第二章29 永久不滅の証明
あまりにも冷酷で、理不尽極まりない。
だが、平然と手を下して人を殺せるような存在であれば、そのような思考に至ることも不思議ではないのかもしれない。
異常なほど冷静な際允とは対照的に、墨然は名目上の保護者に対する尊敬も昔のよしみも全部投げ捨てて怒号を浴びせる。
「はあ!? そんな理由で? ただそれだけで人を殺せる? それだけで先輩を殺しただと?」
「ああ」
「お前――!」
「ちょっと待って」
墨然が輝絡に対して明確な攻撃性を示し始めたのを察知し、際允はすぐさま彼らの対話を遮った。
その意図を理解したのか、墨然は際允を一瞥すると大人しく口を閉じた。しかし、その陰鬱な表情のまま、輝絡を睨みつけたままでいる。
際允は輝絡に向き直り、問いかけた。
「僕を殺しさえすれば、死によって発動した時の能力があなたの思い通りになり、僕に前世の記憶を取り戻させることができる、ということですね?」
「ただ可能性の話だよ。だが、時の能力にしか解決できないことだから、お前を殺して強制起動させる以外に、俺ができることと言えば、敬虔に祈るくらいしかなかったのだろう」
――祈る?
際允はその言葉に一瞬の違和感を覚えた。
しかし、右隣の墨然が今にも再び怒りを爆発させそうな気配を察し、すぐに続けて質問を重ねた。
「この世界の輝絡さんは? あなたも、僕に前世の記憶を取り戻してほしいと思っているんですか?」
「そうだ。が、すべての記憶は必要ない。というか実際に、前世で起きたことを漏れなくすべて思い出さなくていいんだ。俺が必要としているのは……」
輝絡は首を傾げた。まるで彼自身も、この瞬間になって初めてそのことを真剣に考えたかのように。
「性格であれ、俺に対する態度であれ、俺はお前の中から前世の――木唯と同じ特質を見出したいだけなんだ。『お前たちが確かに同一人物である』と認識できさえすればそれで十分だ。そうすれば、お前のことをただ記憶喪失状態の木唯として扱うことができる」
際允を見つめる輝絡の瞳に、わずかな懐旧の情が浮かぶ。
「この世界の俺にお前を殺す考えがないのは、昨日の夜初めて会った時から、お前は前世とすごく似てるからだろう」
――似てる?
だが、際允には前世の記憶など少しでも覚醒していない。それなのに、なぜ第一の世界の輝絡が自分を殺すと決めた原因である「まったく似ていない」という状態から、今になって「すごく似ている」などと言われる狂った状況に変わってしまったのだろうか。
「どういうことですか……? 僕の前世を恋しく思い、彼に会いたがってるんですか? でもさっき、僕の前世と親しくなかったって言ってたはずじゃ……?」
「いや、違う。俺は『木唯』という個体に対して特別な感情を抱いているわけではない。当然、『際允』に対してもそうだ」
「じゃあ、なぜですか? 僕の中から前世の影を見出して、その先にあるものは何なんですか?」
輝絡の、いつも静かだった碧緑の瞳に今、ぽつり、ぽつりと小さな光が灯った。
「そうすれば、俺は信じることができる。――時の元霊は、永久不滅であると」
それこそが最も根本的な動機だった、ということか。
「木唯は、俺が出会った最初の時の元霊だった。それも当然だ、何しろ俺と彼は同じ年の生まれだからな。そして、もし時の元霊という存在が、俺の信奉する通りに『本当の死』を持たないのだとしたら、木唯の転生である際允という人間にも、当然ながら木唯と共通する特質があるはずだ」
「一応前世と顔がそっくりなんですよね? それだけじゃたりないんですか?」
「ああ、たりない。それ以外にも、俺が判別できない共通点があっても俺にとっては意味がない。最も判断しやすいのは、やはりお前の性格や、俺に対する態度だ」
二つの世界の自分における、その点での相違について言えば、際允にも思い当たる節がないわけではない。
それは当然、輝絡に対する態度だった。
第一の世界の際允は輝絡のことなど全く知らなかった。扉を開けてこの見知らぬ男と出会った時、当然ながら警戒はしたものの、彼が契約対象であることを確認するとすぐに防備を解いた。あの時の自分は、輝絡に対して他の見知らぬ人と同程度の警戒心しか抱いていなかったのだ。
しかし、第二の世界でこの殺人凶手と再会した際允は、並々ならぬ警戒心と防備を身にまとっただけでなく、最終的に止湮の悲劇を引き起こした張本人に対して明確な敵意を抱いていた。
ましてや、この家族と知り合い、彼ら四人の関係や絆を知った後に生じた、あの羨望、嫉妬、怒り、自己憐憫……数々の耐え難い負の感情は言うまでもない。
まさか、これこそが輝絡の言う「前世とすごく似てる」ということなのだろうか。
「だから、もう一人の俺は当時、さぞ絶望したのだろうな。長い年月を経てようやく再び時の元霊に出会えたというのに、お前の中から木唯の特質を何一つも見出すことができなかった。まるで、お前たちが完全に無関係な赤の他人であるかのように。木唯がなくなった。本当に完全に徹底的に死んで、この世に何一つ痕跡を残さなかったのだと」
輝絡の双眸を、珍しくかすかな哀傷が掠った。
「そしてもう一人の俺は現実を受け入れざるを得なくなった。時の元霊ですら永久不滅ではないという現実を。己の願いが、ただの滑稽な過分な望みだったのだと認めるしかなくなったんだろう」
第一の世界の輝絡が自分を殺せた以上、際允も彼がまともな人間だなどとは最初から仮定していなかった。しかし、まさかこれほどまでに常軌を逸し、理性を超越しているとは思いもよらなかった。
――この男は、狂っている。
その事実を異常なほど平淡に受け止めている自分がいる。墨然のように激怒するどころか、僅かな不快感すら覚えていない。あるのはただ、この理解しがたい男に対する困惑と――、
恐怖。
この世界の輝絡には自分を殺す意図はなく、すでに「神に誓う」契約も交わしている。理知では、輝絡がもはや自分の生命を脅かす存在ではないとわかっている。
それなのに、生物としての本能が告げる恐怖は、制御不能なまま絶え間なく膨らみ、拡張していく。
最初から最後まで、際允・ランニオンという存在は輝絡の目に映る「時の能力の起動スイッチ」に過ぎず、尊重されるべき一つの生命を持った人間として扱われてなどいなかったのではないだろうか。
彼の内心のどこかが、依然として冷静に考えていた。確かに、いかにも殺人犯が抱きそうな価値観だと。




