逆の波動】となって、教国の大陸全土、さらには海を越えた辺境の地へと波及していったのだ。


教国ルミナの辺境、荒野の地下に隠されたレジスタンスのアジト。

そこには、神造兵器の圧倒的な力の前に仲間を失い、武器を折られ、ただ死を待つばかりとなっていた敗残兵たちが息を潜めていた。

彼らの瞳からは光が失われ、誰もが「神には勝てない」という重い絶望の鎖に縛られていた。


『……おい。……空を、見てみろ……!』


見張りに立っていた一人の若い戦士が、震える指で空を指差した。

地下アジトの換気口から見える、いつもは淀んだ灰色の空。

だが今、その空は、まるで夜明けの太陽が爆発したかのような、圧倒的に美しく、そして力強い【真紅と緋色の極光】によって、真っ二つに切り裂かれていたのだ。


ドクンッ……!


その光を見た瞬間。

戦士たちの胸の奥で、完全に冷え切っていたはずの闘志が、不思議な温もりと共に脈打ち始めた。


『……なんだ、あの光は。……あんなに温かくて、力強い光……見たことがねぇ』

『……聖都の方角だ。……誰かが……誰かが、あの絶対に破られないはずの神の結界を……ブチ破ったんだ……!』


絶望していた彼らの瞳に、再び希望の炎が灯る。

それは、ただの自然現象ではない。カルムという一人の人間が、神の理不尽に抗い、理を解体し、己の魂を極限まで燃やして放った『生命の温度』が、距離を越えて彼らの魂に直接共鳴したのだ。


『……立て……。立てよ、お前ら!』

傷ついた部隊長が、折れた剣を杖にして立ち上がった。

『神様気取りのバケモノどもの壁が壊れたんだ! 誰だか知らねぇが、俺たちの代わりに最高の反撃の狼煙を上げてくれたバカがいる! ……俺たちも、ここで終わっていいはずがねぇだろうがッ!』


「オオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


海を越え、山を越え。

カルムの放った熱気は、世界中で虐げられていた人々の心に『反逆の炎』を伝播させていく。

神の法則(システム)という絶対の支配が、ついに揺らぎ始めた。

世界が、一人の修羅の少年の熱によって、本格的な反撃の産声を上げたのである。


二、 聖都の動揺と、使徒たちの玉座

一方、絶対防壁を破られた聖都ルミナの内部は、かつてないパニックに陥っていた。


『……結界が……我々の絶対の盾が、一撃で消滅しただと!?』

『あり得ない! マナの法則を無視している! あれは、神の理から完全に外れた「バグ」だ!』


神殿騎士団や教国の高官たちは、崩れ落ちた結界の光の残骸を見上げ、恐怖に顔を引き攣らせていた。

彼らはこれまで、神の法則という『絶対に安全な場所』から、レジスタンスたちを一方的に蹂躙してきた。

だからこそ、その絶対の法則が破られた今、彼らは初めて「自分たちも殺されるかもしれない」という、人間としての純粋な恐怖を味わっていたのだ。


そんな大混乱の聖都の中心。

全てを見下ろす大聖堂の最深部、『神の玉座』の間。


そこには、教国を支配する三人の使徒——エノク、メリエル、バアルが、冷徹な空気を纏って静かに佇んでいた。


『……まさか、武神の孤島という底なしのゴミ箱から、自力で這い上がってくるとはね』

メリエルが、水晶体に映るカルムの姿を見つめ、不愉快そうに柳眉をひそめた。

『しかも、あの下等生物が纏っている炎……。私の敷いた絶対拒絶の法則を、力ではなく「概念の解体」という形で切り裂いたわ。……システムに対する重大なエラーよ』


『グハハハハハハハッ!!!! 上等じゃねェか!』

筋骨隆々の巨漢の使徒、バアルが、狂喜の笑い声を上げて立ち上がった。

『十倍、三十倍、百倍の重力を乗り越え、さらに俺たちの結界をブチ破るほどの火力を手に入れたか! あのゴミムシが、極上の獲物になって帰ってきやがった! ……俺が直接出向いて、その首をへし折ってやる!』


バアルが玉座の間を飛び出そうとした、その時。


『……待ちなさい、バアル』


玉座の中央に座る、最も冷酷で計算高い使徒、エノクが静かに口を開いた。


『あの個体(カルム)は、すでに我々の想定する「マナの法則」の枠外(アウト・オブ・ルール)に足を踏み入れている。……彼が放つあの真紅と緋色の炎は、物理的な破壊力ではなく、因果そのものを切断する【特異点の刃】だ。真正面からぶつかれば、貴方の法則すらも解体されかねない』


『アァ? 俺が負けるってのか、エノク!』

バアルが激昂するが、エノクは冷たい視線でそれを制した。


『そうは言っていない。……彼が「理を解体する」というのなら、解体すべき「理」を与えなければいい。……あるいは、彼のその異常な火力の源泉である【精神的な繋がり(コンパス)】を、完全に断ち切ればいいのだ』


エノクの眼鏡の奥で、無機質な光が反射する。


『……彼がここまで強くなった理由は、背中にいる「マナを持たない少年(アル)」と、「聖騎士の小娘(エレナ)」の存在だ。……彼らを引き離し、カルムを完全な虚無の空間へ隔離すれば、彼の刃は向かうべき方向を失い、自滅する』


エノクは、手元の虚空に複雑な神聖文字(プログラム)を走らせた。


『……これより、大聖堂の空間座標を「隔離の迷宮(ディメンション・ラビリンス)」へと書き換える。……奴らに、神の理不尽の真骨頂を教えてやろう』


三、 大聖堂突入。絶対の自信と包丁さばき

ズバァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!


聖都の中央、巨大な大聖堂の分厚い白銀の扉が。

カルムの放った極薄の赤蓮の双刃によって、十文字に切り裂かれ、轟音と共に内側へと吹き飛んだ。


「……お邪魔するぜ、神様ども。……今日のメインディッシュは、お前らのそのふざけたツラだ」


カルムは、砂煙を蹴り立てて、大聖堂の内部へと堂々と足を踏み入れた。

背中にはアルがしっかりと掴まり、隣には大盾を構えたエレナが並び立っている。


大聖堂の内部は、外観の荘厳さとは裏腹に、異常なほどに広く、そして異様な空気に満ちていた。

天井は見えず、ただ黄金色のマナが霧のように立ち込め、空間そのものがグニャグニャと歪んでいるような感覚。


「……カルム殿。気をつけてくれ。この空間、異常だ。……マナの密度が濃すぎる上に、方向感覚が全く掴めない」

エレナが、盾を構えながら周囲を警戒する。


「……カルム。ここ、変だよ。……視界には道が見えるのに、僕の目(真理の目)で見ると、空間のスジが全部バラバラに千切れて、迷路みたいに組み替えられてる」

アルもまた、ボロボロの包丁を強く握りしめ、冷や汗を流していた。


「……なるほどな。正面から殴り合う度胸もねぇから、空間ごと細工して俺たちを迷わせようって腹か。……使徒らしい、陰湿なやり方だぜ」


カルムは、焦ることなく、両腕に刻まれた赤蓮の紋様に意識を集中させた。

空間が歪んでいようが、迷路になっていようが関係ない。

壁があるなら、その壁の『スジ』を見極めて、全て真っ直ぐに切り開いて進むだけだ。


「……アル。お前の眼で、一番マナが濃い『中心(使徒の場所)』への直線を引け。……そこから外れる障害物は、全部俺が解体する」


「……うんッ! わかった!」


アルが、黄金の左目(真理の目)を凝らし、迷宮のように歪んだ空間の因果の糸を解析しようとした、その瞬間だった。


四、 使徒の罠。空間断絶の法則

『……ようこそ、特異点の少年よ』


大聖堂の空間全体から、エノクの冷酷な合成音声が響き渡った。


『……君のその「法則を解体する刃」は、確かに厄介だ。だが、君の力はあくまで【物理世界に顕現した事象】に対するもの。……ならば、君の存在そのものを、因果の地平から隔離してしまえばどうなるか?』


「……チッ、御託はいい! 姿を現しやがれ、エノク!」


カルムが、声のする方へ向かって赤蓮の刃を放とうとした、その刹那。


ガシャンッ!!!!


カルム、アル、エレナの三人が立っていた空間の足元。

そこに敷き詰められていた白大理石の床が、突然、巨大なチェス盤のように四角く【空間ごと】分断され始めたのだ。


「……なっ!?」


『……空間隔離プログラム、実行(イグゼキュート)』


エノクの冷たい宣言と共に。

カルムの立っている空間ブロックと、アルとエレナが立っている空間ブロックの間に、絶対的な『次元の断層』が引かれた。


「……カルムッ!」

アルが叫び、カルムへ向かって手を伸ばす。


「……アル!」

カルムも咄嗟にアルの手を掴もうと、右腕を伸ばした。


だが。

二人の指先が触れ合う数ミリ手前で、二人の間にある空間が、まるでテレビの砂嵐のように激しいノイズを発し、物理的・概念的に完全に切り離されてしまったのだ。


「……ッ!? ……アルゥゥゥゥッ!!!!」


カルムの視界から、アルとエレナの姿が、空間ごとフッと掻き消える。

同時に、カルムの周囲の景色が激しく回転し、大聖堂の広間から、全く別の……上下左右の感覚すら存在しない、真っ暗な【虚無のキューブ空間】へと強制的に転移させられてしまった。


『……君の炎は、他者を想う祈りによって成立している。ならば、その祈りの対象(コンパス)を失った時、君の刃は向かうべき方向を失い、ただの自滅の熱へと戻るだろう』


虚無の空間に、エノクの嘲笑うような声が響く。


『……そこで永遠に、出口のない迷宮を彷徨うがいい。君の相棒は、我々が責任を持って「処理」しておこう』


「……てめぇら……ッ!!!!」


カルムの全身から、凄まじい怒りの炎が爆発的に噴き上がった。

彼が最も恐れ、最も激怒するのは、自分が傷つくことではない。

アルやエレナといった、大切な相棒たちの命が理不尽に脅かされることだ。


カルムは、虚無の空間の壁へ向かって、赤蓮の双刃を怒りに任せて乱れ撃ちにした。


ズバァァァァァァァァァァンッ!!!!


だが。

カルムの刃は、暗闇の空間を切り裂くものの、その先にはまた別の暗闇が広がっているだけで、どこにも繋がっていない。

エノクの『隔離の迷宮』は、空間を無限にループさせることで、物理的な切断を無意味にする悪辣な法則だった。


「……クソがッ! どこだ! アルはどこにいるッ!」


カルムの呼吸が荒くなり、冷静さを失いかける。

赤蓮の炎が、怒りに呼応してかつての『極光炎』のように無秩序に膨張し、カルム自身の生身の肉体を焦がし始めた。


(……このままじゃ……また昔みたいに、炎に呑まれて……ッ)


五、 魂のコンパスと、消えない祈り

一方、カルムから隔離された別の空間。

そこは、大聖堂の内部にある巨大な闘技場のような場所だった。


「……カルム……カルムッ!」


アルは、突然見知らぬ場所に飛ばされ、カルムの姿が消えたことにパニックを起こしかけていた。


「……落ち着くのだ、アル殿!」

エレナが、大盾を構えてアルの前に立ち塞がり、周囲を警戒する。


二人の周囲には、エノクが差し向けたであろう、数十体の『処刑天使(ドミニオン)』たちが、無慈悲な処刑鎌を構えてジリジリと包囲の輪を縮めていた。


「……カルムが……いない……。僕たちだけで、どうすれば……」

アルのボロボロの包丁を持つ手が、小刻みに震える。

カルムという絶対の火力がいない今、マナを持たないアルと、消耗しきったエレナだけで、この絶望的な数をどう凌げばいいのか。


だが。

アルは、震える手で包丁の柄を強く握り直した。


(……ダメだ。ここで僕が諦めたら……カルムがせっかく地獄から這い上がってきてくれた意味がない……ッ!)


アルの脳裏に、先ほどカルムが背中越しに言ってくれた言葉が蘇る。


『……お前が安心して世界を料理するための、絶対に消えない最高の火力になってやる。……お前の背中は、俺が護る』


カルムは、絶対に約束を破らない。

あいつは、武神の孤島という絶対の地獄からでも、僕との約束を守るために這い上がってきた男だ。

どんなに空間が切り離されていようと。どんなに神様の法則が邪魔をしようと。

カルムは、絶対に……絶対に僕の元へ帰ってくる!


「……エレナさん! 諦めないで!」

アルの漆黒の瞳に、再び強い光(真理の目)が灯る。


「……僕が、敵の攻撃のスジを全部見切る! カルムが来るまで……僕たちで、絶対に生き残るんだッ!」


「……フッ。……承知した。カルム殿の相棒がそう言うのなら、この盾、命に代えても砕け散ることはない!」

エレナもまた、大盾を構え直し、不屈の闘志で処刑天使たちを睨み据えた。


アルは、両手を胸の前で組み、強く、強く祈った。

カルム。僕たちはここで待ってる。

だから、早く……早く僕の元へ帰ってきて!


六、 決意の咆哮、次元を焦がす熱

その頃、虚無の迷宮空間。


怒りに任せて炎を乱れ撃ちにし、息を切らしていたカルム。

彼の両腕の赤蓮の紋様が、限界を超えた熱暴走でピキピキと悲鳴を上げ始めていた。


(……クソッ……。どこを斬っても、空間がループしやがる……。……スジが見えねぇ……)


カルムが焦燥感に苛まれ、膝を突きそうになった、その時だった。


トクンッ……。


カルムの心臓の奥底で、いや、彼に刻まれた『赤蓮の紋様』の最も深い部分で。

微かな、しかし絶対に揺らぐことのない【緋色の温もり(祈り)】が、脈打ったのだ。


『……だから、早く……早く僕の元へ帰ってきて!』


声として聞こえたわけではない。

だが、カルムの魂には、アルのその強い祈りが、空間の断絶を超えて、確かな【熱(コンパス)】としてダイレクトに伝わってきた。


「……ッ!!」


カルムの左目、黄金の解体眼が見開かれた。

暴走しかけていた真紅の炎が、緋色の祈りと再び完璧に結びつき、スゥッと静寂を取り戻す。


「……そうかよ。……俺は、何を見失いかけてたんだ」


カルムは、ゆっくりと立ち上がった。

無限に続く虚無の空間。

物理的なスジや、マナの結び目など、どこにも存在しない。


だが、関係ない。

俺には、アルのいる方向が【ハッキリと視えている】のだから。


「……エノク。てめぇは大きな勘違いをしてるぜ」


カルムは、真っ暗な空間に向かって、静かに、しかし絶対的な威圧感を持って語りかけた。


「……俺の炎は、祈りの対象(コンパス)を失って迷子になったんじゃねぇ。……あいつの祈りが、俺の魂と繋がっている限り……どんなに空間を切り離そうが、次元を歪めようが……俺の刃が向かうべき『スジ(直線)』は、絶対にブレることはねぇんだよッ!」


カルムは、両腕の赤蓮の紋様に、これまでにないほど澄み切った、極限の魂の熱を注ぎ込んだ。

物理的な空間の法則を斬るのではない。

アルと俺を繋ぐ『絆の糸』。その絶対的な直線のベクトルの上に存在する、すべての障害物(次元の壁)を、力ずくで、理不尽に、まとめて焼き切って解体する。


「……待ってろ、アルッ!! 今、そこに行くぜッ!!!!」


カルムの放つ圧倒的な真紅と緋色の炎が、虚無の空間をドロドロに溶かし始める。

神の法則すらも超越した、二人の相棒の【繋がる魂の熱】。

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