悪役令嬢の記憶~自分を人殺しという悪役令嬢と無垢な白兎の出会い
私が御門コゲに対して真実の愛の告白をする四か月ほど前まで時はさかのぼる。
私が私立牡丹一華学園に転校してから、大体2週間程が経った。転校した今もまだ、毎日、乳飲み子に首を絞められる夢を見て目を覚ます。これは私が人殺しなのだから仕方がない。私が一生背負っていくべき十字架だ。
私立牡丹一華学園は丘から少し降りたところにある人のいない砂浜と学園をしゃくりあげる緑色の丘以外これといって特色もない学園だ。つまり私が今いるのは、海と山以外は少し有名な観光地となっている水族館を除いて何もない田舎だった。
この学園もどこにでもある自称進学校の例にもれず、文武両道をうたっており基本的には部活動に入らなければならないらしい。別にうるさい人が少なくて、私が人殺しである事を知っている人がいなければ、どの部活でもよかった。
私は読書同好会という名前がかわいらしい丸文字で書かれた看板が置いてある小さな部屋をノックする。しかし、ぺらりぺらりという紙がこすれる音以外、この部屋から何も聞こえてくることはない。
「あの~すみません?入部希望の蝦夷菊三毛というものです。」
少し錆びたドアがゆったりと開いていく。ギシンという音を立てながら。
白く透き通った肌、今に溶けて消えそうな薄氷のように白い髪それら全てをショートケーキのように見せてしまうほどきれいなイチゴのような赤い目。そこから出てきたのは男嫌いである私が息をのむほどにとろけてしまいそうな生き物だった。
「ごめんなさい、いま読書に夢中になってて、えっと新入生ですか?」
その発せられる声音すら中性的だったので思わずまた少し息をのむ。
「いえ、最近転校してきて、、、読書が好きなのでこの部活に入りたいのですが?」
別に嘘はついていない。紙の本を買って読むことはないけれど、電子書籍や小説投稿サイトの文章を読むのは嫌いではなかった。
「ああ、そうなんですね!嬉しいです。僕は部長の雪兎真白と申します。部長って言っても部員は二人だけで、もう一人の子はサッカー部と兼部しているので、部員は幽霊部員と僕一人みたいなものなんです。」
真白は悲しげに言った。
「はあ、、」
「いきなりこんな話でごめんなさい、うちの学校本好きな人あんまりいなかったから大歓迎です。どうぞどうぞ!」
「ああどうも、、」
読書同好会の部屋の中は、小さな小さな図書館のようになっており、綺麗にジャンルごとに本が並べられている。その小さな異世界のような場所に私はちょっと面食らってしまった。
真白がゆったりとお茶を入れる。少しほろ甘くぬるめのハーブティーだった。その後の真白は特に私に話しかけてくることはなく先ほど読んでいたのであろう、分厚い革表紙の単行本を開きなおし、読書を再開した。
入部したての私に話しかけることもなく本を読み続ける彼は本当に本が好きなのだなと感心すると同時に、少しは話しかけろや、と突っ込みたくなってしまった。
私もスマホの電源を入れ、授業を聞き流しながら読んでいた【一週目の人生で成金貴族に捨てられた悪役令嬢は二週目の人生で復讐を誓う】というタイトルのユキメノコ(♂)という作者が書いた、いわゆる異世界なろう系作品を開いた。
読書同好会に入ったばかりだというのに、紙の本ではなく、いきなりスマホを開いた私に、彼は当然のごとく注意することはなかった。1時間ほど過ぎたころにさすがにこの沈黙が耐えられなくなり、私は率直な疑問を聞いた。
「あの~読書同好会なのに、私、本読んでいないんですけれど。大丈夫なんですか?」
「え?今読んでいたのって電子書籍ですよね?多分小説っぽいなあって思ったんですけれど、違いましたか?」
当然のように柔らかに微笑みながら真白は言った。
「え?なんでわかったの?」
「視線の動きとかが一定だったし、スクロールするタイミングも大体等間隔だったから、多分漫画とかじゃないんだろうなって」
「すごいね!君なんか探偵みたい」
「いや、そんな大したことじゃないです、なんてタイトルの本を読んでいたんですか?」
「【一週目の人生で成金貴族に捨てられた悪役令嬢は二週目の人生でその男に復讐を誓う】っていう奴です。言われてもわかんないですよね?」
私がそういった瞬間彼は少し頬を赤らめながら、俯いた。私は何か失礼なことを言っただろうか。
「一応その小説知ってます」
「え!ほんとですか」
私以外にもこの小説を読んでいる人がこの学園にいるとは思わなかった。
「蝦夷菊さんはその小説に対してどんな感想を抱きましたか?」
以外にも直球な質問を真っすぐな視線で投げかけられた私は少しドキッとした。
「えっと?主人公がなんか少し女々しいし、その男のことを悪く書きたいのか、良く書きたいのかというテーマがフラフラしていて、復讐っていうタイトルには共感しにくいかな?あとなんか主人公が90年代の少女漫画に出てくる恋する乙女みたいでちょっとベタなんですよね。でも成金貴族にかけるセリフはちょっとリアリティがあるんですよね。そこは少し良いかもしれません。」
なぜだか真白の肌は急速に赤くなっていく。
「どうしましたか?」
「いや別に、、、蝦夷菊さんはどんなセリフが印象に残りましたか?」
そういった真白は子猫の肉球のような小さな手を使って顔を仰いでいた。
「どの話だったか、までは覚えていないのだけれど。一週目の成金貴族が言った、【嘘の恋でもいいだろう、偽物で結構。今はただ僕の手で君を壊したい】ってところと、二週目の悪役令嬢が言った【今までの愛が全て嘘だったとしたら、あなたは私をまた愛することは出来る?】って部分は割と覚えています」
「なるほど、、、」
何かを考えるみたいに真白は俯いた。




