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悪役令嬢の記憶~異世界転生をする悪役令嬢

 真白と少し話をしてから、私は学校からの帰路に就く。景色は夕凪と丘の斜面を覆い尽くすミカン畑、それを見渡すように飛ぶカラスの黒。そんな景色を眺めながら、春が終わり初夏に足を踏み入れたこの街で、セーラー服は熱すぎると独り言ちながら、私はアネモネの刺繍が施されたハンカチで汗を軽くふき取る。


 学園に隣接された丘を出ると、つぶれてから何年たったのかもわからない、錆びれ尽くしたパチンコ店がある。その脇を通って少しだけ行くと潮風と海を感じることのできる防波堤が見えてくる。そこには一台の潮風で少し白くなった渚色の寂しそうな路上ピアノがある。そこから二分ほどで私が一人暮らしをしているアパートにたどり着く。これが一週間ほど前にここにやってきた、私から見えるこの街のすべてだった。


 当然のごとく、アパートの自室に入った私に声をかけてくる人はいない。ゆったりと潮風で錆び切った鍵をアパートの内側から回す。これでもう誰も私を汚す人はいない。これでいい。これが私の選んだ道だ。心の中でつぶやいた言葉はあまりにも侘しい。


 ベッド以外にはキッチンと風呂以外のものはほとんどない。女子力どころか人間力すら感じさせないこの部屋にもほんの少し愛着がわいた。


 転校してから、まだすぐという事もあり、いろいろな手続きで私はとても疲れてしまった。しかし寝てしまうと私が人殺しであるという十字架が、私の心を啄む。背負うべき罪だという事は自覚しているが、悪夢を見ると、わかっていながら眠ることほど怖いことはない。


 これから死んでいく、死刑囚の人はこんな気持ちなのかもしれない、そんな意味のない想像をベッドに横になりながら、ふと考える。


 さすがにぼろぼろの天井とにらめっこというのは10分もすれば飽きる。


 私はスマホの電源を入れなおし、先ほど読んでいた、【一週目の人生で成金貴族に捨てられた悪役令嬢は二週目の人生でその男に復讐を誓う】というタイトルのユキメノコ(♂)という作者が書いた、異世界なろう系小説を開く。


 私は続きを読もうとブックマークからクリックすると、ふと、あらすじのある部分が目に入った。


 【ずっと今の生活が幸せだと思っていた主人公アスターが、ある日成金貴族ブラウンと成金貴族の弟であるスノーホワイトとの禁忌の不倫を目撃する。それに対し、悪役令嬢は怒るわけでも悲しむわけでも無く、ただ涙を流した。アスターは二週目の悪役令嬢は真実の愛を確かめるべく、、、、】


 いきなりのBL展開に私は少し困惑しながらも、やけくそな気持ちだった、私はあの事件以降、真実の愛という部分に少し興味を持ってこの小説を読み始めた。今となって思い出しても、やけくそだ。


 そんなことを思い返しながら、私はこの作品と出会ったときに最初に読んだ【悪役令嬢と焦げ茶と雪】という話を開こうと端末をタップすると、急に強烈な睡魔に襲われる。視界がぼやけていき少しずつ世界の輪郭が滲んでいく。


 ◇


 まるで水中の中をゆったりと沈んでいくような、感覚の後、私の世界に地面というものが形成されていくのが背中から伝わってくる。私の首を絞める赤子が出てこないという事は、私はまだ眠ってはいないのだろうか?


 ゆったりと瞼を開ける。するとそこは知らない天井だった。白色の壁に、この部屋のサイズに合わせた少し控えめなシャンデリア、どうやらここは現実ではなく夢の世界らしい。夢にしては私の意識がしっかりしている。


 私はあの事件以降赤子に首を絞められる夢以外見たことがなかった。久しぶりにまともな夢を神様は作ってくれたようだ。


 横を見つめる、そこには一人の文化祭で着るような洋風の豪奢な焦げ茶色の服を着た、ポニーテールの青年がなにやら物を書いている。


 私は自宅のせんべい布団とは違う、柔らかな赤い刺繍が施されたコンフォーターをどけ、ゆったりと起き上がる。


 その青年は柔らかな笑みをこちらに浮かべながら、

 「アスターおはよう、よく眠れたかい?」

 と言ってきた。そういえば彼のことを私はどこかで見たことがあるかもしれない。

 「アスター?」

 私の事を言っているのだろうか?アスターは私が先ほど読んでいた、【一週目の人生で成金貴族に捨てられた悪役令嬢は二週目の人生でその男に復讐を誓う】という作品の主人公の名前だ。作品が夢にまで出てくるとは、私には案外読書同好会の才能があるのかもしれない。


 「ごめんなさい、私はアスターではないわ、あなたはその、、、なんていうんだろう?誰なのかしら?」

 「何を言っているんだい?もしかして僕のことを驚かそうとしているのかい?アスター嬢。僕の名前はブラウン。ブラウン・ダークだよ」すごいな成金貴族の名前まで作品と一緒だとは、いままで自分は記憶力にあまり自信はなかったのだけれど、夢の中でもピッタリだ。

 「夢の住人の割には結構日本人っぽい顔しているのね。まあまあイケメンだけど」

 

 そういった彼はゆったりと私のほうに近づいてくる。そして頬っぺたをつまみ、、、

 「痛いよ!何するの!」

 私の頬を引っ張った。彼は明るく太陽のように笑っている。

 「夢じゃないだろ」

 確かに彼がつねった場所がまるで現実のように痛む。私も彼につままれた場所をもう一回つねる。

 「痛った!」

 現実のような痛みが頬をまた走る。もしかしてこれって、、、

 「異世界転生?」

 「なにそれ?」

 とぼけたように私を見つめるブラウン。


 私は一瞬瞼を閉じる。

 

 ◇


 


 



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