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9/11

悪役令嬢の記憶~包帯をつけた雪兎さん

 私が御門コゲに対して真実の愛の告白をする四か月ほど前にさかのぼる。

 

 私は私が人殺しとなったあの日からずっと自身の人殺しの証明である赤子に首を絞めつけられるという悪夢を見続けていた。


 しかし一週間ほど前に【一週目の人生で成金貴族に捨てられた悪役令嬢は二週目の人生で復讐を誓う】というタイトルのユキメノコ(♂)という作者が書いた、私が寝る前に読んでいた、異世界なろう系作品の世界の中に異世界転生をするという夢を見た。この夢が普通かどうかはわからないが朝起きがけに私を撫でた潮風の香は悪夢を見た時よりも尊いものに感じた。


 しかし、それ以降最近私はまた毎日同じようにまだ乳飲み子であろう顔が黒塗りになった赤子に首を絞めつけられる夢を見ている。


 この悪夢は人殺しである、私が背負わなければならない十字架だという事はわかっている。それでも苦しいものは苦しい。


 私が牡丹一華市、私立牡丹一華学園に転校してから二週間ほどが経った。私もミカン畑と砂浜、それに県内では少し有名な水族館以外は何もないこの街のドーパミン不足な日常にもそろそろ慣れてきた。

 そんな私が最近日課となっているのが、同好会員がたった三人しかいない読書同好会の小さな部室で放課後一時間ほど、本を読むことだ。しかもそのうち一人は、幽霊部員。


 私だってこの学園が部活動に入ることが半強制ではないのなら、帰宅部を選択していた。だから別に私も幽霊部員になってもよかったのだが、そんな同好会の中に気になる人物がいた。一人が幽霊部員でもう一人が私なので、、、


 今、目の前にいる人物雪兎真白が、実質的な読書同好会での私以外の唯一の部員という事になりその気になっている人物という事にもなる。彼はあまり読書同好会の部室で私に話しかけてくることはないし、基本的に彼の本を読んでいる姿以外は知らない。

 

 なのになぜ、彼の事が私は気になるのか、その原因はおそらく彼の白兎のような自然な白髪の美しさやショートケーキの一番上に載っているイチゴのような赤い目からくる幻想的な容姿だけではないのだろう。


 何を隠そう、彼が【一週目の人生で成金貴族に捨てられた悪役令嬢は二週目の人生で復讐を誓う】という作品に異世界転生をする夢のなかで登場人物主人公アスターの義弟スノー・ホワイトとして出てきたからだ。


 ふと、私は彼のことを本を読んでいるふりをしながらチラ見すると、彼の頭の部分に包帯がまかれていることに気が付いた。彼の頭が白すぎて今日初めて会った時に包帯に気が付けなかったのだろう。


 「ねえ、真白君?」

 「なにかな、、、」

 帰ってきた声は露骨に元気がない。幻想的な見た目とは裏腹に案外テンションが分かりやすい子だなと私は思った。

 「その頭怪我したの?」

 その瞬間真白君の表情が凍った。彼の表情の変化を見て、私は科学の授業のビデオで見た、過冷却した水に衝撃を与えて凍らせる実験を思い出した。

 「うん、、、ちょっと転んじゃって、、、」

 嘘をつくのがいくらなんでも下手すぎるだろ。と突っ込むことは人殺しではあるが人の心はある私にはさすがにできなかった。

 そんな彼が今読んでいたのは江國香織さんという、わたしでも知っている恋愛小説家が書いた【落下する夕方】という文庫本だった。彼はいつも単行本を読んでいるイメージだったので文庫本を持つ彼は少しいつもに比べて小さく見えた。否、もともと小さいかもしれない。


 「今日は文庫本なんだね?」

 私は少しでも彼の傷をえぐらないように、ゆったりと話しかける。

 「うん、単行本はちょっと今は重いなって思っちゃってさ、、、」

 今の彼の会話文には全て読点が三つおまけについてくる。この子はなんてわかりやすい子なのだろうか。

 「そっか」

 「これでは、君の言葉は読点三つのバーゲンセールだ。売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。彼から言葉を買えばジャパネットタカタもびっくりするほど、読点三つがおまけでついてくる。ここまで読点三つが似合う男の子というのも世界広しと言えど、目の前の雪兎さん以外はいないだろう。」 

 私は悪夢を少しの間取り除いてくれた、彼にちょっとだけ元気になってほしくて人生であまり使ったことのない舌の筋肉を使って早口で言った。何だろう私って実は、めちゃくちゃ恥ずかしい奴なのではないだろうか?

 「え、、、なにそれ、、、」

 帰ってきた言葉から読点三つが取り除かれることはない。

 「めっちゃ面白い、、、」

 彼は少しだけはみ出た八重歯をちらつかせながら、微笑んだ。

 「今ならなんと、雪兎さんの芝生もつけちゃいます」

 「ありがと、、、蝦夷菊さんってめっちゃ優しい、、、もっと怖い人だと思ってたごめんね!」

 彼の口元が震え、すこし目元のあたりが滲む。

 そんな彼に対して、私が人殺しだなんてことは、人殺しではあっても人の心はある私には言えなかった。

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