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コゲの物語~雪ウサギさんのスープを用意する悪役令嬢

 雨に濡れてしまい服が透けてしまったため、俺の元カレ雪兎真白から唇を奪った、悪役令嬢ビッチ蝦夷菊三毛の家のシャワーを今借りている。俺は今一体何をしているんだろうか?


 シャワーで軽く体を流した俺は、彼女から用意されたピンクの下地に可愛い兎のキャラクターが印刷されたtシャツを着る。

 「やっぱあいつでかいな、、、」

 胸のあたりにある余白を肌で感じながら、俺は少し悔しくなった。


 ユニットバスの扉を開けると、扉の左側には笑顔で湯気の立った謎の物体を持つ悪役令嬢が一人。

 「なんだ?」

 「なんだとはなんだ?御門ボーイ。誰がこの家のシャワーを貸し、誰がそのちょっと恥ずかしいうさぴょんtシャツを貸してやったのだと思っているのだ?」

 恥ずかしいという自覚はあるのか?さっきから思っていたことだが、こいつの行動原理は完全にサイコパスビッチなのに、言動をよく聞くとその行動に妙に自覚的で第三者視点を持つことを忘れていない理知的な一面がある。


 考えれば考えるほどに、この悪役令嬢とかいう生き物のことがますますわからなくなった。

 「その暖かそうな湯気が立った飲み物は何ですか?悪役令嬢様。これでいいか?クソビッチ」

 「よろしい!」

 よろしいのか?ビッチって言われてっけど。

 「これは、私が愛を込めてちょっと冷たい秋雨に濡れて寒かったであろう、失恋に心を痛めた君のために作った、オニオンスープちゃんなのです。」

 自信満々に彼女は答える。

 「はあ?さっきからお前は俺の事を何だと思ってんだ?お前の彼氏の元交際相手だぞ!俺は、、、」

 「いやあ、だからこそなのですよ。御門ボーイ。口うるさい小姑の胃もしっかりゲットできる。悪役令嬢でなくては、真の悪役令嬢にはなれないのです。夢見る悪役令嬢で終わるつもりはないよ、」

 「誰が小姑だ?コラ。意味わからん、、、世話になって悪かったな。お前と関わることは、金輪際ないだろう。俺は帰る、じゃあな」

 そういって俺は玄関の方へ歩みだそうとする。

 「玉ねぎ:1個水:400ml狐里カンパニーの顆粒和風だし:小さじ2醤油:小さじ1/2塩:少々。体も心もあったまる、兎ちゃんスペシャル」

 「お前、そのレシピ、、、」

 真白が俺に作ってくれたオニオンスープと同じレシピだった。あいつは俺に料理を作る時、忘れないよう少しだけはみ出た八重歯をちょっとちらつかせながら、レシピを歌っていた。

 「本当にお前って真白のこと好きだったんだな、今初めて嫉妬したかも、、、」

 今までは、真白が他の人のことを選んだという記号だけで悲しんでいた。それに対して真白を忘れられない俺の女々しさに怒っていた。しかし、今初めて悪役令嬢蝦夷菊三毛に対して嫉妬という感情を覚えた気がする。真白と自分以外の人間にここまで重い感情を抱いたのは初めてだった。


 「だから言ったじゃん、さっきのは私の真実の愛の告白だって。」

 「一杯飲ませろ、俺がお前が本当に真白にふさわしいかテストしてやる」

 小麦畑のような煌めく金髪を翻しながら、彼女は嬉しそうにはにかんだ。こいつ可愛いな。むかつく。

 

 ゆったりと彼女はこちらにオニオンスープを運んでくる。俺はその少し小さめの白い器を受け取り、両の手でゆったりと口に運ぶ。ズルッっという音を軽く立ててゆったりとすする。


 全身に彼女の込めた真白への思いなのか、俺への気持ちなのかなんとも形容しがたい暖かな物が流れ込んでくる。この不思議な感覚は真白の唇を奪われたせいで、少しおかしくなってスピリチュアルになっているだけなのかもしれない。でもそれで良かった。いやそれだけで良かった。


 今俺の胸の部分は暖かい。それは確かだ。


 「え!コゲ君、泣いてる?」

 「コゲって呼ぶなって言ってんだろ、、、」

 「あ!メンゴ!」

 俺は目元からあふれる雫を止めることができない。このスープは正直言って、真白が作ったものよりも完成度は低い、塩を少々とか言っていたくせに妙に塩辛いし、玉ねぎの切り口が少し雑で歯触りも悪い。  

 「でもそんなことってどうでもいいんだな。」

 俺は思っていたことが口からそのまま出た。

 「合格ですか?小姑さん」

 「わかんねえよクソ悪役令嬢、、、でも嫌いじゃない」

 「そっか」

 「今日は俺にとって最悪の日だった。それでも俺はまだ真白の事が好きだし、お前のことは嫌いだ。」

 「うん、」

 「でも、じゃあな、、、」

 「ちょっと待って!」

 

 彼女は出て行こうとする、俺を慌てて引き留める。

 「次は何だ?」

 「まだ髪の毛濡れてんじゃん」

 そう言った悪役令嬢は、ポニーテールが下ろされて、ロン毛のようになった俺の髪の毛を白色のバスタオルで拭き始める。

 「意外と指長いんだなおまえ、、、」

 俺は悪役令嬢の手を見て何となくそう思った。

 「実はさ、私もあの渚色のピアノ弾くの好きなんだ、音がさび付いてていいよね、、、」

 「そうか、お前はピアニストとか目指したことあんのか?」

 「いや別にそれはないかな、私将来、水族館の飼育員さんになりたいんだ。アザラシとか好きでさ、」

 「どういう意味だお前、俺はアザラシじゃねえぞ、、、」

 「その時に君みたいな恥ずかしがりやさんにもこうやって優しく拭いてあげるの、、、」

 「わかったからもういいって」

 俺は恥ずかしくなって、悪役令嬢の手をどける。

 「君は夢って信じる?」

 俺は少し古くなった木造の天井を見ながらその問いを聞いた。

 「どっちの意味だ?」

 「どっちも」

 「まあ、忘れてなければかな、、、」

 「そう」

 

 俺は振り返ることはなく、何も言わずに悪役令嬢蝦夷菊三毛の家の玄関から外に出た。

 

 空を見ると、満天の星空さっきまでの秋雨はどこかへ行っており、山から薫る陸風が雨上がりの涼しい夜空に心地いい。

 「雨は嫌いじゃないでも、、、星が見えないのは嫌だな。」

 そう独り言ちる。

 

 

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